白銀の城の俺と僕

片海 鏡

文字の大きさ
25 / 71
二章

25話

しおりを挟む
 会場が混乱に見舞われ、飛竜達は竜騎士達によって制圧されていく。
 奇蹟によって身動きが取れなくなった飛竜達は、飛べないように縄で前足を拘束され、布で顔を覆われる。視界を失った飛竜達は徐々に落ち着きを取り戻し、竜騎士達の指示に従って移動を開始する。

「会場に墜落した飛竜の全捕獲及び負傷した騎士達の搬送が完了いたしました」

 団長とシャングアへと1人の竜騎士が報告にやって来る。

「会場以外に墜落した飛竜達は?」

 シャングアは、飛竜の一匹が内殻の生産地区方面へ墜落していくのを見かけていた。

「数は少ないですが墜落した範囲が広い為、他の騎士団に応援要請を行い、捕獲を試みております。神殿全域に地下への避難勧告を発令し、完了したと報告が来ております」
「わかった。引き続き、飛竜の捕獲を頼む」
「はい!」

 竜騎士は2人に一礼をすると、神殿内部へと走っていく。

「団長。すまないが、私は誓約者を迎えに行く」

 あの状況下とはいえ、エンティーが避難先で貴族から危害を受けている可能性があり、シャングアは早く迎えに行く必要があった。

「わかりました。ここは、お任せください」

 共に飛竜を制圧した竜騎士の団長は快く承諾し、シャングアは貴族達の避難した通路へと走り出す。
 神殿は迷宮のように入り組んでおり、外部からの敵の侵入を防ぐ役割を担っている。特に心殻と隣接する内殻の一部は複雑になっており、慣れない者では瞬く間に迷子になってしまう程だ。

「エンティー! どこだー!」

 シャングアは飛竜に居場所がバレようとも対応するだけの能力は充分にあり、エンティーの無事を確認する事を優先し大声を出す。

「お待ちくださいシャングア様!」

 神殿の室内から、シャングアの行く手を塞ぐように貴族の男性βが現れる。以前、Ωの令嬢との見合いを断った一族の当主だ。彼が出てくると、他の貴族達も建物から出てくる。
 見計らったような登場に、シャングアは内心嫌悪する。

「まだ飛竜は神殿内で暴れております。危険です」
「退け」

 時間稼ぎである事は明白であるが、危害を加えてはならないと思いシャングアは言う。

「騎士達に任せ、シャングア様は安全な場所へ避難してください」
「シャングア様の身に何かあれば」
「この程度で命を落とすほど軟ではない」

 貴族の言葉を遮り、シャングアはそう言うと無理やりにでも向かおうと歩き出す。

「あの者の代わりは居るでしょう」

 当然のように言われた言葉。
 エンティーが危険に晒されているとシャングアは察した。貴族達は、エンティーを扉の中へと避難させなかった。エンティーは今もどこかでまだ避難しようと逃げている。

「代わりだと?」

 シャングアはその言葉に、怒りが湧き上がる。弱みを見せないよう、感情を荒立てない様に教育を受けてきたが、我慢が出来なかった。いつも一定値まで感情を膨れ上がらせないように、家族を心配させないように心掛けてきた。
 誰かが怪我をしない様に気を付けてきたが、限界が近い。

「あの者は平民です」
「人を平然と侮辱するお前達の方が、尊いとでも言いたいのか」

 その瞬間、神殿が大きく揺れ、シャングアを中心に地面と建築物にひびが入る。空中に漂う神力は大きく振動し、肌に触れる空気は刃物のように鋭く変化する。

「シ、シャングア様」

 何時も大人しく、逃げ回り、皇太子の影に隠れていた木偶の坊ではない。貴族は思わず座り込み、その様子を伺っていた者達は建物へと引き返す。

「私の誓約者は、彼一人。代わりなんて存在しない」

 座り込む貴族を視界に入れることなく、シャングアは前へと進む。
 









「うわ!?」

 迷路のような心殻と内殻の間を走っていたエンティーは、大きな揺れに思わずバランスを崩し倒れてしまう。直ぐに立ち上がったが、足が震えてしまいうまく走れない。
 エンティーはずっと一体の飛竜に追いかけられ続けている。
建物の柱や壁を破壊し、時に竜騎士達に遭遇するも、それを掻い潜る飛竜の目にはエンティーしか映ってはいない。
唸る声と、大きな足音。そして、石が崩れ落ちる音が聞こえる。

「に、逃げないと」

 避難勧告の鐘が鳴り、一階にあるすべての扉が閉ざされ、二階へと上がる事も出来ない。
 効果が変更された誓約によって、飛竜は3度飛ばされたが、直ぐに戻って来てしまう。
 シャングアの元へ行く道筋が分からず、それでもエンティーは逃げようと走り続ける。入り組む道の中から、風の通る場所を見つけ出し、ひたすら逃げる。
 しかし、足に限界が来た。

「っ!!」

 倒れたエンティーはもう一度立ち上がろうとするが、足に激痛が走る。
 動けと何度も念じるが、足は小刻みに震えるだけ。
 助けを呼ぼうとするよりも早く、飛竜がエンティーの元へと到着してしまう。
 興奮状態である筈が金色の瞳はエンティーを真っ直ぐに見据え、口から生え揃った牙が顔を覗かせる。飛ばされると学習したのか、前と後ろの足を地面に深く食い込ませるようにエンティーへと迫る。
 食われる、とエンティーは思わず目を瞑った瞬間、飛竜の悲鳴が響き渡った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

処理中です...