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第3部 仇(あだ)
14:オトラル戦11:カンクリ騎馬軍の出撃2
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人物紹介
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。
ソクメズ:イナルチュクの側近にして百人隊長。カンクリ勢
トガン:同上
ブーザール:同上
人物紹介終了
城門の方から騒然とした音が聞こえて来た。
馬のいななきやら、誰やらの何事かを命ずる声、何かと何かがぶつかる音までが。
外城の城壁はこの城市の発展と共に増設されたので、いくつもの突出部を有するいびつな形であり、おおよそとはいえ四角形の内城の城壁とは対照的である。
この突出部はその防衛上の死角をなくすという点で有用であった。
それゆえ今回のモンゴル進軍の報せを受けて重点的に増強修復が施されておった。
今、イナルチュクがおるのもその一つであった。
しばらくして城門に直結する街路に、集結しつつある部隊が建物の隙間から見え隠れした。
少し経ってイナルチュクは出撃準備が整いましたとの報告を伝令から受けた。
既にカラチャから城壁上の弓兵部隊は準備完了との報告を受けていたので、
「それでは、出撃させます。援護の方、よろしく頼みますぞ。」
とカラチャに一言断ってから、
伝令に
「出撃を許可するとトガンに伝えよ。」
と命じ、
更に投石隊長に
「投石隊は我が中止を命じるまで投石を続けよ。トガンたちの動きを助けるのだ。」と告げた。
許可を待つ間にトガンは部隊に訓示した。
作戦は各隊長から伝わっておるはずであったが、念押しして悪いことは何もない。そしてその最後に付け加えた。
「それから敵の投石機の周りには、我が軍の放った石が散らばっておる。勝手知る地ではあるが、馬の足を取られぬよう気をつけよ。」
そして戻って来た伝令からイナルチュクの許可が伝えられると、
「出撃の許可が下りた。開門せよ。」
とトガンは大声で命じた。
重くて頑丈なかんぬきが抜かれ、十人以上の者が総掛かりで押すと、重々しききしみ音を立てて大門が開く。
この門もモンゴルの襲来に備えて更に鉄を重ね打ちし、防備を強化しておった。
門が開かれるとともに寒風が土ぼこりを上げて舞い込み、顔に突き刺さる。
そのために想わず顔をしかめて伏せた。
顔を上げてから「出るぞ。」との号令とともに、トガンは上げておった右手を降ろした。
騎馬隊の全てが城門を出るのを確認すると、トガンは「門を閉じよ。」と命じた。
それから改めて組立て中の投石機のある方角を確認する。
少しばかりうねる草原の先。そのあたりには、城内から投石が続けられておる。途中には何の障害もない。
「第二隊、第三隊はこれ以後自らの隊長の指示に従え。
第一隊は我とともに敵の護衛を討つぞ。」
そう命じ終わると、大音声で叫んだ。
「第一隊。突撃。」
そして自らもまた愛馬を疾駆させる。
何事かを命じておるのだろう、モンゴルの隊長らしき者の張り上げる声が、聞こえはする。
しかし、敵騎兵の動きは有効な防衛線を張るものとはほど遠い。
各兵がてんでばらばらに投石機を守ろうとして、前に出て来るに留まっておった。
城からの投石に当たるのを恐れておるようだ。
他方、組立て兵であろう、こちらの動きに気付いて、逃げ出す者がたくさんおった。
トガンは五人の配下の名を呼ばわり、
「各々、十人隊を率いて前の敵を討て。残りは我とともに突破せよ。」
と命じた。
その間にも既に弓を引き絞る動きに入っておった。
この時に自軍の投石がぴたりと止んだ。
間合いに入るとともに、第一矢を狙いを定めて放つ。
敵の肩の防具に当たり、はねかえるのが見えた。
視界の片隅に自隊の動きが見えた。
敵の矢に当たって倒れる騎馬、落ちる騎士、大きくもんどりうって倒れる騎馬の姿も。
敵味方の怒号が交錯する。
トガンは続けざまに二の矢をつがえる。
敵兵にいよいよ迫る。
