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第3部 仇(あだ)
96 第2次ファナーカト戦1:ティムール・マリクとブジル2
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人物紹介
ホラズム側
ティムール・マリク:ホジェンド城主
モンゴル側
ブジル 百人隊長 タタル氏族
人物紹介終了
(前注 ファナーカトはシルダリヤ川の東岸(右岸)にあり、グーグルマップにて、「shahrukhiya」と入力すれば良い。この名の由来は、ティムール朝の開祖ティムール(本話のティムールとは何の関係もない)が再建し、その子のシャー・ルフにちなんで名づけたと伝わっております。
ところで、再建が必要なほどにはモンゴル軍により破壊されなかったろうと、つまり荒廃は他の原因であると、近代の歴史家バルトルドはジュワイニーの書の伝えるところに依拠して主張しています。私も同意見ですが、モンゴル軍は征服した城市・都城の城壁を破壊するを常としたので、それが遠因かもしれないとは想います。
現在、このshahrukhiyaのすぐ下流にアングレン川の支流が、そして少し離れた下流にその本流が(シルダリヤ川に)流れ込みます。800年前も同様であったか、あるいは、むしろすぐ下流の方が本流であったかは分かりません。しかし、いずれにしろ川の合流地には、土砂が堆積しやすく、ゆえに中州ができます。本話の戦いの場はそこです。
またホジェンド戦の前に、このファナーカトは陥落したと、ジュワイニーは伝えています。ですから、この時点では既にモンゴル占領下にあり、また第2次戦役であるわけです)
冬の凍てつく風が吹き始めて数日後の夜、ティムール・マリクは遂にホジェンド城塞を捨てる決断をなした。よもやの時のために準備しておった船七十艘に物資を積み込み、そして配下とその家族共々乗り込むと逃亡に入った。その様を船団自らがかかげる松明が煌々と照らしておった。
ティムールは、船団の周りに11隻の装甲船を配して、護衛の役を委ねておった。自らは残る1隻に己の家族とともに乗り込み、先頭近くにおった。
家族と同乗するか否かは迷うところであったが、別の船に乗せれば、それの護衛のための装甲船が必要になる。戦闘力の高い装甲船を有効に活用するには、これが最善の策と想われたのだ。
その他の船も、防火仕様ではないものの、この時に備え船上に屋根と側壁を急ごしらえしており、それが間に合わなかったものは、盾を船縁に並べておった。
先のサマルカンドにての軍議の後のこと。
ブジルは、母方のジェベ爺様にあらためて誘われておった。
我が指揮下に入らぬか。我はスルターン追討の命を受けた。滅多にない大功を挙げる機会ぞ。そなたが望むなら、我の方からカンに一言申し上げよう。さすれば、許してくださろう。シギ・クトクも反対はするまいと。
千人隊長である父は、この西征には参加しておらぬ。ために、ブジル百人隊はチンギス直属として従軍しており、ブハーラー、サマルカンド戦にては、同じタタル勢ということで、シギ・クトクの軍に配されておった。
いえ、武人たるもの、ブグラーの仇を討たねばなりませぬ、それにこれはスイケトゥ・チェルビとの約束ごとでもありますればとして、その誘いを断ったのだった。
そして、今、その脳裏には赤ん坊の姿があった。正妻との間に授かった生後1年にも満たない娘であった。
どうしてそんなあどけない顔が頭に浮かぶのか、と不思議に想う。
何せ、周りにおる者は己が百人隊のいかつい男ばかり。
更には川に沿って吹き抜けるは日ごとに冷たさを増し、今では痛くさえ感じる寒風である。
目に入るは、両岸を遠くに隔てる川面である。ブジルもやはり他のモンゴル兵同様泳げぬ。ゆえにその様は恐怖の感情しか生まぬ。
ホラズム側
ティムール・マリク:ホジェンド城主
モンゴル側
ブジル 百人隊長 タタル氏族
人物紹介終了
(前注 ファナーカトはシルダリヤ川の東岸(右岸)にあり、グーグルマップにて、「shahrukhiya」と入力すれば良い。この名の由来は、ティムール朝の開祖ティムール(本話のティムールとは何の関係もない)が再建し、その子のシャー・ルフにちなんで名づけたと伝わっております。
ところで、再建が必要なほどにはモンゴル軍により破壊されなかったろうと、つまり荒廃は他の原因であると、近代の歴史家バルトルドはジュワイニーの書の伝えるところに依拠して主張しています。私も同意見ですが、モンゴル軍は征服した城市・都城の城壁を破壊するを常としたので、それが遠因かもしれないとは想います。
現在、このshahrukhiyaのすぐ下流にアングレン川の支流が、そして少し離れた下流にその本流が(シルダリヤ川に)流れ込みます。800年前も同様であったか、あるいは、むしろすぐ下流の方が本流であったかは分かりません。しかし、いずれにしろ川の合流地には、土砂が堆積しやすく、ゆえに中州ができます。本話の戦いの場はそこです。
またホジェンド戦の前に、このファナーカトは陥落したと、ジュワイニーは伝えています。ですから、この時点では既にモンゴル占領下にあり、また第2次戦役であるわけです)
冬の凍てつく風が吹き始めて数日後の夜、ティムール・マリクは遂にホジェンド城塞を捨てる決断をなした。よもやの時のために準備しておった船七十艘に物資を積み込み、そして配下とその家族共々乗り込むと逃亡に入った。その様を船団自らがかかげる松明が煌々と照らしておった。
ティムールは、船団の周りに11隻の装甲船を配して、護衛の役を委ねておった。自らは残る1隻に己の家族とともに乗り込み、先頭近くにおった。
家族と同乗するか否かは迷うところであったが、別の船に乗せれば、それの護衛のための装甲船が必要になる。戦闘力の高い装甲船を有効に活用するには、これが最善の策と想われたのだ。
その他の船も、防火仕様ではないものの、この時に備え船上に屋根と側壁を急ごしらえしており、それが間に合わなかったものは、盾を船縁に並べておった。
先のサマルカンドにての軍議の後のこと。
ブジルは、母方のジェベ爺様にあらためて誘われておった。
我が指揮下に入らぬか。我はスルターン追討の命を受けた。滅多にない大功を挙げる機会ぞ。そなたが望むなら、我の方からカンに一言申し上げよう。さすれば、許してくださろう。シギ・クトクも反対はするまいと。
千人隊長である父は、この西征には参加しておらぬ。ために、ブジル百人隊はチンギス直属として従軍しており、ブハーラー、サマルカンド戦にては、同じタタル勢ということで、シギ・クトクの軍に配されておった。
いえ、武人たるもの、ブグラーの仇を討たねばなりませぬ、それにこれはスイケトゥ・チェルビとの約束ごとでもありますればとして、その誘いを断ったのだった。
そして、今、その脳裏には赤ん坊の姿があった。正妻との間に授かった生後1年にも満たない娘であった。
どうしてそんなあどけない顔が頭に浮かぶのか、と不思議に想う。
何せ、周りにおる者は己が百人隊のいかつい男ばかり。
更には川に沿って吹き抜けるは日ごとに冷たさを増し、今では痛くさえ感じる寒風である。
目に入るは、両岸を遠くに隔てる川面である。ブジルもやはり他のモンゴル兵同様泳げぬ。ゆえにその様は恐怖の感情しか生まぬ。
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