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序章

1.日常が一変する日

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 僕は佐藤ユウジ、どこにでもいる高校生だ。表としては高校に通う者だが、裏では国家間での話し合いや政治に携わっている。そして僕の通う「ロイアル高校」には弟子が多く在籍している。理由は至って簡単であり、要は僕が手塩に掛けて弟子の教育をする…という名目である。名目上は僕の護衛兼同級生としてであり、裏では弟子の教育が主目的となっていた。勿論、ロイアル高校に通う生徒の過半数は、ごく一般人である。ここは軍事施設でもなく、高校なのだから。

「ユウジ…さん。朝一緒に登校出来ず、すみませんでした。」
「良いよ。それでナナ、今晩は本部へ向かう。他の者達にも通達を」
「はっ」

 その日の夕方、とある古びた屋敷の前をユウジと弟子一行は歩き、街の裏路地へ向かう。裏路地では既に国の上層部が数十名、両端に並んでおり、ユウジ一行が通ると同時に頭を下げて道を作って行く。
 その裏路地を通ると、桜の木の下で数人が座って待っていた!

「ユウジ様。お待ちしておりました。」
「それで何か分かったのか?例のアレについては解読できたのだろう?」
「はい。数日中に、異世界へユウジ様、及び、学園内の生徒全員が転移される…という事が分かりました。またユウジ様方が転移できない場合は、近いうちにランダムで発動するとの事です。」
「では、この世界に居れるのも残り数日か…。各国に向けて、この旨を伝えよ!そして召喚後は全員が『事故』という事で片付けよ。」
「…畏まりました。我等の息子達を、お願い致します。それと…アレの解読によれば、召喚後はこちら側に戻れないらしいので、御家族への別れや謝罪はお早めに。」
「あぁ。では、またいつか・・・会えることを祈ろう。」
「…はっ。」

 その後、弟子を連れてユウジ一行が離れていき、見送った後に各国の上層部達は、これからの行く末を話し出す。

『これから彼らなき後、どう生きれば良い。祖国を捨てる事は出来んし、かと言って守る事はまかりならん』
『確かに。では我が国に亡命しますか?我が国は軍事力が有りませんが…』
『では彼らが行く際に、巻き込まれたという名分で行きますかな。』
『『『それだ!』』』
『ですが、それでは…』
『それにアレには、昔では巻き込まれたという事も書かれておりました。その代償に、四肢損傷、或いは…』
『『記憶喪失…か。』』

 ユウジ一行が居なくなった途端、祖国を切り捨てようと画策する者達と、これからの行動を気にする者達で分かれていた。

   ◆◆◆

 屋敷から離れ、ユウジ一行は黙々と歩いていた。数日以内には、この生活から離れ元に戻れないと知っている彼らは何も考えず、ただ歩き続けていた。だが人が通りにくい裏路地を歩いていると、ナナがその沈黙を破る。

「ユウジ様、本当に宜しいのでしょうか!あの上層部どもは何か隠しているに違いありません…」
「うるさいぞ、師を怒らせるな。師よ、すみません。ですがナナの言うことも一理あると進言します!いくら極秘事項だからと、師が世界から居なくなることはいけません。」
『はぁ。こいつらは何も分かってないのか?国の命令だろうが、なんだろうが従わなかったら、いつ休暇のチャンスが来ると言うんだ!』

