新世紀陰陽伝セルガイア

柳谷学

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第一章【爆炎】

第六話~いにしえの伝承~

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前回のおさらい

雷雲から出現した魔物を、第三の眼“セルガイア”の力で見事うち倒したエン。
その戦いぶりを見たマイトは満足そうに成仏していった。
はたしてセルガイア、とはいったい何なのであろうか・・・。
はたして白毫使いとは…、なぜエンはそのような力を持っているのだろうか・・・。

第六話~いにしえの伝承~

◆八雲神社
八雲神社へとやって来た一行は、境内の中へと入って行った。
八雲は3人分の座布団を用意すると、「しばし待て」と言い残し宝物庫へと向かった。
エンとバンは座布団に座ると素直に八雲の戻りを待っていたが、ハヤトは腕組みをしたまま壁を背にして寄りかかっていた・・・。

八雲「待たせたの…」

そう言って戻ってきた八雲は、“白毫の書”と書かれた一巻の巻物を携えていた。

エン「ばっちゃ・・それは?」
八雲「いいかエン。これから語るはまぎれもない真実・・。そして、お前さんの物語じゃ。」
エン「僕の・・ものがたり・・・。」

八雲は昔からエンに色々な物語を語ってきた・・。
それは、幼く純朴であったエンの心の糧を作るため。そして、エンの喜ぶ顔を見るための“おとぎ話”であった。
しかしこれから語る物語は、まぎれもなく真実の物語・・。
いや、真実でありながら現実離れした内容を受け入れやすくするために、これまでおとぎ話を語ってきたのかもしれない・・。
とうとうこの時がやってきた・・。八雲はそう感じながら、巻物を床に転がし開いて見せた。

バサッ・・。

するとそこには、平安時代の陰陽師の姿をした幾人もの人物が魔物と対峙する絵が描かれていた。
そして、そこに描かれた人々の額には、エンに現れたそれと酷似した“第三の眼”が描かれていた。

八雲「エン・・オヌシの疑問に答えてしんぜよう・・。」

そういうと八雲は厳かに語り始めた・・・。

八雲「よいか、オヌシの額に現れた第三の眼は、その名を“陰陽白毫”と言う…。」
エン「いんよう・・びゃくごう・・・白毫って、仏像の額に付いてるやつの事だよね?」
八雲「そうじゃエン。流石この手の事には詳しいの・・。」
エン「へへ・・。でも、あれって一本の毛がぐるぐる巻きになってるやつだよね?」
バン「そうだ・・お前やハヤトの額に現れるのはあくまで“”。仏像のそれとは違うんだ。」
八雲「その通り。“陰陽白毫”とは、仏や神々の人知を超えた力の片りんを、人間に宿すための特殊な細胞核なんじゃ・・。」
エン「細胞・・・。」
八雲「さあ、ここから少し昔話じゃ・・・。」

八雲「今をること約1200年前・・平安の時よりこの存在は確認されておる・・・。陰陽師たちは魔物を倒す唯一のとして、この力を用いて戦ったそうじゃ・・・。そして人々はその者たちを“白毫使い”と呼んだのじゃ。」

エン「そうなんだ!じゃあもしかして!あの大陰陽師・安倍晴明も白毫使いだったの??」
八雲「いや、そのような記録は残っておらん。」
エン「そっか…ちょっと残念。」
八雲「しかし、歴史にその名を刻む者の中には、幾人かいがおったようじゃよ。」
バン「そうそう、お前“義経の八艘跳び”を知ってるか?」
エン「うん!学校で習ったよ!なんかこうが次から次へと船を飛び越えながら戦ったってやつだよね?」
バン「ちょっとアバウトだがまぁそんな感じだ。」
八雲「義経はどうやらお前さんと同じ“跳躍白毫”の持ち主だったようじゃ。」
エン「ちょうやく・・・びゃくごう?」
八雲「よいか。・・・白毫の力を得た者は、二つの特殊能力を使うことができるようになる。」
エン「二つの能力?」
八雲「まずはこの世で唯一魔物を斬ることの出来る武器“白毫神器”を生み出す能力」
エン「ああ!さっきの戦いで使った武器の事だね!」
八雲「そうじゃ。そしてもう一つ。一人に一つだけ特殊な能力が扱えるようになるのじゃ。お前さんはどうやらとてつもない脚力を持つ “跳躍白毫”の持ち主じゃ。」
エン「なるほど!だから寺の屋根まで一っ跳びできたんだ!!」
バン「そのようだな。因みにあそこで腕組みしてるアイツは“減速白毫”の能力者だ。」

