14 / 32
13
しおりを挟む冒険者組合での一件が起きてからは冒険者を雇わず、薬草の採取をしたり護衛に討伐させていたので、困りごとを除けば充実していた。
その困りごととは、護衛が優秀なために冒険者組合から送られてくる密偵を取り押さえ、学園長に引き渡しているが一向に減らない事だった。
また冒険者組合での一件で変わったことはベルトンだった。以前までのベルトンから嫌がらせ行為や尾行が少なくなり、大人しくなっていた。
が、その親であるチャール公爵から便宜が図られるようになり、セリアに向ける周囲の視線が異様に鋭くなった。原因としては組合での出来事だと推測できるが確証はないので、セリアはこれを保留とした。
そのチャール公爵から寮に向けて、屋敷への招待状がひっそりと来ていた。
「チャール公爵様。以前から言っていますが、こうも何度も招待されると私が困ります。」
「でもね。本当に依頼をしたいだけなんだよ?どうして断るのか知りたいのだが。」
「毎度同じことを言っていますが、その家庭教師?を受けるつもりも、予定も一切ありません。仮に受けたとしても、教材を渡して終わりにするつもりで考えています。」
公爵家の屋敷の中で、セリア付き護衛が1人控えていた。それに対して、部屋の中には帯剣した騎士や執事を含め、茶会という雰囲気でないにも関わらず、セリアは依頼を断っていく。
公爵がその気になれば、その場で物理的に命令を出せる、という形を取っていた。それでも護衛は何もせず、セリアの背後に控えている場面は公爵に焦りを与えていた。勿論、公爵が一令嬢に向けて物理的に動けば周囲からの反発や圧力がくる可能性がある。だがそれも、相手側にとっては巻き添えを食らう事に等しい。手を取り合えば何事もなかったように過ごせるが、取り合わなければ双方とも倒れるまで続くだろう。
しかし護衛から敵意も感じられず、目の前で優雅に茶菓子を食べている状態は異様に見える。貴族としての体面を口にしても関係無いの一点張りなため、周囲の騎士でさえ動揺し始めるほどだった。
「そのようなことを堂々と言える事には感心するが、貴族社会で高位貴族からの依頼を断るということは、社交界での立場が無くなるのだよ?それを分かって言っているなら、君の父君に私の名で依頼を出そう。」
「そうですか。まぁ好きに成されては如何ですか?こちらとしては関係のない事ですし」
「…っ!? それはどういう事かな?流石に言い過ぎではないか。生家を捨てるなど出来るはずもない。かと言って、打てる伝手も無いだろう?」
「? 何か勘違いをされているようですね。私は別に構わないのですよ、生家を捨てる事で助かるのであれば。こちらも時期が早まったと思うだけであります。」
「…それはどういう事だろうか?まさか家名を捨てる覚悟があると、いうのか」
「ええ。そのために学園で勉学に励んでいる次第であります。まぁ講師からは見捨てられているので、自力でやっていますが。」
「む。では教材だけでも作って貰えないだろうか?それさえあれば、きっと出来るはずだ。」
「良いでしょう。でも条件があります。」
「何かな? …公爵家でできないことは少ないはずだよ。流石に養子にするには時間が必要だが」
「そんなことはどうでも良いです、そんなもの要らないですし。私の出す条件は、これ以上の便宜は必要性がないので、私に関わらないでいただきたい。」
『………』
「それと最近出ている私に関する噂を抹消してもらいます。そもそもの原因は、そちらの暴走なのですから。…あまり噂が父の耳に入るようなことがあれば、婚姻を振りまくに違いありませんし。」
「ちょっと良いかな?」
「何か?まさか噂を抹消できないとは言いませんよね! そちらが勝手にやった事ですし、公爵という大きな盾があるのですから潰してもらいたいですわ。」
「噂は勿論、無くすことは元々やろうと思っていたので問題はない。しかし家名を捨てる覚悟には驚いたが、随分と欲が無いのだな?もっと大きい事を頼んでくるかと思っていたのにな。それに、だ。」
「? …それに、なんですか」
「それに、君にはベルトンを導いてほしいのだよ。嫡男とはいえ、これ以上は無視することが難しいのだ。だから、教材を使って少しでも良いから…力を貸してもらいたい!」
『当主様…!』
護衛騎士が見守るなか、会話中に公爵は姿勢を正す。訝しむセリアの前で、椅子から立ち上がると公爵はセリアへ頭を下げていた。護衛も執事も、目を見張り駆け寄ってくる。
その間も公爵は姿勢を変えないが、セリアは表情を変えずに席に座ったまま、静かに公爵を見据えていた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる