異世界での喫茶店とハンター《ライト・ライフ・ライフィニー》

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第四章 スザク・アルト編

炎の翼爪

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第五十話 炎の翼爪


地上で雷鳴と共に電流が走る。
だが、それよりも速く、空気の抵抗を無視した高速で空を突き進むルーサーは片手に持つ骨刀に炎を乗せ、その技を放った。

「重打炎衝・放」

炎の衝撃波を音として一点に放つ、ルーサーオリジナルの大技。
衝撃と炎、二つの威力を同時に音にして相手へ与える放出型の技だ。
そして、その放出された衝撃波は空の上で立つ魔法使いの男に向かって襲い掛かる。だが、その強大な力も魔法使いの男はいとも簡単に小さな魔法陣を展開させ防いでしまう。
キン! と甲高い音に続いて魔法陣によって防がれた大技。ルーサーは舌打ちを吐き、再び飛行を開始する。スピードをさらに加速させ、勢いのままに前へと突き進む。
同時に手に持つ刀に灯った炎が荒々しく燃え上がり、そこに今までルーサーの体に大きく揺れ纏っていた光が骨刀の炎と交わり加わる。
それは、美野里から奪い取った光の力とルーサー自身が持つ炎の力。二つが重なり、その力は極大の炎刀へと進化する。
そして、ルーサーは刀を振りかぶった。飛行を続けながら攻撃の構えを継続させ、その一撃を視線先に立つ男に向かって叩き落とす為に―。
だが、

「シュ・ルーワ」

目前に迫るルーサーに向かって魔法使いが不意に呟いた。
直後、男の周囲に数個の魔法弾が形成される。
青、赤、黄、緑の四色で作られた魔法。それは男が手を動かしたと同時に揺れ動き、そのまま一斉にしてルーサー目掛けてそれは襲い掛かる。
大きさは両手に収まるほど。
だが、対峙した直後にルーサーは直感する。
目の前に迫る魔法弾、そのどれもが恐ろしいほどの力を持っている。
そう、四つの内の一つでも食らえば………大ダメージを負う、と。
攻撃態勢に入っていたルーサーは歯噛みし、炎の両翼を羽ばたかせその射線上から逃れる。だが、その動きに呼応し魔法弾は高速で彼の跡を追う。
その動きはまるで敵を見失うまで継続して追いかける魔法。

(追跡魔法………ッ!)

ルーサーは背後に迫る魔法の特性を直ぐに見破り、羽ばたかす翼をさらに大きく動かし加速する。
だが、魔法弾も同様に加速したのか離れるどころか徐々にその距離を詰めて行く。普通なら突き離せてもいいはず。それにも関わらず魔法はそれすら許さない。
第二段階でもある衝光、デュラストブレイズはルーサーの中でも炎光を最大限に発揮できる力であり、攻防だけではなくスピードも断然に強化される。
だが、その力を持ってしてもまだ魔法使いの男が出す魔法に負けているという事実は同時に並みの魔法使いたちの中でもより高みにいる存在だという事を意味していた。

「ッ…」

しかし、そんな事は対峙してわかっていた。
そう簡単に決着がつかないことも。
だが、あの男が時折見せる余裕ぶった表情。
冷静に観察し、自分の掌で踊る駒を見て笑う、その顔が、無性に苛立つ。
そう、あの視線を美野里に向け、苦しむ彼女を見て笑っていた―



『ルーサー』



彼女の、美野里の顔が鮮明に頭に浮かんだ。

「!!!」

その時、完全にキレた。
ルーサーは体中の血管、血の流れが速くなる。
怒りが全身を包みこもうとする。だが、そこで我を忘れない。越えてはいけない、その狭間で歯を噛み締め、返答を期待していない男に向かってルーサーは口を開く。


「……上等だ。その顔、今すぐにぶっ壊してやるッ!」


迫る魔法弾。
目前で窮地に追い込まれる中、ルーサーはその真の力を発揮する。




「ウイングバースト」




その直後。
口から発せられた言葉が彼の体に淡い光を纏わせた。
同時にルーサーの背中。炎の両翼に衝光とは違う白い光が纏わり、まるで生まれ変わったかのように一瞬にしてその場から加速し上昇する。
それはまさに、炎の翼はまるで大空を羽ばたく聖なる翼へと変質した瞬間だった。


衝光に似たもう一つの力、セルバースト。
その効果は自然の力を身に纏わせるという物だが、その力にもう一つ隠された力がある。
それはセルを越える、バーストの力。
その効果は自然を越えた生物の王、その驚異的なまでの力を身に宿すというものだ。
そして、ルーサーが口にした、ウイングバーストという言葉。
―かつて昔、この世界の東を統べていた鳳凰、ファルオート・フェニックス。
その聖なる翼の力を、ルーサーは自身の力へ宿らせる。


魔法弾すら大きく突き離し、瞬速で飛行するルーサー。
さっきまでと明らかに状況が逆となった中、彼は魔法弾との距離が離れたのを確かめるとその方向を逆へと転回させ、正面から向き合うように魔法弾へと突っ込む。
生まれ変わった翼を大きく羽ばたかせ、驚異的なまでの加速を強化させる。
一方、魔法弾は遅れを取りながらも高速で離れた標的に追いつこうとしていた。
だが、その数秒。
まさに一瞬で眼前に標的であるルーサーが姿を現す。そして、彼は刀を持つ手とは逆の空いた手。
鉤爪のように構えたその手で、さらにルーサーは口を動かした。



「クロウバースト」



クロウバースト。
ファルオート・フェニックスと同様、西大陸を統べていた、ギガル・タイガー。
頑丈な鉄をも斬り裂く、その強靭な鉤爪の力がその瞬間にルーサーの片手に宿る。
そして、上から下へ振り下ろした。
まさに強烈な一閃は四発の魔法弾が一瞬にして切り裂いた。
二つに分かれた魔法は予測通り破壊されるに行かず、その瞬間に小さな爆発を起こそうとする。
だが、それすらギガル・タイガーの鉤爪は許さない。
白いオーラが魔法弾を密閉し、そのまま鎌イタチのようにオーラの中で魔法は細切れに切り裂き消滅させたのだ。



「…………………バースト、か。これは予想外だな」

そして、その時。
魔法使いの顔から、今まで浮かべていた余裕の笑みが消えた。
彼が見せるセルの力を扱う者たちは、この世界に数十といる。それはどの都市でも同様で、その力で上級ハンターとなり有名になっている者たちが数多くいるからこそ知れることだ。
だが、バーストの力を持つ者となると話が違う。
何故なら、バーストの力を手に入れるためにはその生物を倒すか、もしくは認められたかのどちらかでしかその力を振るうことができないのだ。
さらに驚きなのは、生物の王ともいえる二体の力を一つでなく同時に身に宿すということ。それは、普通なら圧倒的な力に身を乗っ取られそのまま自滅するはず。
しかし、その男は強靭なまでの精神力でその二つの力を自分の物にしている。
冷静に事態を分析した魔法使いは瞳を細め、前に両手をかざす。
そして、男は魔法を唱えた。

『水現は、受け流すもの』

その言葉。
魔法の先を行く、龍脈を利用した特殊魔法。
男の前に巨大な魔法陣が展開され、その中心に慌ただしく光を放つ水が作り出される。
対して、ルーサーは目の前で起きる大魔法を見つめ、そっと口元を緩めた。

それは、やっと本気を引きずり出したという笑み。
そして、同時にこちらの本気をぶつけても構わないという合図を受け取った、笑みでもあった。

「行くぜ、ウイングクロウ・バースト」

瞬間。
ルーサーの全身から眩き輝きが発せられる。
そして、彼の片手に握られた骨刀の刃に灯る炎が一瞬にして純白の色へと変化する。

「「……………」

空の上。
強大な力がその場の空気を振動させる。雲の色は赤色に見え、空の色も異様な黒さへと変色しているように見える。
魔法使いの男は両手。
ルーサーの剣先。
共に武器先が対象に向けられ、二つの視線が交わる中で数秒の沈黙が落ちる。
それは数秒。
一秒や二秒といった短い時間だ。
だが、それでも対峙するルーサーはその感覚がとても長く感じた。


そして、不意に起きるその時。
何の前触れなく、その火蓋が切って落とされた。




「行け、ダールティア・クセス」
「ぶった斬れろ!! 翼牙・炎王!!!!」




魔法陣中心から放出される何重にも重なり合った水の波動放。
対して、骨刀から放たれるは炎で模られた羽と牙が交わり合った炎の剣圧波。
二つの力が共に空中を突き進み、そのまま破壊音と共にぶつかり合う。
水と炎。
属性の有利を考え魔法使いが水の属性を選んだのだろう。
そして、その思惑通り、炎の剣圧波は均衡に負け、徐々にその勢いを押し殺されていく。魔法使いの顔に再び笑みが零れた。
だが、その油断が―。

「ッ!!!!」

一瞬の隙を作る。
ルーサーの瞳が見開かれた瞬間、彼の着る羽織が突如と変化した。
それは何かをかたどったかのような形。
羽織が甲殻のように片張り、背中から腰へ伸びた生地端の中心がまるで尾のように伸びる。
さらに、背中の両翼が精密な物になっていくのが見て取れた。
それはまるで何かの翼。
人にあっていいものではない、……………翼と牙、尾を持つ伝説上の生物。


「まさか…………」


魔法使いの男が何かを言おうとした。
だが、その直後に圧されていた炎の剣圧波が外部から力を得たかのように再び息を吹き返す。
その炎は何かの姿を模し、全てを呑み込まんとする竜の咢に似たものへと変化する。そして、属性を無視した圧倒的な力が水の波動放を食い殺し、その奥へと突き進む。
魔法使いの男は舌打ちを吐き、攻撃が圧されていることに対し防壁の魔法陣を展開させ竜の咢を模した剣圧波を受け止める。
大きさは今までのに比べれば少し大きい魔法陣だ。
そして、その大きさに沿ったように驚異的な剣圧波を数分前と同様に、いとも簡単に防いでしまう。
だが、


「今度は逃がさない」


魔法使いの背後。
防御に意識を向けていた魔法使いの隙を突き、後ろを陣取り、その紅色の眼光で男を睨むルーサー。言葉に思いを乗せ、手に持つその骨刀を振るう。

<コイツを人間とは思わない>
<コイツは獲物。仕留めるか、捕まえるか、そのどちらか>

だが、今のルーサーにとって捕まえるといった考えには至らなかった。
それは、ここまでの被害と損壊。
関係のない人々を傷つけ………そして、美野里を傷つけた。


「!!!!」


怒りを力へ。
炎を灯した骨刀を真横から振りおろし、その身……、魔法使いの腰を切り裂き、その体を分離させた。
その刃に血が付き、ルーサーの顔にも跳び血がつく。
そして、切り裂かれた物体は地上に落ちる。







――――――――そのはずだった。


「!?」


ルーサーの顔色がその瞬間に一変する。
切り裂いたはずの胴体。
下半身は地に落ち、地面に嫌な音がなる。しかし、そこに血という液体がつきそうことはなかった。
上空に残った上半身。
ブーケを被った魔法使いは痛みを全く感じていない表情で、目の前で驚愕するルーサーに振り返る。

「………これは、本当に予想外だったな」
「ッ!? …………お前、……人間を捨てやがったなッ!」
「フッ………そのことを、君に言われる筋合いはないな」

男はそう言って腕を動かす。
咄嗟の反応で後方に回避するルーサーに男は笑う。
そして、その口で…、

「その力、さっきの姿といい、やっと理解したよ」
「………………何がだよ」

目を鋭くさせるルーサー。
対して男は動かした腕先の指を目の前に立つルーサーに突き指し――



「君は、混ざり人だろ?」



混ざり人。
それは人間と人間ではない、人ならざる者と交わり生まれた存在の事を指す。
平静を装って、その存在は人の世界に係わることはできない。必ず、嫌わるか弾かれる、もしくは殺意の対象にもなることだってあるのだ。
そのため、混ざり人たちは人混みを好まずひっそりと過ごし生きている。
それに当てはまっていないとすれば、正式に有名な魔法使いと知られているアルヴィアン・ウォーターのアチャルぐらいだ。


「耳や尻尾、そのどれもないとは、一体君は何と交わった人間なのか……。フフッ、大体は予測できるが、…………だからこそ、この世界は面白い」
「ざけんなッ! 何が面白いだッ! 関係のない奴らを巻き込み、ソイツらをお前は傷つけた。お前のやること全部吐き気がすんだよ!!」

怒りが交じった声色がその威圧をさらに強く発する。
もし仮に彼の傍に一般の者がいたとすれば、その気に当てられて怯み動けないでいただろう。
だが、男は違う。
今だ笑いを堪えず、あえて男は言う。



「だが、そんな君がいたとして………………町早美野里。彼女の存在はこの世界を滅ぼしたとしても私は欲しい」
「ッ!!!!」



直後。
ルーサーの全身に赤いオーラ―が灯る。
瞳がより赤く、紅色へと変色され同時に威圧はより想像を絶する物へと変わり、強大なな何かがその場にいると思わせる。
それほどまでの存在感が今の彼にはあった。
だが、


「さて、ここで問題だ」


男が一指し指を上げた。
その瞬間。地面から光の速さで上昇し、男の傍に何かが浮かび上がる。
それは黒い毛並を白に豹変させた狼。
数分前、アーサーの一撃を受け、倒したと思われた獣だったはず。
ルーサーの瞳が険しくなる。
だが、対して魔法使いは笑みを浮かべながら何かを小さく呟く。そして、さっきの問題を気にするルーサーに対し、男は言った。



