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始まり
くそぽっちゃりの部屋2
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「この国の名前はグラダラスと言うのは知ってますよね?」
「まぁ、ゴルデスマンさんがさっき言ってたからね」
これで覚えていなければ、アフォと呼ばれていたかもしれない。
「十年前、王位を継ぐ予定だった父さんが殺されたことにより、王位継承権は僕たち兄弟に託されたんです」
まぁそうなるよね。
「兄さんを王にしようと考えるアルフレッド派と、僕を王にしようと考えるエル派。二つの派閥が生まれました」
派閥……ねぇ。エルたちを見てるととても派閥争いをしているようには見えなかった。
と言ってもくそぽっちゃりの方は青ざめて死にそうな感じにしてたからなんだけど。
「数年間、僕たちは厳しい教育を受けました。朝起きてすぐにご飯を食べると、この国の政治に関する勉強、それから武術や魔術……様々なことを教えられてきました」
その時のことを思い出してからか、少し苦しそうな顔をしていた。
それだけみんなは彼らに期待をしてた、ってことなのかな?
「兄さんは類稀なる才能を発揮し、そのどれをとっても優れた成績を残しました」
「うぇ、あれが!?」
思わず素で驚いてしまう。
勉強はまぁこれだけ本を読んでいるのなら出来ると言うのは分かりはする、魔法も私にはよく分からないのでギリ理解してあげる。
だけど武術に関しては有り得ない。
あんなぽっちゃりで実は身軽に動ける……なんてことがあればギャップもいいとこだ。
──萌えないけどね。
「兄さんを知らない人はそう思うかもしれませんね」
同意見だったようで、エルは苦笑いを見せ、続けて話し始める。
「そんな訳で、アルフレッド派は勝利を確信しました。けれど、当の本人は王になる気は毛頭なく。自分の好きなように生きたい、と言い出し部屋に篭もるように。そして、最近は獣人好きの病に犯されてしまって……そんな人がこの国の王になるのは反対だ、と声を上げる人が多く今は城から出られない状況なんです……」
なるほどね……私だっていきなり王様やれって言われてもやりたくないよ。
でもくそぽっちゃりがやりたくないのなら答えはもう出てる。
「それならエルが王様になればいいんじゃないの?」
「僕も僕で余り頭が良くないし、武術も魔術もからっきしで……おじいちゃんみたいに国を良いものとするのは難しそうです」
私の提案に首を左右に振り、諦めた表情をしていた。
「何事もやってみなきゃ分からないんじゃないの?」
「僕も初めはそう思いました。兄さんの代わりに頑張ろうって……でも先日のプリティラビットの件でそれも完全に諦めに変わりました。一人の女の子すら守れない僕に、この国を守るのは難しいです」
それじゃ半ば私のせいで諦めたことになるのではないか。
心が痛む。掛ける言葉が見つからず、自然と下を俯いてしまう。
「マリアは気にしないでください。ゴルさんの言う通り、どの道僕はプリティラビットに襲われてましたから。マリアが居てくれたから今こうして生きているんです」
綻んだ笑顔を見せる。
その笑顔に何かしらの意味があるようにも思えてしまった。
「エル……」
結果的に私たちは生き残ったけど、私と会わなければ、プリティラビットにも遭遇するのこともなかったかもしれないし、まだ王様になろうと頑張っていたかもしれない。
