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巡り来る、春
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「今さら……今さら何なんだよ。
お前さっき言ったよな?桜がどれだけ理不尽な目に遭ったか、想像することしかできないとか何とか。桜が本当に助けが欲しかったとき、それを無視して見捨てておいて、ようやくもう一回立ち直りかけたら、横からひっさらっていくってどんだけ図々しいんだよ」
叱責は徐々に苛烈になり、その矛先は桜にも向けられた。
「お前もお前だよ。何ぬぼーっと突っ立ってんだよ、言ってやれよ。どの面下げて来やがったんだって。綺麗な言葉並べ立てちゃいるが、結局こいつはお前を利用しようとしてるだけなんだぞ」
「それは違います」
「違わねえよ!」
高村の反論にかぶせるようにして、強い口調で健は言った。
「確かに虫の良すぎる話だと思います。簡単に承諾してもらえるとは思ってません。
でも、山下さんがこのまま終わってしまうのは、あまりにも惜しい。僕が思ってるのはそれだけなんです。あなた方も、それは分かっておられるはずです」
健が言い返そうとしたが、それより先に京介が言った。
「桜はこんなちっぽけな店でなく、もっと世界で輝けるはずなのに……ですね?」
「はい」
「パリがそんなに偉いのかよ」
健は吐き捨てたが、高村は取り合おうとしなかった。
「きちんと見合うだけの報酬は支払います。もし来てくれるなら、今できる最高の条件でお迎えすることを約束します。あのとき助けることができなかった、せめてものお詫びです」
「違う」
桜の声は震えていた。
「別に……高村さんに助けてほしかったわけじゃありません。私はただ、普通に働きたかっただけ。それができなかったのは私が弱かったのと、あの職場が腐ってたから。
高村さんには何の責任もありません。だから、お詫びしてもらう必要はありません」
「もういいだろ、帰れよ」
健は言って、高村の肩を押して扉まで押しやった。
「待ってください。せめてもう少し話を」
「しつこいな。何を言ったところで、こいつは行かねえよ」
苛立ちをあらわにする健を、京介は襟首をつかんで殴りつけた。
そして低い声で、
「一遍、頭冷やしてこい」
唇の端が切れ、軽く血が滲んでいる。
健は恨みがましく京介を睨みつけたが、やがて足音も荒く去っていった。
お前さっき言ったよな?桜がどれだけ理不尽な目に遭ったか、想像することしかできないとか何とか。桜が本当に助けが欲しかったとき、それを無視して見捨てておいて、ようやくもう一回立ち直りかけたら、横からひっさらっていくってどんだけ図々しいんだよ」
叱責は徐々に苛烈になり、その矛先は桜にも向けられた。
「お前もお前だよ。何ぬぼーっと突っ立ってんだよ、言ってやれよ。どの面下げて来やがったんだって。綺麗な言葉並べ立てちゃいるが、結局こいつはお前を利用しようとしてるだけなんだぞ」
「それは違います」
「違わねえよ!」
高村の反論にかぶせるようにして、強い口調で健は言った。
「確かに虫の良すぎる話だと思います。簡単に承諾してもらえるとは思ってません。
でも、山下さんがこのまま終わってしまうのは、あまりにも惜しい。僕が思ってるのはそれだけなんです。あなた方も、それは分かっておられるはずです」
健が言い返そうとしたが、それより先に京介が言った。
「桜はこんなちっぽけな店でなく、もっと世界で輝けるはずなのに……ですね?」
「はい」
「パリがそんなに偉いのかよ」
健は吐き捨てたが、高村は取り合おうとしなかった。
「きちんと見合うだけの報酬は支払います。もし来てくれるなら、今できる最高の条件でお迎えすることを約束します。あのとき助けることができなかった、せめてものお詫びです」
「違う」
桜の声は震えていた。
「別に……高村さんに助けてほしかったわけじゃありません。私はただ、普通に働きたかっただけ。それができなかったのは私が弱かったのと、あの職場が腐ってたから。
高村さんには何の責任もありません。だから、お詫びしてもらう必要はありません」
「もういいだろ、帰れよ」
健は言って、高村の肩を押して扉まで押しやった。
「待ってください。せめてもう少し話を」
「しつこいな。何を言ったところで、こいつは行かねえよ」
苛立ちをあらわにする健を、京介は襟首をつかんで殴りつけた。
そして低い声で、
「一遍、頭冷やしてこい」
唇の端が切れ、軽く血が滲んでいる。
健は恨みがましく京介を睨みつけたが、やがて足音も荒く去っていった。
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