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フリーライター 笹山昭
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フリーライターの笹山昭は、今回の仕事を受けたことを後悔していた。
依頼内容は、10年前に記事にした未解決事件のその後について、というものだ。
後を追うのが楽そうな事件を選んで、前の記事をまとめ直して紙面を稼ぎ、最後に現状をちょっと付け足せばいいだけのぼろい仕事だと思っていたのに、
「ったく、仮にも資料室なら、資料ぐれぇしっかり管理しろってんだ」
まずは10年前の記事を、と資料室に足を運んだのは良いものの、掃除されていないのか紙の匂いと同じくらいの埃っぽさに辟易したのは、この部屋の扉を開けた瞬間だ。
しかし、それはまだ我慢できた。
10年前の記事が入ったファイルを引っ張り出して、外でゆっくり探せばいいのだから。
なのに、掃除どころか整頓もされていなかった資料室は、10年前の記事すら見つからない有様だ。
ぎちぎちに並べられたファイルの上には引っ張り出して戻せなくなったのか、はたまた置く場所がなくて積み上げたのかというファイルがあり、中を確認すると7年前や12年前なんてものが出てくる。
たぶん、他の事件の資料として持って来たりしたものが混在しているのだろう。
がさつそうな口調と外見に反して、笹山は神経質で綺麗好きな性格だった。
大学時代には司書資格を取り、図書館でアルバイトをしていた血が騒いだせいで、資料室の整理なんていう金にもならないことをしている。
(アイツめ! ぜってぇ、これ狙って俺に依頼よこしやがったな)
笹山に依頼してきた雑誌の編集長をしている男は、大学時代の同期で、笹山の性格をよく知っている。
ついでに、酒の席でこの仕事を依頼してきたとき、資料室が狭くて困ると愚痴を言っていた。
(っと、また9年前の老夫婦殺人かよ)
10年前の記事を探しているというのに、9年前の老夫婦殺人と、その数か月後に起きた20代の独身女性通り魔殺人が妙に出てくる。
整理は済んでいないが、一息つこうと思い見つけ出した10年前の記事と、ついでに老夫婦と独身女性の記事も持って外へ出る。
「おお、笹山! 資料室の整理は進んでる?」
「ふざけんなよ?」
「疲れてるみたいだね。缶コーヒーでよかったらおごるよ」
元凶の編集長がひょっこりと現れ、ロビーにある自販機で缶コーヒーをふたつ買い、ひとつを笹山に差し出した。
そのまま、ふたりでロビーに設置されているベンチに腰掛ける。
「ごめんって。機嫌直してよ」
「資料の整理はテメエらでしろ」
「そうしたいのは山々なんだけど、手が回らなくってさ。5年前までの資料はデータ管理なんかできっちり整理できているんだけど、10年前になると手つかず同然でね」
缶コーヒーに口をつけつつ、編集長は笹山が持っていた記事に手を伸ばす。
「あれ、これ9年前の記事だよ?」
「知ってる。妙に同じところから出てくるから、箸休めに読もうと思って」
「相変わらずの活字馬鹿だね」
笹山が読むよりも先に、9年前の記事に目を通していた編集長は、缶コーヒーを飲みきってから10年前の資料に手を伸ばしていた笹山へ「分かった!」と言った。
「何がだよ」
突然の言葉に対して不審そうに聞き返した笹山に、編集長は9年前の記事を渡して来て、ある文章を指した。
「この老夫婦と20代女性、親子だったみたいだね。名字が同じで、住んでいるのも隣の市だ。遺産目当ての娘が老夫婦を殺したって疑惑があったみたいだけど、娘自身も殺された」
興味を惹かれる記事だ。10年前の事件に目ぼしいものがないなら、この記事を探ってもいいだろう。
資料室の整理なんて押し付けてきたのだから、そのくらいの融通は利かせてくれる貰わないと困る。
「老夫婦は他に結婚している長男がいて、この人は老夫婦が殺される前に亡くなっている。長男には子供がいて老夫婦が引き取っていたみたいだね」
ライターとしての性か、俗人としての好奇心か。
(その子供は、今どこに居るんだ?)
