勇者ハディーとテルの冒険【一話完結】

青緑 ネトロア

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始まり

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「お前は何てことをしてくれたんだ!お前なんか、廃嫡はいちゃくにしてくれるわ。どこへでも好きに生きれば良い。ただし私の領地や屋敷への出入りは二度とできないと思え!いいな!?」

「はぁ。ええ。構いませんとも。別にここに居着く気も、そして継ぐ気もありませんでしたから。それでは失礼いたします、閣下。」

 父である伯爵に啖呵を切って執務室を出ると、扉の外で待機していた執事が恭しく近付いてきた。

「坊っちゃま、もう行かれてしまうのですか?」

「ああ、晴れて廃嫡されたからね。貴族院への根回しは頼んだよ?後から復縁だなんだと言い寄って来られると迷惑でしかないからね。」

「はっ、そのように致します。」

「それと俺はもう後継でもないんだ。坊っちゃまはやめてくれ。皆は元気か?」

「はい。テル様に良くしていただいております故。何かと酒代で報酬金も空にするもので、手を焼いておりますが。」

「じゃあ後のことは頼むぞ、アラン。荷造りを済ませ次第、行く。」

「ええ、お任せください。」

 執事は頭髪を掴むと、ビリビリという不自然な音を立てて
 そして白髪の後から出てきたのは、目が惹くような赤毛の若い男が立っていた。

 テルは男と別れてから数日後、その足で玄関へと向かった。
 そこでは、これまで尽くしてくれた使用人一同が頭を下げ、門まで並んでいた。

「皆、これまで御苦労だった。当分は男爵の機嫌が悪いだろうが、気楽に過ごしてくれると嬉しく思う。俺はこれからただのテルとして冒険者をしていくつもりだ。お前たちも、いつまでも副業に専念せず本業に戻ると良い。」

「「「有難き幸せでございます。」」」

「で、ですが本業では依頼が全くないので、戻っても無一文になるのはどうかと思います!」

「アンタは草を育てているんだから、それで賄えるでしょうが!」

「そんな!アレって本当は一つ一つが高価なんですよ!だから売ったりしたら、どこかの商会が潰れたり、出処を探られたりしたら、どうなると思っているんですか?それに、アレは草じゃありません。薬草です!それもただの薬草じゃ無いんですよ!非常に捻くれた性質を持っていますが、エリクサーと同様の薬になるんですから!」

「それもアンタのレシピじゃないと、完成しないんだから、売ってしまいなさいよ。そして売上げの半分を渡しなさい!」

「お金目当てじゃないですか!私はそんなことのために育てているんじゃないんです。主人テル様のために育てているんですよ!誰かに売るわけがないじゃありませんか!そもそもーー」

ーーパンッパンッ

「それまで。兎に角、俺はもう出て行くから。君らも無茶しないようにしてくれ。んじゃ、行ってくる。またどこかで会おう!」

「「「「「「はっ」」」」」」

 使用人一同が礼をするのを尻目に、テルは屋敷を出た。
 目指すは冒険者ギルドだ。



 時は遡りーー。
 事の始まりは学園の卒業式でのことだった。
 学園長公認の卒業後にどれほどの功績があるのか、どれほど力量が上がったのか、魔力はどうだ、知識は?と、学園は張り切っていた。

 そして学園の功績やら、力量やら、魔法論文やら、と発表する間に王宮や騎士団、果てはギルドがスカウトするお祭り騒ぎである。
 学園がこれほど強く宣伝するのも仕方のない話なのは理由があった。
 王都にある教会にて、ある神託が下りた。

『魔法王立学園で【勇者】が誕生する。勇者は魔物から国を救ってくれるだろう。そして学園には、もう一人重要な役割を持つ者がいるだろう。その者は弱いが、教育者としては世に一人しかいない逸材であろう。ただし、くれぐれも内密に発見せよ。どちらも災いとなれば、国にとって最悪となるだろう。何があろうと、見つけるのだ。』
と。

