碧天のアドヴァーサ(旧:最強とは身体改造のことかもしれない)

ヨルムンガンド

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第二章

邂逅

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  「ほら、早く行こうぜ!」

  「もう~、興奮しすぎだよー」

 レマグは表情を輝かせながら、手を引っ張ってくる。クリネは、そんな彼女の様子に笑みがこぼれる。

 こんな心からの笑いを見せられると、こちらまで明るい気分になってしまう。

 久しぶりに見る彼女のはしゃぎようは、レマグの出会ったときのことをクリネに思い出させた。


 









  彼女との出会いは、あまり良いものとは言えなかった。


 







 「あ、クリネちゃん。今から、クエスト行くの?それとも、プライベートかな、かなかな?」

 下衆な笑いを浮かべながら、近づいてくる男がいた。

 ここは、ギルド内。クリネはその頃、上級ハンターになってから日が浅く、どのクエストを受けるべき迷っていたところだった。

 彼の名前すら覚えていないクリネだったが、顔だけはしっかりと記憶していた。
 
 彼は上級ハンターになる前から、よくクリネに声を掛けてくるやからの一人だったからだ。
 
  「クエストに行きますけど……」

  「え、じゃあじゃあ一緒に行こーよー」

 この返答も分かりきっていた。しつこく寄ってきては、クエストに同行しようとする。体のいいナンパだった。

  「前からも言ったように、無理です。そろそろ諦めて下さい」

 この日は、ようやく彼の誘いをキッパリと断ることができた。今までは遠慮がちに言っていたが、この時はクリネは勇気を出した。

 いつもとは違うクリネの態度に、少し驚いた様子の彼。

 しかし、次の瞬間彼は急にクリネの腕を掴んでくる。

 「え」

 「ほらほら、こっち。楽しいこと、色々しようよ~」

 身の危険を感じ、振り解こうとするも出来ない。鍛えているとはいえ、やはり力の差があった。万力のような膂力で掴まれた腕は正直痛かった。

 このままだと、何をされるか分かったものではない。少なくともろくな結果にならないだろう。

 

彼女が焦りだしたその時。

 



 「ちょっと待ちな」




 
 横から声が掛かった。男もクリネも揃って、突然のことにぽかんと口を開ける。

 それは一言で言うのなら、美少女だった。目を引く狐耳も去ることながら、優しげな垂れ目がちの瞳、すらっとした鼻、薄紅色の健康的な艶のある唇、日に煌めく金髪。どこをとっても、完成されていた。


 しかし、それ以外は大変残念だった。

 
 目を引く金髪は寝癖だらけで、ところどころぺしゃんこになっているので、多分途中で直すのを諦めたのだろう。

 服も半袖半パンの部屋着。着こなしも上品とはかけ離れている。肩からチラチラと見える下着が扇情的なのが、少し悔しいと思った。

 一言で表すならば、起きてすぐ出てきた感じだった。

  ヒョイっと、二人の間に入り込んで来る。

 「あんた、誰?」

 男は怪訝な顔になり、少女に問う。クリネだけでなく、この男とも接点がない人物らしい。

 彼女はその質問を待っていたかのように、






  「こいつは、私の親友だから。悪いけど、今からこいつと遊ぶのは、私なんでそこんとこよろしく」

 
 

  「は?」

 
  彼女は、とても早口で捲し立てた。そして、呆然と立ちすくんでいたクリネの腕を掴むと、スタスタと入口の方へ歩き出してしまう。意外にも、握る力は男ほどではないが強かった。
 