 この場で冷静なのはユウジだけであった。ユウジは最強と言えるほど強く、それなりに知識がある。しかしユウジの知識が高い事に関しては、彼が転生者であるからである。元は国家に属する幹部であったが、今ある各国の手によって滅び、人生が終わった。死んだ際、この世界の神より過酷な人生に同情して同じ世界に落とされ、転生させられた。幸いという訳では無いが、転生時は裕福な家庭に生まれ、ユウジの両親はの国からユウジの命令で亡命させた者達だった!よって、その両親に説明し、ユウジと彼ら(ユウジの両親)しか知らない事項をいくつか教えると、始めは蒼ざめていたが納得してくれた。
 そのユウジは国に縛られないことを願って生活していたのだが、学校に行けば行くほど、その国の上層部の子供に問題事を起こされた。そして我慢の限界に至ったユウジは…行く先々さきざきで統制を引き、組織化させた。その結果…低級学校では統制されて以来、反抗しなくなる。中級学校では派閥争いになっていたが、統制された途端に一つの組織となり、静かになった。勿論、低級の頃に大人が来たため自重して、中級学校では人望の厚い者を代表に立てた。上級学校では統制する以前に静かであったが、些細なことで争い事になっていた。それでも他人事のように目を背けていた。しかし低級学校の頃の生徒が転入した途端、振り出しに戻り、ユウジを担ぎだし、ガキ大将となった。それだけで留まらず、組織化を目指す。だがユウジがひきいらないと問題が勃発した為、ユウジが動いた。
 これにより、ユウジが考えていたスローライフが崩れていった。そして…めに、高校へ上がるとユウジのいた学校で組織化させた生徒が一学年生に集まり、過半数が埋まっていた。当然ながら彼らは統制され終えている為、ユウジが動かなければ動かない組織へなる!幸い、この時には代表は人望のある者が組織の中心となっていた。しかも緊急時以外はユウジに関わらなかった。そして最後の決めが「湯高コウ」だった。
 全ての取り決めをして、最終確認としてコウがユウジに知らせるというシステムである。この状態で二学年に上がると、国の上層部が偵察しに来訪して来た。それも日に日に増えて…。

「コウ、その辺にしとけ。裏路地を通っているのだから、不審に見られたら厄介この上ない!」
「はっ、申し訳ありません。ナナ、ユウジ様のご厚意に感謝しろよ!」
「は…はい。ユウジ様、ありがとう…ございます。」
『こいつらは何をやっているのだ。だがチャンスがやってきたのだ、あちらではスローライフを送ってやるぞ!…ん?…だが、こいつらが居ては世界が変わっても、やりかねんなぁ。どうしようか…』

 増えていった原因としては、組織化されたのが二学年にある頃には、生徒全員が組織され、教師まで含まれていたからだ。もっと問題なのは偵察する者達が調査する途端、追い払われていたからである。上層部の決定で下っ端から自白させようとしたが、逆に国家機関の情報を出されていたのである。それはもう「情報は力なり」と言えるほど国家の弱みを"一つの学校での組織"が握っているのだから、増える一方である。
 また情報を出してしまった偵察者は後に引けずに、組織に飲み込まれ裏の世界まで手を出していた。ここに来て既に組織というよりも、軍隊レベルである。とうとう国の上層部が直に来訪する羽目になり、コウが呼び出される!ここで問題なのが、コウがユウジの代理であるという事であり、交渉して締結ていけつ後に「自分は代理であるので、お忘れなく…」と言えば、もう上層部では手が回らない。
 そこでユウジのスローライフ計画は破綻した。国家の代表が直々に一学校へ来訪し、国軍まで出てきたとなれば破綻する他ない。そして組織化させたのは内面だけでなく、武器を持った者と戦う戦法なども取り入れられていた!よって国軍は壊滅状態まで数日経たずに迎え、ユウジは引きずり出された。これも幸いな事に、表でなく、裏の世界で。表に出されれば、国として終わる…という話で決まった。そして今に至る。

   ◆◆◆

「ただいま。」
「おかえりなさい、今日は早かったわねぇ。」
「今日は…ね。」
「今日は焼肉よ、焼肉!」

 その日、母さんと焼肉店へ出掛けた。しかしユウジが焼肉店から帰る際、電話があり、先に帰ることになった。だが普通なら帰って寝るだろうが、ユウジは帰って早々に連絡を入れた。

「繋がってくれよ…」
『こちら、アルファ。どうしましたか?』
「母が危ない可能性が大きい。こちらは動けない、至急だ!」
『はっ、分かりました。裏の者を動かします!通信はこのままで…』
「あぁ、急いでくれ。」

 その後、母は無事に確保できたが、"重傷"とのことで組織を動かす。まずコウに緊急連絡を入れ、裏の世界へ連絡を取る。

『ユウジ様、今回はどのようなことで…』
「緊急だ!裏の者を動かし、私の親を襲った者を捕らえよ。また、明日には用事があって離れる。その間、母の護衛も任せたい。」
『畏まりました。…ですが明日は休みの日では?』
「私を狙う輩が居るからな、他国に伝手があるから、そこで大々的に依頼する。」
『分かりました、アレもちこうございます故、ご用心を。しかしユウジ様が動くのは久しいですので、明日の行動は儂も参加しても?』
「あぁ、良いだろう。今回の褒美は…」
『おっと、それに関しては今回は要りませんよ!今回の事は儂も起こっていますので、彼女には以前お世話になりましたし。後悔させねば…』
「ふん、では頼んだぞ…」
『御意、…おい!緊急だ、奥様を狙った者共を…』

