24 / 168
2章 生誕祭に霊草の葉を
24話 国王陛下の御前 (一部修正)
しおりを挟む
イリシュタリアの王城。私とお父様は王太子と共に、玉座の間へと辿り着いた。
長方形の広い空間は、白を基調に鷲や植物の金の繊細な装飾を施した壁と柱が並び、天井には豪華に煌めくシャンデリアが等間隔吊るされている。最奥は人の注目を集めるかのように赤い天蓋で飾られた壇上がある。そこに玉座があり、国王陛下が私達を待っている。
緊張するが、お父様が一緒なのが心強い。静寂の中、足音よりも心臓の大きな音だけが私の耳に届いている。
「イリシュタリアの太陽。国王陛下に挨拶を申し上げます」
国王陛下の御前へ到着すると、お父様は動じる様子無く挨拶を行い、続いて私も緊張しながらカーテシーを行う。私の隣に立つレーヴァンス王太子もまた深々と頭を下げる。
「レーヴァンス、ご苦労であった。2人とも、よく来てくれたな」
玉座に座る陛下は微笑を浮かべながら、私とお父様、レーヴァンス王太子を見下ろしている。
国王オルディエン・ワーシェルマ・イリシュタリア。
確か今年で46歳になる。短く整えられた金髪に知性の光が宿る紫色の瞳。引き締まった体に、雄々しくも芸術品の様に精悍な顔は年齢よりも若々しい。紺の地に金の装飾が施された礼服を来た姿は、近寄りがたくも目を背ける事が出来ない魅力を持っている。
レーヴァンス王太子だけでなく、オルディエン陛下も瞳の色がゲームとは違う。
「呼ばれた理由は、君達がよく分かっている事だろう」
お父様が一緒にいてくれるが周囲には、沢山の大人達がいる。お父様と同じ年頃から、初老、老齢と年層に幅がある。男性が多い中、女性もいる。
ゲームプレイヤーの私にとっては見覚えのある長身の男性の隣に、あの女がいる。
赤い扇子で口元を隠しているが、あの女がこちらを見て笑っているのが分かる。ムカつく。
それでいて、痛い程に集まる視線がとても怖い。
「アーダイン公。こちらが、レンリオス卿の娘であるミューゼリア殿だ」
陛下がそう言って、壇上の下に控えている銀髪の長身の男性に目線を向ける。
年齢は今年45歳。背がすらりと高く、体格は痩せ気味。王国の魔術師達が着る長い白いマントと紺色の軍服。軍服の胸元には多くの勲章が連なっている。オールバックにきっちりと整えられた髪は銀色に、気難しそうな紫色の目の下には隈がある。顔立ちは整っていると思うが青白い肌に頬はこけ、眉間に彫り込まれた皺が、鋭い眼光と相まってどこか威圧感を出していて近寄りがたい。
ヴェンディオス・ワシュア・アーダイン。
シャーナさんの父親であり、国家最強の魔術師。ゲーム中ではリティナの師匠と衝突するシーンが多かったが、言い分も理解できる点があり、悪い印象が全くない。
アーダイン公爵は険しい表情のまま私達の前へと立った。
緊張と不安で心臓が飛び上がりそうな程に大きな音を立てている。
もしかしたら、話を聞いてくれるかもしれない。そう思い、声を出そうとした。
その瞬間。
アーダイン公爵は胸に左手を当て深々と頭を下げた。
「ありがとう。あなた方は、娘の命の恩人だ」
突然の出来事に、驚きのあまり私は頭が真っ白になり、ただ頭を下げるアーダイン公爵を見る事しか出来ない。
時が止まったかのように動かなかった周りの人々は、アーダイン公爵が顔を上げると周囲は騒めき始める。
「こ、公爵様。何故です!? 貴方があんな小娘に頭を下げるなんて!?」
女は慌ててアーダイン公爵に問い詰めようとしたが、騎士達が間に入り止められてしまう。
「なっ、なにをするの!」
「静粛にしてください。陛下の御前です」
一人の騎士が淡々とそう言い、女は周囲の視線に黙った。
思わずお父様を見ると、私と同じように戸惑った表情を浮かべている。お父様も、詳しく知らされていなかったようだ。
「レンリオス男爵令嬢。貴女がシャルティスの葉を我が娘シャーナに食べさせていなければ、一命を取り留められなかった。レンリオス夫人が騒動の解決よりも先に、病院へ連絡するよう指示をされなければ……あの子は、後遺症に苦しんでいでしょう」
あの時、警備兵達は女を守る事ばかりに専念していて、倒れ込むシャーナさんを完全に無視していた。異常な光景だった。到着したお母様が、即座に病院へ連絡するよう劇場のスタッフに指示を出した。大人に組み伏せられている私を目の辺りにして相当ご立腹だったと思うが、一番危険な状態であったシャーナさんを優先してくれた事を感謝している。
「公爵様! 小娘がシャーナに毒を盛ったのです! 優しい彼女は騙され、あんな可哀そうな姿になったのですよ!」