なんて思うと掛ける言葉がみつからないのだ。
「それと、助けに行くのが遅れてごめんなさい! ゴルさんが僕を止めていたので時間が掛かってしまいました」
エルが立ち上がり、深々と頭を下げる。
私が落ち込んでいるような顔でも見せていたのかも。
「ううん、助けに来てくれてありがとね。きっとゴルデスマンさんもエルの立場が危ぶまれると思っての行動だろうし」
私は反射で手を左右に振る。
別に頭を下げて謝られる程ではない。
この国のことを考えたら、ゴルデスマンさんの行動は正しい。
あの時、私を値踏みするように見つめていたのは本当に獣人ではないのかと確認していたのかな。
「ありがとうございます……そんな訳で僕たち兄弟は王位を継ぐに相応しい者ではないと判断され、今や名ばかりの王族なんです。今でもガイアスさんは兄さんを王に、ゴルさんは僕を王にしたがってるみたいですけどね」
「ガイアス?」
知らない名前を聞いて私は首を傾げた。
「マリアを殺すよう指示を出していた人です」
あー、あのくそパーマ男か。
思い出したら腹が立ってきた。
「彼は根っからの獣人嫌いでグラダラスの領地に一歩でも獣人が足を踏み込もうものならすぐにひっ捕らえて死刑にする……そんな人です。今も何処かで獣人が入り込んでいないか監視してると思います」
うわぁ……やることがゲスいと言うか、みみっちいと言うか……。
「この国では意外と人気があるんですよ。僕はあんまり好きではありませんがね」
「まぁ私も第一印象最悪だったし、獣人に間違えられて刺されたし……過失犯とかで解雇とか出来ないの?」
ハッキリと好きではないと言ってしまうのは王族としてどうかと思ったが、私もエルと同じく、あのくそパーマ男は嫌いだ。
王族の権限で解雇をして欲しいくらいに。
「残念ながら僕にそのような権限はありません。おじいちゃんも獣人は苦手みたいですし、今回の件は無かったことにするだけみたいです」
無かったことに……ね。
私もアイツのお腹をぶっ刺して宮廷魔術師に治してもらったりしちゃたりしたら無かったことに出来るのだろうか。
その前に返り討ちに遭うのは目に見えてるけどね。
「その代わり、マリアはうちに滞在してもいいと許可を貰いました」
会って初めて見せるその満面の笑みは無垢で穢れの知らないものだった。
──眩しい! 私には眩しすぎる!
「改めて、よろしくね、エル」
でも身寄りもない私は彼の行為に甘えることにした。
「まぁ、ゴルデスマンさんがさっき言ってたからね」
これで覚えていなければ、アフォと呼ばれていたかもしれない。
「十年前、王位を継ぐ予定だった父さんが殺されたことにより、王位継承権は僕たち兄弟に託されたんです」
まぁそうなるよね。
「兄さんを王にしようと考えるアルフレッド派と、僕を王にしようと考えるエル派。二つの派閥が生まれました」
派閥……ねぇ。エルたちを見てるととても派閥争いをしているようには見えなかった。
と言ってもくそぽっちゃりの方は青ざめて死にそうな感じにしてたからなんだけど。
「数年間、僕たちは厳しい教育を受けました。朝起きてすぐにご飯を食べると、この国の政治に関する勉強、それから武術や魔術……様々なことを教えられてきました」
その時のことを思い出してからか、少し苦しそうな顔をしていた。
それだけみんなは彼らに期待をしてた、ってことなのかな?