そういうとバンは相変わらず壁に寄りかかるハヤトを指さした。

バン「あいつはを使うと10秒くらいなら周りがスローに見えるんだ。」

皆は覚えているであろうか。あの桜祭りの会場で、魔物が射出する鱗をたやすくその手に受け止めたハヤトの姿を。
あれはまさしくその能力だった。

エン「凄い…!!!でもどうして僕、2回目の戦いでは自分で開眼できなかったの?」
八雲「うむ、開眼させるにはお前さんの着とる陣羽織が必要なんじゃ。」
バン「そう、普通の人間がそれを着ると、妖力が高まって・・・まぁせいぜい“幽霊が見える”止まりだろうが、白毫使いなら白毫を開眼させられるようになるんだよ。」
エン「なるほど…そういうことか・・・」
八雲「分かったか?これが第三の眼、“陰陽白毫”じゃ・・。」

こうして、ひとしきり語った八雲であったが、そこへ先ほどまで黙り込んでいたハヤトが突然割り込んできた。

ハヤト「そして俺たちはそれを“セルガイア”呼んでいる。」
エン「え?・・・セルガイア??」
ハヤト「そう・・・大地、つまり“ガイア”から溢れ出た光を得ることで現れる新たなる細胞、つまりセル。だから・・・セルガイア。」
エン「セル・・ガイア・・・。」

何故だろう・・・突然話に割って入ったハヤトのや、白毫をあえて別の名で呼ぶという内容からは、八雲に対する若干の敵意のようなものが感じ取れる。
しかし、そう感じたのはエンだけだったのであろうか・・。何事もなかったように、今度はバンが話し始めた。
バン「しかしハヤト、不思議なんだ・・・。」
ハヤト「あ?」
バン「こいつセルガイアを覚醒させたとき、“大地の光”なんて吸収してなかったぞ。」
ハヤト「えっ!?」
八雲「なんじゃと!?」

バンの言葉に、ハヤトのみならず八雲までが驚いた。
それもそのはず。セルガイアを覚醒させる者は決まって、大地から現れる光を吸収することでその力を得る。しかし、どうやらエンは例外であった。

八雲「どういうことじゃ・・・。」
エン「えぇ・・?ちょっと!!じゃあ何で僕はこのチカラを持ってるの!!??」
一同「・・・・・・・」

今までこうしてエンの疑問に答えてきた一同だったが、その質問にだけは誰一人として答えられなかった。

しばし沈黙が続き・・・
・・・口火を切ったのは八雲であった。

八雲「ところでオヌシら、そろそろ羽織を脱いだらどうじゃ・・・。」
ナイバス「!?」

その言葉にビクリと体を動かしたハヤトとバンであったが、おもむろにスルスルと自分たちの羽織を脱ぎはじめた・・。
エンは憧れの人物達の素顔が見れることに、淡い興奮を覚えていた。

すると・・・
その二人をみたエンは驚愕した!

エン「えつ!?うそ!?」

『そば屋さん!!??』

そう!そこにいたのは、幼い頃から憧れていたナイトメアバスターズは、エンの行きつけの店“陰陽庵”で働くあの二人だったのだ!

思い出してほしい、陣羽織の“別人として認識される”という能力の代償を。
それはもちろんエンも例外ではなかったのだ。

バン「・・エン。黙ってて悪かったな。」
ハヤト「俺たちは、人知れず魔物と戦う“影”の存在・・・。決して、誰にも言うつもりはなかった。」
エン「ぇえーーーーーー!!こんなに身近にいたんなら言ってくれてもよかったじゃないですか!!だって僕、ナイバスのファンだって散々言ってたし!!」

