リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~ 【第8回ライト文芸大賞 奨励賞受賞】

凪子

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秋の夕闇

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何か言いかけた桜を押しのけるようにして、肇は店内に踏み込み、

「探したんだぞ、お前ー、こんなしょぼい店で何やってんだよ」

明らかに酒を飲んでいると分かる、調子っぱずれの大声だった。

松田は顔を歪め、肇の肩を掴んで店外に押しやろうとする。

肇が抵抗したものだから、そこで軽く揉み合いになった。

店内にいた客がそそくさと立ち上がる。

桜は即座に席まで駆け寄り、謝りながらその場で会計をすませた。

その時、大きな物音が響いてテーブルと椅子が蹴倒され、口から血を流した肇が床に仰向けに倒れていた。

はっと目をやると、突き飛ばした健が肩で大きく息をしている。

その形相は普段とは比べ物にならないほど険しかった。

「出ていけ」

何が起こっているのか分からず、桜は凍りつく。

「痛ってええ……」

ミノムシのように丸まっていたかと思うと、肇は床に目がけて唾を吐き、「クソが」と悪態をついた。

「酷いじゃねえの、健。親友に向かってそれはないだろ」

耳ざわりの悪い、ねばねばとした金臭い声だった。

ポケットから携帯を取り出した桜に向かって、

「なあ、お姉ちゃん。お前、もうこいつとヤッた?」

健の顔から血の気が失せた。

肇はにたにたと嫌な笑顔を浮かべながら健を指さし、

「やめといたほうがいいよ。こいつ顔はいいけどゲスだから。てか、こいつが何やってきたか知ってる?ぜーんぶ教えてやろうか」

怒りに拳を震わせている健の横を通りすぎ、京介の足が肇の急所を踏みつけていた。

ぎゃっという情けない悲鳴を上げて、肇が悶絶する。

「京ちゃん」

驚いた健の横で、京介が歌うような口調で言った。

「汚い口で喋ってんじゃねえよ」

穏やかな表情だが、その手に包丁が握られているのを見て、桜は戦慄した。
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