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プロローグ
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それはトマトがよく採れた朝の事だった。
背負ったカゴに家の裏の畑で収穫した野菜を詰め込むと少女は玄関扉へと向かった。
その日は雌牛の乳の出も良く夜は師匠にシチューでも作らせようかと少々浮かれ気味であった。
下手くそな口笛をひゅいひゅい鳴らし、軽くスキップをすると少女の栗色のお下げ髪も一緒に揺れる。
夜のシチューの事を考えると紅茶色の瞳が輝いてしまうが無理もない。
師匠は性格はあれだが料理は上手いのである。
特にシチューは絶品なのだ。
朝食が済んだら月光樹の葉の採取ついでに鳥を仕留めてこよう。
そんな事を考えつつ、少女がスキップをしながら家の表に出ると玄関扉の前に人影があった。
調子外れの口笛で気が付いたのか、その人影はこちらに向かって柔らかく笑みを浮かべている。
ひゅい…と口笛が止まった。
少女はその人物に向けて訝しげな視線を向けた。
笑みを浮かべるその人物がこの森深くにあるボロ屋にあまりに似つかわしくなかった為である。
サラサラと揺れる銀髪にスっと通った鼻筋。
綺麗なアーモンド型の碧色の優しげな目元。
薄らと笑みを浮かべた形の良い唇。
服装こそ綿シャツにズボンというラフな町人の姿ではあるが、スラリと長い手足や薄く綺麗に筋肉の付いた肉体からして明らかにお貴族様の臭いがプンプンしていた。
男性は綺麗な形の唇を開くと柔らかい低音の声で警戒している少女に話しかけた。
「やあ、こんにちは」
「…こんにちは。
何か御用ですか?」
「アルフォンス・ヴィンター殿がこちらに住んでいらっしゃると聞いたんだが、ご在宅かい?」
アルフォンスとは師匠の名である。
このお貴族様は師匠の客だったのかと少女は納得すると客人にちょっと待っていろと伝え家の中に入った。
台所に背負っていたカゴを下ろし2階へと階段をパタパタ駆け上がる。
そして階段を上がって右側の扉をガンガンと叩いた。
「ししょー、客人が来てますよ。
貴族のボンボンが来てますー」
10回程扉を叩くが返事がない為少女は扉を開けると、部屋の左側に置かれたベッドに近付き布団をひっぺがした。
ベッドで寝ていた白髪を長く伸ばした老人は、突然の奇襲に漆黒の瞳をカッと見開く。
「んあっ!?
なんじゃ!?」
「客人です師匠。
多分貴族のぼっちゃんが来てます。
…てか酒くさ。
まーた飲みに行ってたんすか」
「うるさいわい。
ちょーっとだけじゃ」
「まあ何でもいいんで着替えて降りて来て下さい。
客人待たせてるんで」
「へいへい」
昨夜の酒がまだ残っているのかおえっと軽く嘔吐きながらベッドから老人が降りるのを確認すると、少女はまたパタパタと階段を駆け下り玄関扉を開けた。
数メートル先でぼんやりと空を眺めていたらしい男性がこちらに目を向ける。
「師匠は着替えたら降りて来るんで中でお待ち下さい」
「ん。
ありがとう」
少女の言葉に男性は微笑むと家の中に脚を進めた。
そして促されるままにダイニングテーブルに備え付けられた椅子に腰掛ける。
…浮いている。
背景に対し男性が浮きまくっている。
ボロっちい家具に囲まれた背景とキラキラしい男性は余りにもミスマッチ過ぎた。
だがその張本人である男性は天井からぶら下げられた草や根が珍しいのか、キョロキョロと見渡すのに忙しそうで、このミスマッチに気が付いてはいない様ではあるが。
本人が気にしていないのなら良いかと、少女は台所に向かい棚から以前師匠が買って来た茶葉缶を取り出した。
結構高かったと言っていたしこれで良いだろうと竈に火を付けポットの湯を沸かす。
食器棚の下段に頭を突っ込み、金持ち用と書かれた箱を引っ張り出すとその中からティーセットを取り出した。
しゅんしゅんと音を立て始めていたポットを火から下ろし、ティーポットにお湯を注ぐ。
貴族が来た時にはこうしろと師匠に言われた手順では、先にティーポットを温めるという作業があったのだ。
普段なら面倒臭い為絶対にやらないが。