その言葉にハヤトは強い口調で返した。

ハヤト「だからこそだ!!お前に言ったら絶対言いふらすだろ!!『絶対言わないです!』とか言いながら絶対言っちゃうタイプだろ!!・・・それに!!」

ハヤトが話を続けようとした瞬間だった

八雲『だからこそじゃ!!』
ハヤト「っ!?」

八雲がそれに反発した。

八雲「だからこそ、エンには言うべきだったんじゃ!」
ハヤト「なに・・?」
八雲「オヌシらもワシと同じように、エンに宿るならぬ妖力には気付いておったんじゃろ・・。」
ハヤト「それは・・・。」

口ごもるハヤト。

八雲「エンが白毫使いである確信はワシにもなかったが、こうしてエンは開眼した・・・。」
ハヤト「・・・・。」
八雲「そこでじゃ、ワシは3人に集まってもらったんじゃ。」
一同「???」
八雲「ワシが今日オヌシらをここに呼んだ理由は、エンにの説明をするためだけではない!オヌシら全員に頼みがあるからじゃ。」
エン「頼み・・・?」
八雲「まずはエン。」
エン「うん・・。」

そういうと八雲はエンの瞳を見つめこう言った。

八雲「エン・・。オヌシはこの世界を闇から救うことの出来る戦士“白毫使い”じゃ。その力を行使すれば俗世間から隔離され、おそらく孤独を味わうことになるじゃろう。じゃが、これは強制ではない・・・お前さんの意志で決める事じゃ。・・今ならまだ“普通の世界”に戻れるぞ・・・。どうする・・・。戦士として戦うか・・・それとも日常に戻るか・・。」

その言葉に対し、エンは即答した。

エン「・・・僕の力が誰かの役に立つのなら、僕は戦う。」
八雲「・・・そうか?例えばこれからオヌシに訪れる未来が残酷なものであったとしても・・・そう言い切れるのか?」

しかし、八雲のくぐもった声色とは裏腹に、エンは答えた。

エン「俺は皆を守るヒーローになるって決めたんだ!約束したマイトのためにも、これから救うみんなのためにも、僕は白毫使いとして戦うよ!」

それを聞いた八雲は、思わず笑いがこみ上げた。

八雲「はっ、ハハハハハ!!そうかそうか!!いさぎが良くて小気味いいわ!!よし!オヌシは今日より」

『白毫使いじゃ!!』

エン「うん‼」

エンは力強くうなずいた。

八雲「よろしい!・・・では次にハヤト達・・。」
ハヤト「な・・何だよ・・。」

八雲「この者をナイトメアバスターズの一員とし、魔物討伐に尽力せよ!!そして、今度こそ“人知れず”ではなく、人に知れるように戦ってほしいのじゃ…。」
ハヤト「・・・・。」

八雲が本当に伝えたかったことはこの二つであった。

バン「ばっちゃ・・・」
八雲「オヌシらは今まで影の存在として戦ってきた・・。しかし、近年活発化しとる魔物の動き・・オヌシらも気が付いておるじゃろう。・・そろそろ隠し切れなくなるぞ。これがいい機会と思って、かつての様に白昼のもと行動するのじゃ。頼む・・。」
バン「だが・・、民衆が本当にそれを受け入れるだろうか・・。」
八雲「ああ、オヌシらがきちんとこの事実を公表していけば、ゆくゆくは人々も現実を受け入れ、オヌシらは“世間”という強い味方を得られる!!ワシはそう思っとる。」

