ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

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ぎゅっと体が密着して、顔が紘ちゃんの胸のあたりに押しつけられているものだから、息が苦しかった。

今までこんなふうにハグされたことなんてない。

うんと小さい頃はあったかもしれないけど、物心ついてからは手もつないだことがなかった。

(何か……ドキドキする)

私は顔を上げようとしたけど、抱きしめる力は強まるばかりで、何だか抵抗しちゃいけないような気がした。

彼の気がすむまで、このままでいてあげたいと。

一分か二分ぐらい、その体勢でいたと思う。

ようやく、はぁ、と大きな息をつくと、紘ちゃんは私を解放した。

顔が火照って、心臓がばくばくしている。

何となく気まずくて、私はコーヒーを一気飲みし、一人でむせ返った。

「大丈夫?」

ごほごほやっていると、紘ちゃんは慌てて水を持ってきてくれた。

気が抜けて、ほっとしたら笑いが止まらなかった。

「あはははっ、ははっ」

紘ちゃんは目を細めて笑った。

「変な舞ちゃん」

「だって、おかしいんだもん。紘ちゃん、何か別の人みたいだったし」

ぎくっと紘ちゃんが身を引いたが、私は気づかなかった。

「爽君もね、帰ってきてからずっとおかしいんだ。私に結婚しようって言ったり、紘ちゃんのお見舞いに行かせないようにしたり、カウンセラーになったり。
ねえ知ってた?紘ちゃん。アメリカにいるとき、爽君と連絡取ってた?」

緊張が解けたせいか、今までの疑問がどっと噴き出して、私は矢継ぎ早に尋ねていた。

紘ちゃんは戸惑うかと思ったけど、意外と落ちついた様子で言った。

「連絡は取ってなかったけど、爽兄がスクールカウンセラーとして赴任することは知ってたよ。結婚のことはびっくりだけど、まあ昔から爽兄は舞ちゃんのこと好きだったから、なるほどね~って感じかな」

「嘘だぁ~。爽君が私を好きなわけないよ。いっつもいじめてくるもん」

「あの人は典型的な、好きな子をいじめるタイプの男だよ」

涼しい顔で紘ちゃんは言ってのける。
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