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第11話
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今回の競技『魔法あり、どつきあり、高確率でポロリもあるかもね!? 水着女子たちのビーチフラッグ対決』のルールはこう。
1、はるか三百メートル先の砂浜に立っている、誰かのパンツを結んだフラッグを先にキャッチしたチームの勝ち。
2、合図と同時に走り出す。その後は、遠回りしようが空を飛ぼうが、フラッグを先に手に入れさえすればよし。
3、競争中、魔導器を使った攻撃やその他妨害工作は無制限で許可。
4、ルール3に伴い、戦略性と滞りない進行を目的として、競技は二体二で行う。
なんだかあたしの知っているビーチフラッグとは似ても似つかない勝負だなぁ。
「こちらは私とカスミ君しかいないため、強制的にこの二人のチームで参加します。カスミ君、がんばりますよ」
「はい、先生!」
ラミラミ先生とかすみんはやる気満々だ。
あたし達も負けてらんないよね。
「それでは、こちらの出場者についてですけれど……」
つきのんが夢の学校の魔法少女を集め、代表になって話す中。
「はい! はい、はい!! あたしやる! ていうかあたしやりたい!」
あたしは真っ先に手――の代わりに髪を持ち上げた。
当然、つきのんは間髪入れずに反対する。
「無謀ですわ! 生首の状態で、ノゾミさんに勝算なんてありますの?」
「みんながデコってくれたカカシがあるよ!」
あれからカカシを動かす特訓は何度も繰り返し、自分の体のように扱えるぐらいまで鍛え抜いた。
さらにはデコレーションというみんなの愛と思いが詰まっている。勝負事で使うのに、これ以上のものはないよ!
「ノゾミが出るなら、わたしも出る」
そう挙手したのはみずっちだった。
「ツキノの魔導器は扇子で間合いが狭い。ワカバのは取り回しがし難いし機動性に欠ける。わたしの薙刀が、カスミの二刀流と一番相性が良い」
「それは……ミズホさんの仰るとおりかもしれませんわね……」
考え込むつきのん。
でも結局、答えは最初からみずっちの言うとおりだったようで、出場者はあたしonカカシ&みずっちのチームとなった。
てなわけで、いざ勝負が幕を開ける!
「それでは行きますよぉ。位置についてぇ……」
若葉ちゃんの合図で、あたしとみずっち、ラミラミ先生とかすみんが準備する。
自分の魔導器である巨大なハンマーを、若葉ちゃんはズイッと持ち上げて、
「よーいぃ…………どぉぉん!」
ドォォン!!
叩き下ろされたハンマーが砂浜を揺らしたのと同時に、あたし達は駆け出した!
すごいのはみずっちだった。スタートしてすぐトップに躍り出て後続を突き放していったのだ。
次がかすみんで、必死にみずっちに食らいついている。速度はほぼ互角ぐらいで、つかず離れずだ。
「負けてたまるかああぁぁぁ!!」
あたしは叫びながらカカシの手足を必死に動かした。
あたしの声を聞いて振り返ったかすみんが、一気に顔を青くする。
「ひいいぃぃぃ! か、カカシのお化けが追ってきてるぅぅ!」
普段はあたし達にほとんどなにも話しかけてこないから、こんな人間らしいかすみんのセリフははじめて聞いたかもしれない。
なんて感心しているあたしだったけど、よくよく考えると、あたしが追いかけるせいでかすみんのスピードがアップしてしまった! 敵に塩を送っちゃったっぽい……。
やがて、みずっちとかすみんがほぼ並んだ――次の瞬間。
「はあっ!!」
かすみんが魔導器を顕現! 二刀流を装備してみずっちに斬りかかる!
けれどみずっちも応戦し、薙刀の魔導器を顕現させる。水着を着た女子二人が、走りながら武器を構え、振りかざし、受けては払ってさらに走る!