バン「ばっちゃ・・・。」

この時、バンの心揺らいでいた。
実は八雲のこの申し出を、以前二人は聞いていた。
だから今回こそはと、八雲は言葉を強くして懇願したのである。

しかし。

ハヤト「・・断る・・。」
八雲「何じゃと・・!?」
ハヤト「やっぱりな・・そう来ると思った。」
バン「ハヤト・・・?」

先ほどうかがい知れたハヤトの敵意は、どうやら八雲が意に沿わぬことを言い出すと分かっていたからだったのであろう。
これは案の定、意に沿わぬ申し出であった。

ハヤト「まずこいつの戦いぶり、見たろ。確かにこいつは白毫使いかもしれない・・。だがそれは力を持ってるってだけで、戦士としては認められない!」
バン「いやいや、しかし実際にこいつは一人で魔物と戦って・・しかも倒してるだろ!!」
八雲「そうじゃ!!オヌシ達がしっかりと戦い方を教えてゆけばいずれ・・」
ハヤト「断る!!」
八雲「何じゃと!!」
ハヤト「しかも挙句の果てにはまたあの話か・・?悪いが八雲・・それだけは何があってもごめんだ。俺たちは今まで二人で戦ってきた。それは俺がバンを心から信頼してるからだ。だから、それはこれからも変わらない・・。」
八雲「オヌシ・・・過去にいつまでも固執するでない・・。オヌシらならきっと出来る!」
ハヤト「そんな簡単にいくと思うか!?俺たちの戦いはまぎれもない真実かもしれないが、民衆はそんなことは知らずに長い間暮らしてきたんだぞ!どうやってその考えを変えるんだよ!」
八雲「いいや、オヌシらが変われば民衆も変わる!!ゆくゆくはお前たちの戦いを、公的な機関が支援してくれるようになるじゃろうて!!」
バン「・・そうだハヤト。ばっちゃの言う通りかもしれない・・・。あの震災の出来事はもう水に流さないか…?それに俺たちももう若くないんだ・・後継者を作るためにも・・こいつを仲間に加えよう!!」

この時バンの心は完全に変わっていた。
民衆を味方に付ける・・・。上手くいけば魔物との戦いは一層楽になるだろう。
しかも、ほんの少し前までは、メディアに露出するほどの活動をしていたのだ。
八雲の言葉は、バンにとっては多大なる良い刺激であった。

・・そして、“後継者”という言葉を聞いてハヤトも一瞬気が揺らいだのはたしかだった・・・
しかし。

ハヤト『断固、断る!!!』

ハヤトはかたくなにそれを拒んだ。
ほんの少し前だが、ハヤトはある事件をきっかけに、公から遠ざかることを決意していたのだ。

一同「はぁ~~~。」

八雲「も~オヌシは駄々っ子か!」
ハヤト「何とでも言えばいいさ、ナイバスのリーダーは俺だ。」
八雲「そう言わずに」
ハヤト「・・・。」

そんなハヤトを見て、エンも口を割った。

エン「ハヤトさん、懸命に戦っていればきっといつかみんな分かってくれる日が来ると思います!僕も力を貸しますから…。昔みたいに活躍しませんか・・・!?」

しかし、ハヤトの過去も知らない未熟なエンの言葉こそ、この時のハヤトの神経を逆なでする材料でしかなかった・・・。

ハヤト「…お前こそ黙ってろ…」

一同「はぁ…」

再び深いため息が辺りに響いた…。

しかしそれから間もなく、辺りにある音がコダマした。

ウィーンウィーンウィーン・・

バンの携帯が鳴っている。

バンはそれをおもむろに取り出すと、次の瞬間血相を変えて訴えた!

バン「出たぞハヤト!!魔物だ!!」
一同「!!??」

ハヤトとバンは一目散にその場を後にし、車に乗り込んだ!

八雲「よし!エン!!オヌシも行くのじゃ!!」
エン「分かった!!」

そういうとエンもナイバスの車を追うべく駆け出した!
が、扉を出ようとした瞬間どういうわけかを返し、八雲の元へと戻ってきた・・。

エン「ばっちゃ!!」
八雲「どうしたエン!?」
エン「ちょっと、紙とペン・・あったら貸して欲しいんだけど…。」
八雲「お・・おぉ・・・」

そういうと八雲は画用紙とマジックペンを持って来ると、エンに手渡した。

八雲「これで…よいのか?」

キョトンとする八雲にエンが答えた。

エン「ありがとう!!」

そういうとエンは画用紙に何か書き終えると、背中と袴の隙間にそれを忍ばせ、すぐさま2人の後を追いかけて行った。

◆鎌倉市内某所

夕焼けのオレンジ色に包まれた現場は、何の変哲もない公道であった。
ハヤトとバンは猛スピードで車を走らせ、携帯から発信されるシグナルに近づいて行った。

ハヤト「なんでだ!?こんな場所に!しかも何の前触れもなく魔物だと!?」
バン「やっぱり・・・八雲の言う通りなんじゃないのか・・?魔物・・活発化してるぞ。」
ハヤト「くそっ!まあいい、俺たちはただ罪もない人々の魂を喰らう魔物を倒す!それだけだ!!」
バン「・・・あいよっ!」

そう言っているうちに、とうとうシグナルは目前まで迫っていた。
逃げ惑う人々がちらほら目につくようになり、バンは車のスピードゆるめた。

バン「ハヤト・・そろそろだ・・恐らく目の前の十字路を曲がって突っ込んでくるぞ・・!」
ハヤト「・・ああ・・。」

2人はそこで車を降り、魔物の登場を待ち構えた・・・。
すると!!