 だが教会で神託を受けた聖女が国王へ謁見し、神託を告げると、国王は盛大な卒業式にすることを決めてしまった。
 その場には本来居てはいけない魔法王立学園の学園長が隠れて参加しており、神託も聖女も教会の意向すらも無視して実行することになった。

 そして、ついに鑑定の儀が始まった。
 毎年恒例だったが、今回は一部変更して成績や功績が最も低い者から晒し者のように受けることとなった。
 だがこの鑑定の儀で使われる水晶には特殊な加工がされているわけではない。
 そのため隠蔽していたり、力を隠し持っている者達は無能力者として判定されてしまうのだ。
 参列している国王も学園長も、そんなことはどうでも良いとばかりに行事を強行した。
 鑑定の儀中、水晶のケアを行う宮廷魔法使いは冷や汗を掻きながら、かつ申し訳ない気持ちと罪悪感に悩まされつつ行った。
 魔法使い自身が一目で実力者だと察知してしまう生徒も、力を封じているものの雰囲気が一般人や他の生徒よりも異端に見えてしまうほどのオーラを放つ強者も、そして一切の力も魔力もカケラすら感じさせない者も、無能力者と認定されてしまうことに憂鬱になっていた。

 そしてとうとう最後の二人となった。
 一人は成績優秀、文武両道の平民。
 もう一人は成績も評価も悪く、武器の扱いにだけ得意な生徒。
 にも関わらず、全体の2位という異常な立場に国王も学園長も疑問しか浮かばない。
 その傍らで学園の講師や生徒達は尊敬する一人の男に注目していた。

「えっと。『魔剣士』で…す…ね。」

「ありがとうございます。」

 そして最後の1位の男子生徒が壇上に立った。

「鑑定させていただきます。…!?」

「ん?どうかしましたか?」

「あっ」

「へ?」

「国王陛下!学園長!出ました。例の御方が現れました~!」

「よっしゃー!」「良くやった!」

「おめでとうございます!アナタは【勇者】に選ばれました。さあさあ、こちらへおいでください!」

「私は近衛兵だ。この場であったことは国王様が発表するまで、箝口令を引かせてもらう。これは王命である。」

 王命と言われれば従う他ない生徒達は約束することを近衛の前で宣言して家路についた。
 何の報せもされていなかった講師たちは2位の男を知らせるために奔走した。
 2位だった当人テルは面倒事を嫌って、馬車に乗って屋敷へと帰った。
 だが待っていたのは報告書を握り潰して、怒りの形相で廃嫡を宣言する父がそこにはいた。



 王都にはギルドが多く存在している。
 主に冒険者に仕事を斡旋するギルド、魔法使いを集めるギルド、薬師や薬剤師などを登録するギルド、商人や店舗を出す者や行商人などをまとめるギルド、冒険者を辞めた者や荒くれ者をまとめ上げるギルドというのがある。

 テルは冒険者ギルドの扉を開けて中に入ると、正面の受付は満員で、近くの酒場で番号の書かれた布切れを持って酒盛りをする冒険者が見える。
 そして見慣れない最近雇われたのであろう奴隷が番号の入った籠を持って立っていた。
 喧騒が絶えないために借金を肩に奴隷になったものを冒険者ギルドが肩代わりする代わりに来てもらっている。
 元は職員で回していたが、職員に怪我を負わしても自己責任であまりやりたい者は少なかった時期が長かった。
 かと言って誰も管理していないと、不正を働く冒険者が多いので困り果てていた。
 そこで現在のギルドマスターが奴隷を用いることを決めたのだった。

 奴隷は買った者や施設が身元保証人となるため、ここで言うと番号を集めたり配っている奴隷に手を出したり、怪我を負わせた場合には所有者である冒険者ギルドに喧嘩を売ったということになり、処罰の対象となる。
 処罰は数多くあるが、重いもので魔力を特定の魔導具に登録して冒険者証を剥奪した後、警吏に渡すことである。
 軽いものでも依頼を一定期間受けられない処罰や、首から下を埋められて晒し者にされる処罰なんかも存在する。
 冒険者ギルドが奴隷を扱っているのは王都を含めて数ヶ所だけとなる。
 どこも経営難で、そこまで補償できるギルドが少ない事が原因でもある。

