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一章
15話
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生活改善と言われ、エンティーは一か月半の変化を思い返す。食事は、いつもと同じ硬いパンとチーズ、そして追加された果実又は野菜、塩漬けした干し肉が一切れ出た。テンテネからは、身体の肉付きが良くなったと褒められた。部屋には特に変化は無い。配給された服は誰かのお古であるが、解れや破れは無い。
嫌がらせや暴力を受ける事も、暴言を吐かれる事も無くなった。エンティーにとってそれが一番良い変化であった。それより良い生活が何なのか、彼には想像がつかなかった。
「私がキミへ送った髪飾りや茶器は、受け取っているかな?」
彼は少し考えると、エンティーに問う。
「……いいえ。全く知りません」
彼の前では嘘は言えないと、エンティーは素直に答える。勉学に忙しかったとはいえ、毎晩自室に戻って休んでいた。自分宛てに何か届けば、支給箱に入っているはずだ。食事以外のものを見た事が無い。
「僕が送った手紙と菓子やお茶も……?」
シャングアはそれを聞いて、言葉を漏らす。心殻へ迎え入れるためとは言え、一か月半も会えず、情報共有できない状況を作ってしまった事に責任を感じ、シャングアはエンティー宛に謝罪の手紙を出し、時折菓子や茶葉を送っていたのだ。
「え……? 手紙?」
思わぬ言葉に、エンティーはシャングアを見る。
それを聞いたバルガディンは、扉の前に立っている兵士に目を向ける。
「調査を始めろ。リルの件もある」
兵士は一礼をすると、素早くその場を後にした。
バルガディンは大きくため息を吐くと、エンティーを優しく床へと下した。
「母の代から神殿でのΩ達の人権保護、生活の改善を行ってきたが、差別の根はあまりにも深い」
王だからと言って、全てを把握できるわけではない。虚偽の報告と複数の協力者によって、エンティーだけでなくΩ達の生活の改善は一向に進んではいなかった。リュクのように、若い世代の意識に変化はあった事が不幸中の幸いである。
「すまない。キミには、辛い日々を送らせてしまった」
無骨な大きな手が、エンティーの肩へと静かに添えられる。
「いえ、そんな……俺は、大丈夫です」
バルガディンは何かを言おうとするがそれを辞め、周囲に向かって輝くほどの笑顔を浮かべる。
「この話はここでやめよう! 今日はめでたい日なのだから!」
彼がそう言うと、暗い空気が一気に消え去り、華やかさに輝き、歓声が上がる。
「え、あの、誓いの言葉は……」
エンティーが遠慮がちに聞くと、
「良い良い! 無くとも二人の仲は見て取れる!!」
バルガディンは豪快に笑い、エンティーとシャングアの背を押し、二人を近づけさせる。
「うむ!! お似合いだ! 実に良い!!」
再び歓声が上がる。
「さぁ! 宴だ!!!」
その声を聞き、壁際で待機していた従属達が、絨毯を敷き、花の刺繍がふんだんに施された色彩豊かな座布団を置いていく。扉が開かれ、大皿に盛られた新鮮な果実、香ばしい鳥の丸焼き等、数々の料理が運ばれ、銀の盃が皆に配られていく。
現在は食事の際に机と椅子を使用するのが一般的だが、誓約の儀や婚姻の儀、伝統的な祭りの時には、古くからの作法で宴を開く。
しかし、ここは玉座の間。皆が座布団へと当然のように座る中、水の入った銀の盃を貰ったエンティーは立ち尽くし、ふと隣のシャングアを見ると、目線に気付いた彼は申し訳なさそうな顔をする。
「その……父様は、楽しむとなると場所を選ばない人だから……」
「う、うん……」
「さぁ、二人とも! 主役が来ないでどうする!」
バルガディンに呼ばれ、二人は座布団へと座った。
嫌がらせや暴力を受ける事も、暴言を吐かれる事も無くなった。エンティーにとってそれが一番良い変化であった。それより良い生活が何なのか、彼には想像がつかなかった。
「私がキミへ送った髪飾りや茶器は、受け取っているかな?」
彼は少し考えると、エンティーに問う。
「……いいえ。全く知りません」
彼の前では嘘は言えないと、エンティーは素直に答える。勉学に忙しかったとはいえ、毎晩自室に戻って休んでいた。自分宛てに何か届けば、支給箱に入っているはずだ。食事以外のものを見た事が無い。
「僕が送った手紙と菓子やお茶も……?」
シャングアはそれを聞いて、言葉を漏らす。心殻へ迎え入れるためとは言え、一か月半も会えず、情報共有できない状況を作ってしまった事に責任を感じ、シャングアはエンティー宛に謝罪の手紙を出し、時折菓子や茶葉を送っていたのだ。
「え……? 手紙?」
思わぬ言葉に、エンティーはシャングアを見る。
それを聞いたバルガディンは、扉の前に立っている兵士に目を向ける。
「調査を始めろ。リルの件もある」
兵士は一礼をすると、素早くその場を後にした。
バルガディンは大きくため息を吐くと、エンティーを優しく床へと下した。
「母の代から神殿でのΩ達の人権保護、生活の改善を行ってきたが、差別の根はあまりにも深い」
王だからと言って、全てを把握できるわけではない。虚偽の報告と複数の協力者によって、エンティーだけでなくΩ達の生活の改善は一向に進んではいなかった。リュクのように、若い世代の意識に変化はあった事が不幸中の幸いである。
「すまない。キミには、辛い日々を送らせてしまった」
無骨な大きな手が、エンティーの肩へと静かに添えられる。
「いえ、そんな……俺は、大丈夫です」
バルガディンは何かを言おうとするがそれを辞め、周囲に向かって輝くほどの笑顔を浮かべる。
「この話はここでやめよう! 今日はめでたい日なのだから!」
彼がそう言うと、暗い空気が一気に消え去り、華やかさに輝き、歓声が上がる。
「え、あの、誓いの言葉は……」
エンティーが遠慮がちに聞くと、
「良い良い! 無くとも二人の仲は見て取れる!!」
バルガディンは豪快に笑い、エンティーとシャングアの背を押し、二人を近づけさせる。
「うむ!! お似合いだ! 実に良い!!」
再び歓声が上がる。
「さぁ! 宴だ!!!」
その声を聞き、壁際で待機していた従属達が、絨毯を敷き、花の刺繍がふんだんに施された色彩豊かな座布団を置いていく。扉が開かれ、大皿に盛られた新鮮な果実、香ばしい鳥の丸焼き等、数々の料理が運ばれ、銀の盃が皆に配られていく。
現在は食事の際に机と椅子を使用するのが一般的だが、誓約の儀や婚姻の儀、伝統的な祭りの時には、古くからの作法で宴を開く。
しかし、ここは玉座の間。皆が座布団へと当然のように座る中、水の入った銀の盃を貰ったエンティーは立ち尽くし、ふと隣のシャングアを見ると、目線に気付いた彼は申し訳なさそうな顔をする。
「その……父様は、楽しむとなると場所を選ばない人だから……」
「う、うん……」
「さぁ、二人とも! 主役が来ないでどうする!」
バルガディンに呼ばれ、二人は座布団へと座った。
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