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ミツハナ脱退編

誕生日会(帆乃花5)

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 そうこうしている間に、順番になり、席につき、安全バーを下げられた。ここまでおよそ10秒(体感)。

 待って、まだ心の準備できてないんですけどーーーー!

 はあ……急加速とアップダウンの激しいジェットコースターは苦手だ……。
 そんな俺と比べ帆乃花ちゃんはテンションが高い。

「めちゃくちゃ楽しい!帰る前にもう一回乗ろうよ」
「俺、コトコトと進むのがいい……」

 帆乃花ちゃんが聞こえるか聞こえないか微妙な声で小さくつぶやいた。

 その後、帆乃花ちゃんセレクトで二つのアトラクションに乗り、昼ごはんとした。
 アトラクションはいずれも60分の待ち時間であったため、正直、座って休憩できるのはありがたい。
 少し時間が遅いため、どこも少し待てば席が空くようだ。

 オールディーズが流れるハンバーガーショップに入った。ここも帆乃花ちゃん希望の店だ。俺がおごるという約束をしていたので、割とリーズナブルにお店を選んでくれたのかもしれない。

 四人がけだが、ラブラブ仕様で二人並んで座る。

 ハンバーガーを食べ終えたあと、バッグからプレゼントを取り出した。

「はい、帆乃花ちゃん。ちょっとしたプレゼント」
「えー、ありがとう! ここに一緒に来てくれて、ハンバーガーご馳走してくれただけで嬉しいのに。見ていい?」
「どうぞ。本当にちょっとしたものだよ」

 帆乃花ちゃんがプレゼントを紙袋から取り出す。

「わー、めっちゃオシャレなシュシュ。ちょっと大人っぽいね」
「帆乃花のポニーテール、授業中いつも後ろから見てるから」
「やだ恥ずかしい。そうなの?」
「そうだよ。綺麗に髪だなって」
「ふふふ。ありがとう。早速つけてみようかな」

 帆乃花ちゃんが髪を解きプレゼントしたシュシュ後ろつける。その仕草がなんとも色っぽい。

 俺がそんな帆乃花ちゃんを見つめていると前方から声がした。

「ラッキー、ラッキー。青春くんたちがいた」

 この声は……。

 前を向くと二つのサメが見えた。

 一匹のサメが目の前にドカっと座った。
このガサツさ。まるでサッチがいるようだ。

「ハルカ、ちゃんと青春くんたちに聞いてから座れ」
「はぁーい。座っていい? 歩き疲れてへとへとなの」

 帆乃花ちゃんを見たが固まっている。
 疲れていると言われ断るのは難しい。

「ど、どうぞ」

 俺がそう言うと、ハルカザメは横にずれ、帆乃花ちゃんの正面に座った。彼氏ザメは俺の前にスッと座る。

「ごめんな。二人の青春の邪魔して」
「い、いえ。疲れているなら早く座りたいって俺も思うし……」
「優しい、青春くん。君は疲れてない?」
「俺は、歩き疲れたというより、立ちっぱなしで……」
「青春くん、なんかいやらしい」

 言うこともサッチっぽい……。

「おいハルカ、青春くんをからかうな」
「だって可愛いだもん」
「青春くんって俺のことですか?」
「そうだよ。こっちのトオルが考えたの。二人がキラキラ青春してるなぁって」
「俺にもこんな時期があったなって」
「こんな時期?」
「君が好き 恋は盲目 周り見ず 立ちっぱなしの 青春くん」
「なんですか、それ? えーっと……ハルカさん?」
「短歌だよ。周りが見えてない青春くんを詠んでみました」
「こいつ、こう見えて大学で古典専攻してて、すぐに詩にしたがるクセがあってな」
「お二人とも大学生ですか?」

 ここで初めて帆乃花ちゃんが口を開いた。

「そうそうだよ。私が大学2年生、トオルが4年生。トオルがこれで卒業だから就職前の最後の旅行」
「おいハルカ。このサメ、青春くんたちにやろうぜ」
「おぉ、そうだね。良い考えじゃん」

 そう言い2匹のサメがかぶりものを脱いで俺たちに渡してきた。

「これって、カップルでかぶると幸せになるっていうものですよね? いいんですか?」

 帆乃花ちゃんがハルカザメに尋ねる。

「いいのいいの」
「俺たち、カップルじゃないし」
「え? そうなんですか?」
「そうだよ。兄妹だよ」
「でも、トオルって……」
「こいつ、保育園の頃から俺を呼び捨てで呼んでて、今も直ってないんだよな」