笹山は調べてみたい衝動に駆られた。
依頼内容は、10年前に記事にした未解決事件のその後について、というものだ。
後を追うのが楽そうな事件を選んで、前の記事をまとめ直して紙面を稼ぎ、最後に現状をちょっと付け足せばいいだけのぼろい仕事だと思っていたのに、
「ったく、仮にも資料室なら、資料ぐれぇしっかり管理しろってんだ」
まずは10年前の記事を、と資料室に足を運んだのは良いものの、掃除されていないのか紙の匂いと同じくらいの埃っぽさに辟易したのは、この部屋の扉を開けた瞬間だ。
しかし、それはまだ我慢できた。
10年前の記事が入ったファイルを引っ張り出して、外でゆっくり探せばいいのだから。
なのに、掃除どころか整頓もされていなかった資料室は、10年前の記事すら見つからない有様だ。
ぎちぎちに並べられたファイルの上には引っ張り出して戻せなくなったのか、はたまた置く場所がなくて積み上げたのかというファイルがあり、中を確認すると7年前や12年前なんてものが出てくる。
たぶん、他の事件の資料として持って来たりしたものが混在しているのだろう。
がさつそうな口調と外見に反して、笹山は神経質で綺麗好きな性格だった。
大学時代には司書資格を取り、図書館でアルバイトをしていた血が騒いだせいで、資料室の整理なんていう金にもならないことをしている。
(アイツめ! ぜってぇ、これ狙って俺に依頼よこしやがったな)
笹山に依頼してきた雑誌の編集長をしている男は、大学時代の同期で、笹山の性格をよく知っている。
ついでに、酒の席でこの仕事を依頼してきたとき、資料室が狭くて困ると愚痴を言っていた。
(っと、また9年前の老夫婦殺人かよ)
10年前の記事を探しているというのに、9年前の老夫婦殺人と、その数か月後に起きた20代の独身女性通り魔殺人が妙に出てくる。
整理は済んでいないが、一息つこうと思い見つけ出した10年前の記事と、ついでに老夫婦と独身女性の記事も持って外へ出る。
「おお、笹山! 資料室の整理は進んでる?」
「ふざけんなよ?」
「疲れてるみたいだね。缶コーヒーでよかったらおごるよ」
元凶の編集長がひょっこりと現れ、ロビーにある自販機で缶コーヒーをふたつ買い、ひとつを笹山に差し出した。
そのまま、ふたりでロビーに設置されているベンチに腰掛ける。
「ごめんって。機嫌直してよ」
「資料の整理はテメエらでしろ」
「そうしたいのは山々なんだけど、手が回らなくってさ。5年前までの資料はデータ管理なんかできっちり整理できているんだけど、10年前になると手つかず同然でね」
缶コーヒーに口をつけつつ、編集長は笹山が持っていた記事に手を伸ばす。
「あれ、これ9年前の記事だよ?」
「知ってる。妙に同じところから出てくるから、箸休めに読もうと思って」
「相変わらずの活字馬鹿だね」
笹山が読むよりも先に、9年前の記事に目を通していた編集長は、缶コーヒーを飲みきってから10年前の資料に手を伸ばしていた笹山へ「分かった!」と言った。
「何がだよ」
突然の言葉に対して不審そうに聞き返した笹山に、編集長は9年前の記事を渡して来て、ある文章を指した。
「この老夫婦と20代女性、親子だったみたいだね。名字が同じで、住んでいるのも隣の市だ。遺産目当ての娘が老夫婦を殺したって疑惑があったみたいだけど、娘自身も殺された」
興味を惹かれる記事だ。10年前の事件に目ぼしいものがないなら、この記事を探ってもいいだろう。
資料室の整理なんて押し付けてきたのだから、そのくらいの融通は利かせてくれる貰わないと困る。
「老夫婦は他に結婚している長男がいて、この人は老夫婦が殺される前に亡くなっている。長男には子供がいて老夫婦が引き取っていたみたいだね」
ライターとしての性か、俗人としての好奇心か。
(その子供は、今どこに居るんだ?)
笹山は調べてみたい衝動に駆られた。
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