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番外編 ウルゲンチ戦ーーモンゴル崩し
第16話 ジョチ2&3の矢1
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ジョチ2
人物紹介
モンゴル側
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
クナン:ジョチ家筆頭の家臣。ゲニゲス氏族。
人物紹介終了
攻め手に加わっておらぬジョチ部隊。といって、攻囲を解く訳にも行かぬ。それでは明らかな軍令違反となってしまう。ただ、やはり手持ち無沙汰であった。ゆえに愛馬の世話をして暇をつぶしておった。そんな、ようやく春の日射しの暖かみが感じられる日中のこと。
「翁」
久しぶりにジョチがそう呼んでくれたので、想わず顔をほころばせたクナンであった。預かった子供の頃からしばらくは、いつも、そう呼んでくれたのであった。しかし、その後に続いた問いに、想わず顔をくもらせた。
「父上は、跡継ぎを誰にするか、決めておられるのだろうか? 何ゆえ、跡継ぎを明言されぬのだろうか?」
もちろん、クナンとしてもジョチ様ですと答えたいところだし、自身、そう願うが、しかし、その件について、カンから聞いたことはなかった。正直、己も知りたく想うが、そもそも、尋ねられる類いのことではない。
果たして、己の心中が顔に現れておったのか、それとも、なかなか答えが返って来ぬことから、そこに想い及んだのか、
「よい。今の問いは忘れよ。我は自らの天幕に戻る」との言があった。
そこで日頃想うところを正直に答えた。
「おそらく、自身が死ぬということが、あまり現実のこととして捉えられておられぬのではないかと」
「年を取ると、そのように考えるものなのか? 翁自身も、そう想うのか?」
「ハハ。全くその通りで。といっても、日によってころころ変わる有様です。早晩くたばると想うときもあれば、いつまでも長生きするぞと想うときも、またあります」
実直に述べたゆえか、ジョチがこのところまとわせておった憂いをほどいた笑顔を見せてくれ、ゆえにクナンは再び顔をほころばせるを得たのだった。
3の矢1
人物紹介
ホラズム側
クトルグ・カン ウルゲンチの政府軍の実質的な総指揮官。
人物紹介終わり
同日――そしてそれは、オグルたちと会見して、2日後でもあった――のクトルグ。場所もやはりオグルたちと会った居室。今し方、ある人物と面会を終えたばかりであった。
そもそも初老に近いということもあり、この男、あえてそうせずとも、そうなってしまうのだが、このところはより一層、張り付いた如くとなっておったその厳めしき顔。そこに珍しくも笑みを浮かべておった。
あの者ならば、第3の矢となりうるかもしれぬ。まさに神が我の元に送ってくださったか。正直、シャイフとオグルの策だけでは、何かが足りぬと想っておった。この押し込められた状況を打開するには。
あの者であったか。我が運命を開ける鍵は。
その想いつめたがごとき表情、何かにとりつかれたが如くの表情。ただ経験上、我が運命を開くを得た者は、往々にして、あのような表情をしておった。
我は知るぞ! あのような表情の者のみに見えるものがあることを。
日没後の礼拝の時刻まではまだ間があったが、クトルグ・カンは早速にもその場で数珠を手にして、天上の神に感謝を捧げた。
人物紹介
モンゴル側
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
クナン:ジョチ家筆頭の家臣。ゲニゲス氏族。
人物紹介終了
攻め手に加わっておらぬジョチ部隊。といって、攻囲を解く訳にも行かぬ。それでは明らかな軍令違反となってしまう。ただ、やはり手持ち無沙汰であった。ゆえに愛馬の世話をして暇をつぶしておった。そんな、ようやく春の日射しの暖かみが感じられる日中のこと。
「翁」
久しぶりにジョチがそう呼んでくれたので、想わず顔をほころばせたクナンであった。預かった子供の頃からしばらくは、いつも、そう呼んでくれたのであった。しかし、その後に続いた問いに、想わず顔をくもらせた。
「父上は、跡継ぎを誰にするか、決めておられるのだろうか? 何ゆえ、跡継ぎを明言されぬのだろうか?」
もちろん、クナンとしてもジョチ様ですと答えたいところだし、自身、そう願うが、しかし、その件について、カンから聞いたことはなかった。正直、己も知りたく想うが、そもそも、尋ねられる類いのことではない。
果たして、己の心中が顔に現れておったのか、それとも、なかなか答えが返って来ぬことから、そこに想い及んだのか、
「よい。今の問いは忘れよ。我は自らの天幕に戻る」との言があった。
そこで日頃想うところを正直に答えた。
「おそらく、自身が死ぬということが、あまり現実のこととして捉えられておられぬのではないかと」
「年を取ると、そのように考えるものなのか? 翁自身も、そう想うのか?」
「ハハ。全くその通りで。といっても、日によってころころ変わる有様です。早晩くたばると想うときもあれば、いつまでも長生きするぞと想うときも、またあります」
実直に述べたゆえか、ジョチがこのところまとわせておった憂いをほどいた笑顔を見せてくれ、ゆえにクナンは再び顔をほころばせるを得たのだった。
3の矢1
人物紹介
ホラズム側
クトルグ・カン ウルゲンチの政府軍の実質的な総指揮官。
人物紹介終わり
同日――そしてそれは、オグルたちと会見して、2日後でもあった――のクトルグ。場所もやはりオグルたちと会った居室。今し方、ある人物と面会を終えたばかりであった。
そもそも初老に近いということもあり、この男、あえてそうせずとも、そうなってしまうのだが、このところはより一層、張り付いた如くとなっておったその厳めしき顔。そこに珍しくも笑みを浮かべておった。
あの者ならば、第3の矢となりうるかもしれぬ。まさに神が我の元に送ってくださったか。正直、シャイフとオグルの策だけでは、何かが足りぬと想っておった。この押し込められた状況を打開するには。
あの者であったか。我が運命を開ける鍵は。
その想いつめたがごとき表情、何かにとりつかれたが如くの表情。ただ経験上、我が運命を開くを得た者は、往々にして、あのような表情をしておった。
我は知るぞ! あのような表情の者のみに見えるものがあることを。
日没後の礼拝の時刻まではまだ間があったが、クトルグ・カンは早速にもその場で数珠を手にして、天上の神に感謝を捧げた。
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