つい先ほど静かにしろと言われたばかりのはずが、女は声を張り上げる。
「黙れ。この場がなぜ用意されたのか、まだわからないのか」
アーダイン公爵は眉間に皺がより深くしながら、女を睨んだ。
「陛下。我々に発言の許可を頂けますか?」
許しを求めたのは、魔術師の軍服を着た白髪交じりの女性と20代の青年だった。青年の手には、分厚い紙の束を纏めたファイルらしき本が抱えられている。
「良い。話してくれ」
「ありがとうございます」
女性と青年は陛下へ深々と頭を下げた後、ファイルを開き、周囲を見据える。
「今回の事件及び赤い毒液に関する調査を行いました。毒液に関してはこの4年間幾度も訴え続けていましたが、揉み消され続けておりました」
女性は最後の方へやや棘がある声音で言った。
私はそこで幾つか納得をした。揉み消され続けていたのは、恐らくあの女が原因。8年後のゲームの舞台より少し前に、何らかの理由でアーダイン公爵とあの女が離縁した。その結果、彼女たちの調査がようやく国王の耳に入り、正当なものであると評価され、廃止が決定した。だから、ゲームでは一切赤い液体とあの女は登場せず、シャーナさんが飲む描写が無かった。異母弟は年が離れたので、リティナと接点が出来なかったのだろう。
「レンリオス男爵家の皆さまは、誰一人毒物を所持しておりません」
玉座の間にいる全ての人に伝わるように、女性は大きく良く通る声で断言をする。
「レンリオス男爵家は、陛下からの招待を受け、銀水晶の館に滞在されていました。この館に入る際、危険物が無いか検査を行っております。護衛の兵士達の持つ剣を除いて、危険物は発見されませんでした。外部からの持ち込みや怪しい人物はおりません。魔術に関して感知されたものは、ミューゼリア男爵令嬢が直々に持って来られた木箱のみです」
銀水晶の館へ入った際に、沢山の使用人が荷物を運んでくれていたが、あの中に検査員が数人いたのだろうと私は思い返した。また、2週間は完全に予定が組まれていた。公の場で王太子や貴族達と会っても、それ以外は別館で過ごし、外部からの干渉は殆どない。王都観光をしないのは身の安全のためとお母様は言っていたが、女性の発言を含めて王家に連なる使用人や騎士達から監視を受けていたのは確実だ。逆手に取る様に、それが確たる証拠に成っている。
「なら、その箱が怪しいじゃない。その中に毒物があったのでしょう?」
私を悪者に仕立て上げようとしているが、手遅れどころか最初から無理な状況だ。女はそれでも足掻いている。
「いいえ。令嬢の就寝中に確認をしましたが、木箱の中にはシャルティスが植えられている鉢がありました」
女性は一刀両断の如く、否定する。
「定期的に霊峰にて採取されているものとは違い透明度は下がりますが、検査したところ正真正銘のシャルティスである事が判明しました。イグルド様が医師に対して〈令嬢が持って来たシャルティスの葉のお陰で元気になった〉と仰っていた事や、シャーナ公爵令嬢の容態から、効能も充分にあると判断が出来ます」
青年はファイルにまとめられた内容を話す。
今は流すように言われてしまったが、シャーナさんの容態が回復していると分かって安心した。
「レンリオス男爵によると、ミューゼリア嬢に誕生日のプレゼントとしてシャルティスの種を6粒渡していたそうです。植えられていた芽の数と合致します。木箱に入っていた4属性の疑似魔鉱石による無属性空間を作り、霊峰の環境の人工再現、それを封印魔術によって外部からの干渉を遮断し、安定させる方法は画期的です。令嬢は、人工的な発芽を成功させただけでなく、本葉までの生育を成しえました」
青年の話しを聞き、注目が一気に私へと集まる。
「ミューゼリア嬢。あなたは何故、シャルティスの木箱をここまで持って来たのでしょうか?」
余りのとんとん拍子の内容に、横やりが入らないよう女性は私に問いかける。
「私の封印魔術は長い時間はもちません。時折術を再度かけ直さないといけませんし、毎日世話をしている私しか無属性空間の調節はできません。封印の外側の世界が変わった場合、シャルティスにどのような影響があるか調べるためにも、屋敷から持って来ました」
私は出来る限り聞き取りやすいように、少し大きな声で答える。
類稀なる天才でない限り、8歳の子供の魔術はまだまだ未完成だ。それでいて無属性空間の調整は表向きは私が行った事になっている。周囲の人々は、本当に8歳の子供ができるのかと疑ってはいる様子だが、説明自体には納得をしているのか何も言っては来ない。
「劇場で、シャルティスの葉を所持していたのは何故しょうか?」
