モブ令嬢はモブとして生きる~周回を極めた私がこっそり国を救います!~

片海 鏡

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9章 描かれたるは聖なる者

160話 多難の予言

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『グッドエンド? ハッピーエンド? そんなもの、あの青年には最初から無い』

 ちょ、え? は???
 ………え???? 
 前世が捏造ってこと、だよね? でも、水の賢者は普通(?)に転生している。
 く、くく、詳しく、説明を……

『あれは宇宙に根を広げる神脈から零れ、星となった何処かの誰かの記憶に過ぎない。役目を終われば機能停止。ただの泥に還るのみだ』

 泥か。泥……そう来たか……

 神造の神について何かヒントがあるかと調べている最中に、人類創造について書かれた神話を私は見つけていた。
 生物は、神脈より生じた最初の神〈星神〉の手によって作られた。材料は、神脈の流れの底に溜まる泥。世界を創造し終えた星神は、人間や生物を一つ一つ丁寧に形作った。完成した泥の人形に息を吹きかけると、彼らは動き出したとされる。
 最初に生じた大いなる意思によって魂の形が確定し、現在の世界がある。
 泥ではなく垢や岩など材料に地域差はあるが、大体共通している内容だ。

 その泥が負の想念の〈赤黒いドロドロ〉の代わりとなり、神造の神が手を加えて魔物の形に変化させていたとしたら、と考えた。

『今はもう神脈へと至れるのは魂のみだ。故に、聖なる泥は取り出せない。しかし、技術は真似られる。零れ落ちた星を入れさえすれば、本物に最も近い人形が出来上がる。厄介なことに、見抜ける者は我か神の生き残り位だ』

 もしかして。
『そう。人間達が作ったホムンクルスが〈それ〉に近い』

 私の中で、転生の概念が歪み始めた。
 でも、納得した部分がある。

 ホムンクルスのサジュは、私や兄様との過去を持っている。本物の血液や体の一部から得られる情報から、生まれながらに備わったものだとされる。
 本人に最も近い偽物が完成する。
 リティナに関して、人形であるとは確定できない。
 私がいるからだ。

『あんたは、本当に不思議な存在だ。泥ではなく、母の胎から産まれた歴とした〈生物〉だ。しかし、その魂に刻まれた記憶の一部は宙にあった。いったい、誰の仕業かな?』

 水の賢者の問いかけに、私は答えられるはずが無い。
 先程の水の賢者の言った〈神の生き残り〉の可能性も浮上したが、どんな存在か不透明だ。私の頭の中に在る記憶は、本当に前世なのか不安になって来る。

『おっと。年を取るとつい長話をしてしまうな。悪い。悪い。話を戻そう』

 水の賢者は面白そうに、楽しそうに、笑みを浮かべている。
 私の考えすら見透かしている様に思えて来る。

『絶海の胎国への鍵は、二個目を作ることは出来ない。何個も作っては、悪用されかねないのでね。魚人族を守るには、致し方ない。我に会うための試練として、その鍵のありかを教える』

 ゲーム本編の流れが私では組めない以上、覚悟している。こうして教えてくれることに、感謝する程だ。

『鍵は神聖教会の総本山である〈エンメルシア大聖堂〉に保管されている。流れに流れて、当時の聖女へ献上されたからだ』

 人魚の涙を手に入れるイベントは、幾つかルート分岐するが、決まって最後に辿り着くのがエンメルシア大聖堂だ。
 聖女は負の想念に侵された人々の救済に忙しく外に出るのも難しいが、物資が滞ることなく流通し、支援が続く理由に、リティナの存在があると耳にする。彼女手助けになれば、と〈人魚の涙〉を司祭に伝手にリティナへと送る。そんな流れだ。

『試練は……少し時間が経ったら、あんたの身に危機が遇うところから始まる。ようは誘拐だ』

 少し時間が経ったら!?!!?????

 このレンリオス領で起こるの!?  
 で、でも未来を予言されているなら、回避できるよね。
 それで正式に訪問すれば……

『回避すると、次の機会ないぞ。ロレンベルグに助力を乞おうとするのは、やめなさい。あれを今、表に出しては、両国の内部が拗れる』

 はぁ!? 確かにゲーム本編の年に迫っているけど!? あれってなに!?
 この野郎!!!! 何を見たか吐け!!!!!

『吐かんぞ』

 くそー! うわああぁ! 過去から未来人の心読んだな!!?
 なにこいつ! おかしいって! そこ、勿体ぶる所じゃないでしょ!?
 黙って被害を受けろって言うの!? 嫌に決まってる!!!!
 今までは皆がいてくれたから、なんとか平静保てたけれどさ!! 外で待機してくれているゼノスさんと私だけって無理があるよ!! 
 あの時のニアギスみたいに、私のせいでゼノスさんが大怪我したらどうするの!? 

『まぁ、まぁ、心強い仲間が3人集まるのだから、そう不安がるな』

 ニアギスが定期報告にたまたま来るのかな……それでも1人だし……
 グランは……危ないから来てほしくないな。
 もっと良い感じのヒント貰えないの?

『あれとは直接対決には成らない。仲間のお陰で回避できる。そして、彼によって鍵は手に入るんだ。安心して流れに任せるがいいさ』

 しないって言ったくせに、回答してる。本当に何なの、この人……

 人魚の涙を手に入れるには、私達は〈あれ〉と呼ばれる何者かが仕切る組織に誘拐されて、色々あって大聖堂へ行きつかなければならない。けれどレンリオス領からグランディス皇国までは、かなりの距離がある。私が帰宅途中で襲撃に遭い、行方不明と知れば、お父様やリトゥアさん達が動き出す。
 そちらの方が、内部を拗らせそうなものだ。あえて危険な選択する理由はなんだろう。

『彼はよくやっている。今も、昔も、命を賭けている』

 え? 彼って?

「ミューゼリアさん?」
 問いかけた瞬間、ラグニールさんに軽く肩を叩かれ、私は我に返った。

 私は白い世界から脱出し、絵画の前で立ち尽くしていた。

「険しい顔でこの絵を見ていたけれど、どうかしたの?」
「あ、いえ。何か魔力を感じて、なんだろうと思って……」
「ほぉ、君も気付いたか。20年ほど前に開いた個展で、アーダイン公爵も同じことを言っていたよ」

 私の誤魔化しに、リトゥアさんが乗ってくれた。
 再度絵画を確認する。キャンバスの中で笑みを浮かべた男は、もう喋らない。
 星の瞬きのような小さな魔力が、残るのみだ。

 ……前途多難過ぎて、ここから離れたくない。
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