ダダッ!ダダッツ!

群衆の悲鳴の隙間から、魔物の地を駆ける音が近づいてきた!
そして次の瞬間!!
十字路を曲がり、ついに2人の前に魔物が姿を現した!!

ガルルルッッツ!!!

二人「出たな!!」

その魔物はまるで巨大な虎のような姿をしていた。
しかし体に毛は生えていない。
まるで鎧をまとったかのようなその姿は、まさに魔物特有の様相だ。

2人の横を群衆が逃げ惑い通り過ぎていく。
ハヤト「くそ・・・人が多いな!記憶を消すのに手間取りそうだ・・。」
バン「・・ハヤト、今は倒すのが先決だ。」
ハヤト「・・そうだな!!」

ガルルルッッツ!!!

魔物も2人をけん制した!!

ハヤト「よし!!」

『開眼っ!!』

すると、ハヤトは額のセルガイアを出現させた!!
その色はエンとは違い、マゼンダカラー。具足は篭手はでなくブレスレットのような形をしている。そしてそこからエンの物よりも刀身の長い二振りの刀を出現させ、魔物に向かって構えた!!

すると、魔物はその二人に向かって凄まじい勢いで突進して来たではないか!!

2人「うぉっつ!!」

間一髪で魔物を避ける2人であったが、魔物は二人の乗って来た車へ体当たりすると、そのままその場を走り去ってしまった!!

バン「くそっつ!速い!!」
ハヤト「あいつ!!何処に向かってる!?」

たじろぐ2人であったがすぐさま車に乗り込むと魔物を追いかけた!!


ガルルルッッツ!!!

走る魔物に宛などなかった。
沿道を逃げ惑う人々を跳ね飛ばし、喰らいながら走り続けていた。

ハヤト「くそ!!速すぎる!!追いつけないのか!?」
バン「アクセルべた踏みだぞ!!」

しかし、公道の至る所を曲がりながら進む魔物に、なかなか追いつくことが出来なかった。

だが!

ガルルルッッツ!!

走る魔物の眼前に人影が現れた。
突然目の前に立ちふさがった人影に魔物は一瞬怯んだ!
先回りしていたエンが到着したのである!!

エン「よし…やるぞ…!!」

『開眼っ!!』

するとエンもセルガイアを出現させ、魔物に向かって飛びかかって行った!!

ガルルルッッツ!

ところが魔物はエンの一撃をいとも簡単に避け、再び走り出そうとした!!

その時!!魔物の後方からナイトメアバスターズの車が現れた!
とうとう追いついたのである!!

ハヤト「よし!いいぞ!挟み撃ちだ!!」

ところがハヤトがそう言った途端、魔物は再び車に向かって突進してきた!!
バン「くそっつ!」

すぐさまハンドルを切るバンであったが、

エン「そうはさせないっ!!」

エンは凄まじい脚力で魔物に飛びかかり、その背中にまたがったではないか!!

バン「いいぞ!エン!!」

魔物はエンをその背に乗せたまま猛スピードで走り出した!

エン「うぉおおっつ!!」

エンは必死にしがみつく!!
魔物も走りながらエンを振り落とそうと必死になる!!

ブーッ!!ブッブー!!

クラクションを鳴らしながら通り過ぎていく車の群れ・・
横切るそれらからみるに、やはり相当なスピードが出ているようだ。

エン「んぎぎぎぎぎぎ・・・」

必死でしがみつくが、前方から吹き付ける風のせいで、口の中に空気が入ってくるは目は充血するはで凄まじい形相になる・・。
しかし、「白毫使いとして戦う」と決意した身。何があろうと必ず倒すと意気込みしがみ付いていた!

しかし!

ガルルルッッツ!!

