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第2話 婚約者の閃き

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 自分に特別な才能がないことに、薄々気づいていました。

 お兄様やお姉様たちは、わたしくらいの年齢の頃からその才能を発揮し周囲から称賛されていましたが、わたしにはそういったことはありません。強いて言うなら容姿だけです、それ以外に称賛されるようなものはありませんでした。

 お父様もお母様も、わたしに剣の先生や勉学の先生を付けたことは一度もなく、好きなことをしていいと言っていました。わたしはその言葉のまま、本を読んだり、散歩をしたり、買い物をしたりと、自由に生きてきましたが……お父様もお母様も、わたしに才能がないと知っていたから、自由にさせてきたのかもしれません。

 明かされた2つの事実にショックを受けるわたしに気づくことなく、ロドルフ様は話し続けました。

「いいや、あいつに特別な才能なんて一つもないよ。この1ヶ月間、ほぼ毎日会ってきた俺が言うんだから間違いない。あいつは天才伯爵家の凡才令嬢だ!」

「そうなのか……」

「まあ確かに、シエル嬢の名前ってあんまり聞かないもんな」

「うん、何かすごいことをしたっていう噂も全然聞かないし」

「あっ、でも容姿はめちゃくちゃ良いよな?ダイヤモンドみたいな銀髪に甘いチョコレートみたいな目、それ加えて顔は天使みたいに可愛いし」

「そうだよな!シエル嬢の才能ってまさかラパン伯爵家一の容姿とか?」

「それは有り得るな!」

 やはり、皆さんわたしの見た目のことしか褒めて下さいません。もしかしたら本当にわたしの才能はこの容姿だけなのかも……

「お前らなぁ……仮にも婚約者を前にしてそういうこと言うか?」

「だってシエル嬢に才能がなくてガッカリしたんだろ?だったら良いじゃないか」

「寧ろそのまま婚約を取り消して俺が婚約したいくらいだよ!あんな天使だったら才能がなくったっていい!」

「ダメに決まってるだろ!それにこれは国王陛下の命令で決まった婚約だ!才能がないから婚約を取り消したいって言って取り消せるわけないだろ!」

 そうですね、ロドルフ様の言う通り。国王陛下の命令である以上、わたしの方から婚約を取り消すこともできません。両家で取り消すことを陛下にお願いすれば、可能性はあるかもしれませんが、ラパン伯爵家との繋がりをルナルド公爵がそう簡単に手放すとは思えません。なので婚約を取り消すことはほぼ不可能ということになります。

「そっか……」

「ダメか~!ウチも伯爵家に婚約の希望を出してるけど、一切返事がないからなぁ」

「ウチもだよ」

「まっ、それだけすごいってことだよ、ラパン伯爵家は」

「……!そうだ、良いことを思いついた!」

 婚約について話している途中に、ロドルフ様は声を上げました。
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