転生少女と聖魔剣の物語

じゅんとく

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魔術師の館

激戦(2)

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「え……?」

 突然のアスファードの言葉に驚いた表情のリーミアが、振り向いて彼の顔を見た。

「なりません!皆で魔術師の館へ行くのです。誰1人欠ける事は認めません!」

 真剣な眼差しでリーミアはアスファードに向かって言う。

 その間にも、魔物達の群れの一部が迫って来て、前衛のメンバー達が応戦する。

「このッ……!何だか良く分からないけど……。リーミアちゃんよ、残りたいって言うなら……そうすれば良いのでは?」

 前衛で魔物達と応戦しているフォルサが叫びながら言う。

「で……ですが……!」

 戸惑いながらリーミアは答える。

「やれやれ……」

 若干、自分よりも年下で、まだメンバーを束ねる手腕に慣れていないリーミアを見たアスファードは、溜息を吐きながら前衛へと飛び出した。

 彼は自分が持っている魔法の包みの口を下へと向けると……袋の中から銀色に輝く1本の槍が地面へと落ちた。

 彼は、それを掴むなり、軽く槍を回転させてから一閃……

 槍を大きく振りかざした。

 ブンッ

 ズバァーー!

 激しい風圧が槍の矛先から放たれる。その衝撃波により周囲の樹々と同時に、無数の魔物の群れが一瞬で跡形も無く消え去った。

「ウソ……信じられない……」

 槍を武器にしているルファが、自分よりも遥かに実力が上の相手を見て驚きを隠せなかった。

「あの赤毛の兄ちゃん、剣術だけで無く、槍も使えたんだ……」

 ルビィが唖然としながら呟くと、レトラが側に来て「その様だけど、たが……」と、答える。

「ん……どうしたの?」

「彼は槍や弓も使えるが……それに特化した者なら最初から直ぐに使える様に携えている筈だ。つまり……予備武器として携帯していたのだと言える。それに……俺は、盟主と一緒に魔獣狩り等で行動していたから分かるが……盟主も色んな武器を上手に操れる技術がある……。彼も聖魔剣の使い手として、様々な武器を操れる様に鍛えられたのだろう。武器の腕前だけで考えるなら実戦経験がある分、ウチのメンバー達よりも彼の方が少し上と言う事だ……」

「ほええ、そうなんだ」

 ルビィが少し呆れた様子で答える。

「ふうん……魔法の槍か……中々良い物を持っている」

 アーレスが少し感心した様な雰囲気で呟く。

「それに加えて、実力もあるわね」

 アーレスの隣でサリサが言う。

 2人の会話を聞いていたルビィが彼等の側へ行き話し掛ける。

「あの人、実力的には、どの位なの……?」

「今の技から推測すれば、現在のリーミアちゃんよりは実力は上かも知れないね」

「へえ……そんなに凄いんだァ……」

 ルビィが驚きながら答える。

(まあ……リーミアちゃん自身、転生者の力が戻ると解らないけどね……)

 アーレスは、敢えてその辺の事は言わなかった。

 彼の規格外とも言える実力に対して周囲のメンバー達が唖然とした表情で居た。それを見たアスファードがリーミアに目を向けた。

 流石のリーミアも、実戦経験が彼と比べると比較的少ない立場から、彼の手腕には若干劣る為、その辺の事は口出し出来なかった。

「後方の安全は僕が護るから、君達は先へ行ってくれ……」

 アスファードの言葉に対してリーミアは無言で近付き、聖魔剣の柄に手を差し伸べる。

 次の瞬間、彼女は聖魔剣から剣を抜き出す、その剣先は細剣の形をしていた。細剣を持ったリーミアがアスファードの方へと剣を突き出す。

 その直後……!
 