 そんな受付を通り過ぎて、テルは階段を登って行く。
 冒険者ギルドには地下室と応接室とギルドマスターの使う執務室が存在している。
 地下室は闘技場のようになっており、冒険者ランクを上げる試験や、大きな魔物の解体場として使われている。
 応接室は貴賓や副ギルドマスターの権限に及ぶ場合に使われる。
 3階にある執務室へ向かうと、顔に複数の深い傷のある大男が机に足を載せて威張るように座っていた。

「よお。期待のエースじゃないか。聞いてるぞ? 廃嫡になったんだってな。これからはただのテルってわけだ。」

「とか言いつつ、俺に敬意を抱いたことってなかっただろ。いつも偉そうに踏ん反り返ってばかりだし、副ギルドマスターが不憫だねぇ。」

「んなこと知らねえよ。実際俺様は偉いんだぞ?俺が申告すればお前のギルド証を抹消できるんだからな!ガハハハ」

「もしやった時には、地獄に叩き落としてやるよ。」

「どうやってだ?俺様は現役を退いたからと言って元Sランク冒険者だぞ。そんな簡単に倒されねえぞ、コラァ。」

「いや。アンタを倒す必要はないぜ。ただ一言囁けば、あっという間だからな。」

「はぁ?」

「まっ今はどうでも良いや。」

「いやいやいや。どうでもよーー」

「貴族院の知人に会いたいんだが、連絡してくれないか?申請は出しているが、また爺さんらが遊んでいて見てないだろうからな。急ぎだ。」

「…良いぞ。お前には貸しが多いからな。一つでも二つでも我が儘を聞いてやるさ。だがさっきの言葉の意味をいつかは教えろよ?」

ーーガチャ

「ああ。いつか、な…」

 扉越しに答えると、テルは階段を下りて受付で依頼を受けた。



———勇者サイド———

「勇者よ。我が国に現れてくれて感謝するぞ。」

「はぁ。」

「さて本題を話そう。以前から魔物の氾濫が増えていてね。学園でも聞いたことがあるかもしれないが、実際にかなり増えている。別に統率されている訳ではないから自然現象だといえる。」

「はぁ。」

「そこで勇者には魔物の氾濫で放逐されている土地を奪還してもらいたい。」

「えぇ、良いですよ。」

「それでこそ、勇者に選ばれただけある。では何か必要なものはあるだろうか?武器やアイテムなど支援はいくらでもしよう。」

「では僕の友人を呼んでください。彼が一緒なら向かっても良いです。」

「良いだろう。宰相よ、勇者よりその名を聞き、召還せよ。」

「御意に。」

「では。勇者ハディーよ、魔物の氾濫を駆除し、嘗ての土地を奪還せよ。王命である。」

「陛下の、御心のままに。」

 謁見の間を宰相と辞したハディーは緊張する気持ちを落ち着かせることに必死で、国王の言葉の大半を聞いてすらいなかった。
 咄嗟に言葉が出てしまったが、それを了承してくれたことで少しはホッとしてしまう。
 だが後ろを付いて歩く宰相と話をしなければならないと気を強く保とうとした。

