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二章

23話

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 一週間かけてデザインの手直しや材料の選定、見積もりを出したクォギアは、ディルギスに許可を貰った後、行動を開始する。
まずは、魔獣の素材で布を織る工場へ手紙を送り、こちらの要望に合う様な布があるか問い合わせをした。しかし返ってきた答えが、〈魔獣の素材の入荷は常に不安定であり、品質もかなり偏りがあります。申し訳ありませんが、現在ある在庫では要望に見合う布はございません〉と言う謝罪だった。

「これは仕方ないな。品質が良い素材は、大量に食べ物を食える強者からしか得られない。討伐された折には全ての素材が鍛冶の神に渡り、鑑定され、殆どが防壁の資材と武器や防具になる。僅かだがオークションに掛けられていると聞くが、貴族か豪商くらいしか手にできない程の額だ。城の工房も出品されているか見ているだろうが、数が少ない分、競争率は高い。一般の工房や工場に渡るのは、比較的弱い魔獣から獲れる品質がいくらか落ちたものだ」

 クォギアの工房にて、様子を見に来たディルギスは謝罪の手紙を読み、彼に説明する。

「防衛の要ですからね……」

 北区にはディルギスだけでなく、戦神、鍛冶の神、医療の神の3柱が神殿を構えている。彼らが居なければ、防衛線を維持は出来ないので、クォギアもその話には納得をした。
 魔獣の素材に需要があり、産業として成り立っていても、優先されるのは最前線で戦う兵士達の武器や防具、そして国を守る防壁だ。兵士達が充分な装備を付け、栄養価の高い食事を摂り、万全な状態であるのは必要不可欠。防壁が正常に機能し、破損や綻びがあってはならない。

「絹や綿で代用すれば良いのではないか?」
「最終手段として考えています。せっかくディルギス様が、久しぶりに表に立つのですから、特別な服にしたいのです」

 諦めたように苦笑するクォギアを見て、ディルギスは少し考えた。

「北神門辺りであれば、掘り出し物があるかもしれない」

 防壁の中心にして、もっとも魔獣の脅威に晒される地を守る強固な門。北神門周りには、兵士の居住区や魔獣の解体業者や鍛冶師達の工房が多く集まっている。

「あそこには冒険者たちも足を運んでいる。中には魔法使いもいるので、彼等を商売相手に服を作る職人たちがいるはずだ。完全に魔獣素材とはいかないが、市場には出ない特殊な布があるんじゃないか?」
「探してみます!!」

 希望が見えたとばかりに、クォギアはさっそく出かける準備をする。
 ビルジュの関係者に監視されている懸念はあるが、ディルギスは嬉しそうなクォギアの姿を見て、何も言わなかった。
 動き回る彼の姿を見て、ディルギスは眩しそうに目を細める。





 北神門。首が痛くなる程に高く聳え立つ門と防壁を知っていても間近で見る機会が無かったクォギアは、関心をする。
 国営で運行する駅馬車に乗り、北神門広場までやって来たクォギアは、さっそく店を見て回る事にした。北神門は3重構造となっており、非常事態でない限り一番内側に当たる場所を広場として活用され、その周りに鍛冶師達の工房、武器や防具の店、魔法道具屋、大衆食堂と酒場、病院が建ち並び、どこか武骨な雰囲気を醸し出している。
 まずクォギアは魔法道具の専門店に入った。

「いらっしゃい。あぁ、ディルギス様の所の」

 クォギアを見るや否や、眼鏡を掛けた中年の男店主はそう言った。
 話がかなり広まっているなと思いつつ、店主に挨拶をしたクォギアはさっそく本題を話した。

「ディルギス様の礼服を作るって言うなら、もちろん売るさ。魔法使いのローブ用に、いくつか仕入れをしていから、持って来るよ。ちょっと待ってくれ」

 店主は店の奥から、円状の筒に巻かれた布を4本持って来た。布は、耐久性を上げるために幾つかの魔獣の素材を使って織られている。耐火に防水、そして丈夫でありながら軽い。値段によって質は変わるが、詠唱に集中する魔法使いの邪魔にならない実用的な布だ。

「どうだい? 他の色もあるよ」
「申し訳ありません。普段の自分なら、買いたいと思える位に良い品だと思います。しかし、ディルギス様の礼服なので……もう少し光沢が欲しいですね」

 素晴らしい布ではあるが、クォギアの理想には届いてはいなかった。

「光沢かぁ。うちのは大体この系統の布しかないから、すまないね。ローブや杖の見た目にこだわる人向けの店もあるから、言ってみたはどうだい?」
「そうします。お手数をおかけしました」

 クォギアはその後、店を回ってみたが、思う様な布は見つからなかった。
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