「貴族の子供達が集められた誕生日会で、赤い液体が配られました。その時に、兄様が少しだけ飲んでしまって、すぐに吐いたので昼間は平気そうに見えました。しかし、心配になって夜に様子を見に行くと、とても苦しそうにしていて……その時、念の為持って来た木箱の中からシャルティスの葉を摘んで、兄様に食べてもらいました。その時に、同じように他の子も苦しんでいるのではと考え、劇場で会えたらあげようと思い、3枚持ち出していました」
本命はシャーナさんであったが、できれば取り巻きの2人の女の子や、他の子にもと思っていた。しかし、彼女達が全ての催しに出席している訳ではない。私自身も不用意に単独で行動出来ないのもあり、偶然に近い形でシャルティスを渡せたのはシャーナさんだけだった。
「あの日か。子供達の好物のみを出せ、と料理人達に命令したはずだ」
今まで静観していた国王陛下は私の話を聞き、ポツリと呟く。
その言葉は凪の水面に落ちた一滴の波紋の様に、広がりを見せる。それは、王の命令を無視し、何者かが裏で動いた事を意味する。
長方形の広い空間は、白を基調に鷲や植物の金の繊細な装飾を施した壁と柱が並び、天井には豪華に煌めくシャンデリアが等間隔吊るされている。最奥は人の注目を集めるかのように赤い天蓋で飾られた壇上がある。そこに玉座があり、国王陛下が私達を待っている。
緊張するが、お父様が一緒なのが心強い。静寂の中、足音よりも心臓の大きな音だけが私の耳に届いている。
「イリシュタリアの太陽。国王陛下に挨拶を申し上げます」
国王陛下の御前へ到着すると、お父様は動じる様子無く挨拶を行い、続いて私も緊張しながらカーテシーを行う。私の隣に立つレーヴァンス王太子もまた深々と頭を下げる。
「レーヴァンス、ご苦労であった。2人とも、よく来てくれたな」
玉座に座る陛下は微笑を浮かべながら、私とお父様、レーヴァンス王太子を見下ろしている。
国王オルディエン・ワーシェルマ・イリシュタリア。
確か今年で46歳になる。短く整えられた金髪に知性の光が宿る紫色の瞳。引き締まった体に、雄々しくも芸術品の様に精悍な顔は年齢よりも若々しい。紺の地に金の装飾が施された礼服を来た姿は、近寄りがたくも目を背ける事が出来ない魅力を持っている。
レーヴァンス王太子だけでなく、オルディエン陛下も瞳の色がゲームとは違う。
「呼ばれた理由は、君達がよく分かっている事だろう」
お父様が一緒にいてくれるが周囲には、沢山の大人達がいる。お父様と同じ年頃から、初老、老齢と年層に幅がある。男性が多い中、女性もいる。
ゲームプレイヤーの私にとっては見覚えのある長身の男性の隣に、あの女がいる。
赤い扇子で口元を隠しているが、あの女がこちらを見て笑っているのが分かる。ムカつく。
それでいて、痛い程に集まる視線がとても怖い。
「アーダイン公。こちらが、レンリオス卿の娘であるミューゼリア殿だ」
陛下がそう言って、壇上の下に控えている銀髪の長身の男性に目線を向ける。
年齢は今年45歳。背がすらりと高く、体格は痩せ気味。王国の魔術師達が着る長い白いマントと紺色の軍服。軍服の胸元には多くの勲章が連なっている。オールバックにきっちりと整えられた髪は銀色に、気難しそうな紫色の目の下には隈がある。顔立ちは整っていると思うが青白い肌に頬はこけ、眉間に彫り込まれた皺が、鋭い眼光と相まってどこか威圧感を出していて近寄りがたい。
ヴェンディオス・ワシュア・アーダイン。
シャーナさんの父親であり、国家最強の魔術師。ゲーム中ではリティナの師匠と衝突するシーンが多かったが、言い分も理解できる点があり、悪い印象が全くない。
アーダイン公爵は険しい表情のまま私達の前へと立った。
緊張と不安で心臓が飛び上がりそうな程に大きな音を立てている。
もしかしたら、話を聞いてくれるかもしれない。そう思い、声を出そうとした。
その瞬間。
アーダイン公爵は胸に左手を当て深々と頭を下げた。
「ありがとう。あなた方は、娘の命の恩人だ」
突然の出来事に、驚きのあまり私は頭が真っ白になり、ただ頭を下げるアーダイン公爵を見る事しか出来ない。
時が止まったかのように動かなかった周りの人々は、アーダイン公爵が顔を上げると周囲は騒めき始める。
「こ、公爵様。何故です!? 貴方があんな小娘に頭を下げるなんて!?」
女は慌ててアーダイン公爵に問い詰めようとしたが、騎士達が間に入り止められてしまう。
「なっ、なにをするの!」
「静粛にしてください。陛下の御前です」
一人の騎士が淡々とそう言い、女は周囲の視線に黙った。
思わずお父様を見ると、私と同じように戸惑った表情を浮かべている。お父様も、詳しく知らされていなかったようだ。
