血の契約

吉村巡

文字の大きさ
6 / 14

5:追われる者

しおりを挟む
「どうしようか?」

 本当に困っているようには見えない顔で、レイはファラルに話しかけた。

「何もせずとも、なるようになる」
「それもそうね」

 風が吹いた。
 フードを煽り、そこからこぼれ落ちた薄茶色の髪をなびかせる風は、建物の窓を割っていく。

(魔法で作られた風だから、よっぽどのことがない限りこの風で怪我人は出ないだろうけど)

 フードを被り直しながらそんなことを思った。

「なるようになる」

 レイはファラルの言葉を復唱した。思えばこの状況も今までの出来事も随所随所でなるようになった結果の積み重ねだ。

 そして、それはきっと、これからの未来すらも。

 だって、未来を選ぶことなんて、レイは許していないのだから。



 話は昨夜に遡る。

 港町の中心から少し外れた岬に建てられた施設に宿をとっていたレイとファラルは、施設の上部にある鐘楼で何かが来るのを待っていた。

 潮騒などの雑音が混じる中、レイはファラルに体を預けて目を瞑り、ピクリとも動かなかった。
 しかし、ある時、

「来た」

 と、目を瞑ってから初めて小さく呟いた。

 呟いた途端に、聴覚を研ぎ澄ませなくても聞こえるようになった、物々しい音が段々と大きくなっていく。
 潮騒とはまるで違うその音がだんだんとこの施設に近づいてくる。それは目を覚ましている者がいれば、やがて分かったことだろう。

 けれど、レイは音の正体をもっと正確に理解していた。
 あれは獣の足音。一番多いのは馬だ。
 野生の馬が走っていると考えるには不自然な足音なので、馬には騎乗者が居る。

 先ほどまで広く開放していた意識を耳に傾けようとした時、レイの耳が大きな手で塞がれた。

「すぐに分かる」

 耳を塞がれていてもファラルの声は分かった。それに対して、 

「確かに、あれだけ一生懸命逃げている状況で実のある話は出来ないでしょうね」

 と答えて、ファラルの手を耳から外させてレイは立ち上がり、鐘楼から少し身を乗り出して音の正体が姿を見せるのを待った。
 ほどなくして、レイの眼下には闇夜に紛れるには少々騒がしく馬で疾走して来た黒色の服を纏う男たちが姿を現す。

 彼らは気が立っている様子で、話し合うというよりは怒鳴り合うと言う方が相応しいやりとりが、耳を傾けるまでもなく聞こえてきた。

「騎士団に追われている賊みたいね。人質を取ってこの施設で立てこもるって言ってるけど……」

 その続きを口にする前に、賊たちは扉や窓を壊し、施設の中に無理矢理侵入した。
 階下では、突然の騒音に驚く子供の泣き声や、女性の悲鳴が聞こえ始める。
 人質となった者たちを威嚇するように賊たちが脅しの声を上げた。
 
 施設内の恐慌状態を察しながら、なおも外を見続けていたレイは、ふとファラルを振り返って教えてあげた。

「もうひとつもそろそろ来るみたい」

 それに言葉を返すことなく、ファラルは立ち上がり、レイと自分の間の空間を埋めた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...