専属魔女は王子と共に

ちゃろっこ

文字の大きさ
21 / 90
魔術師は最もな理由で嫌われる

21

しおりを挟む
「ふぃー満腹です」

「そりゃあれだけ食べて呑めばね」

店を出て膨らんだお腹を摩るシルフィーにレイモンドが苦笑混じりに答えた。
少々美味すぎて食べ過ぎてしまったらしい。

「さて、腹ごなしに買い出しの続きしてくるんで私はこれで」

「何を買うんだい?」

「おやつです。
王都のおやつ屋の支店があるって聞いてるんで」

「あーあの変わったお菓子の販売店か…。
一緒に行って良い?」

「えー」

「気になるんだよ。
あのヘンテコなお菓子が売ってる店」

「仕方ないですね…。
こっちです」

「ありがとう」

結局1人にはなれなかったが仕方ない。
諦めて街を2人で歩く。

最初は邪魔だと思っていたが、一緒に変わった品を見付けてあーでもないこーでもないと話すのは中々に悪くなかった。
恐らく気になる物が似ていたというのもあるかもしれないが。

「このハンマー付き杖かっこ良いっすね。
しかも見てください。
鎖鎌も付いてます」

「これを使う人がいるのかが気になるね」

「売ってるって事はいるんじゃないすか?」

「物理も魔力も飛び道具も使える人だよ?
いたら凄いけど」

「武芸全部マスター系ですか。
余計にかっこ良いっすね。
レイ様使えます?」

「いや無理だね」

「かっこ悪いっすね」

「かっこ良くなれるハードル高くないかい…?」

「あっじゃああっちはどうっすか?
ロケットソード。
ボタン押したら刃先が飛ぶらしいです」

「奇襲には向いてそうだけどナイフで良くないかい?」

「分かってませんね。
飛ぶはずがない物が飛ぶから良いんです。
例えば授業中に地球儀がくるくる回ってても何とも思わないけど、葬式中に棺桶がくるくる回ってたら笑うでしょ?」

「…確かに想像したら不謹慎だけど笑うと思う」

「そう言う事です」

「うん、分からない」

「理解力が足りんのですよ」

「フィーの説明が悪いと思う」

変わり種の武器屋を冷やかしながら騒いでいると肩をポンと叩かれた。
振り返るとミリアが紙袋を抱えて微笑んでいる。
彼女も買い出しらしい。

「あっミリア様」

「シルフィーさん達もお買い物されてたのですね」

「えぇ。
ミリア様もですか?」

「はい。
私は刺繍糸が欲しくて。
アナベル様も本が欲しいと仰るので御一緒させて頂きました」

「アナベル様…、ああこんにちは」

ミリアの隣に目をやるとアナベルも立っている事に漸く気が付いた。
街は人が多くていけない。
気が付きにくい。
気が付いてなかったと分かったのかアナベルの顔が強ばるがこればかりはどうしようもない。

「良い物買えました?」

「えぇ。
王都には無い色も多くて迷ってしまいました。
シルフィー様達は?」

「今からおやつの買い出しです。
1人の予定だったんですけどたまたまお会いしたんで」

「あんな変な服見てたらそりゃ声かけるでしょ」

「変な服ですか?」

「なんか派手な針鼠みたいな変なローブを買おうとしてたんだよ」

「あれかっこ良かったじゃないすか」

「確かに攻撃的な服ではあったけど」

「…たまたま見付けたのですか?」

「あぁうん。
買い出し中に偶然…」

そこまで言ってレイモンドは口を閉じた。
問いかけて来たアナベルが唇を噛み締めていたから。
その瞳に薄らと涙が浮かんでいたから。

アナベルはキッとレイモンドを睨むと踵を返し走り去ってしまった。
その姿はあっと言う間に人混みの中へと消えてしまう。

「あっえっ?
アナベル様?」

「…行っちゃいましたよ」

「行っちゃったね」

「こう言う時は追いかけるって本に書いてありましたよ」

「追いかけた所で無理でしょ。
…ミリア嬢、申し訳ないけど追いかけてあげてくれるかい?」

「えっでもレイモンド様が行かれた方が…」

「私では
申し訳ないけどお願い」

「…分かりました。
失礼致しますね」

「ごめんね。
お願い」

大丈夫ですと困った様に笑ってミリアも走って行く。
修羅場というのはいつ襲いかかるか分からない。
まさに地雷だとシルフィーは1つ賢くなった。

「…また傷付けてしまったね」

「間違いなく」

「容赦ないね」

「見てたら分かりますよさすがに」

「私フラれた側のはずなんだけどなあ」

「より戻したら良いんじゃないすか?」

「何でそうなるのさ。
フィーも想像してみなよ。
夜会みたいな人間が馬鹿みたいにいる中でパートナーを絶対間違えちゃいけないって緊張感」

「目と神経がおかしくなりそうっすね」

「それをやり切る精神力は私にはないよ。
出来なかったら泣かれると思うとよりは戻しちゃダメでしょ。
私もそれを繰り返せる程忍耐力もないし、恐らくいつか逆ギレするよ」

「まあ確かに」

「彼女は今隣国の王子と婚約の話も出てるらしいしそれで良いんだよ」

「レイ様よりは確実に幸せになれそうっすね」

「…やっぱり何か腹立つね」

レイモンドは眉間に皺を寄せシルフィーの頬を指先でブニッと摘み引っ張る。
地味に痛い。

「いひゃいっす」

「痛くしてるからね」

「ひゃーかひゃーか。
ひょうらいてっへんひゃけろひゃーか」

「…何て言ったの?」

「ばーかばーか。
将来てっぺん禿げろばーかです」

「………」

「いひゃっ。
ほんろいひゃいっ」

力が込められ痛いと訴えると漸く解放された。
頬が伸びたらどうしてくれる。

「これちょっと楽しいね」

「あんただけっすよ」

「そりゃそうだね。
フィーが楽しいとは思ってないし」

「そっすか。
あっお菓子屋そろそろ行きません?
売り切れると困るんで」

「…兄上じゃないけどフィーって本当に自由だね」

「そうですか?
あっ後私も馬車内での暇潰しの何か仕入れたいっす」

「暇潰し…?
本屋でも見てみる?」

「そっすね。
行きましょう」

「…フィーはそのままでいてね」

「成長期なんで無理っす」

「いやそっちじゃないけどさ」

彼が言いたい事は何となく分かるが分からないフリをしてシルフィーは歩き出した。

きっと彼自身も辛かったのだろう。
決して本質的には理解して貰えないのに努力し続けなければならない状況が。
周りは当たり前に出来ている事が出来ないプレッシャーが。


まあ分かった所でシルフィーには関係ない話なのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」 聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。 死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。 シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。 「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」 それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。 生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。 これは互いの利益のための契約結婚。 初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。 しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……? ……分かりました。 この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。 夫を好きになったっていいですよね? シェラはひっそりと決意を固める。 彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに…… ※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。 主人公が変わっているので、単体で読めます。

悪役令嬢はヒロイン(♂)に攻略されてます

みおな
恋愛
 略奪系ゲーム『花盗人の夜』に転生してしまった。  しかも、ヒロインに婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢役。  これは円満な婚約解消を目指すしかない!

婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした

宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。 「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」 辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。 (この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)

処理中です...