「それで勇者殿。友人の方の名をお教えいただけますかな。すぐに手配いたしましょう。」

「ええ。彼の名は、テル・ハーヴェルと言います。私の唯一の友人であります。確か伯爵家の三男と本人が言っていましたが。」

「ハーヴェル伯爵家のことは知っております。では直ちに召還状を送りましょう。」

「よろしくお願いいたします。宰相閣下。」

「うむ。」

 去っていく宰相の背を見ながら、ハディーの内心では巻き込んでしまう友人にどう顔を合わせたら良いか悩んでいた。



 冒険者ギルドで終えた依頼を提示すると、報酬の用意を済ませる間、執務室へ行くよう言われたテルは深呼吸してから入室した。

「おい!ノックはどうした、客人がいるんだぞ。」

「久しいな。モーゼス子爵殿。」

「ああ久しい顔だな。学園では息子が世話になった。今回は何か用事でもあったのかな?特には聞いてないが。」

「ええ。実は、実家を追い出されましてね。今では根無草ですよ。」

「なんと。では私を呼んだということは貴族院絡みですかな?一応、私も端くれですので説明いたしますが、一度貴族院より剥奪されれば王命でも復権は叶いませんぞ。」

「大丈夫です。そのために無断で学園時代に冒険者ギルドに加入して実力を伸ばしましたから。実力の程はそこのマスターと、このプレートで分かるでしょう。」

「っ!? ゴールドプレートだと。なるほど、確かにお強いでしょうな。これなら申告は通せるでしょう。いえ、確実に通して見せましょう。」

「お願いしますよ。それと手ぶらだと何かと不便でしょうから、このバッグを渡しておいてください。閣下も一つくらいは良いですよ?」

「ええ。確かに受けとりました。本日中には確実に落とせるでしょう。では、いつの日か会いましょう。」

 モーゼス子爵は小さめなバッグと、必要事項の書かれた秘密文書を持って急ぎ足で退出していった。

「おい、聞いてねえぞ。お前、加入の時、許可証を持ってたよな?うん?」

「持ってたよ。ただ父の、ではないがね。」

 冒険者に加入する場合、誰でも基本的には年齢制限などもなく問題は特にない。
 平民はスラム民でないことさえ確認が取れれば、加入費用の銅貨5枚を払えば、加入できる。
 だが貴族の子息子女の場合は加入するのに条件が存在する。
 それは貴族家の当主が出した当主の家名が記された許可証なる物が必要だった。
 大概の貴族家は冒険者になることを拒絶し、騎士になることを勧める貴族家が大半である。

「どこの貴族を引っ掻き回したんだ!」

「いやいや、人聞きの悪いことを言うんじゃないよ。誰も騙してないし、口車に乗せてもいないさ。ただ侯爵家の令嬢に頼んだだけ、だ。

『ちょっとコレを頼んで良いかな?君のお父上に、この情報がいるだろうから。』
『良いですよ。一つ貸しですよ?ハーヴェル様。』

ーーって言って渡した情報を対価に、許可証を使い捨てでもらったんだよ。」

「何を渡した。」

「学園で侯爵令嬢に言い寄る不届き者たちの家名やら、狙っている奴の依頼主が誰かってのをしたためて送っといたのさ。」

「なるほど。お前を敵には回したくないな。」

「なら偉そうな態度を少しは改善させたら?」

「だが断る。実際にギルドの最高権力者は俺だ。ギルドの一員であるお前に指図される覚えはないな。」

「まあ覚えとくよ。」

 その後、泊まっていた宿に高価な白い手紙が特殊な封蝋を押されて届いた。
 部屋まで届けに来た職員は滅多に見れない貴族院の手紙に恐縮するあまり怯えて見えた。
 受け取ると、早々に部屋を出て行った。
 手紙には家名剥奪の了承と、貴族名簿からの削除と、貴族から外れることへの無念そうな言葉が書かれていたが、贈り物については追って送るつもりである。
 数日後、知り合いの商人が別の都市へ行くということで、それに便乗させてもらい、代わりに護衛を依頼の受けたパーティーと合同で受けることにした。