 ユウジは通信を切った。道を進むにつれ、組織が一人…一人と集まってくる。そして最後にコウが側に寄って来る。裏路地に入り、海岸沿いに向かうと、黒いスーツを着た人が大勢集っていた。そこにユウジの声がかかる。

「村井さん、ここになぜ?」
「ふむ。ユウジさんの奥さんが狙われたと聞き、駆けつけましてね。我々も手を貸そうかと思ったのですが、必要なかったようですね。」
「いえ、明日に助けて貰えれば…」
「そうですかい?では我々は、この辺で…」

 黒いスーツを着た者が去った後、裏の組織内を総動員して始末できたと、通信で報告がきた。明日は他国へ行かないといけないことを弟子に伝え、その場を後にする。ついでに母の護衛も頼み、ユウジは家に帰宅する。

   ◆◆◆

 翌朝、家の前に車が五台停まっていた。玄関口には昨日会った村井さんが立っている。朝が早いことで、近所から苦情が無いことが何より楽できる。車に乗り込み、他のワゴン車が守るように囲んで走る。隣国のキリアン国の辺境に着き、大使と話し合う。

「お久しぶりです、大使。」
「ユウジ様、此度は御足労いただきありがとうございます。今回は何かあったのでしょうか?」
『ここで下手に出ても、数日後のことを考えれば大した事ではない。』
「…はい、実は母の命が狙われてしまいまして。首謀者は始末できたのですが、依頼者が自国の者ですから私が手を出すことが出来なくてですね。できる事ならば、他国の暗部に動いていただこうかと思いまして。」
「ほぉ、それはまた厄介な事を持って来られましたな。我々も手を出せるなら出したいですが、流石に貴国とは不可侵条約で結ばれております。ここに居るという事は理解してでの事なのでしょうが…」
『まぁ普通は、そうなるよな。だが、その対策は出来てるんだよ!』
「いえ、私こそ休日にすみませんでした。そう言えば噂程度なのですが、この国の上層部の中でツェルス閣下の御子息が横領している…という話なのですが、知っておいでですよね~。元宰相なのですから、それくらいの情報統制は出来ているでしょうし」
『ユウジ殿は何を言って…いや、確かに最近は国庫の減衰が見えておる。これは、もしかすれば…』
「ユウジ様、早速問題に当たりましょう!私も元は宰相まで上がった者の端くれ、私が出来る範疇で行いましょう。」
「大使、ありがとうございます。これで私も肩の荷が下りました!それでは私はこれで…」
「えぇ、またいずれ…」
『…やはり何度も来たくはない場所だなぁ、ここは。』

 そしてユウジが去った後、大使は暗部を裏で動かしていった。ユウジは「二度と来ることは無いだろう」と腹を括り、大使は国の大事を外部に漏らさないために動く。

   ◆◆◆

 執事に入院している母を任せ、いつも通りユウジは高校へと向かう。朝から学校内が暗く、静かに午前の授業が終わりを迎えようとした時、それは起こった!複数の円が重なり合って学校内に広がり、壁に当たるような場所では円が壁の方へ写っていく。統制されている分、騒がしくは無いが静かなわけではない。所々で不思議に思って触ってみる者、驚きを隠せない者、気にせず会話をする者と。
 そして遂に重なった円が輝き出し、眩しくて目を閉じた。次に目を開いた時には、そこは学校ではなく、大広間と言えるほどの大きさがある一室に大勢の生徒、教師と立っている。さらに教壇のような場所から女性と老けた男が出てくると、流石に皆は静かになった!

