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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第5話 兄弟ゲンカ 2
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人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
人物紹介終わり
しかしである。やはりとも言い得る。この後、ジョチの隊が到着して後も、どちらからも挨拶にうかがうこともせず、そして軍議にて顔を会わせた途端のことであった。この二人は言い争いを始めたのである。
チャアダイはチンギスがこの場におらぬのをいいことに、「何故このメルキトの子種が我らの大将たりえるのか。」と言いつのり、
ジョチはジョチで「チャアダイが己よりあらゆる面で劣るにもかかわらず、何故なんくせをつけるのか」と言い放つ有様であった。
共に興奮して立ち上がり、唾を飛ばしてまくし立てる。さすがにボオルチュを筆頭とする他将の存在を意識してか、殴り合いにまでは至らなかった。
しかしそのままウルゲンチ攻めの作戦において、二人が真っ向から対立することになったから、モンゴル軍にとっては最悪であった。ジョチは平和裏に工作を進めウルゲンチを降伏させる道を探らんとし、チャアダイはひたすらに強攻を口にした。
それでも最初は強攻を控え、まずは降伏を勧告するとのジョチの策が採用された。チンギスがジョチをウルゲンチ攻めの大将に選んだこともあったが、何よりそれはそもそもモンゴルの常道であった。それゆえボオルチュの賛成を得られたし、オゴデイでさえ賛意を示し、チャアダイを説得する側に回ったのである。
それでもジョチとチャアダイの指揮権を巡る争いは収まりを見せた訳ではなかった。降伏勧告の使者を送りその返答を待つ間に、それまでに得た敵都城の情報の共有を目的に開かれた二度目の軍議のことであった。ジョチがチャアダイとオゴデイの発した先発隊の行動を問題にしたのであった。敵をまんまとおびきだして、壊滅するを得た作戦ではあったが。
「先発隊の任務は戦闘ではない。まずは敵状の偵察をなし、更には本隊の到着を敵に告げ報せ、降伏を勧告することのはず。それが我が隊の到着を待つこともなく、敵への攻撃を始めるとはなにごとぞ。隊長はタージー・ベグといったな。祖先と父上の定めた法に背いたは明らか。斬らしめよ」
ジョチはわずかにすごみを効かせて言う。あくまでわずかであるが。
「何を言うか。あの者はその戦闘にて敵数百人を殺したのであるぞ。たたえこそすれ、非難するとは何事か。しかも法に問うなど言語道断」
とチャアダイは顔を紅潮させてまくしたてる。
「チャアダイよ。あの者はお前の配下であったな。ならば、お前の教育が足らぬのではないか」
二人が早々にやり合い始めたので、オゴデイは何かを言おうとするが、良い言葉が見つからず、ただおろおろするばかり。おまけに今回の先発隊の行動は、チャアダイが執拗に主張して他将に認めさせたものであった。それをチャアダイが口にして、まさに火に油を注ぐ状況にならぬかと、余計におろおろする始末であった。
そこを収めんとしたのは、やはりボオルチュであった。
「ジョチ大ノヤンよ。言われておることは正しいと想います。しかし敵に損害を与えたことは事実。しかも味方にはほとんど犠牲は出ておらぬのです。ジャサクで裁くには当たらぬでしょう。恐らくは少しでも名を上げたいとの想いから出た勇み足。行いはほめられたものではありませんが、一方でその心意気は買うべきでしょう。そこはわたくしが良く言っておきますゆえ、どうかお心をおさめられますよう。寛容さこそ、上に立つ者には求められるものです」
ここで一端言葉を切ると、次はチャアダイの方に顔を向け、
「チャアダイ大ノヤンもお父上がいつもおっしゃっておられることを覚えておられるでしょう。攻め急ぎは避けるべきであるとのお言葉を」
「分かっておる」
とチャアダイはそう答え、引き退いたが。
「これを理由に敵が降伏を拒んだら、どうするのだ」