———勇者サイド———

 その日、勇者ハディーは宰相に呼び出しを受け、ある部屋に来ていた。

「申し訳ない。勇者殿。」

「えっ?」

「勇者殿が言っていたハーヴェル伯爵家なのだが、御友人は除籍されていたのだ。貴族院にも確認したから間違いはないだろう。」

「そんな。では彼には会えないのですか?」

「あぁ。王都中を隈無く探したのですが、見つけられませんでした。申し訳ない。」

「心細くはありますが、討伐に向かおうと思います。もし見つかりましたら、来てもらうようにお願いしてもよろしいでしょうか?」

「良いでしょう。見つけ次第、追わせますのでお任せください。(直ぐにでも動ける騎士団に命令を下し、王命を伝えさせねば!急げば私の首が繋がるのだ。)」

 その後、ハディーは国王の支援である魔法使いや騎士と討伐へ向かった。
 それと同時に宰相の命で、暇にしていた騎士団を複数呼び出して各地へと送り込んだ。
 始め、宰相の命令書を受けた冒険者ギルドだったが、存在を黙秘して忙しいと一言で申請を拒絶した。
 冒険者ギルドのみならず、多くのギルドは独自の組織であるため国には仕えることはない。
 従うとしたら傭兵ギルドだろうが、そこは戦争など窮地に陥った場合を除いて、闘いを求めているため、今回のような捜索には参加しない。



 商人が休憩所を設営している間、テルはパーティーから話し掛けられていた。

「どうしてゴールドランカーなのに王都を離れているんですか?」

「…。」

「そうですよ。ランクが高いと受けられる依頼が少ないから、王都に行くって相場が決まっているじゃないですか!」

「あっ、もしかして。問題を起こしちゃったとかですか?よくありますよね~。」

「…。」

 ウザいと思うくらいに、ズケズケと話が盛り上がっていく負の連鎖が続くが、テルは微笑むだけで何も話さなかった。
 実際は少しばかり苛ついているが、上位ランクなのを盾に堪えていた。
 まだブロンズランクから上がったばかりのシルバーランクのパーティーだからか、本人を前にしても新人の殻が抜け出せていないことが伺えた。

「アンタら。暇してるなら、薪でも探してきな!それと、アンタたちがその人に何かするんなら、私から苦情を訴えても良いんだよ?」

「「「なっ!」」」

「されたくなかったら、さっさとお行き!この人はウチの御得意様だからね。アンタらが買えないような高い商品も快く買ってくれるんだ。もしアンタらの所為で失ったら、どう落とし前してくれるんだろうねぇ。」

「「「すぐ行ってきますっ!」」」

 冒険者パーティーが散開して薪を集めに向かっていく。
 脅迫紛いに捲し立てた商人はテルの隣に腰を下ろした。

「すみません、テル殿。もう少し上の方を選べば不快なことにならなかったと反省しております。此度のことは購入価格を値引きすることで流してくれませんか。」

「いや。気にすることはない。それにこれ以上、俺に貸しを作っていたら返せないくらいになるぞ?それと以前にも同じ話が出ていたが、これ以上値引きしたら原価以下に落ちるだろ!もう少し考えて発言してくれ。少なくとも家族がアンタには居るんだから、値引きの他にも出来ることはあるんじゃないか?」

「しかしですね。恩を仇で返すくらいなら、貸しを請け負えというのが妻の言葉でして。」

「………もっと他のことに気を回してくれ。いつか俺に取り立てのようなことをさせるんじゃねぇぞ?それと今向かっている城塞都市だが、安全かどうか怪しいところだぞ。最近新人冒険者が多くて、怪我を負う商人が居るってくれぃだ。」

「ですが、知人が援助を頼んできてまして。少なくとも、それが終わるまでは護衛を引き受けていただければ。」

「そりゃあ仕方ないが、帰りは知り合いの冒険者パーティーに護衛を頼むさ。流石に別れて、数日後白骨で見つかったら寝覚めが悪い。確か現役でまだホームを持っていた筈だ。」

「ありがとうございます。感謝しかありません。」

 ホームとは、冒険者パーティーが仮拠点として扱うための建物をいう。
 多くの場合は借家か、宿屋の主人との交渉によって場所を定める。
 拠点とする場合は、土地を購入して住む手続きをしなければならない。
 拠点を置くと、その地域だけ限定で上位パーティーになることもできるが、逆にランク上げが適用されなくなるデメリットが存在する。
 拠点を建てた場合には、基本的にその街から動くことができず、遠征などが難しくなるため上位パーティーでも建てないものが多い。

