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第13話 ロドルフの狙い

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 俺の名はロドルフ・ルナルド。ルナルド公爵家の嫡男だ。

 俺は公爵家のたった1人の子どもとしてこれまで生きてきた。両手から溢れ出るような富を自由に使えて、自分より爵位が下の貴族やその子息令嬢たちから讃えられてきた。

 そんな俺の婚約者として選ばれたのは、王国でも名の知れた名門、王国の中心とも言えるラパン伯爵家の五女だった。この婚約は国王陛下の親友だった父上が、陛下に頼み込んで掴み取ったもので、当初は父上が神様のように思えた。

 実際に会ったラパン伯爵家の五女シエル・ラパンは、人間離れした可憐さと愛らしさを持った令嬢で、俺は一瞬で彼女に惚れた。

 それから彼女に会いたくて週6日はお茶会に招待していた。こんな天の使いのような容姿に特別な才能が加わればどうなるか……俺は将来が楽しみでならなかった。

 だが、俺はシエルに裏切られた。彼女は人間離れした容姿をしているだけで、なんの才能もなかったのだ。

 シエルは何をやらせてもダメで、何だったら俺よりも劣るところが多かった。それを日に日に知っていった俺は、いつの間にか彼女に恨みすら感じるようになっていた。

 折角ラパン伯爵家の令嬢との婚約が決まったのに、こんなハズレクジを引かされるなんて……

 そこで俺は思いついた、ラパン伯爵家の知名度を利用して、俺や公爵家の評価を上げる方法を!

 これが成功すれば、ルナルド公爵家はラパン伯爵家にならぶ貴族になる。今日のパーティはその第一歩になるだろう——



「さぁ、着いたよシエル」

 俺は馬車から先に降りて、天使——元い可憐な俺の玩具に手を差し伸べた。

 ラパン伯爵家の屋敷で彼女を見た時、余りの神々しさに言葉を失った。ただでさえ可憐で愛らしいシエルが、化粧をして、ドレスと宝石で着飾られたのだ。神懸かった容姿になるのは想像に容易い。

 だが彼女は見た目だけだ、その中身は凡才も凡才……ラパン伯爵家の令嬢とは思えないほど凡庸だ。それを決して忘れてはいけない。

 俺はシエルをエスコートしながらパーティ会場に入った。

「ロドルフ・ルナルド公爵令息。並びにシエル・ラパン伯爵令嬢の入場です!」

 俺とシエルが会場に入ると、会場中の視線が俺たちに集まった。いや、俺たちというのは誤りだ。

「まあ……」

「なんて華やかな……」

「凄い……天使が……」

「ああ……地上に天使がいる……」

 会場にいる人間の視線は全て隣のシエルに集まっている。誰もがこの見た目だけの凡才令嬢に息を呑んでいる。それが無性に腹立たしかった。

 やはり今日だ。今日シエルを貶めよう。母上から後にお小言を言われようと知ったことか。

 俺はそう決心しながら、公爵家の未来のための計画を実行することにした。


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