「ギャアアー」

 不気味な呻き声を上げながら聖魔剣に串刺しされた魔物がアスファードの側に居た。リーミアは串刺しになった魔物に対して光の魔法「回源」を放つと、魔物は「グガガー……」と、呻き声を上げながら消滅した。

「分かりました、貴方の要望を認めます。その代わり、窮地になる様でしたら、無理に戦闘せず合流するようにして下さい」

 リーミアが微笑みながら言うと、彼は少し苦笑しながらリーミアを見る。

「かしこまりました」

 彼は一礼しながら改めてリーミアの顔を見た。

「盟主!あまりのんびりしてられないぞ!」

 エムランが大声で叫んだ。

 周囲を見回すと、既に数十匹の魔物達が押し寄せて来ていた。

「皆、先へ急ぐわよ!」

 リーミアが大声で叫び、全員が一斉に走り出す。アスファードが切り開いてくれた場所を抜けて、目の前の森の中へと進んで行く。

「こっちだ!」

 ルビィが、右を指して言う。

 メンバー達が森の中へと入って行く間に、アスファードは単騎で魔物達と応戦していた。右手に槍を構えて、左手に魔法剣を持ち無数の魔物達と戦う。

 しかも……彼等メンバー達と離れない様に、移動しながらの応戦だった。

 後方をアスファードに預ける事で、後ろからの心配がなくなり、男性達が前方を固める事に専念出来た。

 低級の魔物達を蹴散らしながらアスファードはメンバー達との距離を保っていた。

(フ、この程度なら……皆の居る場所まであっさりと追いつけるな……)

 そう思いながら進んでいる時だった。

 ドン……ドン……

 遠くの方で何か大きな音が響いて来る感じがした。

「何だ……?」

 アスファードは、足を止めて耳を済ませる。

 ドン、ドン、ドン

 音が徐々に近付いて来るのが感じられる……

(何かが近付いて居る!)

 彼は周囲を注意深く探った。付近を見回して居ると、直ぐ側の沼の水面が、地響きの音共に波紋を揺らしていた。それに気付いたアスファードは、周囲に目を向けると、あれ程沢山居た筈の魔物達の群れが急に姿を消していた。

(何かが、この付近に近付いている。それも……相当手強そうな奴だ……低階級の魔物達も、直感で恐れて逃げ去ったに違いない!)

 そう感じたアスファードは急いでメンバー達の方へと走り出す。

「おーい、気を付けろー!」

 アスファードが大声で叫ぶが、距離が離れているせいか……皆に声が届いて居ない様子だった。

「参ったな、全然聞こえて無い様だな……」

 そう思って、彼が走って居ると……自分の居る位置から、少し離れた樹木の木々が、何かに押し倒される様に、バキ、バキ……と、音を立てて倒れて行く。それを見ていたアスファードはハッと彼は前方に目を向けた。

 ドンドン……ドンドン……

 自分達の先を行くメンバー達の近くに、巨大な体型の魔獣が姿を現した。

「う……うわァ、な……何だァ!?」

 突然、目の前に巨大な魔獣が現れてティオロは、慌てふためいた。

「グオオオー!」

 獣姿で、全身を黒色の毛皮に覆われ、頭部、肩、背中等に尖った角、更に鋭い牙と爪をは生やしており、身体の脚等にはノコギリの様な刃があった。

 彼等はこれまで見た魔獣よりも、一回り大きい生き物が現れた事に驚いた。

「グルル……ガオー!」

 魔獣の凄まじい咆哮にメンバー達は怖気付いた。

「さ……流石に、これは規格外だよね……」

 アルムが少し震えながら言う。

 これまで、善戦をしていたメンバーが、突然現れた魔獣に対して震え出し、戦意の低下が現れ始めていた。

(ここまで来て、皆が怖気付いてしまっては、館での戦いに影響してしまうわ……)

 そう思ったリーミアは聖魔剣に手を翳す。

 リーミアよりも前方に立っているアーレスも、フード付きのマントに手を当てていた。

(ここで道草している場合では無い……)

 彼等が行動しようとした時だった。

「僕に任せろ!」

 後方から声が聞こえ、皆が振り返ると、アスファードが高い位置から飛び降りて、魔獣に目掛けて聖魔剣を抜き取った。剣は長く伸びた刃となって現れる。

「炎斬!」

 彼の一声と共に、長く伸びた刃全体が真っ赤な炎に包まれる。アスファードは、その刃を魔獣に目掛けて振り下ろす。

「グオオ……」

 巨体な魔物は、その体型からは想像も出来ない速さで、アスファードの一撃を交わした。
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