「みなさん、突然の召喚を申し訳なく思っております。それで…その…召喚しておいて何ですが、元の世界へ返すことができません。ご了承ください…」
『なるほど、これが例の「異世界召喚の儀」…か。周りは俺の判断待ちか…』
「私は今世の聖女を勤めております、カリン…と申します!まだ先だったのですが、私の未熟さ故に「勇者召喚」をやってしまいました。申し訳ありません…」
『ん?』
「ですので、責任は勿論あります。だから不自由な事があれば、申し上げてくれて構いません!私のできる範囲で手伝いを…「良い。」…あっ!?」
「ここからは儂が説明しよう。まず儂の名はクリス・フォン・アルフリードである、良きに計らえ!ははは…」

「「「………」」」

「ぬ!?この国、アルフリード王国を収めとるのは儂じゃぞ!なんだ、その目は…」
『典型的にアウトな方の国王だな…。手を出しても出さなくても、絡んでくるタイプだろう。俺のスローライフはいつ来るんだ!!』
「ひっ!…き…貴様、殺気を放ってくるとは良い度胸だな。先に貴様を倒してくれる!」
『おっと、ついつい張り切り過ぎて殺気を飛ばしちゃったかぁ…』
「…覚悟しろ、この…」
「黙れ。全く国王が、この有様だと国も大変だな!ちょっとだけ相手してやろう。」
「…ぬ!?」

 クリス国王は上段斬りをしに来たが、ユウジはガラ空きの腹部へ蹴りを入れ、後方へ飛ばす。…が国の王というのは基本的に実力性が高いからと、早足に国王の側へ向かい、立たせると切り掛かって来ると予想できるため、武器を奪った!その武器を天井へ刺すと、流石にクリス国王は諦めた。
 敗れたクリス国王は隅の方で落ち込んだ雰囲気で聖女カリンに愚痴っているが、聖女は我関せず…というように立ち去る。そしてユウジは他に面倒ごとに巻き込まれる前に行動に移した。聖女が弁明を言う前にいるユウジが口を開く。

「全く国王というから強いと思ったが、型だけで本質は弱かったなぁ。…俺はもう面倒ごとに巻き込まれたくないから、外で野宿でもして来るわ!聖女さん、おやすみなさい」
「えぇ!…ちょっと待ってください、外は危険です。すぐに宿を御用意致しますので、お待ちになってください…」
「いえ、国王と言えば国の権力者の象徴。ならば宿を取って休んでいる間に、夜な夜な襲撃…なんて事は勘弁なので、結構です!お前らはどうする?」

「「「我々も同じ考えです、参りましょう!「ついでに情報を集めてみます」」」」

 聖女カリンは数人くらい残るだろうと思って傍観していたが、ユウジが動くと他の全員が移動を始めて、聖女は驚きを隠せない。聖女は落ち込むクリス国王を尻目に、部下に移動を命じ、ユウジ達の後を追っていく。ユウジは広間から外へ出ると、鎧を身に纏った兵士が大勢、ユウジ達の登場に警戒する。しかしユウジは気にせず城を出て行く!その後をコウ達も付いて行く。兵士達は上官などに報告しに行き、残りは城門の前で槍を構えて陣取る。だがユウジ達は止まらず前進するので、兵士が捕縛の為に構えた状態で駆け寄る。

…キンッ!

 聞き慣れない音が響き、ユウジは駆け寄ってきた五人の兵士を倒した。その光景に頭が追い付いていない兵士はユウジ達が通り過ぎるまで呆然と立っている。ユウジが行った事は単純で、鎧兜に強い振動を与え、目眩めまいが起きた所で腹部を殴り気絶させる…といった工程をやっていたに過ぎない。
 ユウジ達が城門を出て外壁に向かう最中、兵士達はというと…。聖女とその護衛が汗だくで広間の方向から出てきた事で、片足を前に跪いていた。勿論その場には暗い表情の国王も居た!兵士からユウジ達の事を聞くなり、立ち眩む国王と聖女。国王は護衛に支えられながらも報告を聞き、聖女は護衛と共に城門を出て住民に情報を貰ってユウジ達を追って行く。しかしユウジ達に会う事は数日遠退くのだが…。なぜなら城門を出てから古服を現住民に貰い、学生服を一纏めにして木の下に埋めて、外壁へ向かっているからである。
 そして聖女が城門を出た事に気付き、国王が兵士を率いて聖女を探したことも、出会えない一つの要因でもあるが、聖女カリンが気付くのはまだ先のこと。
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