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最強ノ戦士、悪縁!?
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マホロは本当に馬鹿だが、確かに優秀な兵士としての資質を持っていた。
人並み外れた身体能力、何があってもやり遂げる作戦遂行能力、敵に屈することなく対峙する胆力、死や苦痛などへの恐怖から解放された人格。こういったものは訓練と厳格な規律、マインドコントロールや薬物によって獲得していくのが通常である。
しかしマホロはこれらを恐らくは生まれた時から身につけていた。それも、普通の人が後天的に獲得するよりも遥かに高い水準で、である。
人並み外れた身体能力によって不可能と言われた作戦が次々と成功させたマホロは、たった1人で劣勢を覆すと称される「最強の戦士」もしくは「化物」として敵味方に関わらずに恐れられている。
戦争において英雄を作りたがるのは世の常であり、マホロの業績と二つ名は戦争における国の英雄の1人として持て囃されることになった。
そうなると、マホロの生死は軍全体ひいては国全体の士気に関わる重要事項となり、ハルクはマホロの専属軍医のように扱われることになった。
ハルクは牧場を経営する大地主の子供で、マホロは牧場の労働者の子供。
本来ならマホロがハルクの世話を焼くような立場であるはずなのに、実際はハルクがマホロの世話を焼くことになったという話である。
自由と平等の名の下に傲然と格差が存在する社会であるが、身分制はとうに廃止されている以上、あり得ない話ではない。
そもそも、傷の痛みから学ばないどころか積極的に傷を作りに行く所業を繰り返すマホロの傍に居たことで、ハルクは幼い頃からマホロの代わりにマホロの体をいつも気にしているような役回りだった。
そう。
幼いハルクは純粋にマホロのことを心配していたのだ。
危なっかしい奴から目を離せないという涙ぐましい世話焼きの典型だった。
マホロが行方不明になった後はしばらく監視役だったとか、崖登りのせいで血だらけの真っ赤に腫れ上がった両手足を冷やしていたとか、泥の中で呼吸停止したマホロの命を諦める大人に心肺蘇生法を試せと言ったとか、熊や鰐を口から殴ったせいで腕に深々と食い込んだ歯を取り除き、消毒しながら説教したとか。
ハルクが歩く医者としての人生は、マホロの世話を焼くことから始まっていた。
例えば、マホロがどんな怪我をしても死にかけていても治療や蘇生ができるように、字が読めるようになってから親に強請ったのは絵本ではなく医学書だった。
他にも、マホロが死にかける大怪我をして平然と帰ってくるたびに、純真で幼かったハルクはへらへらと笑うマホロの代わりに泣き、骨折の存在にすら気づいていないマホロの代わりに擦り傷ひとつまでを気にかけた。
そうしているうちに気づいたのは、マホロがひどく死にやすい人間だということだ。
痛覚や空腹感、呼吸困難や疲労感など、常人であれば感じられる苦痛に対して極度に鈍感でありながら、底なしの体力がある。しかし、人間の体を持つ以上、マホロにも人間として生命を維持するための限界がある。
常識で考えるとあり得ないことだが、マホロはその限界を自分で知覚できない人間だった。
こういう驚異的な身体能力と心身ともに健康な体を持ちながら、無茶による負傷などで死の淵をへらへらと笑いながら歩き回っている人間は、痛みで暴れる人間よりもある意味では厄介であるというのが、ハルクの経験則から得た個人的な見解である。
病気ひとつしたことないのに、どこかに盛大に頭をぶつけて「ちょっと、頭打っちゃった~」と自分の失敗を笑いながら報告した翌日、ベッドの中で冷たくなっている奴と最後に飲み交わすことほど、生者の心に堪えるものはない。
苦痛によって学べないという防衛本能の欠落によって、同じ失敗を延々と繰り返し、その度に死にかけるマホロは、最後にきっと誰かの心を傷つけるだけ傷つけて死ぬのだとハルクは思った。
どう考えても早死にする気しかしないマホロの傍で、ハルクだけが心痛に悩まされるのを理不尽だとハルク自身の精神安定の維持を理性的に考えて、距離をとろうとしたことはある。
しかし、その間にマホロが死にかけてしまえば傍におらずにはいられない。
離れたくても離れられず、気づけばハルクの父親によって士官学校に放り込まれたマホロの後を追うようにハルクも士官学校に併科されていた軍医の道を進み、任務の度に死にかける頭のネジが飛んだ兵士の専属医のごとく過ごす日々だ。
現状を振り返るたびにハルクはここに至るまでマホロから離れなかった自分を馬鹿だと思う。
