47 / 206
第3部 仇(あだ)
5:オトラル戦2
しおりを挟む
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
トゥルイ:同上の第4子。
イェスンゲ:次弟カサルの子供 (チンギスにとってはオイ)。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
ジェベ:チンギスの臣。四狗の一人。ベスト氏族。
スブエテイ・バートル:チンギスの臣。四狗の一人。ウリャンカイ氏族。
トクチャル:駙馬。オンギラト氏族(正妻ボルテの一族)。
ダイル:オゴデイ家の臣。コンゴタン氏族(第一部の終章『問責の使者2 前編』のスイケトゥと同族)
ホラズム側
スルターン:ホラズム帝国の君主。
人物紹介終了
チンギスの下には既にスベエテイから、以下の報告が入っておった。
『オトラルを遠望できるところに陣を布き、三千人隊と共に己は留まり、ジェベ隊の到着を待つと。
そして残り七千人隊を細かく分けて、周辺の町や村を調査しておりますと。
また千人隊長のダイルを発し、オトラルに宣戦布告したと。
その際、カンの命に違わず、軍勢の数を誇張して告げ報せたと。』
そしてその二日後には、ジェベ隊到着の報をたずさえた伝令をスベエテイが送って来た。
チンギスはトゥルイ、ボオルチュ、シギ・クトクと共に報告を受けた。
「引き続き、オトラル周辺の町や村を調査中です。
少なくとも調査を終えた範囲では、人はほとんどおらず、食糧や家畜も残されておりませぬ。
また麦わらも見当たりませぬ。
ゆえに馬草はこの先、不足する可能性があります。
ただし川や水路は多く、また雪も薄くは降り積もっておりますので、人馬が水に困ることはないでしょうとのこと。」
「オトラル以外にも城壁に囲まれた町があると聞くが、やはり兵はおらぬのか。」
とトゥルイが尋ねる。
「はい。兵ばかりか、戦えそうな大人の男さえ見当たりませぬ。
女子供もおらず、留まっておるのは老人ばかり。
それに病気の者や歩くのが難しい者たち。
いずれの町や村も放棄されたことは明らかです。」
「我が軍のサイラーム進駐の情報がオトラルに伝わり、人々が群れをなして逃亡しておるとの報告は、既に間諜(スパイ)から入っておりました。
またスルターンは農民や商人に逃げるよう布告を出しておると、投降して来た者の多くが言っております。
それに従ったのでしょう。
ただ兵が全く残っておらぬことは予想外です。」
とシギ・クトク。
「先の糧食や麦わらの件を考え合わせれば、兵は逃げたというより、オトラルに集結したと見た方が良いでしょう。」
とボオルチュ。
「敵は準備を万全にして、我らを迎え撃とうとしておるのは間違いあるまい。
報告。御苦労。しばし休まれい。」
とチンギスは伝令に退出の許可を出し、
その後四人で今もたらされた情報から、作戦の変更が必要か否かを検討した。
そして翌日チンギスは右翼のジョチ、イェスンゲ隊にはアリス川の右岸側を、左翼のチャアダイ、オゴデイ隊には左岸側を進軍させた。
更にその二日後、大中軍を二分し、およそ半分を率いて自らは右岸側を、残りをトゥルイに率いさせ左岸側を進ませた。
後衛は輜重隊の護衛を兼ねて、駙馬のトクチャルに委ねた。
運河や川は凍っており、モンゴル軍の進軍を遅らせるものはなかった。
街道沿いの畑にも果樹園にも、人は全く見当たらなかった。
ただやがて将兵の注意は前方にのみ向けられることになった。
そこには確かにオトラルの偉容があった。
高台が小山の如くに盛り上がる。
最も外側に外城の城壁。
その内に、より高き内城の城壁がある。
その二重の城壁の内側には、他の高き建築物を従える如くに、本丸とおぼしきものがそびえておった。
そして、それは天空へと至らんとする如きいく本もの小塔をも、また備えておった。
とはいえモンゴルの将兵が、これを旅行者の如くの感嘆の想いで眺めた訳ではなかった。
彼らの顔には一様に厳しさが宿っておった。
これがまだ敵の騎馬の大軍であれば、心荒ぶるということはありえたかもしれぬ。
しかし待っているのは攻城戦であった。
これを落とすために、多くの味方が殺されるであろう、
多くの部下が殺されるであろう。
最悪は己が殺されるかもしれぬ。
その暗澹たる想いが、心中を占めざるを得なかったのである。
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