「兄さんは類稀なる才能を発揮し、そのどれをとっても優れた成績を残しました」
「うぇ、あれが!?」
思わず素で驚いてしまう。
勉強はまぁこれだけ本を読んでいるのなら出来ると言うのは分かりはする、魔法も私にはよく分からないのでギリ理解してあげる。
だけど武術に関しては有り得ない。
あんなぽっちゃりで実は身軽に動ける……なんてことがあればギャップもいいとこだ。
──萌えないけどね。
「兄さんを知らない人はそう思うかもしれませんね」
同意見だったようで、エルは苦笑いを見せ、続けて話し始める。
「そんな訳で、アルフレッド派は勝利を確信しました。けれど、当の本人は王になる気は毛頭なく。自分の好きなように生きたい、と言い出し部屋に篭もるように。そして、最近は獣人好きの病に犯されてしまって……そんな人がこの国の王になるのは反対だ、と声を上げる人が多く今は城から出られない状況なんです……」
なるほどね……私だっていきなり王様やれって言われてもやりたくないよ。
でもくそぽっちゃりがやりたくないのなら答えはもう出てる。
「それならエルが王様になればいいんじゃないの?」
「僕も僕で余り頭が良くないし、武術も魔術もからっきしで……おじいちゃんみたいに国を良いものとするのは難しそうです」
私の提案に首を左右に振り、諦めた表情をしていた。
「何事もやってみなきゃ分からないんじゃないの?」
「僕も初めはそう思いました。兄さんの代わりに頑張ろうって……でも先日のプリティラビットの件でそれも完全に諦めに変わりました。一人の女の子すら守れない僕に、この国を守るのは難しいです」
それじゃ半ば私のせいで諦めたことになるのではないか。
心が痛む。掛ける言葉が見つからず、自然と下を俯いてしまう。
「マリアは気にしないでください。ゴルさんの言う通り、どの道僕はプリティラビットに襲われてましたから。マリアが居てくれたから今こうして生きているんです」
綻んだ笑顔を見せる。
その笑顔に何かしらの意味があるようにも思えてしまった。
「エル……」
結果的に私たちは生き残ったけど、私と会わなければ、プリティラビットにも遭遇するのこともなかったかもしれないし、まだ王様になろうと頑張っていたかもしれない。
なんて思うと掛ける言葉がみつからないのだ。
「それと、助けに行くのが遅れてごめんなさい! ゴルさんが僕を止めていたので時間が掛かってしまいました」
エルが立ち上がり、深々と頭を下げる。
私が落ち込んでいるような顔でも見せていたのかも。
「ううん、助けに来てくれてありがとね。きっとゴルデスマンさんもエルの立場が危ぶまれると思っての行動だろうし」
私は反射で手を左右に振る。
別に頭を下げて謝られる程ではない。
この国のことを考えたら、ゴルデスマンさんの行動は正しい。
あの時、私を値踏みするように見つめていたのは本当に獣人ではないのかと確認していたのかな。
「ありがとうございます……そんな訳で僕たち兄弟は王位を継ぐに相応しい者ではないと判断され、今や名ばかりの王族なんです。今でもガイアスさんは兄さんを王に、ゴルさんは僕を王にしたがってるみたいですけどね」
「ガイアス?」
知らない名前を聞いて私は首を傾げた。
「マリアを殺すよう指示を出していた人です」
あー、あのくそパーマ男か。
思い出したら腹が立ってきた。
「彼は根っからの獣人嫌いでグラダラスの領地に一歩でも獣人が足を踏み込もうものならすぐにひっ捕らえて死刑にする……そんな人です。今も何処かで獣人が入り込んでいないか監視してると思います」
うわぁ……やることがゲスいと言うか、みみっちいと言うか……。
「この国では意外と人気があるんですよ。僕はあんまり好きではありませんがね」
「まぁ私も第一印象最悪だったし、獣人に間違えられて刺されたし……過失犯とかで解雇とか出来ないの?」
ハッキリと好きではないと言ってしまうのは王族としてどうかと思ったが、私もエルと同じく、あのくそパーマ男は嫌いだ。
王族の権限で解雇をして欲しいくらいに。
「残念ながら僕にそのような権限はありません。おじいちゃんも獣人は苦手みたいですし、今回の件は無かったことにするだけみたいです」
無かったことに……ね。
私もアイツのお腹をぶっ刺して宮廷魔術師に治してもらったりしちゃたりしたら無かったことに出来るのだろうか。
その前に返り討ちに遭うのは目に見えてるけどね。
「その代わり、マリアはうちに滞在してもいいと許可を貰いました」
会って初めて見せるその満面の笑みは無垢で穢れの知らないものだった。
──眩しい! 私には眩しすぎる!
「改めて、よろしくね、エル」
でも身寄りもない私は彼の行為に甘えることにした。
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