転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔の森、攻略!

暗い部屋の中

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 ー 薄暗い室内の中……

 複数の蝋燭の灯火が照らされる漆黒の闇の中、円形の形をした大きな燭台を中心に、複数の人間達が、フードに顔を隠して椅子に腰掛けていた。

 白いヒゲを生やしている者、長い髪を垂らしている者、眼鏡を掛けている者等……様々な容姿が伺えた。

 燭台を取り囲む椅子は全部で8個用意されていて、その椅子に座っている人達は全部で6名だった。彼等は何故か……燭台に紋様の様な文字が書かれている中心部と、右側から数えて3番目の位置には座らなかった。

 そんな彼等は何かに怯えているのか……小声でヒソヒソ話をしている様な感じで話をしていた。そんな最中、1人の男性と思わしき人物が突如室内に現れた。

「遅くなったな……」

 彼は、そう言うと紋様の様な文字が書かれた椅子の近くへと向かう。彼が椅子の側に近付くと他の6名全員が一斉に立ち上がり、左腕を胸に押し当てて全員軽く一礼を行い、再び椅子に腰掛ける。

 中心部の椅子に座った者は、集まった者を見回した。

「これで全員か……?」

 彼は、周囲を見回すと……1つ椅子が空席になっている事に気付く。

「ラナスがまだ来ていないな……」

 空席の隣に座っている者が口を開きながら言う。

「何かあったのか……?」

 中心部に座っている者が言った時だった。部屋の扉が開きフードを被った者が部屋へと入って来た。

「すまない……遅れた」

「珍しいな、お前が遅れるなんて……」

「市場に結界が張られていて、転移したら城壁の外だったのだ……」

「それは、お主だけでなく……他の者全員が同じだろう。言い訳をするなら、もっとマシな事を考えて来い」

「すまない……」

 彼が謝ると、周囲からフフフ……と笑いを堪える様な声が少し聞こえた。

 彼は改めて中心部に座っている者と顔を合わせると、彼は席を立ち上がり相手を見ながら互いに左腕を胸に押し当てて軽く一礼をする。

「自分の席へ」

 中心部に座っている者が軽く声を掛ける。

「ジャルサよ感謝する」

「勝手に名を呼ぶな!」

 ジャルサと呼ばれた者は軽く一喝した。

 彼は全員が揃うと、改めて皆が集まった事を確認した上で話し合いを始める。

「今日、皆に集まったのは他でも無い。悪い知らせと良い知らせがある。まず……悪い知らせとは、最近……王宮で妙な動きが目立つ様になった。どうも……我々を探ろうとする者が王宮内に現れたらしい……。可能性は低いが、多分……我々の存在を認識し始めた輩が現れたらしいのだ」

 それを聞いたジャルサ以外全員がザワ付き始め、不安そうな表情を浮かべる。

「それと……もう1つ、良い知らせは……例の転生少女が魔の森に向かったようだ……」

 ジャルサが話し終えると、円形燭台を取り囲んだ者達はそれぞれに話を始める。

「妙な動きとは……一体……?」

「それよりも、転生少女が遂に魔の森に行ったか……!」

 等……吉報と不安の同時に聞かされて、皆は少し同様した仕草を見せる。

「良いかな?」

 少し細めの腕をした者がジャルサに向かって手を上げる。

「どうぞ」

 彼が答えると、細めの者が彼の顔を見て話す。

「王宮で妙な動きとは……一体どう言う事なんだ?」

「明確では無いが……何者かが、我々の存在に気付き始めた様だ。それが何なのか、誰なのか……と言う事までは判断は出来ないが、ただ……1つ言える事は我々の存在に気付き、王宮内を詮索しているのは確実である……とだけ言っておこう……」

