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第三章 復讐と枷
18 嫌悪の対象
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暫くして俺の痙攣が治まってくると彼は俺を背後からそっと抱き締める。
「今は違う」
耳元で小さく囁く。振り返って少し屈むと彼が優しく唇を重ねてくる。熱い舌がゆっくりと口の中を愛撫してくる。彼の親指が無事だった乳首のピアスに触れる。ぞくっとする。
「ふっ……さっきのは、格好良かった。昨日俺に抱かれて淫乱に喘いでいた男とは思えないな」
乳首に軽く爪先で引っ掻きながらピアスを動かす。まだ敏感な乳首から背中とは違った甘い鈍痛が鼓動のように脈打つ。
「リアム、護ってくれてありがとう」
中指が少し強めに乳首を引っ掻く。声が出そうになる。
「この怪我だ。残念だけど今日はもう眠くなってくるぞ。起きたらたっぷりと礼をするから待っていろ」
「……コア様、俺は……――――」
近付いてくるこの気配。感じて痺れ始めた頭を強制的に現実に引き戻す。
「コア」
俺は彼から離れ、投げ出した山賊の剣を拾う。
「コア様、気を付けて。アンナが来る。彼女は強いぞ」
「俺は離れた方がいいか?」
――――多分、コア様はあいつ等が死ぬのを見たがっている
「……いや。離れたらそれはそれで危ないかも知れない。それに、貴方には……近くにいて貰いたい」
やがて彼女が廃墟の入り口に来る。近くで彼と待ち合わせていたのだろうか。爆発音を聞いて調べに来たのか。
「シン?」
彼女が俺の姿を目にして固まる。離れた場所で倒れているシンの姿を目にすると悲鳴を上げて走って行く。
「シン! シンッ!」
彼の切断された体を搔き集め、それを抱き締めて泣き喚く。
「化け物よ! 元仲間にこんな事が出来るなんて、それこそ化け物じゃない!」
彼女の涙を見ても心は痛まない。寧ろ嫌悪感が沸き起こる。
「お前達が俺や俺の家族にするのはよかったのに? 理由も分からぬまま妹達の体が裂けるまで犯したり、弟の顔が分からなくなるまで引き摺り回したり、何人も何人も見せしめに斬首したり?」
彼女の目には憎悪。
「別れた後も大切な仲間だと思っていた。あんたがシンとあんな形で一緒になったのだって好き合っていれば別にいいと思っていた。まさかこんな非道な事されるとは思っていなかった」
彼女の目から涙が流れる。
「シンを殺したのは、……絶対に許さない! いっつもいつも綺麗事ばかりで他の人の夢や欲しい物を見下して! 崇高な勇者様には、そりゃ見劣りするわよね! でもシンは返して! シンを返してよ!」
アンナ。
自分達のした事は相変わらず考慮しないんだな。
彼女と付き合っていた時は週に何度か抱き合っていた。犠牲者に向ける優しい笑顔が好きだった。『もう何も心配しなくても大丈夫』と思わせるような目で子供の頭を撫でていた。
それがどうだ。
どんな表情で俺の弟達を殺した。
どんな表情で殺した後に首を斬って杭に刺した。
どんな表情で俺の処刑を引き受けた。
彼女は憎悪に満ちた表情で俺に斬りかかってくる。俺はその刃先の下を潜ると剣を振り回す。刃と刃がぶち当たり、酷い衝撃が腕を振るわせる。まだ体も満足に動かない。そしてアンナの使っている剣は王からのプレゼントだ。山賊の脆い刃はすぐに零れてくる。力任せにそれを振り回すと彼女の顔に掠れる。
「リアム!」
「ユキ……ユキじゃない……」
アンナの怒声の裏でコアの小さな呟きが耳に聞こえてくる。
アンナから少し離れてコアに素早く視線を流す。
様子が変だ。目を見開き、酷く青褪めて蹲っている。
俺はアンナから後退り、彼に近付く。
アンナはそれを見ると一気に身を翻して逃げ出す。彼女の姿が見えなくなるまで剣を構えていたが、それを下ろす。
「コア様?」