「すご。まるでアニメみたいな光景だなぁ」
ぼけーっと感心しながら眺めるあたしは、なおも必死に走る。
「…………あれ? そういえば、誰かを忘れているような」
たしかこの勝負は二体二のはず。で、前方にはみずっちとかすみんが走ってるんだから……。
あたしは後ろを振り返った。
「すばらしい! さすがは私の一番の教え子です、カスミ君!」
ラミラミ先生が心から愉快そうに声を上げた。
けど、だいーぶ後ろの方で。
どうやらラミラミ先生、自分が甲冑の姿でそこそこ重いせいか、砂に足を取られてうまく走れないみたい。
こうして眺めている間にも二回三回よろけてるもん。転ぶのも時間の問題――
「がばふぁっ!」
案の定、ラミラミ先生は顔面からいった。ていうか、がばふぁ?
「ま、いいや。たぶんラミラミ先生、あそこからの追い上げは無理そうだし。放っておこう!」
他人、それも敵のことなんて気にしてる場合じゃない。
なんとかあたしがみずっちに追いついて加勢しないと。それか、あたしとみずっちのどちらかが、かすみんを足止めしつつ片方がフラッグを取りに行く……って流れがセオリーかな。
どちらにしろ、まずはみずっちと合流だ! 二人はもう、フラッグまで半分を切ったところまで進んでいた。のんびりはしてらんないぞ!
「いっくぞおおぉぉぉぉっ!」
負けじとあたしも必死に追いかける。白い砂浜をカカシが走る!
スッコーン!
「あいたぁ!」
突然あたしの後頭部になにかが当たった。その拍子にカカシの足が砂浜に取られ、転んでしまう。
もちろん、カカシか頭も離れてしまい、生首とカカシの接続も切れてしまう。
「いったーい! なんなの、も~ぅ……」
髪の毛で後頭部のたんこぶをさすりながら、なにが飛んできたのかを確認する。
あたしのそばには甲冑の一部が転がっていた。腕を覆うパーツ、いわゆるガントレットってやつが、あたしの頭に直撃したらしい。
こんな物を誰が投げたのか……そんなの、決まってる。
「ラミラミ先生! 物を乱暴に扱うのはいけないんだよ!」
あたしは犯人であるラミラミ先生に猛抗議。片腕をなくしている状態のラミラミ先生は、残った腕を振り上げた。
「ルール上はなにも問題ありませんよ! ちゃんと事前に説明したでしょう。聞いていないなんて、減点対象ですからね!」
となかんとか言いつつも、彼はあたしからもずいぶん突き放されている最後尾。
負け惜しみを……なんて思っていたら、突然誰かに名前を呼ばれる。
「ノゾミ! 大丈夫!?」
「…………え?」
あたしはビックリしながら、抱きかかえてくる誰かの顔を見上げる。
驚いて見開いた目と、みずっちの心配そうな目が交差する。
「…………え? へ? な、なんでみずっち……トップだったのに!」
かすみんと熾烈なトップ争いをしていたはずのみずっちが、なんでこんなところにいるんだろう? 疑問が絶えずにいると、みずっちが辛そうな声で言った。
「だって……ノゾミが攻撃されて、怪我してるかもって思ったら……」
ただそれが心配というだけで、みずっちはレースを放棄したってこと?
とんだ友達思いの大バカ者だよ! 嬉しくて泣けてきちゃうよ!
