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ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た――『レベッカ』ダフネ・デュ・モーリア

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こんなに怖い物語があるだろうか。

とにかく『レベッカ』は怖い。

それは人が死にまくるとか、ホラーとかスプラッターとか、そういう恐怖ではない。

この世で最も恐ろしいもの――人の心の深淵に、手で触れるという恐ろしさだ。

◇あらすじ
海難事故で妻を亡くした貴族のマキシムに出会い、後妻に迎えられた『わたし』。
だが彼の優雅な邸宅マンダレーには、美貌の先妻レベッカの存在感が色濃く遺されていた。
家政婦長のダンヴァーズ夫人に敵意を向けられ、不安と混乱にさいなまれながら暮らすわわたしは、やがて先妻レベッカの死の真相を知るのだが――。

女の子なら誰もが夢見る玉の輿、それを叶えた少女の物語である。

大金持ちのイケメン、美しいお城、豪華な食事、たくさんの使用人たち――一見すると少女漫画や乙女ゲーみたいだ。

だが、きらびやかな世界は、常に不穏な気配に包まれている。

まず、『わたし』にとって最大の恐怖は、『マキシムは私を愛していないのではないか』ということ。

出会ってすぐ結婚したし、前妻のレベッカは才智と美貌に長けた女性。

どこにいても何をしていても、その影がつきまとう。

ただでさえ、『わたし』は自分に自信がなくて、ビクビク・オドオドしているのだから、なおさら精神的に不安定になる。

何で私と結婚したの?と聞きたいけど、聞いたら全てが終わる気がする。

身寄りのない『わたし』は、意地悪なお年寄の話し相手をして生計を立てていたので、その境遇に戻りたくないというのもあるだろう。

でも、知り合って日の浅い男性が、自分を好きでもないのに結婚したという恐怖は、物すごいものがあると思う。

何で?と毎日思うし、どんな答えをもらっても安心はできないだろう。

マキシムのことを何も知らないし、『わたし』のこともマキシムは知らないし。

そして、小姑みたいなダンヴァーズ夫人の企みで陥れられる、ダンスパーティーの仮装のシーン。

嫌がらせとか恥をかくとかそういうレベルではなく、血も凍るぐらい怖い。

他にもある。

マキシムも、姉のベアトリスも、マキシムの友人のフランクも、『何か』を知っているけど『わたし』に隠しているのだ。

その秘密が、レベッカの影と同じくらいの恐怖となって襲いかかってくる。

『わたし』は何とかしてマキシムの心に近づこうとするのだけど、やんわりかわされてしまうし、まるで子供扱いされてしまう。年の差があるから余計にそうだ。

みんな、何かを秘密にしてる。私には教えてくれない。

何を隠しているの?教えて。

不安は際限なく増幅し、恐怖のピークに達したとき、マキシムから告げられる衝撃の真実。

それは、子どもだった『わたし』を大人に変え、そして――目にも鮮やかな結末が待っている。

1文1文が輝いていて、世界観、キャラ、ロマンス、サスペンス、ミステリー、ゴシックホラー、どの観点から切り取っても最高の物語である。

◇好きな一文
なのにわたしはマキシムと呼ばねばならない。

◇こんな方におすすめ
シンデレラストーリー・玉の輿と聞いてぐっとくる方
怖い話が読みたいけど、本格ホラーや幽霊やスプラッタは苦手な方
恋愛小説がお好きな方
イギリス・お城・美しい景色がお好きな方
人間の心理に興味のある方
悪女に騙されたい方
21歳くらいの女性の感覚を知りたい方
夢中でページをめくりたい方
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