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46話 白の竜
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イヴェゼの一件は今後更なる調査の上、罰が下されるだろう。
タイラーとアタリスが今後について話し合いを始める中、テムンはルクスエ達を見つけると2人の元へとやって来た。
「2人とも、そこにいたのか」
テムンに声に慌ててカルアはルクスエから離れ、姿勢を正した。顔色は少し悪いが、事が終わったので表情に硬さはない。
「タイラーと名乗った御仁はやけに詳しかったが、どういうことだ?」
「説明できなくて悪かったな。実は」
デハンを含む親世代が忌み子を追放しようと躍起になっていた為に、情報が一向に集まらなかった。そんな中、カルアの体調不良からアタリスの兄である医師と接点が生まれ、協力を申し出てくれた。彼とその助手達を通して情報を集める中で、幻獣調和団のタイラーと繋がり、連絡を取り合うようになった。
これが、今から15日前のことである。
最初の5日間はラダンの現状について互いに調べ、伝書竜を使い情報共有をしていた。カルアの父が異国の学者だったと知った後、テムンはタイラーに幻獣調和団の一員がラダンに居たのかと問いかけた。竜の専門学者は危険な地に赴き調査を行うため、ほとんどが国か一団に属しているからだ。
カルアの父は、どこにも属してはいなかった。しかし、タイラーと唯一繋がりがあった。
多忙な彼は今回の竜の移動が終わった際、亡き友人ドミニクとその家族の墓参りをする為にラダンへと赴く予定だった。しかしラダンの忌み子に関する新しい噂、レトの町で黄金の竜の素材を鑑定した学者の話を国の役人から聞き、何か起きていると察したタイラーは、真実を知るべく個人で調査を行っていた。
カルアはドミニクの息子であり、タイラーは故郷を離れる彼の後見人になるはずだった。
「今からすると丁度6年目になるな。タイラーさんはドミニクさんから手紙を貰って、急いでカルアさんを……手紙の名前ではデーヴィッドさんを迎えに行ったそうだ。けれどイヴェゼから、一家は建物火災で全員亡くなったと聞かされ、焼け焦げた残骸の家と墓を見て、話しを信じていたらしい。今はあんなだが、昔は頭が使えたんだろう」
「あの野郎……!」
竜車へと押し込められるイヴェゼの背中を見ながら、ルクスエは怒りを露にした。
やつ死刑を免れたとして、もう二度と表には出てこないだろう。しかし、今ここで殺してしまいたい程の衝動にかられた。
「落ち着け。カルアさんの前だぞ」
テムンに諫められ、傍らに立つカルアの存在にルクスエは我に返る。
「すまない」
「気持ちはわかる。俺も聞いた時には、すぐにでも奴を捕まえたいと思った」
苦笑したテムンは、まだ何かを言いたそうしている。どうしたのだろう、と思ったルクスエは訊こうとした。
「すいませーん。この報告書を書いた人が、ここにいるって聞いたのですがぁ」
「うわっ!?」
ひょっこりと顔を出した細身の男に、3人は驚く。
タイラーのモノに比べて新しい紺色のコートを着込み、くるくると癖の強い赤毛、たれ目の赤い目の上にはメガネを掛けている。目を惹く尖った耳の男は、丸めた紙の束を握って、呼びかけている。その紙の束は、カルアが書き記した報告書だ。
2人が話している内に、幻獣調和団は西の見張り台の下に簡易拠点を作り始めていた。
「どうもぁ、はじめましてー。長命種エルフの1人、ロックと申します。学者です」
「は、はじめまして……」
心臓が跳ね上がる程に驚いたテムンは、なんとか声を絞り出した。
「それで、この報告書を書いた方はどちらに?」
「私、です」
おずおずと返事をしたカルアに対して、ロックはにっこりと笑顔を浮かべる。
「竜の詳細な動きを書いてくださり、ありがとーございます。今回の作戦を考えるうえで、大変参考になります」
「あ、ありがとうございます」
「地脈の溜まり場を竜の墓場と提唱するなんて、とても素晴らしいです。うんうん。惜しい所まで来てて、伸びしろを感じました」
「惜しい所……?」
「さて問題です。寿命を迎えた竜の力が地脈に送られるとして、その遺骸はどうなるでしょうか?」