 その後、雑談を交えて談笑をしていると、パーティーメンバーの1人が怪我を負って帰ってきた。
 話を尋ねれば残りのメンバーがモンスターに囲まれているという。
 話を聞き終えたテルは再び戻ろうとする冒険者を気絶させて、早足で目的の場所へ向かう。
 モンスターに苦戦を強いられ、流した血によって別の魔物を呼び寄せているようだった。

 注意をテルに向けさせたと同時に、囲んでいる魔物を殲滅する。
 中には高値で取引される魔物も見掛けたが、人命を優先に広範囲を焼き払った。
 パーティーメンバーは絶望的局地から助かったことに力が抜けて意識を失ってしまう。
 少々乱暴だが、首元を掴んだテルはメンバーの下半身を引きずりながら野営地へ戻ることにした。

「ご苦労様です。この辺で大量発生することは珍しいのですが、何か起きているのでしょうか。」

「あれは寄生植物だろうな。」

「植物、ですか?確かにそんな魔物もいた気がしますが、アレが育つ環境ではないと思うのですがね。」

「まぁ都市に着いたら、一度報告しておく必要はあるだろう。討伐報告ができるように、証拠品は採取しておいた。あとはギルド側が判断できる奴がいれば、信用してくれるだろう。」

「ですね。それで彼らはどうしますか?」

 ここで聞くのは、見捨てるのかどうか、ということだ。
 冒険者を護衛に付けた際、最も注意しなければならないのは雇い主から離れることだ。
 護衛対象である雇い主から離れている間に、雇い主が襲われる可能性が低くはない。
 護衛が盾になって、雇い主を避難させるなら問題はないのだが、護衛が離れてしまった場合には依頼失敗となる。
 最悪の場合には、ペナルティが発生して罰金から活動停止処分を受けてしまう。

「今回は俺が居たからな。まぁ同じヘマはしないと思いたいが、黙認した方が良いだろう。今回のことで冒険者が続けられないってこともあり得る。一度でもトラウマが付けば、克服するには同じ境遇に合わなければ改善できないだろう。」

「そういうものですかね。では少々早いですが、馬車を走らせましょう。血の匂いで引き寄せると危険に繋がります。」

「ああ。」

 それから昼夜問わず、馬車を走らせた一行は無事に城塞都市へ辿り着いた。
 例のパーティーメンバーはテルの読み通り、トラウマになっているようで食事以外は馬車の荷台から出てこなかった。
 常に何かから怯えるような震えを繰り返し、多少の衝撃で気絶するほどだった。
 まだ吐かないだけ肝が据わっているようにも見受けられたが、静かな旅路を馬を潰さない程度に走らせた結果、予定の日程より早く着くことができた。

 都市の門番はテルのゴールドランクに驚き、思わず敬礼していたが気絶して顔が真っ青な冒険者パーティーを見つけて、急ぎで通してくれた。
 城塞都市の冒険者ギルドまでの道のりでは、やはりと言うべきか冒険者崩れから傭兵紛いの人々でごった返していた。
 冒険者ギルドでも揉め事かと思えてしまうくらいに人が詰め込んでいた。

「失礼する。依頼の報告に来たものだが。」

「はい」

「道中で魔物の群れに遭ってな。予定より急いで来た。一応殲滅はしたが、奥にはもっといる可能性がある。支部長はいるのか?」

「支部長は不在です。副長が明日には帰ってくる筈ですが、その程度のことで呼べる御方ではありません。ご遠慮ください。」

「まぁ明日また来るさ。決めるのは貴女ではなく、副長だしな。」

「後悔しませんように。…では、これで依頼は達成となります。お疲れ様でした。」

「あぁ、ありがとう。それと」

「はい?食事のお誘いはご遠慮しますよ?」

「誤解しているようだが、全く違う。今回の依頼で同行していた冒険者パーティーのことだ。先程言った群れにトラウマを植え付けられてしまって、身動きができないんだ。そいつらの仮証を持ってきているから手続きを頼む。一応門番に顔は見せているから、疑うなら問い合わせると良い。」