「でも、かすみんがトップ独走で……。あれじゃもう、追いつけない!」
あたしの言葉に、みずっちは唇を噛んだ。
心配してくれたのはすごく嬉しい。けど、勝負を放棄するほどのことじゃなかったのに。
「おもしろい寸劇をありがとうございます、お二方! ですが、その行動は赤点も同然ですね……。さあカスミ君! このまま勝利を私達の手に!」
「はい、先生!」
前と後ろから敵のやり取りが聞こえてくる。やっぱり悔しい。せめて一矢報いたい。
そんなあたしの思いが、一つのアイディアを閃かせた。
勝つにはこれしかない。あたしはさっそく、みずっちに提案する。
「……ねぇ、みずっち。あたしのこと、思いっきり投げて!」
「え? で、できない、そんなこと……」
「いいから! これなら勝てる……勝つための唯一の方法なの!」
あたしが押しても、みずっちはまだ躊躇っている様子だった。
でもあたしの真剣な眼差しから、なにを言っても撤回しないモードに入っていることを悟ったようで、みずっちは立ち上がった。
「フラッグ目がけて、投げればいいのね?」
「そう! 思いっきりやっちゃって!」
みずっちは頷いて答えると、あたしをドッジボールのように持って――
「ノゾミ……いくよっ!」
ぶうん! 魔法少女として強化された力も相まって、あたしは剛速球となって砂の上を飛んだ!
びらびらと唇が震え、目が一気に乾燥してシパシパする。
でも予想通りに……いや、予想以上の速度でかすみんに近づいていた!
かすみんも、そしてこのまま飛んでいけばあたしも、フラッグまではもうちょっと。
なのに、直前になってあたしは失速した。
当然だよね、そりゃ夢と魔法の世界と言えど、慣性の法則には適わない…………
「魔法? …………そうだ!」
またしてもあたしは閃いた。
ここは夢と魔法の世界。そしてあたしは、他の魔法少女とは違って例外的に『魔法らしい魔法』が使えるのだ。髪の毛を操るのもしかり、カカシを乗っ取るのもしかり。
そして、それらは今まで、あたしが『こうしたい!』と明確にイメージし、強く願った時に適ってきた。
「速度が落ちたなら……上げればいいだけ!」
あたしはなるべく明確なイメージを浮かべる。この状態から、あたしの飛ぶスピードが速くなるような……そんな現象や道具のイメージを、強く抱く!
やがて、あたしはほとんど無意識に叫んでいた。
「アフターバーナー、点火あああああぁぁぁぁ!!」
ゴオウ! 魔法陣が展開し、突然あたしの後方へ向けて火柱が立った。
それはまさに、戦闘機とかが火を噴く姿にそっくりだ。
一気に加速したあたしは、砂浜すれすれをトップスピードで翔る。砂塵が巻き上がり、視野がぎゅーっと狭まる。
その真ん中に捉えたフラッグが、ぐんぐんと近づいてくる。
そして、前方を走っていたかすみんも!
「――え!?」
アフターバーナーの音に驚いて振り返ったらしいかすみんが、あたしを見て驚く。
いつの間にか背後に迫っていたことはもちろんだろうけど、火を噴いていることにもびっくりしたんだろう。
その一瞬が仇となった!
「おっ先にー!」
あたしはとうとう、かすみんを抜いた。
そして見事――フラッグを口でキャッチした!
