ハガネノココロ

しらす(仮)

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鋼の女性

一話「日常」

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 僕は隣でけたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で目が覚めた。今日もまた朝が来た。のっそりと体を起こし、目を擦る。現在時刻五時五十二分。ベッドから降り、自室を出て台所へ向かう。欠伸をしながら朝食と弁当を作る。今日も学校だと思うと憂鬱な気分になる。なぜ学校というものはあれ程面倒なのだろうか?そんなことを考えているうちに朝食と弁当が完成した。朝食をテーブルまで運び、椅子に座る。
「いただきます。」
合掌してそう言うと朝食を食べ始める。今日の朝食はトーストとスクランブルエッグそしてベーコン。普通の朝食だ。考え事をしていたせいか少し焦げてしまったが。
 暫くして食事を終えた僕はまだ時間があったので天気予報を見ておこうとテレビをつけた。そのときちょうど天気予報が流れた。どうやら今日は夕方から雨が降るらしい。もう梅雨だしな。まあ、部活をやってる訳でもないのでそう遅くまで学校にいないし大丈夫だとは思うが……念のため折り畳み傘を持っていくか。
『次のニュースです。○○県××市のとある廃工場で……』
そんなニュースが流れてきたが、そんなこと興味がなかったので気にせずにテレビを消した。
 その後僕は制服に着替え、鞄を持って家を出ようとした。そのときインターホンが鳴った。はぁ……またか。僕はため息を吐きながらその扉を開けた。
「おっはよ~!空~!」
「おはよう……。」
「元気ないじゃん。どしたの?」
「前から言ってるけど僕に構うのやめてくれない?」
こいつは幼馴染みの秋葉茜あきはあかね。昔から鬱陶しいレベルで付きまとってくる。
「なんで~?折角世界一可愛い幼馴染みが一緒に登校してあげるって言ってるのにさ~?」
「距離近い。歩きにくい。勝手に手を繋いでくる。急に抱きついてくる。騒がしい。距離感おかしい。」
「同じこと二回言わなかっ……」
「とにかく、構わないで!」
茜の言葉を遮るように言ったあと僕は逃げるように彼女から離れた。
「もしかして……まだあの事を……。」
茜は何か言っていたが僕は無視した。
 僕は走り続けて、気付けば学校の前まで来ていた。校門をくぐり教室へ向かう。階段を上りその扉を開ける。一瞬騒がしい声が聞こえたかと思えば急に静まり返り、また騒がしくなる。雑音の中をかき分け、窓側にある自分の席に着く。教室の喧騒を他所に僕は窓の外を眺める。
「はぁ……。」
窓の外を飛ぶ鳥を見てそんなため息を吐く。あいつらはいいよな。何も気にせず自由に飛び回って。僕は騒がしい教室で受けたくもない授業を受けさせられるんだから。受けなきゃ卒業できないとか言うし。
 そんなことを考えているうちに時間は流れていき、チャイムがなると同時に教師が教室に入ってきた。学級委員長の号令と共に挨拶をしたあと、教師は話し始めた。
「今日の放課後、学級委員長と副委員長は職員室に来てくれ。少し頼みたいことがある。いいか?冬柴、天海。」
そこで僕は思い出した。この教師のせいで僕が副委員長に任命されていたことを。副委員長に誰も立候補しなかったせいでくじで決めることになり、結果僕が任命されたのだ。副委員長の役割は委員長が不在の際、代わりに仕事をすること。だが、うちの委員長は休むどころか早退も授業を抜けたこともない。そのため僕は副委員長として仕事をしたことがなかった。故に忘れていた。
「チッ……。」
僕は舌打ちをした。仕事なんて面倒臭い。だがうちの委員長は僕がサボるのを許しはしないだろう。あいつ普段は静かなのにサボったりする奴とか校則違反したりする奴とかには容赦ないからな。はぁ……面倒臭い。
 その後退屈な授業が始まったが、全て寝て過ごした。
 放課後になり僕らは職員室に来ていた。正しく言うと僕は委員長に無理やり連れてこられた。
「すまんな二人とも。」
「いいですよ。それが私たちの仕事なので。」
そう言って委員長は僕を横目で睨み付ける。なんだよ?僕は早く帰りたいんだよ。雨降るらしいし……。
「で、頼みたいことって何ですか?」
「ああ、これだよ。」
そう言って教師が見せたのは今日の授業でやった小テストだった。
「これの採点を頼みたいんだ。実はこの後大事な会議があってね。」
「今日の隙間時間にでもやればよかったじゃないですか。」
「知ってるか?今日俺一日中授業があったんだぞ?休憩どころかまともに昼飯すら食ってないんだからな。」
なんとブラックな。
「だから手伝ってほしいと。」
「そうだ。頼まれてくれるか?」
「嫌でs……」
「いいですよ。ね?」
僕の言葉を遮ってそう言った委員長は僕を睨み付けてくる。何……?怖いんだけど……。そうして僕らは小テストの採点をやるのだった。
 終わった頃には五時を過ぎており、外では土砂降りの雨が降っていた。ほら言わんこっちゃない。僕は鞄から折り畳み傘を取り出し、それを差して歩き始めた。
 暫く歩いていると我が家が見えてきた。だが、違和感があった。目の前に誰かいる。ただそれだけならなんの問題もない。きっと配達員だろうと思っただろう。だが、その人は僕の家の前に倒れていた。僕は訳がわからず数秒間立ち止まってしまった。だが、我に返るとすぐさまその人に駆け寄った。どうやら女性らしい。白衣を着ているから女医か看護師だろうか?と思っていたのだが、服装が変だ。白衣の下はシャツと下着だけ。下はズボンやスカートは履かず、下着のみ。まあ、そんなことは今気にしたってしょうがない。取り敢えず生存確認……息は……ない!?え?死んでる!?ちょっと待て!話が違う!とりあえず警察に通報するべきだよな?そのときだったその人はゆっくりと立ち上がった。え?どういうこと?ゾンビか?すると、またその人は倒れた。僕はそれを支える。取り敢えずこのまま外で放置するわけにはいかないし……家に上げるか。丁度良いことに親は仕事で忙しいが故に我が家にはいないし帰ってこない。
 そうして我が家に上げてしまったのだが、さて、どうするか。人かどうかすら怪しいが……。人だった場合のことを考えて、体を拭いた方がいいよな?濡れたままだったら風邪引くかもだし。僕は脱衣所からバスタオルを持ってきた。そして腕や足など服から露出している部分だけを拭く。流石に女性の服を脱がして体を拭く勇気は僕にはなかった。後で何か言われても困るし。一応白衣を脱がせてシャツの上から背中拭いておくけど。濡れた白衣を着させたままにできないし。後はベッドに寝かせておこうか。僕は彼女をがんばって持ち上げて寝室まで運ぶ。これで一安心か……。もしもこいつがゾンビやアンデッドだったとしても外に置いておくよりもマシだろう。
「はぁー……疲れた。それにしても……何やってるんだ……僕は。」
こんな見ず知らずの女性を自分から助けようとするなんて……。そのときだった。その女性がゆっくりと起き上がった。
「私は何を……?ここは……?」
戸惑う彼女に声をかけようとした瞬間、彼女はぐったりとしてしまった。
「……シャットダウン。……再起動を開始……。」
そう発してまた彼女は動かなくなった。かと思えば急に立ち上がった。
「初めまして。貴方が私を助けてくださったのですね?」
「あなたは?」
「私ですか?私はアンドロイドです。」
「あ、アンドロイド?」
これは現実か?アンドロイドだなんてまるでSF映画みたいな……。
「信じられないかもしれませんが、間違いのない事実です。私はとある科学者によって製作されました。ですが、彼の私に対する扱いが酷かった為だと思いますが、私はその研究所を抜け出してきました。その途中で科学者にバレてしまい、殆どの記憶を失ってしまいました。残ったのは彼に対する嫌悪感と研究所を抜け出したという記憶、そして自信がアンドロイドであるという自覚だけです。」
そう言う彼女だったが、僕は未だに状況を整理できていなかった。
「信じられない気持ちもわかります。でもこれを見ればあなたも信じてくれる筈です。」
そう言って彼女はシャツを捲り腹の一部を露出させる。
「ちょっ、待って!何して!」
「ほらここを見てください。」
 よく見ると彼女のその部分は皮膚のような部分が剥がれ、内側の機械のようなパーツが露出していた。
「おそらくここは研究所を抜け出したときに傷ついたんでしょう。」
「な、なるほど……。」
金属パーツの露出したその痛々しい傷口を見て、僕は納得するしかなかった。
「それで、貴方に一つお願いがあります。私をここに匿ってください。あの研究者はもしかすると私を追ってする可能性があります。もし見つかれば、何をされるかわかりません。」
彼女は目に涙を浮かべてそう言った。
「それをして僕になんの利益がある?」
僕は損得勘定で動く人間というわけではないが、もともと人がどうだろうと気にしない性格だ。何もないのに彼女をここにいさせる理由はない。
「では逆に問います。何故貴方は私を家に上げてまで私を助けたんですか?」
「家の前にいて邪魔だったから。」
「それは私を家に上げた理由にはならないでしょう?」
「雨が降ってたんでな。そのせいで風邪を引いたときに変ないちゃもんをつけられても困るからな。」
「なら、晴れていればどうしていたんですか?そこら辺に放置していたんですか?」
その問いに僕は答えられなかった。何故僕は彼女を助けたのか?何故だろうか?
「貴方が何故私を助けたのか。それは貴方が本当は優しいからじゃないですか?私は今初めて貴方に会いました。ですがわかります。貴方は根っからの善人です。困っている人を放っておけないようなそんな人だと思います。」
「勝手にそう思っとけ。」
「で、結局どうするつもりで?」
「お前の好きなようにしろ。ここに住みたいのなら、寝床くらいは用意してやる。後は僕の気分しだいかな。今日はそこで休んどけ。人じゃなかろうと、機械なら初期不良とかありそうだしな。」
そう言って僕はその部屋を出た。これが僕とこのアンドロイドの出会いだった。まさかあんなことになるなんて……みたいなことにはならないでほしいが、嫌な予感がするなーとそんなことを思う今日この頃であった。
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