24 / 90
漸く働くらしい
24
しおりを挟む
とりあえず火を起こしておくかとシルフィーは薪を取り出し火打ち石で火を着ける。
魔術であれば一瞬だがなるべく温存しておきたい。
そしてまだ魔素が潤沢にある内にやる事は済ませておくべきだ。
でなければいつまで楽に動けるのか分からないのだから。
この為にずっと魔封じの腕輪を付けられキャンプ生活をさせられていたのかと漸く気付く。
説明しろよと思わんでもないが面倒臭がって聞かなかったのは自分である。
自業自得の4文字が脳裏に過ぎるがどうしようもあるまい。
焚き火の用意を済ませシルフィーはまた木箱に座って目を閉じた。
風の魔素の声に耳を傾けその時を待つしかない。
異変は既に伝わっていた。
後は待つしかないのだから。
「シルフィーさん?
起きてますか?」
目を開けるともう寝てるのかと若干呆れた様なミリアの顔が目の前にあった。
振り上げられているその手は何のつもりだったのか聞いてみたい所である。
「…起きてますよ」
「あっ良かったです。
教会からスナップを効かせた平手を教わったのですが開始早々に使う事になるとは思いたくなくて…。
あっそうそう儀式が始まりましたのでそれをお伝えに参りました」
「あー…ありがとうございます」
知っているとは言わずシルフィーはまた目を閉じた。
魔素が酷く五月蝿い。
「もうシルフィーさんてば…。
魔獣が来たらどうするんですか…。
…まあ確かに来そうな雰囲気はありませんけれど」
鳥の囀りだけが聞こえる深い森を眺めミリアが呟く。
穏やかな初夏の風が通り抜け青々と茂った葉を揺らす何とも穏やかな光景である。
シルフィーは目を閉じたまま小さく口だけを動かした。
「来ますよ」
「……え?」
「最初は西の方角から。
恐らく1時間以内には」
「西…。
ガウル様の方角です!!
お伝えしなくては…」
「ミリア様は剣術は?」
「でっ出来ません」
「なら塔の中に入り鍵を掛けておいて下さい。
外の轟音が止むまでは」
「えっと…まずガウル様にお伝えしてすぐに…!!
しっシルフィーさんは大丈夫ですか?」
慌てて立ち去ろうとしたミリアが不安げに瞳を揺らす。
「大丈夫っすよ」
目を閉じたまま答えるシルフィーに気を付けて下さいねと告げ、ミリアが今度こそ走り出した。
シルフィーはゆっくりと息を吐く。
その頬を冷や汗が流れ落ちていくが拭う余裕がない。
魔族は魔素の量が全て。
それは魔術師も同様である。
せまり来る魔獣の群れは一体一体は違えど集まった魔素のそれはシルフィーを大きく凌駕していた。
正直魔防の理論は分かっていたが本質的には理解しきれていなかったのだろう。
何故自分より魔素が多い物に魔獣が寄り付かなくなるのか。
シルフィーは今初めて自分より明らかに魔素の量が勝っている者が近付いている時の感覚を知った。
体の芯から凍り付きそうな程の恐怖である。
強者に絶対服従という魔族の理とはこういう事なのかと、シルフィーは震える掌を握り締め苦笑を浮かべた。
何が大丈夫な物か。
何一つ大丈夫な事などない癖に。
ただ唯一の救いは専属契約を結んでいる為、魔素で負けていても膝を折るような事態にはならない事だろうか。
まあ専属契約のせいでレイモンドには膝を折らねばならないのだから、デメリットが大き過ぎる様な気もするが。
魔素の悲鳴が殆ど警報の様に鳴り響く。
逃げろと言っているのか。
死ぬぞとでも言っているのか。
「…分かってるから黙って」
シルフィーは額にかかった汗に濡れた前髪をかき揚げ立ち上がる。
サーベルを構え森の奥を真っ直ぐに見据え大きく息を吐いた。
そして震えの収まった足で地面を蹴り弾丸の様に森へ滑り込んだ。
真っ赤に揺れる鋭い光へとサーベルを真っ直ぐに伸ばす。
「ギャイン!!!!!!!!!!」
額を一直線に切り裂かれた魔獣が横倒しに倒れた。
血飛沫が上がりシルフィーの身体を汚す。
まだピクピクと辛うじて動いている魔獣からサーベルを抜き刃先に付いた血肉をぶんっと振り払った。
目を動かせば何十、いや何百の赤い魔獣の瞳が森の闇の中で光を放っている。
シルフィーはサーベルを構え直し小さく笑う。
ほんと死ぬかもと呟きシルフィーはまた地面を蹴り走り出した。
長い1日は始まったばかりである。
魔術であれば一瞬だがなるべく温存しておきたい。
そしてまだ魔素が潤沢にある内にやる事は済ませておくべきだ。
でなければいつまで楽に動けるのか分からないのだから。
この為にずっと魔封じの腕輪を付けられキャンプ生活をさせられていたのかと漸く気付く。
説明しろよと思わんでもないが面倒臭がって聞かなかったのは自分である。
自業自得の4文字が脳裏に過ぎるがどうしようもあるまい。
焚き火の用意を済ませシルフィーはまた木箱に座って目を閉じた。
風の魔素の声に耳を傾けその時を待つしかない。
異変は既に伝わっていた。
後は待つしかないのだから。
「シルフィーさん?
起きてますか?」
目を開けるともう寝てるのかと若干呆れた様なミリアの顔が目の前にあった。
振り上げられているその手は何のつもりだったのか聞いてみたい所である。
「…起きてますよ」
「あっ良かったです。
教会からスナップを効かせた平手を教わったのですが開始早々に使う事になるとは思いたくなくて…。
あっそうそう儀式が始まりましたのでそれをお伝えに参りました」
「あー…ありがとうございます」
知っているとは言わずシルフィーはまた目を閉じた。
魔素が酷く五月蝿い。
「もうシルフィーさんてば…。
魔獣が来たらどうするんですか…。
…まあ確かに来そうな雰囲気はありませんけれど」
鳥の囀りだけが聞こえる深い森を眺めミリアが呟く。
穏やかな初夏の風が通り抜け青々と茂った葉を揺らす何とも穏やかな光景である。
シルフィーは目を閉じたまま小さく口だけを動かした。
「来ますよ」
「……え?」
「最初は西の方角から。
恐らく1時間以内には」
「西…。
ガウル様の方角です!!
お伝えしなくては…」
「ミリア様は剣術は?」
「でっ出来ません」
「なら塔の中に入り鍵を掛けておいて下さい。
外の轟音が止むまでは」
「えっと…まずガウル様にお伝えしてすぐに…!!
しっシルフィーさんは大丈夫ですか?」
慌てて立ち去ろうとしたミリアが不安げに瞳を揺らす。
「大丈夫っすよ」
目を閉じたまま答えるシルフィーに気を付けて下さいねと告げ、ミリアが今度こそ走り出した。
シルフィーはゆっくりと息を吐く。
その頬を冷や汗が流れ落ちていくが拭う余裕がない。
魔族は魔素の量が全て。
それは魔術師も同様である。
せまり来る魔獣の群れは一体一体は違えど集まった魔素のそれはシルフィーを大きく凌駕していた。
正直魔防の理論は分かっていたが本質的には理解しきれていなかったのだろう。
何故自分より魔素が多い物に魔獣が寄り付かなくなるのか。
シルフィーは今初めて自分より明らかに魔素の量が勝っている者が近付いている時の感覚を知った。
体の芯から凍り付きそうな程の恐怖である。
強者に絶対服従という魔族の理とはこういう事なのかと、シルフィーは震える掌を握り締め苦笑を浮かべた。
何が大丈夫な物か。
何一つ大丈夫な事などない癖に。
ただ唯一の救いは専属契約を結んでいる為、魔素で負けていても膝を折るような事態にはならない事だろうか。
まあ専属契約のせいでレイモンドには膝を折らねばならないのだから、デメリットが大き過ぎる様な気もするが。
魔素の悲鳴が殆ど警報の様に鳴り響く。
逃げろと言っているのか。
死ぬぞとでも言っているのか。
「…分かってるから黙って」
シルフィーは額にかかった汗に濡れた前髪をかき揚げ立ち上がる。
サーベルを構え森の奥を真っ直ぐに見据え大きく息を吐いた。
そして震えの収まった足で地面を蹴り弾丸の様に森へ滑り込んだ。
真っ赤に揺れる鋭い光へとサーベルを真っ直ぐに伸ばす。
「ギャイン!!!!!!!!!!」
額を一直線に切り裂かれた魔獣が横倒しに倒れた。
血飛沫が上がりシルフィーの身体を汚す。
まだピクピクと辛うじて動いている魔獣からサーベルを抜き刃先に付いた血肉をぶんっと振り払った。
目を動かせば何十、いや何百の赤い魔獣の瞳が森の闇の中で光を放っている。
シルフィーはサーベルを構え直し小さく笑う。
ほんと死ぬかもと呟きシルフィーはまた地面を蹴り走り出した。
長い1日は始まったばかりである。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。
離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。
王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。
アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。
断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。
毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。
※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。
※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。
捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。
鷹凪きら
恋愛
「力を失いかけた聖女を、いつまでも生かしておくと思ったか?」
聖女の力を使い果たしたヴェータ国の王女シェラは、王となった兄から廃棄宣告を受ける。
死を覚悟したが、一人の男によって強引に連れ去られたことにより、命を繋ぎとめた。
シェラをさらったのは、敵国であるアレストリアの王太子ルディオ。
「君が生きたいと願うなら、ひとつだけ方法がある」
それは彼と結婚し、敵国アレストリアの王太子妃となること。
生き延びるために、シェラは提案を受け入れる。
これは互いの利益のための契約結婚。
初めから分かっていたはずなのに、彼の優しさに惹かれていってしまう。
しかしある事件をきっかけに、ルディオはシェラと距離をとり始めて……?
……分かりました。
この際ですから、いっそあたって砕けてみましょう。
夫を好きになったっていいですよね?
シェラはひっそりと決意を固める。
彼が恐ろしい呪いを抱えているとも知らずに……
※『ネコ科王子の手なずけ方』シリーズの三作目、王太子編となります。
主人公が変わっているので、単体で読めます。
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる