白雪王子と七人の男たちとあれやこれや

ゆめゆき

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あれやこれや 5

「ついに完成したわ…白雪よ…」

 城の地下室で、白雪の義母は真っ赤なりんごにフラスコから毒々しい色をした液体を垂らした。
 赤いりんごが見る間に黒く染まり、また元の赤い色に徐々に戻っていく。

「かわいい白雪…これであなたは天国に行けるのよ」

 そして、自身はもう一つのフラスコから、グラスに金色の液体を注ぎ、それをじっと見つめて覚悟を決めてから飲み干した。
 彼女の瑞々しい肉体は、老いに乾いていき、深くしわを刻み、見る影もない老婆の姿に変化した。

「白雪よ、待っていなさい…!」

 声もしわがれて、美しい女王の面影は一切ない。


  ■  ■  ■


 白雪は七人の男たちと愛し合った翌日、窓辺でけだるげにくつろいでいた。
 昨晩の深い快楽の残滓が、まだ下肢に痺れを残しているような気がする。

「ああ……」

 こんなに満ち足りて、気持ちよくなったのは初めて。
 今夜もするかもしれない。と、思うと期待に下腹が疼く。

「はあ……」

 ぼんやり外を眺めていると、一人のローブ姿の女が森の中から歩んできた。

「えっ??」

 こんな森の奥の奥に、女が。老婆だ。荷物はかごを一つ持っているだけ。
 老婆は窓辺に顔をのぞかせる白雪にすぐに気がついて、近寄ってきた。
 白雪の方から声をかけた。

「あの……こんにちは。道に迷われたんですか?」
「いえいえ……わたしはりんごを売っているのです」

 見ればかごには赤くて大きなりんごがいくつも入っている。
 しかし、こんな人気のない森の中に…。白雪はちょっと考えた。皆は街に買い出しに行くこともある。
 街とこことをつなぐ近道があるのかもしれない。だが、しかし…。

「りんごを買ってくださいな」
「えっ。でも……」

 白雪は現金を持っていなかった。

「お金を持っていません」
「ほうら、見て!こんなに立派で見事なりんごです。瑞々しくてとても甘い…!」

 目の前に突き出される。その芳香。白雪は思わず口中に唾液が湧くのを感じた。
 城では大きくて瑞々しい、様々な甘酸っぱい果物をいつでも口に出来た。
 でも、今は果物なんてほとんど縁がない。森にあるのはグミの木くらいで、それもちっちゃい実を実らせるだけだ。
 ああ、なんて美味しそうなりんごだろう。一口かじれば甘酸っぱい果汁があふれてきて…。
 白雪は喉を鳴らした。ごくん。

「いいりんごですね。でも今、手元にお金がないんですよ。もし、よかったら、また来て下さいますか?」

 この森の中で、お金が必要になる場面なんてないから、皆、特に白雪にお金を預けることはなかった。白雪も聞かなかったし、お金のことなんて考えもしなかった。
 しかし、老婆は食い下がった。

「お代は後でけっこうですよ。ほら、こんなに美味しそう!今、食べないと、しぼんで腐ってしまいます…!」
「いや、そういうわけには……」
「ほうら。手に取ってみて…!果汁がたっぷりでこんなにずっしりと重い」

 老婆は強引に白雪の手をとって、りんごをつかませる。

「は、はあ……」

 確かに、おいしそうなりんごだ。つやつやして、今が食べごろだろう。

「味見してみて。味見だけ…。一口だけ……」
「でも……」
「いいから、ほら。早くかじってみて…!一口、味見するだけでいい…!味は保証します!とっても瑞々しくて、ほっぺたが落ちそうになるほど甘いりんごです…!」
「いや…」
「いいから!一口かじるんだ…!!」

 老婆が雷のごとく、白雪に怒鳴った。
 はじかれるようにびくっとして、思わず白雪は言われた通りにりんごを一口かじる。

「ぐっ…!」

 次の瞬間、白雪はどうと床に倒れていた。

「…ふっ…、ははははは!あははははは!あははははは……!」

 老婆は愉快そうに笑いだした。森に響き渡るしわがれた哄笑。それはいつまでも、いつまでも続いた。


  ■  ■  ■


「白雪…!白雪……!?」
「どうしたんじゃ!白雪……!」
「起きて!白雪さん!!」
「い、息をしていない!!」

 仕事から戻った七人の男たちは、倒れている白雪を発見して慌てふためいて大騒ぎした。

「嘘だろう!」
「どうして…?!」
「本当に、息をしてないの?!し、死んでしまったの…?!!」

 藍染が震えながらも言った。

「と、とりあえずベッドに移そう。それから…それから医者を……」
「馬鹿野郎!もう息をしていないんだぞ!!医者が死人をよみがえらせられるって言うのか?!」

 紅玉が食ってかかる。

「じゃあ、どうしろと言うんだ…!このまま…このまま、あきらめろと…?」
「だって……ああ、どうして……!!」

 七人の男たちがおろおろと嘆いていると、外から馬の蹄の音が響いてきた。そして、それは家の前で止まった。

「なんだ…?」
「何者だ?こんな時に……!」

 目も眩むようなプラチナブロンドに、碧眼の美丈夫がノックもせずにずかずかと家に入って来た。一目で位の高い身分のものだとわかる身なりをしている若者だ。後からお付きのものだろう、二人の中年の男たちもついて来た。

「なんだ!お前!いきなり!」
「な、何者ですか…!」
「今、大変なんだよ!!」

 若者は七人の男たちには目もくれず、白雪の亡骸の傍らへひざまずいた。

「白雪……!」

 そして、遺体を検分するよう体のあちこちを調べると、口を開かせ、喉の奥を覗き込んだ。

「ああ…」

 皮手袋をはずし、白雪の口の中にその指を突っ込む。

「な、何してる…!」
「待ってろ!」

 若者は𠮟責した。その威厳に、男たちは立ちすくむ。

「ああ、取れた…!」

 若者の手には小さな、果実のかけらがつままれていた。それでも白雪の呼吸は戻らない。
 身分の高そうな男は心肺蘇生を開始した。彼はこの国の軍の最高司令官でもある。それなりに訓練は受けていた。
 位置を測り、心臓マッサージを始める。それから人工呼吸。心臓マッサージ、人工呼吸を繰り返して何度目だろう。白雪が「はっ…!」と息を吹き返した。

「はあ…はあ…はあ……僕は……」

 七人の男たちは歓喜にどよめいた!

「生きてる…!生き返った……!白雪…!」
「白雪さん!白雪さんっ……!!」

 若者は緊張が解けた様子で、ほう…と息をつき、白雪をかき抱いた。

「白雪……」

 それから横暴にも男たちにこう言い放った。

「すまないが、席を外してくれないか」
「な……」

 皆、面くらった。

「ちょっと、待て!ここは俺たちの家なんだが?」
「白雪を助けてくれたことには礼を言いますが、そもそもあなたは…一体…」
「し、白雪さんと話をさせてください!心配したんですよ!」

 それに対し付き人たちが「無礼な…!」と食ってかかろうとするのを片手を上げて制止し、若者は言った。

「俺はこの国の最高権力者だ。命令には従ってもらう!」
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