 「ち、ちょっ、えっ」

  抵抗する間もなく連れて行かれたクリネは、ギルドの外まで連れられてようやく解放された。

 外は人通りが多く、隠れるのには十分すぎた。彼女のだらしない格好が、若干周りの目を引いていなくもないが。

 「よし、ここまで来れば大丈夫だろ」

 「あ、あああの、助けてもらいありがとうございますっ」

 「いやいや、気にするなって。当然のことだよ、とーぜん」

 そう言いながら彼女は、口の端を吊り上げた。手を伸ばし、ボサボサしてジャングルのようになっている頭を掻く。

 今考えれば、クリネが彼女の笑みを見たのはこれが初めてだったと思う。

 「で、でも申し訳ないのですが……」

 クリネは、感謝の気持ちと同時に申し訳ない気持ちにもなっていた。

 「ん、どうした?」 



  「私、あなたのこと全然覚えてないんです…どこかでお会いしましたっけ?あ、あの時かな、いや違う違う……」




 手を振り回しながら、あたふたとし始めるクリネ。

 クリネからしてみれば、自分の記憶にない人物が『親友だから』という理由で助けてくれたのだ。それなのにこちら側が何も覚えていないなんて、なんて失礼なことかと思っていた。

 クリネが恩人に目線を向けると、彼女は体を曲げてプルプルと小刻みに震えている。

 「大丈夫ですか、お腹痛いんですか?」

 「ぷッ、プハハハハハハハハハハ!!!!!」
 
 彼女は、堰を切ったように笑いだした。女性にしては、些か品位に欠けるレベルで。

  「ひぃひぃ…もう、限界。どこまで天然なんだよ……見当違いというか、的外れっていうか。アハハハハハ……やばい、笑いが止まらんな」

 彼女は、目尻に涙すら浮かべていた。

 「あれは、あいつを撒くための嘘だよ。お腹抱えてたのは、笑いを堪えてたの」

 「そ、そうだったんですか。恥ずかしいですね…」

 クリネは自分の考えが杞憂に終わったことに安堵しつつも、恥ずかしさで頬を赤らめた。湯気が出てきてもおかしくないと思った。

  彼女は、クリネに微笑みながら提案する。

 「あのさぁ、あんたじゃ呼びにくいから、名前教えてくれない?私の名前はレマグ。………レマグ=ロクラタイナが本名」

 「えっ、ロクラタイナってこの区のギルドマスターもそんな苗字だったっ気が…」

 クリネは名乗り上げるのも忘れ、つい思ったことを口にしてしまう。すると、レマグはクリネの口に人差し指を当てる。そして、クリネにそっと耳打ちをしてくる

 「何を隠そう、私はアルフレッド爺ちゃんの孫なのだ。えっへん」

 「えええっ!?」

 今日一番の驚きだった。この区のギルドマスターであるアルフレッド=ロクラタイナは歴戦の勇士として有名だ。クリネもその伝説は聞き及んでいた。

 かの魔導戦争の頃は、『戦神』とともに大いなる貢献をしたと言う。

 得意武器が槍だったという話まで広まっているというのだから、その凄まじさがよく分かる。彼の二つ名が『覇者チャンピオン』であるというのも頷ける。

  「で、でも孫がいるなんて話は聞いたことないような」

 そこまで噂が広まっている人物に孫がいるとなれば、すぐにそれは周知の事実となるはずだろう。

 それなのに、ギルドにある程度所属しているクリネでも全く知り得ない情報だった。市井しせいの人々もきっと同じだろう。

 「あー、それはね。爺ちゃんは自分の孫が自分のせいで目立つのを嫌ったみたいなんだよね。五月蝿いうるさいマスコミに対して、一切の情報を教えなかったんだよ。だから、私も基本的に名字は名乗れない」
 
  「へぇ、そんな背景があったんですね。道理で話を聞かないわけか」

 クリネは、腑に落ちた表情になる。

 確かに生きる伝説の孫娘となれば、それだけで有名になってしまうだろう。もしかしたらハンターになる道を周囲から期待され、半ば強制的にハンターにさせられてしまう可能性もあった。