エン「うわぁっつ!!」

とうとうエンは空中へと弾き飛ばされてしまった!!

エン「くそっつ!」

宙を舞うエン・・・。
眼下に魔物が見える・・。
すると・・・。
疲れたのであろうか・・魔物は動きを止めている。

エン「!・・今だっ!!」

それを見たエンは空中で身を翻し、ビルの壁を足蹴に魔物目掛けて突進した!!

ズバッツ!!
ギヤオッツ!

エンはとうとう魔物に一撃喰らわせたのだった!!

エン「よーし!!」

そう言って景気を付けると、エンはたじろぐ魔物に二撃、三撃!
次々と刃を叩きつけ、その装甲を破壊していった!!


ギャオォオオ!!!

悲痛の雄叫びを上げる魔物!
その装甲はすべて剥がれ落ちていた!

エン「よし!トドメだっつ!!」

そういうとエンは、額に力を籠め、魔物の弱点を捜そうとした!

だが!

ガルルルッル!!

エン「!?」

どうしたことか!魔物は瞬く間にその装甲を修復してしまったではないか!!

エン「ウソだろ!?」

落胆するエンであったが、そこに!
ナイトメアバスターズが追いついた!!

ハヤト「よしバン!封印解除(ふういんげじょ)だ!!」
バン「おおっ!!」

そういうとバンは車のギアを五芒星のマークへとスライドさせた!!
すると!!
走る2人の車の外観が大きく変化したではないか!!

ナイトメアバスターズの愛車は普段結界により本来の姿を隠している!
ギアチェンジにより結界を解くことで、魔物の動きを封じるための装甲車
“ブルバイソン”へと変化するのである!!
車体の前方はまるで牛の頭を彷彿とさせ、後方には左右に巨大な車輪がついている。
それはまるで平安時代の牛車を彷彿とさせるものだった!
魔物に追いついた今こそその封印を解き、本来の力を発揮させるため、勢いを増して走り出した!!

バン「エーーン!!もういいぞーーー!!そこをどけぇーーーっつ!!」
エン「え!?は、はいっ!!」

その言葉にされ、エンは地を蹴り身を翻した。
すると!

バン「うぉおおおおおおっつ!!」
バンは車を反転させ、バック走行で向かってきた!

エン「あ!あれはまさか!!」

エンがそう思うのもつかの間、ブルバイソンはその車体の後部を左右に180度展開したではないか!!

エン「ブルバイソンの結果だーーー‼」

変化した車体の後部はまるで祭壇のような様相だった。
そして、両脇の巨大な歯車を回転させ始めたかと思うと、その車体を中心に魔物を包み込むほどの大きさの結界を張り巡らせたではないか!!

ハヤト「よし・・捕えた・・・。」

エン「ついに見れたーーー!生バイソンの生結界だーーーーー‼」

一人興奮するエンをよそに、ナイバスの二人は戦いを続けた。

バンは逃げ惑う魔物に対しブルバイソンで動きを封じ、それをハヤトが狩る。
これがナイトメアバスターズの戦い方であった。

そして、車を止めるとハヤトがするりと降りてきた…。

エン「二人とも凄いや!!いつもこうやって戦ってるんだ!!」
ハヤト「まぁな・・。」

車に近づいてきたエンに軽く返事をするハヤト。
しばし訪れた静寂に、肩を撫で下ろしていた二人であったが、

バン「おい!お前ら集中しろ!まだ倒して無いだろ!!」

車の窓から半身乗り出し、バンが叫んだ。

彼の言う通り魔物はまだ生きている。
しかし、捕まえてしまえばこっちのもの。すでに魔物の息の根は止めたも同然である。
魔物は結界の中で、成すもなくその重たい体を宙に浮かせていた。
そして、徐々に車の祭壇へと近づくと、その上空で動きを止た。

ハヤト「ようし・・・。」

そう言うとハヤトは神器で魔物を切り裂いていった!

グギャオォオオオっつ!!

再び魔物の装甲がはぎとられていく!!
ところがだった!

ハヤト「っ!?」

やはり、魔物はその装甲を次々と復活させていくではないか!!