「レンリオス男爵令嬢。貴女がシャルティスの葉を我が娘シャーナに食べさせていなければ、一命を取り留められなかった。レンリオス夫人が騒動の解決よりも先に、病院へ連絡するよう指示をされなければ……あの子は、後遺症に苦しんでいでしょう」
あの時、警備兵達は女を守る事ばかりに専念していて、倒れ込むシャーナさんを完全に無視していた。異常な光景だった。到着したお母様が、即座に病院へ連絡するよう劇場のスタッフに指示を出した。大人に組み伏せられている私を目の辺りにして相当ご立腹だったと思うが、一番危険な状態であったシャーナさんを優先してくれた事を感謝している。
「公爵様! 小娘がシャーナに毒を盛ったのです! 優しい彼女は騙され、あんな可哀そうな姿になったのですよ!」
つい先ほど静かにしろと言われたばかりのはずが、女は声を張り上げる。
「黙れ。この場がなぜ用意されたのか、まだわからないのか」
アーダイン公爵は眉間に皺がより深くしながら、女を睨んだ。
「陛下。我々に発言の許可を頂けますか?」
許しを求めたのは、魔術師の軍服を着た白髪交じりの女性と20代の青年だった。青年の手には、分厚い紙の束を纏めたファイルらしき本が抱えられている。
「良い。話してくれ」
「ありがとうございます」
女性と青年は陛下へ深々と頭を下げた後、ファイルを開き、周囲を見据える。
「今回の事件及び赤い毒液に関する調査を行いました。毒液に関してはこの4年間幾度も訴え続けていましたが、揉み消され続けておりました」
女性は最後の方へやや棘がある声音で言った。
私はそこで幾つか納得をした。揉み消され続けていたのは、恐らくあの女が原因。8年後のゲームの舞台より少し前に、何らかの理由でアーダイン公爵とあの女が離縁した。その結果、彼女たちの調査がようやく国王の耳に入り、正当なものであると評価され、廃止が決定した。だから、ゲームでは一切赤い液体とあの女は登場せず、シャーナさんが飲む描写が無かった。異母弟は年が離れたので、リティナと接点が出来なかったのだろう。
「レンリオス男爵家の皆さまは、誰一人毒物を所持しておりません」
玉座の間にいる全ての人に伝わるように、女性は大きく良く通る声で断言をする。
「レンリオス男爵家は、陛下からの招待を受け、銀水晶の館に滞在されていました。この館に入る際、危険物が無いか検査を行っております。護衛の兵士達の持つ剣を除いて、危険物は発見されませんでした。外部からの持ち込みや怪しい人物はおりません。魔術に関して感知されたものは、ミューゼリア男爵令嬢が直々に持って来られた木箱のみです」
銀水晶の館へ入った際に、沢山の使用人が荷物を運んでくれていたが、あの中に検査員が数人いたのだろうと私は思い返した。また、2週間は完全に予定が組まれていた。公の場で王太子や貴族達と会っても、それ以外は別館で過ごし、外部からの干渉は殆どない。王都観光をしないのは身の安全のためとお母様は言っていたが、女性の発言を含めて王家に連なる使用人や騎士達から監視を受けていたのは確実だ。逆手に取る様に、それが確たる証拠に成っている。
「なら、その箱が怪しいじゃない。その中に毒物があったのでしょう?」
私を悪者に仕立て上げようとしているが、手遅れどころか最初から無理な状況だ。女はそれでも足掻いている。
「いいえ。令嬢の就寝中に確認をしましたが、木箱の中にはシャルティスが植えられている鉢がありました」
女性は一刀両断の如く、否定する。
「定期的に霊峰にて採取されているものとは違い透明度は下がりますが、検査したところ正真正銘のシャルティスである事が判明しました。イグルド様が医師に対して〈令嬢が持って来たシャルティスの葉のお陰で元気になった〉と仰っていた事や、シャーナ公爵令嬢の容態から、効能も充分にあると判断が出来ます」
青年はファイルにまとめられた内容を話す。
今は流すように言われてしまったが、シャーナさんの容態が回復していると分かって安心した。
「レンリオス男爵によると、ミューゼリア嬢に誕生日のプレゼントとしてシャルティスの種を6粒渡していたそうです。植えられていた芽の数と合致します。木箱に入っていた4属性の疑似魔鉱石による無属性空間を作り、霊峰の環境の人工再現、それを封印魔術によって外部からの干渉を遮断し、安定させる方法は画期的です。令嬢は、人工的な発芽を成功させただけでなく、本葉までの生育を成しえました」
青年の話しを聞き、注目が一気に私へと集まる。
「ミューゼリア嬢。あなたは何故、シャルティスの木箱をここまで持って来たのでしょうか?」