カルアはその言葉に、ハッとし口を手で覆った。
「気づきましたか? そう、竜の遺骸は生物たちの食糧になります。大型、中型の生物が其れを食べ、残ったものを小型が、そして最後に虫や微生物たちによって分解され、大地の糧となります。墓場は同時に豊かな生態系を育む大地となります」
ロックはコートの左ポケットから、折り畳まれた2枚の紙を取り出し、カルアへと渡した。その紙には、一匹の竜が描かれていた。
「今回の騒動の原因である竜……通称〈星巡り〉は、その地に繁殖へ向かう個体です」
天空に住まう白き竜レウテア。
全長は400メートルを超す。
長くしなやかな首に、艶やかな白い体毛と鱗、頭部には光に当たれば虹色に光る不規則に並んだ無数の角を生やしている。二本の手の他に、翼として大きく発達した皮膜のある前足、後ろ足を持つ。長く伸びた三つ又の尻尾はかぎ爪のような大きな棘があり、これを用いて大地を掴み、ゆっくりと着地をする。
普段は人の目には届かない遥か上空に生息しているが、数百年に一度の繁殖期を迎えると、地脈の溜まり場へと向かうために高度を落とし移動を始める。その際、溜まり場を彼らに適した繁殖地にする為に地脈に働きかけを行い、普段より放出されるエネルギー量が高まった結果、通過する各地で異常気象や地殻変動を発生させる。生物たちは驚き逃げまどい、時に本来の生息地ではない場所へと現れる。
災厄の竜と伝承される負の側面を持つが、地脈への働きかけは大地の活性化に繋がり、新たな生命の進化と生態系の構築のきっかけを生む。
「これって……」
カルアとルクスエは思わず顔を見合わせた。
「星巡りの発見例は、幻獣の本格的な調査が始まった160年前から3件のみ。地脈の溜まり場は、未だ発見されていない……つまり、今回、世界初となる溜まり場の発見と、星巡りの繁殖を見られる絶好の機会と言う訳ですよ!」
嬉々とするロックだったが、直ぐに肩を落とし大きくため息を着く。
「ですが、こちらの個体に問題がありましてね。我々の予測した経路と、星巡りが辿っている経路にとーってもズレが生じているんですよ」
そう言って右のポケットから地図を取り出し、カルアに渡した。
タイラーとアタリスが今後について話し合いを始める中、テムンはルクスエ達を見つけると2人の元へとやって来た。
「2人とも、そこにいたのか」
テムンに声に慌ててカルアはルクスエから離れ、姿勢を正した。顔色は少し悪いが、事が終わったので表情に硬さはない。
「タイラーと名乗った御仁はやけに詳しかったが、どういうことだ?」
「説明できなくて悪かったな。実は」
デハンを含む親世代が忌み子を追放しようと躍起になっていた為に、情報が一向に集まらなかった。そんな中、カルアの体調不良からアタリスの兄である医師と接点が生まれ、協力を申し出てくれた。彼とその助手達を通して情報を集める中で、幻獣調和団のタイラーと繋がり、連絡を取り合うようになった。
これが、今から15日前のことである。
最初の5日間はラダンの現状について互いに調べ、伝書竜を使い情報共有をしていた。カルアの父が異国の学者だったと知った後、テムンはタイラーに幻獣調和団の一員がラダンに居たのかと問いかけた。竜の専門学者は危険な地に赴き調査を行うため、ほとんどが国か一団に属しているからだ。
カルアの父は、どこにも属してはいなかった。しかし、タイラーと唯一繋がりがあった。
多忙な彼は今回の竜の移動が終わった際、亡き友人ドミニクとその家族の墓参りをする為にラダンへと赴く予定だった。しかしラダンの忌み子に関する新しい噂、レトの町で黄金の竜の素材を鑑定した学者の話を国の役人から聞き、何か起きていると察したタイラーは、真実を知るべく個人で調査を行っていた。
カルアはドミニクの息子であり、タイラーは故郷を離れる彼の後見人になるはずだった。
「今からすると丁度6年目になるな。タイラーさんはドミニクさんから手紙を貰って、急いでカルアさんを……手紙の名前ではデーヴィッドさんを迎えに行ったそうだ。けれどイヴェゼから、一家は建物火災で全員亡くなったと聞かされ、焼け焦げた残骸の家と墓を見て、話しを信じていたらしい。今はあんなだが、昔は頭が使えたんだろう」
