ディエス・イレ ~運命の時~

凪子

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本編

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唇が離れると、私は静かに言った。

「爽君。紘ちゃんを……殺そうとしたの?」

青ざめた爽君の顔の真横で、夜空に花が咲く。

星屑のようなきらめきは、儚さだけを残して消えていく。

「今の前世の話と、紘ちゃんのこと、関係してるんでしょう?」

「……それは」

ヘリは旋回しながら、ゆっくりと漆黒の空を横切っていく。

東京スカイツリーさえ足で蹴飛ばせそうだ。

「答えて」

言い募ると、爽君はぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜ、頭を膝に伏せた。

「やっぱり駄目か……。せめて何か、一つだけでも思い出してくれたらと思ったんだが」

「爽君」

「降ろしてくれ」

私の言葉を遮り、爽君は運転手に命じた。

その途端、機体が急降下して、思わず悲鳴が上がる。

「きゃっ!」

みるみるうちにヘリポートが、地上が近づく。

爽君はもう、私に見向きもしなかった。

「爽君。ねえ、爽君ってば!」

ヘリを降りると、肩で風を切り裂くようにして、爽君はずんずん突き進んでいく。

私は必死で追いかけながら、彼に呼びかけた。

「意味が分かんないよ。中途半端なことしないで、ちゃんと説明して」

爽君はトイレの前で足を止め、振り向いた。

険のある表情に、私はぎくりとした。

(な、何?)

「遮ったのはお前だろ。俺の話を半分も聞かずに、すぐに紘二の話題にすり替えた」

「だって、紘ちゃんは死にかけたんだよ?」

「俺だって死んでるよ!!」

爽君は激昂した。

あまりの剣幕に、私は一歩後ずさった。

心臓が破裂しそうに痛い。
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