「勝者――ノゾミちゃんミズホちゃんチームぅ~!」
若葉ちゃんののんびりした声が、あたし達の勝利を告げた。
…………でも。試合終了直後のこと。
「誰が一回勝負と言いましたか? ……ぜえ、ぜえ」
ラミラミ先生が息を切らして、泣きの再戦を申し込んできた。
「いや、でも、あたし達勝ったじゃん。楽しかったからビーチフラッグ対決自体は何回やってもいいけど、あたし達の勝利は覆らないよ?」
「いいえ、そんな約束をした覚えはありませんので。三回勝負。あと二回勝てば私達の勝ちです。諦めてはいけませんよ、カスミ君!」
ラミラミ先生は、かすみんの肩をポンと叩く。
奮い立たせようとしたんだろうけど、かすみんは、
「は、はい……ぜえ、ぜえ……先生……ふう、ふう」
「いっぱいいっぱいじゃん!」
しょうがないなぁと思いながら、あたし達は渋々再戦を受けて立ち。
――そのすべてに見事勝利したのだった。
「つ、次は……別の、競技で……」
「往生際が悪すぎるよ! 帰れ!」
1、はるか三百メートル先の砂浜に立っている、誰かのパンツを結んだフラッグを先にキャッチしたチームの勝ち。
2、合図と同時に走り出す。その後は、遠回りしようが空を飛ぼうが、フラッグを先に手に入れさえすればよし。
3、競争中、魔導器を使った攻撃やその他妨害工作は無制限で許可。
4、ルール3に伴い、戦略性と滞りない進行を目的として、競技は二体二で行う。
なんだかあたしの知っているビーチフラッグとは似ても似つかない勝負だなぁ。
「こちらは私とカスミ君しかいないため、強制的にこの二人のチームで参加します。カスミ君、がんばりますよ」
「はい、先生!」
ラミラミ先生とかすみんはやる気満々だ。
あたし達も負けてらんないよね。
「それでは、こちらの出場者についてですけれど……」
つきのんが夢の学校の魔法少女を集め、代表になって話す中。
「はい! はい、はい!! あたしやる! ていうかあたしやりたい!」
あたしは真っ先に手――の代わりに髪を持ち上げた。
当然、つきのんは間髪入れずに反対する。
「無謀ですわ! 生首の状態で、ノゾミさんに勝算なんてありますの?」
「みんながデコってくれたカカシがあるよ!」
あれからカカシを動かす特訓は何度も繰り返し、自分の体のように扱えるぐらいまで鍛え抜いた。
さらにはデコレーションというみんなの愛と思いが詰まっている。勝負事で使うのに、これ以上のものはないよ!
「ノゾミが出るなら、わたしも出る」
そう挙手したのはみずっちだった。
「ツキノの魔導器は扇子で間合いが狭い。ワカバのは取り回しがし難いし機動性に欠ける。わたしの薙刀が、カスミの二刀流と一番相性が良い」
「それは……ミズホさんの仰るとおりかもしれませんわね……」
考え込むつきのん。
でも結局、答えは最初からみずっちの言うとおりだったようで、出場者はあたしonカカシ&みずっちのチームとなった。
てなわけで、いざ勝負が幕を開ける!
「それでは行きますよぉ。位置についてぇ……」
若葉ちゃんの合図で、あたしとみずっち、ラミラミ先生とかすみんが準備する。
自分の魔導器である巨大なハンマーを、若葉ちゃんはズイッと持ち上げて、
「よーいぃ…………どぉぉん!」
ドォォン!!
叩き下ろされたハンマーが砂浜を揺らしたのと同時に、あたし達は駆け出した!
すごいのはみずっちだった。スタートしてすぐトップに躍り出て後続を突き放していったのだ。
次がかすみんで、必死にみずっちに食らいついている。速度はほぼ互角ぐらいで、つかず離れずだ。
「負けてたまるかああぁぁぁ!!」
あたしは叫びながらカカシの手足を必死に動かした。
あたしの声を聞いて振り返ったかすみんが、一気に顔を青くする。
「ひいいぃぃぃ! か、カカシのお化けが追ってきてるぅぅ!」
普段はあたし達にほとんどなにも話しかけてこないから、こんな人間らしいかすみんのセリフははじめて聞いたかもしれない。
なんて感心しているあたしだったけど、よくよく考えると、あたしが追いかけるせいでかすみんのスピードがアップしてしまった! 敵に塩を送っちゃったっぽい……。
やがて、みずっちとかすみんがほぼ並んだ――次の瞬間。
「はあっ!!」
かすみんが魔導器を顕現! 二刀流を装備してみずっちに斬りかかる!
けれどみずっちも応戦し、薙刀の魔導器を顕現させる。水着を着た女子二人が、走りながら武器を構え、振りかざし、受けては払ってさらに走る!