けれど、自分でも馬鹿だと思いながら、飽きることなく死にかけるマホロの傍から離れようとは思えなかった。
人並み外れた身体能力、何があってもやり遂げる作戦遂行能力、敵に屈することなく対峙する胆力、死や苦痛などへの恐怖から解放された人格。こういったものは訓練と厳格な規律、マインドコントロールや薬物によって獲得していくのが通常である。
しかしマホロはこれらを恐らくは生まれた時から身につけていた。それも、普通の人が後天的に獲得するよりも遥かに高い水準で、である。
人並み外れた身体能力によって不可能と言われた作戦が次々と成功させたマホロは、たった1人で劣勢を覆すと称される「最強の戦士」もしくは「化物」として敵味方に関わらずに恐れられている。
戦争において英雄を作りたがるのは世の常であり、マホロの業績と二つ名は戦争における国の英雄の1人として持て囃されることになった。
そうなると、マホロの生死は軍全体ひいては国全体の士気に関わる重要事項となり、ハルクはマホロの専属軍医のように扱われることになった。
ハルクは牧場を経営する大地主の子供で、マホロは牧場の労働者の子供。
本来ならマホロがハルクの世話を焼くような立場であるはずなのに、実際はハルクがマホロの世話を焼くことになったという話である。
自由と平等の名の下に傲然と格差が存在する社会であるが、身分制はとうに廃止されている以上、あり得ない話ではない。
そもそも、傷の痛みから学ばないどころか積極的に傷を作りに行く所業を繰り返すマホロの傍に居たことで、ハルクは幼い頃からマホロの代わりにマホロの体をいつも気にしているような役回りだった。
そう。
幼いハルクは純粋にマホロのことを心配していたのだ。
危なっかしい奴から目を離せないという涙ぐましい世話焼きの典型だった。
マホロが行方不明になった後はしばらく監視役だったとか、崖登りのせいで血だらけの真っ赤に腫れ上がった両手足を冷やしていたとか、泥の中で呼吸停止したマホロの命を諦める大人に心肺蘇生法を試せと言ったとか、熊や鰐を口から殴ったせいで腕に深々と食い込んだ歯を取り除き、消毒しながら説教したとか。
ハルクが歩く医者としての人生は、マホロの世話を焼くことから始まっていた。
例えば、マホロがどんな怪我をしても死にかけていても治療や蘇生ができるように、字が読めるようになってから親に強請ったのは絵本ではなく医学書だった。
他にも、マホロが死にかける大怪我をして平然と帰ってくるたびに、純真で幼かったハルクはへらへらと笑うマホロの代わりに泣き、骨折の存在にすら気づいていないマホロの代わりに擦り傷ひとつまでを気にかけた。
そうしているうちに気づいたのは、マホロがひどく死にやすい人間だということだ。
痛覚や空腹感、呼吸困難や疲労感など、常人であれば感じられる苦痛に対して極度に鈍感でありながら、底なしの体力がある。しかし、人間の体を持つ以上、マホロにも人間として生命を維持するための限界がある。
常識で考えるとあり得ないことだが、マホロはその限界を自分で知覚できない人間だった。
こういう驚異的な身体能力と心身ともに健康な体を持ちながら、無茶による負傷などで死の淵をへらへらと笑いながら歩き回っている人間は、痛みで暴れる人間よりもある意味では厄介であるというのが、ハルクの経験則から得た個人的な見解である。
病気ひとつしたことないのに、どこかに盛大に頭をぶつけて「ちょっと、頭打っちゃった~」と自分の失敗を笑いながら報告した翌日、ベッドの中で冷たくなっている奴と最後に飲み交わすことほど、生者の心に堪えるものはない。
苦痛によって学べないという防衛本能の欠落によって、同じ失敗を延々と繰り返し、その度に死にかけるマホロは、最後にきっと誰かの心を傷つけるだけ傷つけて死ぬのだとハルクは思った。
どう考えても早死にする気しかしないマホロの傍で、ハルクだけが心痛に悩まされるのを理不尽だとハルク自身の精神安定の維持を理性的に考えて、距離をとろうとしたことはある。
しかし、その間にマホロが死にかけてしまえば傍におらずにはいられない。
離れたくても離れられず、気づけばハルクの父親によって士官学校に放り込まれたマホロの後を追うようにハルクも士官学校に併科されていた軍医の道を進み、任務の度に死にかける頭のネジが飛んだ兵士の専属医のごとく過ごす日々だ。
現状を振り返るたびにハルクはここに至るまでマホロから離れなかった自分を馬鹿だと思う。
けれど、自分でも馬鹿だと思いながら、飽きることなく死にかけるマホロの傍から離れようとは思えなかった。
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