血の契約

吉村巡

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8:各々の事情

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「細工は簡易なものにしていたが、見つからない方が良かったか?」

 ファラルの細工はランプの灯かりを媒介としたものだ。
 そしてそれは、外が明るくなったことでほとんど効力を失っている。今もランプには火がついているが、明るい中にある光には細工の意味がないも同然だ。
 その中で鐘楼の手すりから体を乗り出して下を見るような真似をすれば、見つからない方がおかしい。
 無用の長物となったランプの灯を消して、レイはファラルに言葉を返した。

「違うけど、もう少し隠れていたい気持ちもあった」

 見つかるような真似をしていて、何を言っているのかと馬鹿にされても仕方ない台詞を口にしている。
 人目を逃れるようにうずくまって、手すりに背を預けながら不満を表すように口先をとがらせた。
 幼い子供によくある一方的な遊びを仕掛けて負けたような気持ちが近いだろうか。
 けれど、ファラルはそんなくだらないレイの戯れを馬鹿にしたり否定したりしなかった。

「そうか」

 共感は出来ないが、理解を示す。
 それだけが、ファラルがレイに見せるいつもの態度だ。
 気を取り直して、とがらせた口先を引っ込めると、レイも分かった情報を口にする。

「見つかった相手は魔導騎士みたい。ただの一個小隊指揮官にしては魔力が大きすぎると思うけど。それを隠しているのかいないのかは、聞いてみないと分からないけど」
「隠せる魔力量とは思えないがな」

 誰がどのような魔力を持っているのかは、ファラルにもわかっていたようだ。
 レイの目で見ても、確かに目くらましはしているようだが、あれだけで隠しているとは言えない。
 それでも、見えていることによって惑わされる人間が多いことも事実だ。とくに、見えているものがまやかしであることを見抜く目を持たない者は。

 ファラルはいまだに柱の影から下を見ているが、レイを見つけて鐘楼を警戒され始めているにも関わらず、見つかった様子はない。
 これは、ランプを使った細工とは別にファラルが魔力を使って巧みに身を隠しているからだ。
 隠したいのなら、これくらい上手く隠さなければすぐに見つかってしまう。
 では、隠せないのに隠している理由をレイは自分で考え始める、

「目立たないように、という意味では国に仕える騎士になっているし……」

 ひとつひとつの事情を考えついては潰していくレイに、ファラルは言った。

「事情というのはそれぞれにある。隠すということは理由があるからだろう? 俺たちのように」
「……どうせそのうち分かるから、今はそっとしておけばいいってことね」

 本当に、もっともな発言だ。
 背景にある事情など、一目見ただけでは分からないことが大半だ。

 つまり、分かってしまうことの方が変なのだ。
 レイはファラルの忠告にくすりと笑い、

悪魔のくせに・・・・・・

 と、思った。
 ファラルは私に普通の人間らしさを求めている。
 本性と言葉が噛み合っていないちぐはぐさを、レイは愉快に思った。
 

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