 仮証とは、冒険者を示す証とは別に臨時パーティーなどを組むときに、情報を漏らさないための代わりとして使われる。
 仮証にはギルド証に記されたものから、名前と性別とランクのみが書かれている。
 臨時パーティーを組むと、そのパーティーのリーダーにギルド証を預ける必要がある。
 依頼を受ける際、1人であれば受付に並べるが、パーティーを組んでいると全員が並ぶ訳にはいかない。
 そんな時に起こる時間のロスを無くすために、作られた。
 仮に仮証を無くした場合には、仮証に記録されていた実績や達成依頼は無くなる。
 また半年という有効期限があるため、半年に一度は仮証とギルド証を受付に提示し、ギルド証に仮証の記録を移す作業を行うことにより、失効されずに済むこととなる。

 上位ランクであるゴールドランクの上に存在するプラチナランクのみ、仮証は発行されず、その地区・地域のギルドマスターが直々に処理を行うため、実質ゴールドランクまでは仮証が発行される。
 一部の変わり者が初心に戻るために仮証を発行し、新人などに紛れて行動するのに使われることもある。

「っ。分かりました。では、お預かり致します。」

 顔に出ていたのかと口角を引き攣らせる受付を尻目に、テルは外に待たせている馬車へ短距離で向かった。
 一部の勘と目が良い冒険者や傭兵紛いはテルの歩法に驚愕し、囁くような小さな声で部下に命令を素早く下して道を開けさせた。

 テルを乗せた一行は宿屋に辿り着き、一室へ同行パーティーを届けた後、商人と別れた。
 テルは値が高いが警備の行き届いた宿へ向かうと、一晩を過ごした。

 翌日、朝食を軽く済ませると、賑わう市場や冒険者などが通る大通りから離れ、少々都市の中だが中心地より郊外の広い農地に囲われた一角に存在する違和感しかない建物へとやってきた。

ーーコンッココン

「なんだ。何処のものだ。」

「ギルスはいるか。」

「あ゛? 誰だ、テメェ。お前なんか知らねぇな!帰ってくれ。」

「ん~? んじゃ、先に謝っとくわ。痛かったら、すまん。」

ーーバチッ

 怒鳴りだした男に、風魔法で作り出した突風を掠めるつもりで放つが、不用意に男が動いたことで直撃し、受け取れられずに奥まで吹き飛んでいく。
 手違いが起き、嫌がらせにマジックバッグから取り出した剣に魔力を貯めてみる。
 充填が限界まで半分を切った時、奥から全身装備に付与を施した武装で固めた男が殺気を放ちながら向かってくる。

 途中、気絶して転がっている男を蹴り飛ばすと同時に、テルと眼が合う。
 途端に踏み留まりに失敗して、壁に頭を掠める。

「テルの旦那ぁ! ご無沙汰してます。報せを送ってくれれば、歓迎しましたのに。」

「荒い歓迎は受けたぞ。俺を知らないってな。用があったが、もう帰ろう。」

 若干呆れ気味にテルは男に言い放つ。

「待ってください!誤解です。次はしっかり者を付けとくので、今回ばかりは許してくだせい!」

 奥から覗かせる複数の瞳を受けつつ、平謝りする男こそ、この家の主人ギルスだった。

「まぁ良いだろう。依頼だ。ロドリス商会が帰る際、護衛を派遣しろ。王都まで安全に付き添うヤツを、な。」

「了解しやした!最近は仕事が滞って、中心部は荒くれ者が溢れているので、引き篭ってるんす。」

「そういや、最近ソレが増えてきたらしいな。これから冒険者ギルドに行くんだが、副長は元気にしてるか?」

「えぇ。常に不正のないように気を配りすぎて、倒れないか心配する程ですぜ。まぁ旦那に拾ってもらった仲間からすりゃあ、不正の一つや二つあったら、何されるか分からねぇすし。」