面倒な作業を終え出来上がった紅茶を男性の前に置く。
「…どうぞ。
砂糖はそちらのを好きに使って下さい。
ミルクは必要ですか?」
「いや大丈夫だよ。
ありがとう」
「多分もうすぐ来ると思うんでもう少々お待ち下さい。
では…」
「申し訳ないんだけど手が空いているようなら良かったら話し相手になって貰えないかな?」
「…うっす」
では失礼しますと逃げようとしていたのがバレたのか男性は笑顔で少女を引き止めてきた。
金持ちには逆らうなが師匠の教えである。
まあ1人待つのも暇なのだろうと判断し少女は自分の分の紅茶を用意すると男性の向かいに腰掛けた。
腰掛けるや否や男性は碧色の瞳を輝かせながら少女に質問を投げかける。
「まずそうだな…私はレイモンド。
君の名前は?」
「シルフィーです」
「シルフィーか。
風の精霊とは良い名前だ」
「どうも」
「シルフィーはアルフォンス殿の御家族かい?」
「いや弟子です」
「なるほどね。
弟子になってからは長いの?」
「まあ多分15年位ですかね」
「多分?」
「3歳位の時に師匠が孤児院から引き取ったらしいんすけど私小さ過ぎて記憶ないんすよね」
「へえ。
じゃあシルフィーは今18歳?」
「恐らく」
「私と同い年だね。
弟子って事はシルフィーも魔術が使えるのかい?」
「多少は」
「へえ。
属性は?
あっ教会で魔力検査はした?」
「属性は主が風っす。
国に管理されると就職先に縛りが出るんで教会には行ってません」
「なるほどね。
主って事は多属性持ちなんだ」
「はい」
「凄いね。
森の奥に住んでなきゃ家に教会側が押しかけて来てたと思うよ。
弟子ってどんな仕事をするんだい?」
「家畜と畑と師匠の世話っすね」
普段喋る相手と言えば師匠しかいない為シルフィーは自他共に認める口下手だがレイモンドは楽しそうにシルフィーに質問を浴びせ続ける。
何が楽しいのだろうか。
無駄にレイモンドは顔が良い為その輝く笑顔とオーラを多少抑えて欲しいのがシルフィーの本音ではあるのだが。
あまり目に優しい物ではない。
背負ったカゴに家の裏の畑で収穫した野菜を詰め込むと少女は玄関扉へと向かった。
その日は雌牛の乳の出も良く夜は師匠にシチューでも作らせようかと少々浮かれ気味であった。
下手くそな口笛をひゅいひゅい鳴らし、軽くスキップをすると少女の栗色のお下げ髪も一緒に揺れる。
夜のシチューの事を考えると紅茶色の瞳が輝いてしまうが無理もない。
師匠は性格はあれだが料理は上手いのである。
特にシチューは絶品なのだ。
朝食が済んだら月光樹の葉の採取ついでに鳥を仕留めてこよう。
そんな事を考えつつ、少女がスキップをしながら家の表に出ると玄関扉の前に人影があった。
調子外れの口笛で気が付いたのか、その人影はこちらに向かって柔らかく笑みを浮かべている。
ひゅい…と口笛が止まった。
少女はその人物に向けて訝しげな視線を向けた。
笑みを浮かべるその人物がこの森深くにあるボロ屋にあまりに似つかわしくなかった為である。
サラサラと揺れる銀髪にスっと通った鼻筋。
綺麗なアーモンド型の碧色の優しげな目元。
薄らと笑みを浮かべた形の良い唇。
服装こそ綿シャツにズボンというラフな町人の姿ではあるが、スラリと長い手足や薄く綺麗に筋肉の付いた肉体からして明らかにお貴族様の臭いがプンプンしていた。
男性は綺麗な形の唇を開くと柔らかい低音の声で警戒している少女に話しかけた。
「やあ、こんにちは」
「…こんにちは。
何か御用ですか?」
「アルフォンス・ヴィンター殿がこちらに住んでいらっしゃると聞いたんだが、ご在宅かい?」
アルフォンスとは師匠の名である。
このお貴族様は師匠の客だったのかと少女は納得すると客人にちょっと待っていろと伝え家の中に入った。
台所に背負っていたカゴを下ろし2階へと階段をパタパタ駆け上がる。
そして階段を上がって右側の扉をガンガンと叩いた。
「ししょー、客人が来てますよ。
貴族のボンボンが来てますー」
10回程扉を叩くが返事がない為少女は扉を開けると、部屋の左側に置かれたベッドに近付き布団をひっぺがした。
ベッドで寝ていた白髪を長く伸ばした老人は、突然の奇襲に漆黒の瞳をカッと見開く。
「んあっ!?