余りのとんとん拍子の内容に、横やりが入らないよう女性は私に問いかける。
「私の封印魔術は長い時間はもちません。時折術を再度かけ直さないといけませんし、毎日世話をしている私しか無属性空間の調節はできません。封印の外側の世界が変わった場合、シャルティスにどのような影響があるか調べるためにも、屋敷から持って来ました」
私は出来る限り聞き取りやすいように、少し大きな声で答える。
類稀なる天才でない限り、8歳の子供の魔術はまだまだ未完成だ。それでいて無属性空間の調整は表向きは私が行った事になっている。周囲の人々は、本当に8歳の子供ができるのかと疑ってはいる様子だが、説明自体には納得をしているのか何も言っては来ない。
「劇場で、シャルティスの葉を所持していたのは何故しょうか?」
「貴族の子供達が集められた誕生日会で、赤い液体が配られました。その時に、兄様が少しだけ飲んでしまって、すぐに吐いたので昼間は平気そうに見えました。しかし、心配になって夜に様子を見に行くと、とても苦しそうにしていて……その時、念の為持って来た木箱の中からシャルティスの葉を摘んで、兄様に食べてもらいました。その時に、同じように他の子も苦しんでいるのではと考え、劇場で会えたらあげようと思い、3枚持ち出していました」
本命はシャーナさんであったが、できれば取り巻きの2人の女の子や、他の子にもと思っていた。しかし、彼女達が全ての催しに出席している訳ではない。私自身も不用意に単独で行動出来ないのもあり、偶然に近い形でシャルティスを渡せたのはシャーナさんだけだった。
「あの日か。子供達の好物のみを出せ、と料理人達に命令したはずだ」
今まで静観していた国王陛下は私の話を聞き、ポツリと呟く。
その言葉は凪の水面に落ちた一滴の波紋の様に、広がりを見せる。それは、王の命令を無視し、何者かが裏で動いた事を意味する。
51
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので
ふわふわ
恋愛
「婚約破棄?
……そうですか。では、私の役目は終わりですね」
王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、
国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢
マルグリット・フォン・ルーヴェン。
感情を表に出さず、
功績を誇らず、
ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは――
偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。
だが、マルグリットは嘆かない。
怒りもしない。
復讐すら、望まない。
彼女が選んだのは、
すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。
彼女がいなくなっても、領地は回る。
判断は滞らず、人々は困らない。
それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。
一方で、
彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、
「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。
――必要とされない価値。
――前に出ない強さ。
――名前を呼ばれない完成。
これは、
騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、
最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。
ざまぁは静かに、
恋は後半に、
そして物語は、凛と終わる。
アルファポリス女子読者向け
「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
前世のノリで全力面接対策したらスパイを疑われた
碧井 汐桜香
ファンタジー
前世の記憶のあるジョセフィーヌ・アイジャルは、ついに学園を卒業する。
王宮に士官するために、筆記試験は無事に好成績で突破し、最後の面接試験だ。
前世の通りにガクチカ、自己PRと企業分析。完璧に済ませて臨んだ面接は、何かおかしな様子で……?
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる