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夏休み合宿編
華麗なる変身
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あけみっちが用意したヘアーサロンは、中堅都市にしては珍しく、完全予約、会員制の店で、高校生一人ではまず間違いなく入ることができない店だ。
普段、何事にも積極的なサッチも、店の名前を確認した後、入るのを躊躇している。ここは男の出番だろう。
俺は中をうかがうようにそっとドアを開けた。
カラン、カラン
ドアのベルがなる。
「いらっしゃい」
四十歳くらいのダンディなヒゲ面男が、とびっきりのスマイルを見せ、あいさつをしてきた。
やばい、見た感じ完璧だ。
後ろを見ると予想どおり、女子たちの目がハートになり口がだらしなく開いている。なんと藤木さんもだ。
「みんな、おはよう」
あけみっちが店の奥から出てきた。
「藤木さん、今日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
慌てて藤木さんが頭を下げる。
「あけみっち、いつもと雰囲気違うね」
サッチが帆乃花ちゃんにそっと言う。
「ん? ちょっと『おとうと君』にヘアーアレンジしてもらったの。学校だとあまり目立つ容姿はいけないから、週末くらいはいいでしょ」
「あけみっち、おとうと君って?」
「あー、紹介するね。弟のタカシ」
「どうも、タカシです。あねがお世話になってます」
そう言い、あいさつしたのは、目の前のダンディヒゲ面男だ。
え、でも歳が……。
「あー、どう見てもおじさんだわよね。私の妹の旦那なの。だからおとうと君」
なるほどー。既婚者で安心したわ。
だが女子たちが彼を見る目は変わらない。おそらく、彼氏や結婚相手という目ではなく、単にイケオジを見る目なのだろう。
「ちなみに、妹もここのスタッフ。というよりオーナーか」
すごいな、角倉家。
「今以上に素敵になりたいお嬢さんは誰だい? 今のままでもみんな素敵だけどね」
女子たちが四人そろって照れている。
あけみっちが、藤木さんの両肩に手を置き、この子よと優しく前に押し出した。
「君かい? うん、良いもの持ってるから安心して任せてね」
ダンディヒゲ面タカシが、藤木さんを鏡の前に座らせる。
「さ、あなたたちは向こうの部屋で休んでいて。ケーキとジュースを用意しておいたわよ。藤木さんのビフォーアフターは後のお楽しみ」
あけみっちに案内された所は、小綺麗な十二畳ほどの部屋だ。予約した人が時間まで待つための場所なのだろう。高価そうな調度品が飾られ、ヒーリングミュージックが流れている。
あけみっちともう一人、若い女性がケーキとジュースを持ってきてくれた。
「私の妹のカナミ。ここのオーナーよ。つまりタカシの妻。メイクはこの子が担当するわ」
とても感じの良いナチュラルメイクの美人さんだ。ただ、どこか抜けた感じの姉、あけみっちと比べると、隙のない雰囲気を漂わせている。
「よろしくね。ケーキを食べたら、みんなにも高校生らしい簡単ナチュラルメイクを教えてあげるね」
「じゃあ、みんなゆっくりしてて。藤木さん、不安だろうから見てくるわ」
そう言いカナミさんと出ていってあけみっちだが、すぐに一人で戻ってきた。
「秘蜜の花園クラブのことは妹には内緒よ。もちろんタカシにも。あと、ここでクラブ活動したらダメだからね。ふふっ」
言えないし、やらないでしょ。
ケーキを食べ終わったのを見計らったかのようにカナミさんが部屋に入ってきた。
「ごちそうさまです。すごく美味しかったんですが、どちらのケーキだったんですか?」
めずらしく質問したのは、友巴ちゃんだ。そう言えば友巴ちゃん、スイーツ好きだったな。
カナミさんがあげた店の名前に友巴ちゃんが驚いていたが、俺にはよくわからない。
ケーキ皿を片付け、ここからはメイクアップ教室となった。
俺は側から見ているだけであったが、初恋の女の子とクラスのアイドルがメイクする姿に興味津々となる。
まずはメイクを全て落とすようだ。
はー、三人ともノーメイクでもやっぱり可愛いな。
メイクが完成した時には、学校の、いや雑誌に載っていてもおかしくないアイドルが三人いた。
うわー、こんな娘たちとあんなことをしてたんだと思うと昼間っから興奮する。
「君は……、うーん、眉毛をキリッと男らしくすると良いわね」
と言うことで、俺も眉を整えてもらった。
女子三人からの評判も上々で、かなり嬉しい。
カナミさんは、その後、藤木さんにメイクを施すため部屋を出ていった。
「みんな、お待たせ。こっちに来て」
出された高級チョコレートやクッキーを食べていると、あけみっちに呼ばれた。
最初のカットスペースに行くと、なんと言うことでしょう。アイドルがもう一人、そこにはおりました。
ボサボサで乾燥していた髪質はしっとりサラサラに、髪型もふんわりとフェミニンな感じになっている。メイクもバッチリで、元々綺麗だとヒデキやサッチが言っていた目がぱっちりとし、目立つようになった。
他の女子三人がキャッキャ、キャッキャと褒め称えるので、藤木さんは照れて下を向く。
華麗なる転身とはまさにこのことだ。
だが、あけみっちの次の言葉に俺は絶句した。
「うん、これで藤木さんも入会ね。私、可愛い子、大好き」
「やだ。うち、高校生は会員になれないの。お姉ちゃん、知ってるでしょ」
