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第29話:おうちデートの約束
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福ちゃん亭の暖簾をくぐり外に出る。自宅のアパートまでもう目と鼻の先だからと、乾社長とはここで別れた。
「今日はありがとうございました。すみません、送っていただいた上にご馳走になってしまって……」
腰をかがめ、運転席の乾社長にお礼を言う。
「いや、こちらこそ。おいしいお店も教えてくださってありがとうございます」
「乾社長が沢山注文してくださるから聖子さん喜んでいましたね」
乾社長はラーメンも餃子もあっという間に食べきり、それでも足りない様子で餃子をもう一枚追加で注文していた。意外と沢山食べる人なんだなぁって新発見だった。
「本当においしかったです。今夜は時間がなくて残念でしたが、他にも気になるメニューありましたね。レバニラとか」
「あ! ここのレバニラすっごくおいしいですよ! 私も仕込み手伝っていたのでレシピ教えてもらってうちでもよく作ります!」
「へぇ……それは食べてみたいな。今度うちに作りに来てくださいませんか?」
「た、大将の味にはかないませんからまたお店に」
「あなたが作ったレバニラが食べたいです。ダメですか?」
だ、ダメじゃないけど何故……?
そんな疑問を口にする前に乾社長に先回りする。
「おみみさんの配信を聞いて、いつかあなたが作る料理を食べてみたいと思っていたんです。次回の収録は時間を早めて我が家で食事しませんか? もちろん、別途料金はお支払いしますよ」
「い、いらないですいらないです! そんな大したものは作れませんし……じゃあ、はい、また今度……」
「楽しみにしています」
乾社長は車のエンジンを掛ける。
「おやすみなさい。気を付けて帰ってください」
「は、はい。おやすみなさい……」
運転席の窓がゆっくりと上がり、大通りに向けて車は走り出した。この辺では見慣れない高級車が走っていると夜道でも目立つ。
(すごい一日だった……)
第一開発部への異動打診。
二度目の収録
その上、次の収録にレバニラ作る約束までしてしまった。
(あれ……?)
アパートが見えてきたところでふと足を止める。来た道を振り返る。乾社長の車はとうに過ぎ去っていた。
(おいしいおみみの配信聴いてくれていたみたいだけど……どうしておみみが私だって気づいたんだろう……?)
*
*
*
*
数日後、収録分のお金が口座に振り込まれていた。人生で見たこともない桁の貯金額に震える。こんな大金に相当するような演技が自分は本当に出来ているのだろうか。
「ねぇちゃん……すごい匂いだね」
目をこすりながら健が起きてきた。
「もう配信はないのに朝から何してんの?」
「あ、今日遅くなるかもしれないから晩御飯今のうちに作っておこうとおもって」
「レバニラひさしぶりじゃん。急にどうしたの?」
健がフライパンを覗き、くんくんと鼻を動かす。
「予行練習……かな」
*
*
*
*
「今日から第一開発部へ異動となった、白石茉琴さんです」
戸井田部長の隣に立ち部署のみなさんに向けて挨拶をする。
「し、白石です。よろしくお願いいたします!」
「白石さんは他部署兼務で乾社長直下で仕事をしてもらうことになります。一部テスト業務や進行管理業務でみんなと関わることが増えると思うのでよろしく」
ぱちぱちと疎らな拍手を受け、再び頭を下げる。
「白石さんの席は乾の隣だから。第一開発部で仕事がある時はあそこ使って」
戸井田部長は手振って、自分の席へと戻っていく。
チームごとに向かい合うようにデスク配置で、乾社長は全体を見渡すことのできる一番奥の席だ。
横並びで端っこの席が私。乾社長は離席中だった。
「よいしょっと」
台車で運んだモニターとノートパソコンを設置する。ノートパソコンは元々使っていたものだけど、モニターは最新型のワイドサイズだ。テスター業務もあると聞いていたから、検証用だろう。
「お、おも……!」
モニタはものすごく重くて台車から机の上に持ち上げるだけで一苦労だ。落とさないように踏ん張る。勢いがついて激しく置かないようゆっくり慎重に運ぶ。うう、腕がプルプルする。
「あっ」
隣の席からスカジャンの袖が飛び出す。私から軽々とモニターを取り上げ、机の上に置かれた。
「置く位置ここでいいの?」
「え、あ、はい! ありがとうございます……!」
モニターの位置と首の角度を調節して、慣れた手つきでケーブルまでつないでくれた。てきぱきと動くその後ろ姿をぽかんと眺める。
ふわふわと綿毛のような揺れる髪。
その髪色は銀色がかった灰色で、健の部屋にあるメンズ雑誌の表紙で見たことあるような格好いい色をしていた。両耳にはいっぱいピアスが開いている。
「はい、できたよ」
こちらを振り返り、にこっと微笑みを向けられる。
ずいぶん若そうな男の子、それこそ健ぐらいの年齢とそれほど変わらなさそうだと思った。
なによりこの笑顔……どこかで見たことがある。そう思った瞬間、
「久しぶりだね、まこぴ」
「………………ま、まこぴ?」
初対面で聞きなじみのないニックネームで呼ばれる。
「俺のこと忘れちゃったの? ひどいな~可愛い後輩を忘れるなんて」
「え、ええと……ごめんなさい、あの」
「もう新卒じゃなくなったら優しくしてくんないだぁ」
「え、あ、あ……あ!」
この馴れ馴れしい話し方、人懐っこいわんこ系の笑顔。
もしかして、もしかして……
「もしかして真木くん!?」
「やーっと思い出してくれた」
「今日はありがとうございました。すみません、送っていただいた上にご馳走になってしまって……」
腰をかがめ、運転席の乾社長にお礼を言う。
「いや、こちらこそ。おいしいお店も教えてくださってありがとうございます」
「乾社長が沢山注文してくださるから聖子さん喜んでいましたね」
乾社長はラーメンも餃子もあっという間に食べきり、それでも足りない様子で餃子をもう一枚追加で注文していた。意外と沢山食べる人なんだなぁって新発見だった。
「本当においしかったです。今夜は時間がなくて残念でしたが、他にも気になるメニューありましたね。レバニラとか」
「あ! ここのレバニラすっごくおいしいですよ! 私も仕込み手伝っていたのでレシピ教えてもらってうちでもよく作ります!」
「へぇ……それは食べてみたいな。今度うちに作りに来てくださいませんか?」
「た、大将の味にはかないませんからまたお店に」
「あなたが作ったレバニラが食べたいです。ダメですか?」
だ、ダメじゃないけど何故……?