 本人の前で言外に「原因はアナタだ」、とでも言いたそうに、いや実際声に出しそうになって自身の口元を手で叩いて自主的に止めていた。

「ん、着いてくるか?」

「是非っ!それと出来れば物騒な物を仕舞ってくれませんかね。」

 聞かれるまで感覚が薄れていたが、手には先程から魔力を送っていたがキリキリと異音を発していた。
 ついキレかけて、更地にするところだった魔剣から魔力を抜き、マジックバッグヘ戻すテルを男ギルスは嫌な汗をダラダラ掻きながら眺めた。
 仮に魔力充填が満タンで放たれたら、調節次第で家が本当の意味で更地になる事態だったことに汗が止まらなかった。
 魔剣士と名乗っているが、実際テルは魔の付く武器を代償なしに行使できる希少な人材だ。
 そのため肌身離さず持つマジックバッグには、それぞれの武器やアイテムが入っている。

 散策しながら冒険者ギルドを入ると、緊迫した空気が漂っていた。
 近くでは静かに様子を窺う冒険者モドキたち。
 受付には人が一人も居らず、テルを担当した受付嬢と顔を仮面で顔を隠した男が受付窓口前に立っていた。

「副長。いらっしゃいました。」

「うん。ーーゴホッ」

「あ。お客様、本日副長は体調不良なので帰ってくださいませんか?」

 まだ何も副長が話していないにも関わらず、咽せただけで受付嬢が追い返すよう睨むが。

「まっ待て!咽せただけだ。それより早く茶を三つ持ってこい。」

「ですが、体調が良くないのはーー」

「ププッ。」

「ギルス。」

「だってよ~。」

 狼狽える副長を隠しきれずに、笑うギルスと注意するテル。

「アナタたち。この方は、いち冒険者より忙しいんだ」

「ーー黙れ。と言っている。」

 それまで受付嬢の言葉しか聞こえていなかった中、突然副長の怒鳴り声が響いた。

「ふぇ?」

「テル様。お久しぶりでございます。あの日から研鑽を積み、現在当ギルドの副長を任されております。改めて御挨拶申し上げます、ドリアンと申します。」

 その場にいた誰もが仰々しく挨拶を一冒険者に告げる光景に、あの冒険者は何者だという噂が立つ。
 受付嬢も隣で低姿勢を覆そうとしない副長の対応に何かを見落としてしまったと振り返るも、何一つ分からない。
 せめて機嫌を損ねないようにと、副長の隣で頭だけ下げておこうと思う。

「あぁ久しいな。今回来たのは偶々なんだが、道中で魔物の群れに襲われてな。」

「はっ。」

「その群れは殲滅したんだが。魔物が寄生されていることが分かった。どの魔物にも同じ物が生えていたから、少なくとも寄生植物だろう。幸い森の中だ。人にまで寄生されることはないだろうが、未来あるシルバーに上がったばかりの冒険者パーティーがトラウマを植え付けられる程だ。その報告をしに来た。」

「直ちに厳戒令を発し、調査を行いましょう。まだ滞在されるのであれば、討伐などの斡旋させていただいても?」

「あぁ。構わないぞ?あと家を追い出されたから、旅の途中ってところだな。」

「「「「はっ?」」」」

「んじゃ、近いうちに依頼を受けるからな。」

「お待ちしております。」

 その足でロドリスにギルスを紹介し、臨時護衛の契約を行い、ロドリス商会でテルは別れた。
 テルが宿に着く頃、テルたちが離れた冒険者ギルドでは噂話が広がっていた。
 城塞都市支部の冒険者ギルドマスターは脳筋で有名で、その下に就いた副長ドリアンは正確で慎重でで優秀だというガセを上回る噂だった。
 その副長が城塞都市にやってきた冒険者一人を懇意にしているとなれば、謎が謎を呼ぶ噂となり、それが好きな輩は話に乗るのは仕方のないことだった。



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