俺の伸ばした手を見てびくっと反応する。
俺は急いでその手を引っ込める。
「……コア?」
彼が顔を歪める。俺とは目を合わせない。自分の両肩を抱き締めている。
アンナの逃げた方を見る。もう追いかけるのは無理だ。追う事よりもコアの方が心配である。こんな状態のコアを一人では置いて行けない。
「……行こう。ここは、血の匂いがきつい」
コアは無言で俺について来る。彼が心配だ。何度も背後を振り返って彼がちゃんとついて来ているのか確かめながら歩いて行く。
少し小さめの奥の入り込んだ場所にある宿へと入る。
テーブルさえもない程小さな部屋に入ると彼が無言で体を洗いに行く。俺はベッドの端に腰掛けて彼の反応を思い出す。
あのような反応は戦争の後や誰かを殺した後、居合わせた人にされていた。血に濡れた俺の手や剣を見て顔を引き攣らせながら。あれは強い恐怖か嫌悪の対象にする反応だ。
ドアが開いてコアが戻って来る。
俺は無言で彼を見る。まだ酷く生気のない顔色をしている。
――――声を掛けられない
「……三年前にアンナがお前と別れてシンと付き合い出したのは気付いたけど、二人は真剣だったのか?」
――――三年前もか。コア様はずっと俺に憎悪を抱いて俺達を追っていたのだろうか。どれぐらい長く? 久里村からずっと追って来ていたのだろうか? どんな気持ちでずっと俺を見ていた?
「どうだろうな。結婚の話は聞いてなかったけど、本気だったとは思う」
「……そうか。疲れた。暫く寝る」
コアは服を着たままだ。少し躊躇して彼の横に行く。
「一緒に横になっていいか?」
彼は無言で俺を見上げる。少なくとも今は視線が合う事に少しだけ安堵する。俺は焦げて下半身だけ残った服を脱ぐとシーツの下の彼の横に滑り込む。煤がシーツに付くのは今は気にしない。
そっと彼に触れて腕枕をすると彼は抵抗なくいつものように俺に擦り寄る。
俺の怪我の度合いも酷かったからだろうか。すぐに寝息が聞こえてくる。
彼の顔を見る。
――――ユキは貴方にとって誰なんだ? 今でも大事な人か?
また胸にチリっとした痛みが走る。
「今は違う」
耳元で小さく囁く。振り返って少し屈むと彼が優しく唇を重ねてくる。熱い舌がゆっくりと口の中を愛撫してくる。彼の親指が無事だった乳首のピアスに触れる。ぞくっとする。
「ふっ……さっきのは、格好良かった。昨日俺に抱かれて淫乱に喘いでいた男とは思えないな」
乳首に軽く爪先で引っ掻きながらピアスを動かす。まだ敏感な乳首から背中とは違った甘い鈍痛が鼓動のように脈打つ。
「リアム、護ってくれてありがとう」
中指が少し強めに乳首を引っ掻く。声が出そうになる。
「この怪我だ。残念だけど今日はもう眠くなってくるぞ。起きたらたっぷりと礼をするから待っていろ」
「……コア様、俺は……――――」
近付いてくるこの気配。感じて痺れ始めた頭を強制的に現実に引き戻す。
「コア」
俺は彼から離れ、投げ出した山賊の剣を拾う。
「コア様、気を付けて。アンナが来る。彼女は強いぞ」
「俺は離れた方がいいか?」
――――多分、コア様はあいつ等が死ぬのを見たがっている
「……いや。離れたらそれはそれで危ないかも知れない。それに、貴方には……近くにいて貰いたい」
やがて彼女が廃墟の入り口に来る。近くで彼と待ち合わせていたのだろうか。爆発音を聞いて調べに来たのか。
「シン?」
彼女が俺の姿を目にして固まる。離れた場所で倒れているシンの姿を目にすると悲鳴を上げて走って行く。
「シン! シンッ!」
彼の切断された体を搔き集め、それを抱き締めて泣き喚く。
「化け物よ! 元仲間にこんな事が出来るなんて、それこそ化け物じゃない!」
彼女の涙を見ても心は痛まない。寧ろ嫌悪感が沸き起こる。
「お前達が俺や俺の家族にするのはよかったのに? 理由も分からぬまま妹達の体が裂けるまで犯したり、弟の顔が分からなくなるまで引き摺り回したり、何人も何人も見せしめに斬首したり?」