そうだったと笑うあけみっちだが、ミツハナのことを他人に漏らすのはあけみっちだと俺は確信したのであった……。
普段、何事にも積極的なサッチも、店の名前を確認した後、入るのを躊躇している。ここは男の出番だろう。
俺は中をうかがうようにそっとドアを開けた。
カラン、カラン
ドアのベルがなる。
「いらっしゃい」
四十歳くらいのダンディなヒゲ面男が、とびっきりのスマイルを見せ、あいさつをしてきた。
やばい、見た感じ完璧だ。
後ろを見ると予想どおり、女子たちの目がハートになり口がだらしなく開いている。なんと藤木さんもだ。
「みんな、おはよう」
あけみっちが店の奥から出てきた。
「藤木さん、今日はよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
慌てて藤木さんが頭を下げる。
「あけみっち、いつもと雰囲気違うね」
サッチが帆乃花ちゃんにそっと言う。
「ん? ちょっと『おとうと君』にヘアーアレンジしてもらったの。学校だとあまり目立つ容姿はいけないから、週末くらいはいいでしょ」
「あけみっち、おとうと君って?」
「あー、紹介するね。弟のタカシ」
「どうも、タカシです。あねがお世話になってます」
そう言い、あいさつしたのは、目の前のダンディヒゲ面男だ。
え、でも歳が……。
「あー、どう見てもおじさんだわよね。私の妹の旦那なの。だからおとうと君」
なるほどー。既婚者で安心したわ。
だが女子たちが彼を見る目は変わらない。おそらく、彼氏や結婚相手という目ではなく、単にイケオジを見る目なのだろう。
「ちなみに、妹もここのスタッフ。というよりオーナーか」
すごいな、角倉家。
「今以上に素敵になりたいお嬢さんは誰だい? 今のままでもみんな素敵だけどね」
女子たちが四人そろって照れている。
あけみっちが、藤木さんの両肩に手を置き、この子よと優しく前に押し出した。
「君かい? うん、良いもの持ってるから安心して任せてね」
ダンディヒゲ面タカシが、藤木さんを鏡の前に座らせる。
「さ、あなたたちは向こうの部屋で休んでいて。ケーキとジュースを用意しておいたわよ。藤木さんのビフォーアフターは後のお楽しみ」
あけみっちに案内された所は、小綺麗な十二畳ほどの部屋だ。予約した人が時間まで待つための場所なのだろう。高価そうな調度品が飾られ、ヒーリングミュージックが流れている。
あけみっちともう一人、若い女性がケーキとジュースを持ってきてくれた。
「私の妹のカナミ。ここのオーナーよ。つまりタカシの妻。メイクはこの子が担当するわ」
とても感じの良いナチュラルメイクの美人さんだ。ただ、どこか抜けた感じの姉、あけみっちと比べると、隙のない雰囲気を漂わせている。
「よろしくね。ケーキを食べたら、みんなにも高校生らしい簡単ナチュラルメイクを教えてあげるね」
「じゃあ、みんなゆっくりしてて。藤木さん、不安だろうから見てくるわ」
そう言いカナミさんと出ていってあけみっちだが、すぐに一人で戻ってきた。
「秘蜜の花園クラブのことは妹には内緒よ。もちろんタカシにも。あと、ここでクラブ活動したらダメだからね。ふふっ」
言えないし、やらないでしょ。
ケーキを食べ終わったのを見計らったかのようにカナミさんが部屋に入ってきた。
「ごちそうさまです。すごく美味しかったんですが、どちらのケーキだったんですか?」
めずらしく質問したのは、友巴ちゃんだ。そう言えば友巴ちゃん、スイーツ好きだったな。
カナミさんがあげた店の名前に友巴ちゃんが驚いていたが、俺にはよくわからない。
ケーキ皿を片付け、ここからはメイクアップ教室となった。
俺は側から見ているだけであったが、初恋の女の子とクラスのアイドルがメイクする姿に興味津々となる。
まずはメイクを全て落とすようだ。
はー、三人ともノーメイクでもやっぱり可愛いな。
メイクが完成した時には、学校の、いや雑誌に載っていてもおかしくないアイドルが三人いた。
うわー、こんな娘たちとあんなことをしてたんだと思うと昼間っから興奮する。
「君は……、うーん、眉毛をキリッと男らしくすると良いわね」
と言うことで、俺も眉を整えてもらった。
女子三人からの評判も上々で、かなり嬉しい。
カナミさんは、その後、藤木さんにメイクを施すため部屋を出ていった。
「みんな、お待たせ。こっちに来て」
出された高級チョコレートやクッキーを食べていると、あけみっちに呼ばれた。
最初のカットスペースに行くと、なんと言うことでしょう。アイドルがもう一人、そこにはおりました。
ボサボサで乾燥していた髪質はしっとりサラサラに、髪型もふんわりとフェミニンな感じになっている。メイクもバッチリで、元々綺麗だとヒデキやサッチが言っていた目がぱっちりとし、目立つようになった。
他の女子三人がキャッキャ、キャッキャと褒め称えるので、藤木さんは照れて下を向く。
華麗なる転身とはまさにこのことだ。
だが、あけみっちの次の言葉に俺は絶句した。
「うん、これで藤木さんも入会ね。私、可愛い子、大好き」
「やだ。うち、高校生は会員になれないの。お姉ちゃん、知ってるでしょ」
そうだったと笑うあけみっちだが、ミツハナのことを他人に漏らすのはあけみっちだと俺は確信したのであった……。
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