なんじゃ!?」
「客人です師匠。
多分貴族のぼっちゃんが来てます。
…てか酒くさ。
まーた飲みに行ってたんすか」
「うるさいわい。
ちょーっとだけじゃ」
「まあ何でもいいんで着替えて降りて来て下さい。
客人待たせてるんで」
「へいへい」
昨夜の酒がまだ残っているのかおえっと軽く嘔吐きながらベッドから老人が降りるのを確認すると、少女はまたパタパタと階段を駆け下り玄関扉を開けた。
数メートル先でぼんやりと空を眺めていたらしい男性がこちらに目を向ける。
「師匠は着替えたら降りて来るんで中でお待ち下さい」
「ん。
ありがとう」
少女の言葉に男性は微笑むと家の中に脚を進めた。
そして促されるままにダイニングテーブルに備え付けられた椅子に腰掛ける。
…浮いている。
背景に対し男性が浮きまくっている。
ボロっちい家具に囲まれた背景とキラキラしい男性は余りにもミスマッチ過ぎた。
だがその張本人である男性は天井からぶら下げられた草や根が珍しいのか、キョロキョロと見渡すのに忙しそうで、このミスマッチに気が付いてはいない様ではあるが。
本人が気にしていないのなら良いかと、少女は台所に向かい棚から以前師匠が買って来た茶葉缶を取り出した。
結構高かったと言っていたしこれで良いだろうと竈に火を付けポットの湯を沸かす。
食器棚の下段に頭を突っ込み、金持ち用と書かれた箱を引っ張り出すとその中からティーセットを取り出した。
しゅんしゅんと音を立て始めていたポットを火から下ろし、ティーポットにお湯を注ぐ。
貴族が来た時にはこうしろと師匠に言われた手順では、先にティーポットを温めるという作業があったのだ。
普段なら面倒臭い為絶対にやらないが。
面倒な作業を終え出来上がった紅茶を男性の前に置く。
「…どうぞ。
砂糖はそちらのを好きに使って下さい。
ミルクは必要ですか?」
「いや大丈夫だよ。
ありがとう」
「多分もうすぐ来ると思うんでもう少々お待ち下さい。
では…」
「申し訳ないんだけど手が空いているようなら良かったら話し相手になって貰えないかな?」
「…うっす」
では失礼しますと逃げようとしていたのがバレたのか男性は笑顔で少女を引き止めてきた。
金持ちには逆らうなが師匠の教えである。
まあ1人待つのも暇なのだろうと判断し少女は自分の分の紅茶を用意すると男性の向かいに腰掛けた。
腰掛けるや否や男性は碧色の瞳を輝かせながら少女に質問を投げかける。
「まずそうだな…私はレイモンド。
君の名前は?」
「シルフィーです」
「シルフィーか。
風の精霊とは良い名前だ」
「どうも」
「シルフィーはアルフォンス殿の御家族かい?」
「いや弟子です」
「なるほどね。
弟子になってからは長いの?」
「まあ多分15年位ですかね」
「多分?」
「3歳位の時に師匠が孤児院から引き取ったらしいんすけど私小さ過ぎて記憶ないんすよね」
「へえ。
じゃあシルフィーは今18歳?」
「恐らく」
「私と同い年だね。
弟子って事はシルフィーも魔術が使えるのかい?」
「多少は」
「へえ。
属性は?
あっ教会で魔力検査はした?」
「属性は主が風っす。
国に管理されると就職先に縛りが出るんで教会には行ってません」
「なるほどね。
主って事は多属性持ちなんだ」
「はい」
「凄いね。
森の奥に住んでなきゃ家に教会側が押しかけて来てたと思うよ。
弟子ってどんな仕事をするんだい?」
「家畜と畑と師匠の世話っすね」
普段喋る相手と言えば師匠しかいない為シルフィーは自他共に認める口下手だがレイモンドは楽しそうにシルフィーに質問を浴びせ続ける。
何が楽しいのだろうか。
無駄にレイモンドは顔が良い為その輝く笑顔とオーラを多少抑えて欲しいのがシルフィーの本音ではあるのだが。
あまり目に優しい物ではない。
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