「つまり……焦る必要は無いが、注意して行動した方が良い……と言う事だな」

「まあ……簡単に申せば、その通りである」

「良いかしら?」

 長い髪をフードの下に垂らした者が手を上げる。

「どうぞ」

 ジャルサが相手を見ながら返事をする。

「例の転生少女が魔の森に向かった……と言うのは事実かしら?」

「ああ……王宮の役人達が、今日馬車を用意して、それに乗って彼等は向かったよ。多分……夕刻時には目的地に着いている筈だ」

「魔の森に向かった……と言うなら、生還する可能性は半分以下だろうな……」

 ジャルサの隣に座っている者が呟いた。

「どうかな……彼女は光の聖魔剣を手にしている。その気になれば……魔の森の魔物を消滅させる位容易いだろう」

 ジャルサが光の聖魔剣と言う用語を用いた時、周囲から一瞬ざわめきが走った。

「ど……どうするのだ?もし……彼女が王位に就いたら、我々がこれまで積み上げて来た物が全て灰と化してしまう可能性だってあるのだぞ!」

「何としてでも、転生した小娘を王位に即位させるのだけは阻止せねば!」

 周囲がざわめく中……ラナスだけが、不安そうな仕草を見せずにいた。

「そう嘆かれる事も無いでしょう」

 彼の言葉に周囲の視線は彼の方へと向けられる。

「どう言うことだ?」

「何か策でもあるのか?」

 周囲の不安を返す様に、彼は顔を上げて皆を見る様に話し始める。

「理由としては2つ。1つは……転生少女は聖魔剣を奪った魔剣士と戦わねばならないから……。相手は転生少女を一度倒した実力があるから、今回も勝てる筈……。もう1つは……仮に転生少女が無事聖魔剣を奪還出来たとしても、生還は不可能だからです!」

「ほお……それは一体?」

「色々と秘策を用意してありますからね……ククク」

 ラナスは不気味な笑みを浮かべながら言う。

「その秘策さえ攻略されたらどうするのだ?」

 向かい側に座る者がラナスに向かって言うと、ラナスが相手に対して鋭い目付きで相手を睨み付けた。その悍しい表情に向かい側の者は一瞬たじろいでしまった。

「まあ、焦る事は無い。仮に生還出来たら……その時は奥の手を使えば良いだけの事だ」

 ジャルサが皆に向かって言う。

「もし……最悪の場合に陥ったら、その時は闇の魔術の力でも借りましょうか?」

 長い髪を垂らした者に対して、ジャルサが相手を見る。

「レーメよ、我々は闇の術者とは違う!奴等は魔族を利用して国を滅ぼそうと企んでいるが……我々は、あくまで国家存続を維持する為に動いているのだ。奴等とは根本的に思想も理念も全てが違う、それを見失ってはならん!」

 ジャルサがレーメと言う者に向かって言うと、相手は深く頭を下げる。それを見たジャルサは、改めてラナスの方へと視線を向ける。

「お主の言う策が上手く行くと良いな……」

「大丈夫です、必ず上手く行きます。既に万全の準備で進行しておりますので。まあ……彼に任せれば安心だと言えるでしょうね」

 ラナスはククク……と、フード越しから薄気味悪い笑い声を出していた。


 ー 魔の森、近郊……

 魔の森の近くへと来たリーミア達は、川を跨いだ先に見える鬱蒼と生い茂る森の上空付近を魔物達が飛び回っている光景に唖然とした表情を浮かべながら眺めていた。

「コイツは想像の2割増しの光景だな……」

 フォルサが呆気に取られながら皮肉を述べながら言う。

 一行が自分達が攻める場所を眺めている時だった。魔の森の近郊に住むと思われる老人が、彼等に気付き側へと来た。

「おやおや……死の森に挑むおつもりかね、アンタらは……?」

 その言葉に気付いたリーミア達は、老いた老人の方へと目を向ける。

「貴方……今、死の森と言いましたね。何故ですか?」

「ワシは、若い頃から、この森の近郊に住んでおる。そして……何十人もの勇猛果敢で逞しい姿のギルドのメンバー達が森へと行き、そのほとんどが行ったきり、二度と会う事は無かったのだ。だからワシは、あの森を『死の森』と名付けたのだ。お主達も命が欲しいのなら、無闇に立ち入らない事だ。もっとも……武勇や名声を立てたいと言うのなら……止めはしないがな」

 老人は、シワだらけの顔で、ギョロッとした目でリーミア達を見ていた。

「助言感謝致します。ですが……私達も、どうしてもやり遂げなければならない理由がありますので。貴方の言葉は教訓として、受け取ります」

 リーミアは右手を軽く胸に押し当てながら老人に向かって一礼する。

「フン、まあ……別に構わないさ、ワシはしっかりと注意したのだからな。何かあった後で、変な言い掛かりだけは、御免だからな……」

 そう言って老人は何処かへと行ってしまった。

「まあ……偏屈な老人ね。ところで、どうするの?」

 サリサがリーミアに向かって声を掛ける。

「そうね、何時までも森を眺めていても、魔物達が減る訳では無いから、この辺でコテージを張って、食事を済ませましょう。その後……作戦会議を行いましょう」

「良い判断ね。そうしましょう」

 サリサは手を叩きながら、リーミアの判断に従い、全員で川辺付近の安全な場所にコテージを張る様に指示を行う。

 コテージは、全部で5つ用意された。その5つのコテージの1つは何故かサリサとアーレス専用のコテージだった。

 日が暮れる前に、一行は簡単な食事を済ませ、その日の夜……アーレスとサリサ専用のコテージに全員が集まって作戦会議を始めた。
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