 どうやら、今までの感じを見る限り、ハンターには自分の意思でなったようだが。

 しかし、一つの疑問が解決したと同時に、別の疑問が浮かび上がる。

  「じゃあ、どうして私には名字を教えてくれたんですか?会ったばかりなのに……」

 「それは、クリネのことを私が信用したからさ」

 信用。簡単にレマグは言うが、それがどれほど重いものかは彼女もよく理解しているだろう。

 ハンターとは、言ってしまえば協力してなんぼである。

 いくら良い武器を使ったって、個人の能力スペックが高くたって、所詮はごく一部を除いて人間である。一人じゃ太刀打ち出来ない魔物は沢山いる。

 人間が最も得意なことは何か。その問いを突き詰めると、出てくる答えは「数で攻める」ことだろう。

 だからこそ、人は狩猟協会ハンターズギルドを設置し、部隊パーティーを組み、派閥クランを作り、同志集団クラスタを形成してきた。

 その上で最も大切なのは信用だということは、ハンターなら誰しもが理解している。信用なくして協力ができるわけがない。

 「クリネは、ちょっと抜けたとこがあるけど、しっかりしてるし好感持てるよ。嘘がつけなそうだし」

 「そ、その通りでございます……」

 クリネは、この短い時間に人間性を客観的に分析できるレマグに驚いていた。さぞ、人付き合いも上手いのだろう。

  「まあ、これから困ったことあったら、いつでも頼ってくれよ」

 「そんな悪いですよ……」
 
 「敬語禁止!もう私らは友達でしょ?だから頼っていーの。私もそうするから」
 
 「えっ…わ、分か、りました…いや、分かった……」

  彼女のペースについていけないクリネであったが、何とか返事をする。

 「そう、それでよぉーし」

 満足そうに頷くレマグ。そして、

 「クリネは今、暇?」

 「クエストに行こうかと…」
 
 「そんなん、いつでも出来るじゃん!ほら、ゲーセン行こーぜ!」

 「ちょっ、待っ、」
 
 また、腕を引っ張られてしまう。その時のレマグの顔は、少年のように興奮し、活気に満ち溢れているようにクリネは感じた。

 












 「よし、とーちゃっく」

 クリネが回想に耽っているうちに、目的地に到着していたようだった。

 この区にあるゲームセンターの中で最大のものだと、レマグは前に語っていた。

 出会った頃、連れて行かれたのもここだった。クリネも飽きるほど足を運ばされたので、どの場所にどの筐体があるのかをある程度把握していた。

 ウィン、と小さな音がして自動扉が開く。

 まず、入ってきたのは音の洪水。様々なゲームが織り成す十重奏デクテット

 「おぉ…」

 レマグの口から声が漏れる。室内の冷気がこちらに流れてきたためだった。

 この日は、まだ暦の上では春と言えるが、それでもかなりの暑さだった。

 また快晴であることも相まって、夏並の気温になると天気予報が伝えていたのを、クリネは思い出した。
 
  ゲームセンターの中は、基本的に入口付近に新しく設置したものを傾向がある。

 それ以外のコーナーにあるゲームは、攻略し尽くしてしまった。クリネもレマグに並ぶ形でどの機械にも、その名前が載っている。

 「おっ、あのゲームは見たことないな……ちょっと行ってみようぜ」

 早速、彼女の優れたゲーム観察眼が新作を見つける。どうやら、ハンドルがついているところ見る限り、レースゲームのようだ。

 「レマグ、財布見当たらないけど、お金持ってきてるの?」

 「金ならここにある」

 そう言って、彼女は自身の左腕を指さす。正確には、左腕についた次世代時計型VRハード「エルンスト」を。

 「こいつ、最近のアプデでますます便利になってきてね~。端末並みに色んなことが出来るの。電話から株取引デイトレードまで、なんでもごされって感じ」

 「よ、よく分からないけど、お金はあるんだね。良かった~」

 二人は、ディスプレイの前に置かれた椅子に座る。レマグは、ハンドルやクラッチ、シフトレバーの感触を確かめ、クリネは入金口を探している。

 お互いが準備を完了させると、派手なBGMが鳴り響き、ゲームが開始されたことをこれでもかとアピールしてくる。

 「いつも通り、手加減はしないからな?」

 「望むところだよ」

 「おお、言うようになったな。よし、行くぞ!」

 そう言って、レマグは意気揚々と対戦モードを選択した。

 


 
 
 
 
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