トゥルイ:同上の第4子。
イェスンゲ:次弟カサルの子供 (チンギスにとってはオイ)。
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
シギ・クトク:チンギスの寵臣。戦場で拾われ正妻ボルテに育てられた。タタルの王族。
ジェベ:チンギスの臣。四狗の一人。ベスト氏族。
スブエテイ・バートル:チンギスの臣。四狗の一人。ウリャンカイ氏族。
トクチャル:駙馬。オンギラト氏族(正妻ボルテの一族)。
ダイル:オゴデイ家の臣。コンゴタン氏族(第一部の終章『問責の使者2 前編』のスイケトゥと同族)
ホラズム側
スルターン:ホラズム帝国の君主。
人物紹介終了
チンギスの下には既にスベエテイから、以下の報告が入っておった。
『オトラルを遠望できるところに陣を布き、三千人隊と共に己は留まり、ジェベ隊の到着を待つと。
そして残り七千人隊を細かく分けて、周辺の町や村を調査しておりますと。
また千人隊長のダイルを発し、オトラルに宣戦布告したと。
その際、カンの命に違わず、軍勢の数を誇張して告げ報せたと。』
そしてその二日後には、ジェベ隊到着の報をたずさえた伝令をスベエテイが送って来た。
チンギスはトゥルイ、ボオルチュ、シギ・クトクと共に報告を受けた。
「引き続き、オトラル周辺の町や村を調査中です。
少なくとも調査を終えた範囲では、人はほとんどおらず、食糧や家畜も残されておりませぬ。
また麦わらも見当たりませぬ。
ゆえに馬草はこの先、不足する可能性があります。
ただし川や水路は多く、また雪も薄くは降り積もっておりますので、人馬が水に困ることはないでしょうとのこと。」
「オトラル以外にも城壁に囲まれた町があると聞くが、やはり兵はおらぬのか。」
とトゥルイが尋ねる。
「はい。兵ばかりか、戦えそうな大人の男さえ見当たりませぬ。
女子供もおらず、留まっておるのは老人ばかり。
それに病気の者や歩くのが難しい者たち。
いずれの町や村も放棄されたことは明らかです。」
「我が軍のサイラーム進駐の情報がオトラルに伝わり、人々が群れをなして逃亡しておるとの報告は、既に間諜(スパイ)から入っておりました。
またスルターンは農民や商人に逃げるよう布告を出しておると、投降して来た者の多くが言っております。
それに従ったのでしょう。
ただ兵が全く残っておらぬことは予想外です。」
とシギ・クトク。
「先の糧食や麦わらの件を考え合わせれば、兵は逃げたというより、オトラルに集結したと見た方が良いでしょう。」
とボオルチュ。
「敵は準備を万全にして、我らを迎え撃とうとしておるのは間違いあるまい。
報告。御苦労。しばし休まれい。」
とチンギスは伝令に退出の許可を出し、
その後四人で今もたらされた情報から、作戦の変更が必要か否かを検討した。
そして翌日チンギスは右翼のジョチ、イェスンゲ隊にはアリス川の右岸側を、左翼のチャアダイ、オゴデイ隊には左岸側を進軍させた。
更にその二日後、大中軍を二分し、およそ半分を率いて自らは右岸側を、残りをトゥルイに率いさせ左岸側を進ませた。
後衛は輜重隊の護衛を兼ねて、駙馬のトクチャルに委ねた。
運河や川は凍っており、モンゴル軍の進軍を遅らせるものはなかった。
街道沿いの畑にも果樹園にも、人は全く見当たらなかった。
ただやがて将兵の注意は前方にのみ向けられることになった。
そこには確かにオトラルの偉容があった。
高台が小山の如くに盛り上がる。
最も外側に外城の城壁。
その内に、より高き内城の城壁がある。
その二重の城壁の内側には、他の高き建築物を従える如くに、本丸とおぼしきものがそびえておった。
そして、それは天空へと至らんとする如きいく本もの小塔をも、また備えておった。
とはいえモンゴルの将兵が、これを旅行者の如くの感嘆の想いで眺めた訳ではなかった。
彼らの顔には一様に厳しさが宿っておった。
これがまだ敵の騎馬の大軍であれば、心荒ぶるということはありえたかもしれぬ。
しかし待っているのは攻城戦であった。
これを落とすために、多くの味方が殺されるであろう、
多くの部下が殺されるであろう。
最悪は己が殺されるかもしれぬ。
その暗澹たる想いが、心中を占めざるを得なかったのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる