転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

文字の大きさ
上 下
56 / 158
光の聖魔剣

妖魔高炉

しおりを挟む
 妖魔高炉……約1000年以上前も前の時代……かつて、地上に魔族が地上に現れ、人間と魔族が激しく抗争していた時代があり、その時代の魔族が地上を支配せんとして、作り上げた……魔界と地上を繋ぐ巨大な地下空洞……彼等はそれを妖魔高炉と呼んでいた。

 その地下空洞が出来た時から、悍しい魔物や魔獣が地上に現れ続ける。血肉に飢えた魔族の群れは、欲望の限り地上の生き物を襲い続け、その時代に生き残った人々は、それを暗黒の時代と呼び後世に語り継がせる様にした。その時代……魔族によって滅びた国が幾つもあった。

 彼等に一矢報い様として立ち上がったのが、かつて帝国だったエルテンシアの皇帝セルティスだった。彼は光の神と契約を行い、光の聖魔剣を造り上げ、その聖魔剣と光の神との契約で授かった12の光の魔法を使って魔族を一掃させる。彼の功績により妖魔高炉は崩壊して地上に平和が訪れた。

 地上に平和が訪れると、世の中から妖魔高炉の存在は忘れ去られ……その存在自体が伝説として語られる様になる。しかし……その大陸で、ただ1人として、その存在を知る者が居た……。

 漆黒の闇の中、赤く燃える溶岩がドロドロと流れ、高熱の灼熱が周囲に広がる深い洞窟……かつて魔族が作り上げた、功績が洞窟内の至る所で目に付く。

 魔族独自の造形文字が刻まれ、特殊な言葉によって構造が変わる石版等……。彼等の技術が、今も洞窟内に遺産として遺っていた。その闇の中を生きる悍しい姿の魔獣達……その魔獣の群れを片目にしながら、細い一本の橋の様な道を歩む老婆の姿があった。

 老婆は、妖魔の杖と言う特殊な道具の魔力のお陰で、魔獣にも魔族にも襲われる事が無かった。魔獣を恐れる心配など無い老婆の足取りは、更に闇の奥深くへと向かって行く。

 老婆は、高熱の闇の深層部へと突き進んだ。何とか一人の人間が通れる様な狭い道で、一歩でも足を踏み外せば、二度と戻れない様な深い闇の道を老婆は進んだ。

 やがて前方に視界が広がり、広大な景色が見えた。周囲は溶岩で赤く染まり、ドロドロした真っ赤なマグマが未曾有に溢れ流れ続けている。老婆が歩くと、前方には崖となってそれ以上進めなくなっていた。その崖から遥か遠くの場所に巨大な岩の塊の様な物があった。相当な距離があるにも関わらず、岩の大きさは、老婆が見上げてしまう程大きかった。

 更に……その岩の塊はドクン、ドクン……と、脈打っている様に動いていた。

 本来なら、その灼熱の中にいるだけで、高熱に晒されて息絶えてしまうのだが……老婆は不思議な魔力により、その高熱の中でも平然と居られる状態を維持していた。

 「ようこそメヌザ、本日は……どの様な事で来たのかな?」

 灼熱の中で少し陽気な声が聞こえて来た。振り向くと、溶岩の中を平然と宙を飛び交う、風変わりな衣装にみを包んだ者の姿が目に入る。その者は、顔に仮面を被っていて、容姿から男性なのか……女性なのか……さえ判別し難い感じだった。

 「フン……ノディムよ。お主とくだらんお喋りをしに来た訳では無い。此処に来る理由は、主の状態以外に無いじゃろう?どうなんだ、あの方の様子は……」

 メヌザは、ノディムと言う風変わりな者では無く、主の姿を見る。

 「依然……安定しているけど、やはり封印解除の決め手は、例の物で無ければ不可能だね」

 「それに関しては、既に準備は出来ている」

 「ほお……その決め手になるのは、もしかして以前ここに連れて来たルディアンス君だっけ?」

 「いや……奴では荷が重すぎる。奴には別の仕事をしてもらう。奴とは別のモノじゃよ」

 「へえ、他に適任者がいるとは驚きだ……暗黒魔剣を扱える人材等世の中、そういる者では無いのにね……その適任者は、相当現世に恨みを抱いているのだね……」

 「ああ、勿論そうだ、人間に生まれながらにして、人間を激しく憎むモノ……セドラと言う者にはそう言った邪念が渦巻いている。ヤツなら必ず暗黒魔剣を手にして、この地に現れるだろう。そして……いずれ訪れる聖魔剣戦争で、奴等と対峙する時はメンバーの中心的人物になるじゃろうな」

 「面白いシナリオだ。必ずしもそうなって欲しい……だが、彼等もまた、何も知らずにいる訳ではなさそうだよ」
 
 風変わりな者は、懐から水晶の玉を取り出して、指で軽く叩くと、水晶の玉が宙を移動してメヌザの前まで来た。その水晶には見覚えのある人物の姿があった。

 「これは……!」

 「我々が火を起こそうとすれば、必ず……その火を消化しようとする者が現れる。我が魔族は数千年以上もの間、それを幾度ともなくそれを見せられて来た。そして今回も……。転生の王女は、一歩ずつだが……かつての力を取り戻そうとしている。今……この瞬間にもね」

 「フ……奴の墓場は、既に用意してある。あの者は必ず魔の森に現れる。その時が奴の最後じゃ」

 「そうなる事を願っているよ。彼女さえこの世から居なくなれば、我等の悲願も達成出来ると言うものだ。必ずリムア姫の生まれ変わりは始末すべきだよ!」

 ノディムは、メヌザに向かって言う。彼は仮面の下から恐ろしい眼光を光らせる。流石のメヌザもその眼光に睨まれると冷や汗が出て、震えが止まらなかった。

 「わ……分かった、ワシの方で手配をする。奴が大きな力を手にすると、我々に取って大きな痛手になりかねないからな……」

 「頼みましたよ。その言葉信じていますからね……」

 ノディムは、そう言うとメヌザの前から消えてしまう。一人残ったメヌザは、フウ……と溜息を吐いた。

 「あの者だけは絶対に始末しなければ……」
しおりを挟む

処理中です...