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ざーこざーこ

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「もう限界だ、サカスティ・メスガキビッチ子爵令嬢!
 キミとの婚約破棄をここで宣言する!!」
「……えっ」

 華やかなパーティ会場で突然言い渡された婚約破棄に、言われた子爵令嬢は驚きを隠せない。

「えぇーっ、殿下ってば見た目だけでなく頭の中までボケボケになったんですかぁ?」

 そして驚きながらも平常運転で流暢に回る、子爵令嬢の辛辣な口調。

「そ、そういうキミの物言いが嫌だと言ってるんだサカスティ!」
「もー殿下と来たら第十八王子と言う只でさえザコザコな立場なのに、これで子爵令嬢の私に見限られたらどうすんですかぁ?

 あとは貧民か奴隷くらいしかお相手が……ああ、ゴブリンかスライムのメスぐらいなら相手してくれるかもですねえ」
「貴様っ!殿下にそれ以上の無礼な物言いはッ゙」

 王子護衛の騎士が、堪らず剣を抜く。


「あっれぇ、斬っちゃうんですか騎士爵さん?

 でも不敬罪は本来懲役か罰金刑ですから、怪我をさせたりましてや殺してしまったら過剰危害ですよぉ。

 しかも子爵の私の方が爵位が上ですから、貴方だけでなく騎士爵家の方まで影響が行きますけど」
「くっ、このメスガキ令嬢が」

 メスガキ令嬢。
 メスガキビッチ子爵令嬢を略したこの言葉は、いつしか彼女を表す、というか非難する言葉として使われるようになっていたが。

「メスガキ令嬢。ふふん、良い響きですねぇ」

 当人はむしろそう呼ばれる事を喜んでいるようだった。


「ドゥフッ、騒がしいと思って来てみれば。
 何事ですかな二人共」
「こ、これは皇子殿下」

 このパーティには、外遊に来ていた隣国の帝国の第一皇子も来賓で招かれていた。

「実はカクカクシカジカで……」

 王子は身内の恥と思いながらも事情を説明する。


「デュフフフ、事情は分かりましたが。
 しかし、それは実に勿体ないでござる」
「はぁ?」

 帝国皇子の言葉に、目を点にする王子。

「殿下にはお分かりにならないかも知れませんが、その彼女の言葉、拙者にはご褒美でございますぞ」
「は、はあ……?」

「やだこの皇子、キモい」
「ドゥフッ❢❣」

 背後からのメスガキ令嬢の言葉に、ビクリと体を震わせる帝国皇子。

「至近距離からだと何たる破壊力!
 思わず心の臓を鷲掴みにされて呼吸が止まりそうになったでござるぞ」
「うわ、ガチの変態さんだったかあ。正直ドン引きー」
「も、もっと!もっと罵倒ヲォ」
「いや本当人生終わってるなぁ。こんなのが皇子とか、帝国の将来が心配だよ」
「ヌオオオオオッ」


「すげえあの皇子、メスガキ令嬢相手に臆する事なく対処してるよ」
「というか普通にドMなだけでは」

 その場に集まった他のパーティ参加者の貴族達も、二人の様子を遠巻きにそんな会話を交わすのだった。

      ❦

「本当に、良いのですかな子爵令嬢?」
「うん、あのザk……殿下もその方が良いって」

 パーティ会場の後、メスガキ令嬢の婚約破棄は正式に決定した。と言うより渡りに船で新たな婚約が成立した。

「私さ」
「うん?」
「昔はこんな性格というか口調じゃなかったんですよ?」

 メスガキ令嬢ことサカスティは、新たな婚約者にそう口を開く。

「母が亡くなって、父も仕事で家を開ける事が多くて誰もかまってくれない時期があったんです」
「でも、悪ぶってメスガキ令嬢になったら反応してくれるようになった、でござるな?」

 婚約者の帝国皇子がそう聞き返すと、サカスティは静かに頷いた。

「始めは無理してキャラ作ってたんですけどー、そのうち楽しくなっちゃって、いつしかこっちが素になって戻せなくなっちゃって」
「ああ成程、分かる気がするでござる」
「それって……もしかして皇子も?」
「デュフフフ、これは元から拙者の素でござるよ」

「……うわキモっ」
「おっと、幻滅したでござるか?
 今なら返却クーリングオフも受け付け中」

 本気かどうか不明な口調で皇子がそう言うが。

「まさか」

 と、あっさりメスガキ令嬢は否定する。

「むしろザコザコな皇子が音をあげるくらい、これから更に罵ってあげるつもりなんで覚悟してくださいよー」
「デュフフ……音を上げるどころか、もう期待しかないんだが」
「ホントに真正の変態クズ人間なんですねー」
「……ドゥフッ❢❣」

 皇子はそう言うと、喜びの余り失神するのだった。
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