まさに放たんとした時、耳先を敵の矢がかすめたために、慌てて矢を取り落とす。
もはや敵は目前であった。
音が消えた。
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。
ソクメズ:イナルチュクの側近にして百人隊長。カンクリ勢
トガン:同上
ブーザール:同上
人物紹介終了
城門の方から騒然とした音が聞こえて来た。
馬のいななきやら、誰やらの何事かを命ずる声、何かと何かがぶつかる音までが。
外城の城壁はこの城市の発展と共に増設されたので、いくつもの突出部を有するいびつな形であり、おおよそとはいえ四角形の内城の城壁とは対照的である。
この突出部はその防衛上の死角をなくすという点で有用であった。
それゆえ今回のモンゴル進軍の報せを受けて重点的に増強修復が施されておった。
今、イナルチュクがおるのもその一つであった。
しばらくして城門に直結する街路に、集結しつつある部隊が建物の隙間から見え隠れした。
少し経ってイナルチュクは出撃準備が整いましたとの報告を伝令から受けた。
既にカラチャから城壁上の弓兵部隊は準備完了との報告を受けていたので、
「それでは、出撃させます。援護の方、よろしく頼みますぞ。」
とカラチャに一言断ってから、
伝令に
「出撃を許可するとトガンに伝えよ。」
と命じ、
更に投石隊長に
「投石隊は我が中止を命じるまで投石を続けよ。トガンたちの動きを助けるのだ。」と告げた。
許可を待つ間にトガンは部隊に訓示した。
作戦は各隊長から伝わっておるはずであったが、念押しして悪いことは何もない。そしてその最後に付け加えた。
「それから敵の投石機の周りには、我が軍の放った石が散らばっておる。勝手知る地ではあるが、馬の足を取られぬよう気をつけよ。」
そして戻って来た伝令からイナルチュクの許可が伝えられると、
「出撃の許可が下りた。開門せよ。」
とトガンは大声で命じた。
重くて頑丈なかんぬきが抜かれ、十人以上の者が総掛かりで押すと、重々しききしみ音を立てて大門が開く。
この門もモンゴルの襲来に備えて更に鉄を重ね打ちし、防備を強化しておった。
門が開かれるとともに寒風が土ぼこりを上げて舞い込み、顔に突き刺さる。
そのために想わず顔をしかめて伏せた。
顔を上げてから「出るぞ。」との号令とともに、トガンは上げておった右手を降ろした。
騎馬隊の全てが城門を出るのを確認すると、トガンは「門を閉じよ。」と命じた。
それから改めて組立て中の投石機のある方角を確認する。
少しばかりうねる草原の先。そのあたりには、城内から投石が続けられておる。途中には何の障害もない。
「第二隊、第三隊はこれ以後自らの隊長の指示に従え。
第一隊は我とともに敵の護衛を討つぞ。」
そう命じ終わると、大音声で叫んだ。
「第一隊。突撃。」
そして自らもまた愛馬を疾駆させる。
何事かを命じておるのだろう、モンゴルの隊長らしき者の張り上げる声が、聞こえはする。
しかし、敵騎兵の動きは有効な防衛線を張るものとはほど遠い。
各兵がてんでばらばらに投石機を守ろうとして、前に出て来るに留まっておった。
城からの投石に当たるのを恐れておるようだ。
他方、組立て兵であろう、こちらの動きに気付いて、逃げ出す者がたくさんおった。
トガンは五人の配下の名を呼ばわり、
「各々、十人隊を率いて前の敵を討て。残りは我とともに突破せよ。」
と命じた。
その間にも既に弓を引き絞る動きに入っておった。
この時に自軍の投石がぴたりと止んだ。
間合いに入るとともに、第一矢を狙いを定めて放つ。
敵の肩の防具に当たり、はねかえるのが見えた。
視界の片隅に自隊の動きが見えた。
敵の矢に当たって倒れる騎馬、落ちる騎士、大きくもんどりうって倒れる騎馬の姿も。
敵味方の怒号が交錯する。
トガンは続けざまに二の矢をつがえる。
敵兵にいよいよ迫る。
まさに放たんとした時、耳先を敵の矢がかすめたために、慌てて矢を取り落とす。
もはや敵は目前であった。
音が消えた。
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