「すご。まるでアニメみたいな光景だなぁ」
ぼけーっと感心しながら眺めるあたしは、なおも必死に走る。
「…………あれ? そういえば、誰かを忘れているような」
たしかこの勝負は二体二のはず。で、前方にはみずっちとかすみんが走ってるんだから……。
あたしは後ろを振り返った。
「すばらしい! さすがは私の一番の教え子です、カスミ君!」
ラミラミ先生が心から愉快そうに声を上げた。
けど、だいーぶ後ろの方で。
どうやらラミラミ先生、自分が甲冑の姿でそこそこ重いせいか、砂に足を取られてうまく走れないみたい。
こうして眺めている間にも二回三回よろけてるもん。転ぶのも時間の問題――
「がばふぁっ!」
案の定、ラミラミ先生は顔面からいった。ていうか、がばふぁ?
「ま、いいや。たぶんラミラミ先生、あそこからの追い上げは無理そうだし。放っておこう!」
他人、それも敵のことなんて気にしてる場合じゃない。
なんとかあたしがみずっちに追いついて加勢しないと。それか、あたしとみずっちのどちらかが、かすみんを足止めしつつ片方がフラッグを取りに行く……って流れがセオリーかな。
どちらにしろ、まずはみずっちと合流だ! 二人はもう、フラッグまで半分を切ったところまで進んでいた。のんびりはしてらんないぞ!
「いっくぞおおぉぉぉぉっ!」
負けじとあたしも必死に追いかける。白い砂浜をカカシが走る!
スッコーン!
「あいたぁ!」
突然あたしの後頭部になにかが当たった。その拍子にカカシの足が砂浜に取られ、転んでしまう。
もちろん、カカシか頭も離れてしまい、生首とカカシの接続も切れてしまう。
「いったーい! なんなの、も~ぅ……」
髪の毛で後頭部のたんこぶをさすりながら、なにが飛んできたのかを確認する。
あたしのそばには甲冑の一部が転がっていた。腕を覆うパーツ、いわゆるガントレットってやつが、あたしの頭に直撃したらしい。
こんな物を誰が投げたのか……そんなの、決まってる。
「ラミラミ先生! 物を乱暴に扱うのはいけないんだよ!」
あたしは犯人であるラミラミ先生に猛抗議。片腕をなくしている状態のラミラミ先生は、残った腕を振り上げた。
「ルール上はなにも問題ありませんよ! ちゃんと事前に説明したでしょう。聞いていないなんて、減点対象ですからね!」
となかんとか言いつつも、彼はあたしからもずいぶん突き放されている最後尾。
負け惜しみを……なんて思っていたら、突然誰かに名前を呼ばれる。
「ノゾミ! 大丈夫!?」
「…………え?」
あたしはビックリしながら、抱きかかえてくる誰かの顔を見上げる。
驚いて見開いた目と、みずっちの心配そうな目が交差する。
「…………え? へ? な、なんでみずっち……トップだったのに!」
かすみんと熾烈なトップ争いをしていたはずのみずっちが、なんでこんなところにいるんだろう? 疑問が絶えずにいると、みずっちが辛そうな声で言った。
「だって……ノゾミが攻撃されて、怪我してるかもって思ったら……」
ただそれが心配というだけで、みずっちはレースを放棄したってこと?
とんだ友達思いの大バカ者だよ! 嬉しくて泣けてきちゃうよ!
「でも、かすみんがトップ独走で……。あれじゃもう、追いつけない!」
あたしの言葉に、みずっちは唇を噛んだ。
心配してくれたのはすごく嬉しい。けど、勝負を放棄するほどのことじゃなかったのに。
「おもしろい寸劇をありがとうございます、お二方! ですが、その行動は赤点も同然ですね……。さあカスミ君! このまま勝利を私達の手に!」
「はい、先生!」
前と後ろから敵のやり取りが聞こえてくる。やっぱり悔しい。せめて一矢報いたい。
そんなあたしの思いが、一つのアイディアを閃かせた。
勝つにはこれしかない。あたしはさっそく、みずっちに提案する。
「……ねぇ、みずっち。あたしのこと、思いっきり投げて!」
「え? で、できない、そんなこと……」
「いいから! これなら勝てる……勝つための唯一の方法なの!」
あたしが押しても、みずっちはまだ躊躇っている様子だった。
でもあたしの真剣な眼差しから、なにを言っても撤回しないモードに入っていることを悟ったようで、みずっちは立ち上がった。
「フラッグ目がけて、投げればいいのね?」
「そう! 思いっきりやっちゃって!」
みずっちは頷いて答えると、あたしをドッジボールのように持って――
「ノゾミ……いくよっ!」
ぶうん! 魔法少女として強化された力も相まって、あたしは剛速球となって砂の上を飛んだ!
びらびらと唇が震え、目が一気に乾燥してシパシパする。
でも予想通りに……いや、予想以上の速度でかすみんに近づいていた!
かすみんも、そしてこのまま飛んでいけばあたしも、フラッグまではもうちょっと。
なのに、直前になってあたしは失速した。
当然だよね、そりゃ夢と魔法の世界と言えど、慣性の法則には適わない…………
「魔法? …………そうだ!」
またしてもあたしは閃いた。
ここは夢と魔法の世界。そしてあたしは、他の魔法少女とは違って例外的に『魔法らしい魔法』が使えるのだ。髪の毛を操るのもしかり、カカシを乗っ取るのもしかり。
そして、それらは今まで、あたしが『こうしたい!』と明確にイメージし、強く願った時に適ってきた。
「速度が落ちたなら……上げればいいだけ!」
あたしはなるべく明確なイメージを浮かべる。この状態から、あたしの飛ぶスピードが速くなるような……そんな現象や道具のイメージを、強く抱く!
やがて、あたしはほとんど無意識に叫んでいた。
「アフターバーナー、点火あああああぁぁぁぁ!!」
ゴオウ! 魔法陣が展開し、突然あたしの後方へ向けて火柱が立った。
それはまさに、戦闘機とかが火を噴く姿にそっくりだ。
一気に加速したあたしは、砂浜すれすれをトップスピードで翔る。砂塵が巻き上がり、視野がぎゅーっと狭まる。
その真ん中に捉えたフラッグが、ぐんぐんと近づいてくる。
そして、前方を走っていたかすみんも!
「――え!?」
アフターバーナーの音に驚いて振り返ったらしいかすみんが、あたしを見て驚く。
いつの間にか背後に迫っていたことはもちろんだろうけど、火を噴いていることにもびっくりしたんだろう。
その一瞬が仇となった!
「おっ先にー!」
あたしはとうとう、かすみんを抜いた。
そして見事――フラッグを口でキャッチした!
「勝者――ノゾミちゃんミズホちゃんチームぅ~!」
若葉ちゃんののんびりした声が、あたし達の勝利を告げた。
…………でも。試合終了直後のこと。
「誰が一回勝負と言いましたか? ……ぜえ、ぜえ」
ラミラミ先生が息を切らして、泣きの再戦を申し込んできた。
「いや、でも、あたし達勝ったじゃん。楽しかったからビーチフラッグ対決自体は何回やってもいいけど、あたし達の勝利は覆らないよ?」
「いいえ、そんな約束をした覚えはありませんので。三回勝負。あと二回勝てば私達の勝ちです。諦めてはいけませんよ、カスミ君!」
ラミラミ先生は、かすみんの肩をポンと叩く。
奮い立たせようとしたんだろうけど、かすみんは、
「は、はい……ぜえ、ぜえ……先生……ふう、ふう」
「いっぱいいっぱいじゃん!」
しょうがないなぁと思いながら、あたし達は渋々再戦を受けて立ち。
――そのすべてに見事勝利したのだった。
「つ、次は……別の、競技で……」
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