エン「そうだった!!弱点を見つける前にこの魔物、鎧が復活しちゃうんです!」

エンは焦ってハヤトに訴えた。
ところが・・・

ハヤト「・・・面白い魔物だな・・。」

ハヤトは落ち着き払っていた。

エン「えぇっ!?アニキ!大丈夫なのか!?」
ハヤト「…まあ見てろ・・・。」

そういうとハヤトはス~っと息を吸い込むと、ふいに目を瞑った・・・。

・・・
・・・・
・・・・・

すると次の瞬間!!

ズババババババババッツ!!

エン「!?」

エンは驚いた!
魔物は瞬く間の内に切り裂かれ、先ほどまで隣で立っていたハヤトはすでに車に乗っているではないか!!

ハヤト「見たか。これが俺のセルガイアの力だ!」

そう、ハヤトは“減速”の力で時間を遅らせ、その間に全ての事を済ませてしまったのである。

ハヤト「よ~しバン。帰るぞ!」
エン「あぁっつ!ちょっと待ってください!」

余りに展開の早い成り行きにあたふたするエンであったが、すでにエンジンがかかり車は走り出してしまった。

ところが!

ザワザワザワ・・・

その光景を目撃していた人々が群衆となって3人の周りに集まって来た。
そのせいで車は動きを封じられてしまった。

ハヤト「あ、くそ・・バン!クラクション!」
バン「おお。」

プップー

しかし、次々と人々が集まり、3人の周りを取り囲んでしまった。

「ねぇ・・あなた桜祭りの少年でしょ・・?」
「これっていったい何なんだよ!?」
「イベント・・・じゃないんだよな・・・??」

質問攻めにあうエン。
しかし、

エン「(しめた!)」

そういうとエンは群衆に向かって語りだした!

エン「ごほん!えー、僕たちは!人知れず魔物と戦うヒーロー!ナイトメアバスターズです!」
ハヤト「(バカ!あいつ・・!)」

それを聞いたハヤトは車から降り、エンを静止しに向かった。

エン「えー、これはウソなんかじゃありません!!まぎれもない現実です!!」
ハヤト「おい!やめろ!!」

ハヤトはエンを羽交い絞めにしたのだが・・エンはもがきながら話し続けた。

エン「も・・もし疑う人がいるなら・・・こちらまでご連絡を!!!」
ハヤト「!?」

そういうとエンはここぞとばかりにあの画用紙を取り出した!
そこにはそば屋“陰陽庵”の電話番号が書いてあったのだ!!

ハヤト「おまっ!そんなもん何時の間に!?」
エン「こんなこともあろうかと、神社で書いてきたんです!」
ハヤト「何で番号知ってんだよ!?」
エン「トッピング無料券・・」
ハヤト「はぁ…」

ハヤトは深いため息をついた。

ハヤト「くそっお前のせいでますます後処理に手間取るじゃねーか!」
エン「あとしょり・・?」
ハヤト「あぁ。目撃者の記憶を消すんだ。」
エン「えっ!?」

・・・そう、彼らはこうして戦っていた。
人々の心に魔物や白毫使いの存在を知らせない。
過去の経験から、これこそが人々の幸せなのだと悟り、ハヤトは戦ってきたのであった。
そして、群衆に目撃された場合は何日もかけて儀式を行い、魔物の記憶を消してゆく。
そしてこの度は、桜祭りからの戦いも含め、相当な日数がかかることが予想されたのだ・・。

そんなやり取りを遠巻きに見ているひとりの人物があった・・・

???『・・・・・』

その男は首筋に傷があり、瞳に暗い影を落としてんでいた。

エン「・・・えっ?」

群衆の中から只ならぬ気配を感じ、エンはその方向に目をやった。
しかし、その男はすでにそこにはいなかった・・・。

そうこうしていると

ピーポーピーポー・・

遠方からパトカーのサイレンが聞こえてきた。

ハヤト「やばい!警察だ!!行くぞ!!」
エン「はっ・・はいっ!。」

結局ハヤトはエンを車に乗せると、群衆をかき分けその場を後にしていった・・・。

“陰陽庵”にテレビ局から取材の依頼が入るのは、この日の夜の事であった――――。

つづく!
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九十九紀郁
2024.04.16 九十九紀郁

"今日"(いま)を生き抜け、少年!

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