 彼氏ザメあらためて兄ザメが説明した。
 俺がちょっと違和感を感じたのはそういうわけか。

「仲が良い兄妹で、うらやましいな……」

 そうだよね。帆乃花ちゃんのお兄様、いろいろと問題ありだもんな……。

「そうか?うるさいし手が焼ける妹だから俺は……」
「ちょっとトオル。どういうこと」
「俺も青春くんの彼女みたいな、お淑やかな彼女がほしいってことだ」
「ということは、お淑やかな彼女はほしいけど、お淑やかな妹がほしいってことじゃないってことね」
「まあそういうことだ。ごめんな、うるさくて。俺たち、勝手に食ってるから、どうぞご自由にラブラブしてていいよ」

 と言われ、目の前でイチャイチャするカップルはいない。

「俺たち、夕方に帰るので、昼ごはん休憩はそこそこにしてアトラクション乗ってきます」
「了解。おおいに青春を謳歌したまえ、青春くん。時というものは過ぎ去るのも早いものだ」
「何それ? 軍人風?」

ハルカザメが真顔でつっこむ。

「いいや、西洋かぶれの明治の政治家」
「わかりにくっ」
「では、ご兄妹、これにて拙者たちは失礼つかまつる」

 俺の言葉に三人が固まる。

 誰か~、「侍風かよ?」ってつっこんでくれ~。

 俺は恥ずかしくなりサメをさっと深めにかぶった。

 温かいのは、そういう素材なのか、兄ザメの体温か。たぶん、頭のてっぺんまで昇った俺の血液だろう。

 オールディズの曲が聞こえなくなったあたりで帆乃花ちゃんが吹き出した。

「シュウゴくん。さっきの何あれ?」
「何あれって……。兄ちゃんの方がすべってたから俺が取り返そうと……」
「優しいんだ」

 いや、本当は単にすべっただけだ。

「私もサメ、かぶろっと」

 そう言い帆乃花ちゃんが髪をほどき、シュシュを取った。

 俺がプレゼントしたシュシュが……とは思ったが、ここサメ、カップルを幸せにするらしいのでその都市伝説にあやかることにしよう。

「シュウゴくんにもらったシュシュは地元に帰ったらつけるね」
「それまでは?」
「サメサメバカップルでいよう!」

 そう言い帆乃花ちゃんはサメをかぶる。
 帆乃花ちゃん、何を身につけても可愛いなぁ。

 このあと2つのアトラクションを満喫し、友巴ちゃん、サッチには、四人おそろいのハンカチ、あけみっちには、ちょっと豪華なアルバムを買った。クラスメイトや学校の日常の写真を入れてプレゼントしようという帆乃花ちゃんのアイデアだ。
 名前を借りたヒデキには藤木さんが好きなクランチチョコを買ってやろう。仲良く食べてくれ。

 結局、俺たちは名古屋に着くまでの電車、バスの車内はサメかぶりで移動した。 
 帆乃花ちゃんと一緒なら恥ずかしくもない。いや、正直恥ずかしかったが、旅の恥はかき捨てだ。
 高速バスが名古屋に着く直前にお互いのサメを交換した。帆乃花ちゃんの希望による。

「シュウゴくん。これまでで一番楽しい誕生日だったよ。って言うよりも人生で一番楽しかった。ありがとう、シュウゴくん」
喜んでもらえて良かったー。
「でも一つ心残りが……」
「え、何?」
「恋人つなぎができなかったこと」
「恋人つなぎ?」
「こうやって指をからませて手をつなぐの」

 帆乃花ちゃんが俺の手を取り、指をからませてきた。

「ごめん。パークって何故かあんまりこのつなぎ方してるカップルがいなくて気づかなかった」
「シュウゴくんと二人っきりってあんまりないから残念。次は恋人つなぎしようね」

 そう言い恋人つなぎをしたまま、帆乃花ちゃんは俺の頬にキスをした。

「じゃあ、また明日ね」
「送っていくよ」
「大丈夫。あと5分で親が迎えに来るから。バレたら怒られるよ」
「マジか。じゃあ、人がたくさんいる改札付近にいてね。おやすみ、帆乃花ちゃん」
「うん、おやすみ。シュウゴくん」

 俺は帆乃花ちゃんに手を振り別れると、ほんのり甘い帆乃花ちゃんのにおいが残るサメを軽く鼻にあて、二人っきりデートの余韻を味わった。
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