その人事には理由がある

凪子

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部屋に一人残された千春は、そこで大きく息をついた。

背中が冷や汗でびっしょり濡れている。

――怖かった……。

生きてると分かっていても、怖かった。ホラー映画に出てくるお化けのようだった。

痩せて骨のようにがりがりで。生気がなくて、薄気味悪くて。

――何であんな人が、うちの会社にいるんだろう。

そのとき新井が部屋に戻ってきて、「よっこらしょ」と言いながら自分の席についたので、千春は思わず尋ねていた。

「新井さん、あの人は……」

「ん? 声かけてみたんだけどね、戻ってこなかったよ」

新井は言葉を取り違えたのか、噛み合わない回答を返してくる。

何から聞いたものか思いあぐねていると、

「門倉さんは初めてかな。小嶋さん、あんまり会社に来ないから」

「あ、はい。どこの部署の方なんでしょうか」

「今は海外事業グループかな」

――え、あの人が?

海外事業グループは営業本部の中でも花形で、成澤部長の直属部隊と呼んでも差し支えない部署である。

千春は思わず、人事のデータベースにコジマと打ち込んで検索を開始していた。

新井はやや声を低めて、

「いろいろあって、最近まで休職してたからね。ちょっと注意しておいてあげて」

話を聞くと、何でも長い休職期間の後、今年の四月から復職して、六月まで人事課預かりで働いていたという。

千春と入れ替わる形で元の部署に戻ったそうだ。

そうなんですかと相づちを打ちつつ、千春は首をひねっていた。

海外事業グループは人事課と別フロアとはいえ、同じ階にある。

小嶋という人が七月からそこにいるのなら、今まで顔を合わせる機会は何度となくあったはずだ。

全く見覚えがないということはあり得ないはずなのだが……。

検索が終了し、社内のコジマ姓の人物がピックアップされる。

その中から海外事業グループに絞り込むと、該当する人物のデータに辿りつくことができた。

小嶋博子こじま・ひろこ。事務職、三十七歳。

もう少し若いかと思ったが、言われてみればそれくらいにも見えた。

短大卒だから、今年で入社十七年目だ。

課長補佐の金子が出社して、ほどなく九時を報せる始業のチャイムが鳴る。
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