彼女の目には憎悪。
「別れた後も大切な仲間だと思っていた。あんたがシンとあんな形で一緒になったのだって好き合っていれば別にいいと思っていた。まさかこんな非道な事されるとは思っていなかった」
彼女の目から涙が流れる。
「シンを殺したのは、……絶対に許さない! いっつもいつも綺麗事ばかりで他の人の夢や欲しい物を見下して! 崇高な勇者様には、そりゃ見劣りするわよね! でもシンは返して! シンを返してよ!」
アンナ。
自分達のした事は相変わらず考慮しないんだな。
彼女と付き合っていた時は週に何度か抱き合っていた。犠牲者に向ける優しい笑顔が好きだった。『もう何も心配しなくても大丈夫』と思わせるような目で子供の頭を撫でていた。
それがどうだ。
どんな表情で俺の弟達を殺した。
どんな表情で殺した後に首を斬って杭に刺した。
どんな表情で俺の処刑を引き受けた。
彼女は憎悪に満ちた表情で俺に斬りかかってくる。俺はその刃先の下を潜ると剣を振り回す。刃と刃がぶち当たり、酷い衝撃が腕を振るわせる。まだ体も満足に動かない。そしてアンナの使っている剣は王からのプレゼントだ。山賊の脆い刃はすぐに零れてくる。力任せにそれを振り回すと彼女の顔に掠れる。
「リアム!」
「ユキ……ユキじゃない……」
アンナの怒声の裏でコアの小さな呟きが耳に聞こえてくる。
アンナから少し離れてコアに素早く視線を流す。
様子が変だ。目を見開き、酷く青褪めて蹲っている。
俺はアンナから後退り、彼に近付く。
アンナはそれを見ると一気に身を翻して逃げ出す。彼女の姿が見えなくなるまで剣を構えていたが、それを下ろす。
「コア様?」
俺の伸ばした手を見てびくっと反応する。
俺は急いでその手を引っ込める。
「……コア?」
彼が顔を歪める。俺とは目を合わせない。自分の両肩を抱き締めている。
アンナの逃げた方を見る。もう追いかけるのは無理だ。追う事よりもコアの方が心配である。こんな状態のコアを一人では置いて行けない。
「……行こう。ここは、血の匂いがきつい」
コアは無言で俺について来る。彼が心配だ。何度も背後を振り返って彼がちゃんとついて来ているのか確かめながら歩いて行く。
少し小さめの奥の入り込んだ場所にある宿へと入る。
テーブルさえもない程小さな部屋に入ると彼が無言で体を洗いに行く。俺はベッドの端に腰掛けて彼の反応を思い出す。
あのような反応は戦争の後や誰かを殺した後、居合わせた人にされていた。血に濡れた俺の手や剣を見て顔を引き攣らせながら。あれは強い恐怖か嫌悪の対象にする反応だ。
ドアが開いてコアが戻って来る。
俺は無言で彼を見る。まだ酷く生気のない顔色をしている。
――――声を掛けられない
「……三年前にアンナがお前と別れてシンと付き合い出したのは気付いたけど、二人は真剣だったのか?」
――――三年前もか。コア様はずっと俺に憎悪を抱いて俺達を追っていたのだろうか。どれぐらい長く? 久里村からずっと追って来ていたのだろうか? どんな気持ちでずっと俺を見ていた?
「どうだろうな。結婚の話は聞いてなかったけど、本気だったとは思う」
「……そうか。疲れた。暫く寝る」
コアは服を着たままだ。少し躊躇して彼の横に行く。
「一緒に横になっていいか?」
彼は無言で俺を見上げる。少なくとも今は視線が合う事に少しだけ安堵する。俺は焦げて下半身だけ残った服を脱ぐとシーツの下の彼の横に滑り込む。煤がシーツに付くのは今は気にしない。
そっと彼に触れて腕枕をすると彼は抵抗なくいつものように俺に擦り寄る。
俺の怪我の度合いも酷かったからだろうか。すぐに寝息が聞こえてくる。
彼の顔を見る。
――――ユキは貴方にとって誰なんだ? 今でも大事な人か?
また胸にチリっとした痛みが走る。
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