「あの野郎……!」
竜車へと押し込められるイヴェゼの背中を見ながら、ルクスエは怒りを露にした。
やつ死刑を免れたとして、もう二度と表には出てこないだろう。しかし、今ここで殺してしまいたい程の衝動にかられた。
「落ち着け。カルアさんの前だぞ」
テムンに諫められ、傍らに立つカルアの存在にルクスエは我に返る。
「すまない」
「気持ちはわかる。俺も聞いた時には、すぐにでも奴を捕まえたいと思った」
苦笑したテムンは、まだ何かを言いたそうしている。どうしたのだろう、と思ったルクスエは訊こうとした。
「すいませーん。この報告書を書いた人が、ここにいるって聞いたのですがぁ」
「うわっ!?」
ひょっこりと顔を出した細身の男に、3人は驚く。
タイラーのモノに比べて新しい紺色のコートを着込み、くるくると癖の強い赤毛、たれ目の赤い目の上にはメガネを掛けている。目を惹く尖った耳の男は、丸めた紙の束を握って、呼びかけている。その紙の束は、カルアが書き記した報告書だ。
2人が話している内に、幻獣調和団は西の見張り台の下に簡易拠点を作り始めていた。
「どうもぁ、はじめましてー。長命種エルフの1人、ロックと申します。学者です」
「は、はじめまして……」
心臓が跳ね上がる程に驚いたテムンは、なんとか声を絞り出した。
「それで、この報告書を書いた方はどちらに?」
「私、です」
おずおずと返事をしたカルアに対して、ロックはにっこりと笑顔を浮かべる。
「竜の詳細な動きを書いてくださり、ありがとーございます。今回の作戦を考えるうえで、大変参考になります」
「あ、ありがとうございます」
「地脈の溜まり場を竜の墓場と提唱するなんて、とても素晴らしいです。うんうん。惜しい所まで来てて、伸びしろを感じました」
「惜しい所……?」
「さて問題です。寿命を迎えた竜の力が地脈に送られるとして、その遺骸はどうなるでしょうか?」
カルアはその言葉に、ハッとし口を手で覆った。
「気づきましたか? そう、竜の遺骸は生物たちの食糧になります。大型、中型の生物が其れを食べ、残ったものを小型が、そして最後に虫や微生物たちによって分解され、大地の糧となります。墓場は同時に豊かな生態系を育む大地となります」
ロックはコートの左ポケットから、折り畳まれた2枚の紙を取り出し、カルアへと渡した。その紙には、一匹の竜が描かれていた。
「今回の騒動の原因である竜……通称〈星巡り〉は、その地に繁殖へ向かう個体です」
天空に住まう白き竜レウテア。
全長は400メートルを超す。
長くしなやかな首に、艶やかな白い体毛と鱗、頭部には光に当たれば虹色に光る不規則に並んだ無数の角を生やしている。二本の手の他に、翼として大きく発達した皮膜のある前足、後ろ足を持つ。長く伸びた三つ又の尻尾はかぎ爪のような大きな棘があり、これを用いて大地を掴み、ゆっくりと着地をする。
普段は人の目には届かない遥か上空に生息しているが、数百年に一度の繁殖期を迎えると、地脈の溜まり場へと向かうために高度を落とし移動を始める。その際、溜まり場を彼らに適した繁殖地にする為に地脈に働きかけを行い、普段より放出されるエネルギー量が高まった結果、通過する各地で異常気象や地殻変動を発生させる。生物たちは驚き逃げまどい、時に本来の生息地ではない場所へと現れる。
災厄の竜と伝承される負の側面を持つが、地脈への働きかけは大地の活性化に繋がり、新たな生命の進化と生態系の構築のきっかけを生む。
「これって……」
カルアとルクスエは思わず顔を見合わせた。
「星巡りの発見例は、幻獣の本格的な調査が始まった160年前から3件のみ。地脈の溜まり場は、未だ発見されていない……つまり、今回、世界初となる溜まり場の発見と、星巡りの繁殖を見られる絶好の機会と言う訳ですよ!」
嬉々とするロックだったが、直ぐに肩を落とし大きくため息を着く。
「ですが、こちらの個体に問題がありましてね。我々の予測した経路と、星巡りが辿っている経路にとーってもズレが生じているんですよ」
そう言って右のポケットから地図を取り出し、カルアに渡した。
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