そんな疑問を口にする前に乾社長に先回りする。
「おみみさんの配信を聞いて、いつかあなたが作る料理を食べてみたいと思っていたんです。次回の収録は時間を早めて我が家で食事しませんか? もちろん、別途料金はお支払いしますよ」
「い、いらないですいらないです! そんな大したものは作れませんし……じゃあ、はい、また今度……」
「楽しみにしています」
乾社長は車のエンジンを掛ける。
「おやすみなさい。気を付けて帰ってください」
「は、はい。おやすみなさい……」
運転席の窓がゆっくりと上がり、大通りに向けて車は走り出した。この辺では見慣れない高級車が走っていると夜道でも目立つ。
(すごい一日だった……)
第一開発部への異動打診。
二度目の収録
その上、次の収録にレバニラ作る約束までしてしまった。
(あれ……?)
アパートが見えてきたところでふと足を止める。来た道を振り返る。乾社長の車はとうに過ぎ去っていた。
(おいしいおみみの配信聴いてくれていたみたいだけど……どうしておみみが私だって気づいたんだろう……?)
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数日後、収録分のお金が口座に振り込まれていた。人生で見たこともない桁の貯金額に震える。こんな大金に相当するような演技が自分は本当に出来ているのだろうか。
「ねぇちゃん……すごい匂いだね」
目をこすりながら健が起きてきた。
「もう配信はないのに朝から何してんの?」
「あ、今日遅くなるかもしれないから晩御飯今のうちに作っておこうとおもって」
「レバニラひさしぶりじゃん。急にどうしたの?」
健がフライパンを覗き、くんくんと鼻を動かす。
「予行練習……かな」
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「今日から第一開発部へ異動となった、白石茉琴さんです」
戸井田部長の隣に立ち部署のみなさんに向けて挨拶をする。
「し、白石です。よろしくお願いいたします!」
「白石さんは他部署兼務で乾社長直下で仕事をしてもらうことになります。一部テスト業務や進行管理業務でみんなと関わることが増えると思うのでよろしく」
ぱちぱちと疎らな拍手を受け、再び頭を下げる。
「白石さんの席は乾の隣だから。第一開発部で仕事がある時はあそこ使って」
戸井田部長は手振って、自分の席へと戻っていく。
チームごとに向かい合うようにデスク配置で、乾社長は全体を見渡すことのできる一番奥の席だ。
横並びで端っこの席が私。乾社長は離席中だった。
「よいしょっと」
台車で運んだモニターとノートパソコンを設置する。ノートパソコンは元々使っていたものだけど、モニターは最新型のワイドサイズだ。テスター業務もあると聞いていたから、検証用だろう。
「お、おも……!」
モニタはものすごく重くて台車から机の上に持ち上げるだけで一苦労だ。落とさないように踏ん張る。勢いがついて激しく置かないようゆっくり慎重に運ぶ。うう、腕がプルプルする。
「あっ」
隣の席からスカジャンの袖が飛び出す。私から軽々とモニターを取り上げ、机の上に置かれた。
「置く位置ここでいいの?」
「え、あ、はい! ありがとうございます……!」
モニターの位置と首の角度を調節して、慣れた手つきでケーブルまでつないでくれた。てきぱきと動くその後ろ姿をぽかんと眺める。
ふわふわと綿毛のような揺れる髪。
その髪色は銀色がかった灰色で、健の部屋にあるメンズ雑誌の表紙で見たことあるような格好いい色をしていた。両耳にはいっぱいピアスが開いている。
「はい、できたよ」
こちらを振り返り、にこっと微笑みを向けられる。
ずいぶん若そうな男の子、それこそ健ぐらいの年齢とそれほど変わらなさそうだと思った。
なによりこの笑顔……どこかで見たことがある。そう思った瞬間、
「久しぶりだね、まこぴ」
「………………ま、まこぴ?」
初対面で聞きなじみのないニックネームで呼ばれる。
「俺のこと忘れちゃったの? ひどいな~可愛い後輩を忘れるなんて」
「え、ええと……ごめんなさい、あの」
「もう新卒じゃなくなったら優しくしてくんないだぁ」
「え、あ、あ……あ!」
この馴れ馴れしい話し方、人懐っこいわんこ系の笑顔。
もしかして、もしかして……
「もしかして真木くん!?」
「やーっと思い出してくれた」
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