乙女ゲーには関わらない【休載完結】

２

反抗の余波-その3

　標的だったメイドが気絶したことで行き場を失った殺気は執事が落ち着くまで執務室から漏れ出てしまった。

　・・・庭に向かって。


　その日は運の悪いことに庭にはメイド長を始めとしたメイド達が洗濯を干していた時間帯だった。

　パタパタと地面に俯くメイドを見たメイド長は周囲を魔法を使って探索する。

　そして原因が執務室が有るであろう場所で闇魔法による殺気が漏れているのを見つけてしまい、青褪めたメイド長は俯くメイドを抱えて騎士団詰所へと走る。

「ディセット！」

「おや。メイド長じゃあないか。どうしたの？」

「ディセット、執務室から殺気がーー」

「なっ！？　おい！騎士団出動だ、領主様が危ないぞ！」

『何！？急げーー』

　状況が殺伐とした空気に変わり、真っ青な顔色で介抱するメイド長を詰所に置いて、一同は邸の執務室へ向かっていく。

　だが邸の入り口前で一旦、止まることを余儀なくされてしまった。

　シェルフォードが出てきたからだった。

「シェルお嬢様、ご機嫌様。」

「ご機嫌麗しくございます。侯爵様でしたら、執務室にて仕事中でございます。」

「えっ、ああ。少々領主様に相談したいことがありまして、参りました。」

「そうでしたか。私は外の空気を吸いたくて出ようかと思いまして。」

「へっ！？」

「では、失礼いたします。」

　恭しくお辞儀をして庭へと向かっていくシェルフォードを見ながら、一同は普段と違う有様に困惑を浮かべてしまう。

「ディセット隊長。お嬢様は何かあったのでしょうか。いつもなら、もっと晴々としておられるはずですが。」

「そうだな、ん？　そういえば今日は教育係が来る日ではなかったか！？」

「確かにそうですが、あそこまでなったのは初めて見ましたよ？　いつもならお逃げになっている筈ですし。」

「兎に角、急いで執務室へ向かうぞ！」

『応っ！』

　兜以外の全身鎧を着けた５人の騎士が邸内のメイドが遠巻きに見て来る中で、ひたすら執務室へ近付いていくと知覚出来てしまう程に殺気が濃くなっていった。

　廊下の壁に手を突いて強力な殺気に耐えながら、執務室の扉を開け放つと、騎士の目に入ってきたのは酷い惨状だった。

　そして原因と思われる殺気の根本が背を向けて佇む執事長であるセバスだったことが、更に騎士に混乱を招いた。

「目を、覚ませ！」

　騎士の中で常に訓練されてきたディセットだけは徐々に近付き、頬を思い切って殴りつけた。

　すると殺気が消え去り、何もなかったかのように殺気による重圧が消え、騎士の４人は不規則な息遣いで膝を突いていた。