「巨大な衝光の力を吸収したコイツ。これを源に…………………デスレズカを展開させれば、インデール・フレイムはどうなると思う?」



その時。
その瞬間。
遠く離れた場所、光の柱が突然と現れ、その直後に眩い光の爆発がその柱の内部で巻き起こった。
ルーサーの視線が一瞬にしてそちらに向き、その爆発の威力を目にする。
幸い柱は敗れることなく、その力をその場に抑え込み消沈した。
だが、それでも地響きがその地に起き、同時に爆発の余波によって生み出された空気の振動が空を飛ぶルーサーにまで届く。
そして、それを肌で感じて空をいたルーサー、地上にいるルアの顔が切羽詰まるものへと一変した。
今のが、まさか……デスレズカ。
あの大きさであの威力。
もし………あれが小規模の物であり、今目の前で強大な衝光の力を源にその魔法が起きればどうなるか?

「「ッ!?」」

彼らの反応を楽しむ男は、笑みを浮かべる。
瞬間、ルーサーの隙を突き、男はそのまま初めからいなかったかのように姿を消した。
それが転移魔法で消えたのか、それともまた違う魔法を使ったのかは定かではない。
しかし、今はそれどころではなかった。
何故なら、男がいなくなったと同時に空中で白の狼が突如に風船のように膨らみ出したのだ。

「ルーサーッ!!」
「ッ、わかってるッ!」

主を見失い、それが開始の合図だったかのように膨れ上がった狼。
それと同時に狼の体に無数の魔法陣が描かれていく。目の前で絶望的な魔法を始めようとする狼に対し、ルーサーは両翼を羽ばたかせ突撃する。
肘を引き、後ろに引く剣先。
刀に炎を注ぎ込み、その一撃をルーサーは放つ。

「重打炎衝・突!!!」

強烈な突き。
斬は斬るに特化した型。
放は放射に特化した型。
そして、突は貫通に特化した型だ。
骨刀の周囲に炎が集まり、それは頑丈な炎槍へと姿を変える。
高速の加速で槍先は向け突き進み、真っ直ぐと巨大に膨れ上がった狼の表面を貫こうとした。
そして、その直後に激突が起きる。
――――――だが、




「ッく!!!?」



貫けない。
強烈な突きで向けられた槍。
風船のように膨らむ狼の表面にそれは直撃した。しかし、そこまででその先、貫くことが出来なかった。
加速を加えた分、防がれた反動で自滅しそうになったが、その狭間でルーサーは堪えつつ力を加える。
だが、それでも貫ける自身がなかった。
このままでは勝てない、と踏むルーサー。
その炎槍にさらに、もっと強力な力を加えるため、彼はその言葉を吐き出す。

「セルバースト!!!」

衝光に加えたのは、ウイングとクロウの力を引き出すバーストの力。
炎の色が再び白き色へと変わり、その威力も強化され突きの威力はケタ違いのものへと変わる。
周りの空気もその力の余波に震えたち、空の色が再び黒いものへと変色する。
その一撃。
地上にいる誰もが行けると、その時思った。




だが、

「ッ!?」

歯を食い締め、勢いを強める。
それでも、何をしたとしても攻撃が通らない。白い風船状の狼。その力の源が衝光だと魔法使いの男は言った。
ルーサーの脳裏に一瞬、髪を伸ばし衝光の力を振るっていた美野里の姿を浮かぶ。



しかし、その直後に事態は動いた。
狼の表面。
無数に描かれていた魔法陣が突然と光り出した、その瞬間。
槍先から小さな電流が走った。
―――――直後。


「ッグ!? ガッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」


槍から本体への直通の電圧。
電流の音が微かになったその直後にルーサーの全身に爆音と共に雷撃が走り抜けた。
電気の威力は何ボルトかは見たかぎりではわからない。
だが、その電圧は普通の人間なら身体内部の臓器や脳が焼き焦がれ、跡形もなく消えてもおかしくないものだ。
ただ幸いだったことは、衝光とセルバーストの力をその身に宿していたため、ルーサーの内部が崩壊することはなかった。
しかし、体に数か所の黒く焦げた痕に続き、酷い火傷が広がる。
皮膚からは煙が立ち、開いた口からもその煙が立ち上がる。

そして、強力な電圧を防御を無視して受けたルーサーの意識は完全に失った。
手からは骨刀が抜け落ち、今まで彼に纏っていた全ての力が消える。

「……ッ…………ぁ……」

救いの一手。
上空で死闘を繰り広げるその姿、ルーサーは地上にいた人間にとってまさに希望という存在だった。
だが、その一撃。
一瞬の出来事がその希望を絶望という物へと変えてしまったのだ。
そして、赤き羽織を纏う、鍛冶師はその思いを成し遂げることができず、そのまま地面へと落ちて行くのだった。


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