とジョチは最後まで不満を口にしておった。
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
チャアダイ:同上の第2子
オゴデイ:同上の第3子
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
人物紹介終わり
しかしである。やはりとも言い得る。この後、ジョチの隊が到着して後も、どちらからも挨拶にうかがうこともせず、そして軍議にて顔を会わせた途端のことであった。この二人は言い争いを始めたのである。
チャアダイはチンギスがこの場におらぬのをいいことに、「何故このメルキトの子種が我らの大将たりえるのか。」と言いつのり、
ジョチはジョチで「チャアダイが己よりあらゆる面で劣るにもかかわらず、何故なんくせをつけるのか」と言い放つ有様であった。
共に興奮して立ち上がり、唾を飛ばしてまくし立てる。さすがにボオルチュを筆頭とする他将の存在を意識してか、殴り合いにまでは至らなかった。
しかしそのままウルゲンチ攻めの作戦において、二人が真っ向から対立することになったから、モンゴル軍にとっては最悪であった。ジョチは平和裏に工作を進めウルゲンチを降伏させる道を探らんとし、チャアダイはひたすらに強攻を口にした。
それでも最初は強攻を控え、まずは降伏を勧告するとのジョチの策が採用された。チンギスがジョチをウルゲンチ攻めの大将に選んだこともあったが、何よりそれはそもそもモンゴルの常道であった。それゆえボオルチュの賛成を得られたし、オゴデイでさえ賛意を示し、チャアダイを説得する側に回ったのである。
それでもジョチとチャアダイの指揮権を巡る争いは収まりを見せた訳ではなかった。降伏勧告の使者を送りその返答を待つ間に、それまでに得た敵都城の情報の共有を目的に開かれた二度目の軍議のことであった。ジョチがチャアダイとオゴデイの発した先発隊の行動を問題にしたのであった。敵をまんまとおびきだして、壊滅するを得た作戦ではあったが。
「先発隊の任務は戦闘ではない。まずは敵状の偵察をなし、更には本隊の到着を敵に告げ報せ、降伏を勧告することのはず。それが我が隊の到着を待つこともなく、敵への攻撃を始めるとはなにごとぞ。隊長はタージー・ベグといったな。祖先と父上の定めた法に背いたは明らか。斬らしめよ」
ジョチはわずかにすごみを効かせて言う。あくまでわずかであるが。
「何を言うか。あの者はその戦闘にて敵数百人を殺したのであるぞ。たたえこそすれ、非難するとは何事か。しかも法に問うなど言語道断」
とチャアダイは顔を紅潮させてまくしたてる。
「チャアダイよ。あの者はお前の配下であったな。ならば、お前の教育が足らぬのではないか」
二人が早々にやり合い始めたので、オゴデイは何かを言おうとするが、良い言葉が見つからず、ただおろおろするばかり。おまけに今回の先発隊の行動は、チャアダイが執拗に主張して他将に認めさせたものであった。それをチャアダイが口にして、まさに火に油を注ぐ状況にならぬかと、余計におろおろする始末であった。
そこを収めんとしたのは、やはりボオルチュであった。
「ジョチ大ノヤンよ。言われておることは正しいと想います。しかし敵に損害を与えたことは事実。しかも味方にはほとんど犠牲は出ておらぬのです。ジャサクで裁くには当たらぬでしょう。恐らくは少しでも名を上げたいとの想いから出た勇み足。行いはほめられたものではありませんが、一方でその心意気は買うべきでしょう。そこはわたくしが良く言っておきますゆえ、どうかお心をおさめられますよう。寛容さこそ、上に立つ者には求められるものです」
ここで一端言葉を切ると、次はチャアダイの方に顔を向け、
「チャアダイ大ノヤンもお父上がいつもおっしゃっておられることを覚えておられるでしょう。攻め急ぎは避けるべきであるとのお言葉を」
「分かっておる」
とチャアダイはそう答え、引き退いたが。
「これを理由に敵が降伏を拒んだら、どうするのだ」
とジョチは最後まで不満を口にしておった。
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