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序章~創成~
第1話 始動――とか書いてあったらかっこいいと思わない?
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そこには闇があった。
闇以外の全てを拒絶する、闇のためにある漆黒の空間。
未来永劫続くかと思われた、その全てを拒絶する空間に、突如として小さな光が灯る。
途方もなく大きな闇の中に現われたその小さな光は、ゆっくりと、確実に、着実に光を強め、徐々に、徐々に、周囲の闇を押し広げていく。
途方もない時間をかけて闇を押し広げた白い光は、途方もない大きさまで広がっていき、その光の中心では新たな変化が生じていた。
光の中心に突如として何かが現れたのだ。
現れたソレは人型をしており、純白の髪に中性的で幼い顔立ち、その身には白のローブを纏い、目を瞑り深い眠りについているようであった。
この物語はその者の目覚めから始まる……
――目が覚めると目の前には白い空間が広がっていた。見渡す限り何もない白い空間。音もない、感触もない、匂いもしない、あるのは白と暖かな光だけ……
その者は再び目を瞑り、その心地よさに身を任せる。
どれくらいそうしていただろうか。とても長い時間だったのか、短い時間だったのか、それはわからなない。
何かの気配を感じ、その者が目を開けた時、いつの間にやらその者の眼前には謎の黒色の球体が出現していた。
その者は突然の黒い球体の出現にビクリと体を跳ねさせ、何ごとかと驚きながらもその球体を凝視する。
――理由は分からないがとても気になる。
その者は好奇心に駆られ、もっと近くで黒い球体を見てみようと、一歩また一歩と黒い球体に近づいて行く。
そして、その者と球体の距離が限りなく近づいたその瞬間、黒い球体がグネグネとその形を粘土のように変化させた。
「わっ!」
その者は思わず声を出して上半身を大きくのけぞらせ、喉元に手をやった。
「僕の声が出ない!?」
その者は反射的に耳を押さえた。耳はある。しかしながら音は聞こえなかった。いや、声は聴こえたのだ。意外と高い声だった。
そこでその者は自身の思考に新たな違和感を覚える。が、その違和感は、今もなお変化を続ける黒色の球体への好奇心にかき消されてしまう。
「……間違いない、さっきよりも大きくなってる」
その者は何が起こってもいいようにと、半身に身構えながら黒色の球体の変化を観察する。
やがて黒色の球体は、その形を黒いローブを纏った人の型にその形を変えて変化を終えた。
今や人型となったそれは、女性の姿をしていた。
身長は170センチほどで、その者よりも身長が高く、黒い長髪を後ろでまとめ、瞳は黒色にわずかに紅色がさしている。
顔立ちはきつめの目付きをしているが整っており、その者とは色違いの黒のローブを纏っていた。
そして、その人型は「うーん」と長めの伸びを行うと、その者には届かぬ声で何かを呟いた後、その者に向かって恭しく一礼する。
「やあ、こんにちは。レイ・アカシャ君」
その人型もとい女性は対面するその者に声をかけた。その声は明るく、友人に語りかけるような気さくなものであった。
声を掛けられた当人は、突然の変化の連続に脳の処理が追いついておらず完全に固まってしまっている。
「おーい、レイ君ってば起きてる?おーい、レイ君!」
言いながらその女性は、その者の目の前でブンブンと手を振ったり、踊ったりと、せわしなく動き続ける。
ややあってその者はハッと我に返る。
「レイ?」
「そう、レイ・アカシャ。君の名前だよ」
そう言ってニヤリと笑う女性。その表情には言い知れぬ怪しさが含まれている。
「レイ・アカシャ、それが僕の名前……それに貴女の声……」
そう呟きながらその者――レイは考え込む。
「――名前についてはピンとこないって顔してるね。それに私の声――正確には私と君の声について、かな」
女性の指摘に首肯で返すレイ。
「声については今答えてあげるよ。今、君と私は音を――空気の振動を使用した会話をしていないんだ。なんせここには空気がないからね」
「でも空気がなければ呼吸ができません」
「呼吸を必要としない体ということだよ。とにかく今君と私は所謂念話というやつをしているんだ。発言する度にお互いの口が動いてしまうのは名残だね」
そう言ってその女性は口に人指し指を当て、ニコリと笑う。しかしその者――レイの表情は固いままだ。
「あなたは何か知ってるのですか?というかあなたは誰ですか?」
「これはこれは……自己紹介が遅れて申し訳ない。私の名前は――ここではリンネとでも名乗っておこうかな」
「――リンネ、ですか」
「そうリンネ。それが私の名前だ。ついでに言うと君から見れば私は上位者、と言うことになる」
上位者、何かを比較対象にしたときそれよりも上の存在を指す言葉、今の状況的に比較対象はレイの事を指している。つまり――
「神様のようなもの……ということで合っていますか?」
「ようなもの、という点は合っているね。だけど私は神なんて大層な存在じゃないよ。ただの人さ。」
「……分かりました」
正直なところ、レイには意味がわからなかったが、本人が上位者と名乗り、更にはただの人だと言うのであれば、そうなのだろうと無理やりに納得した。
「物分かりが良すぎるというのも不安ではあるけども――まぁいいや!それで話の続きなんだけど、君も薄々感づいているように、君をここに呼んだのは私だ。ちょっとお願いしたいことがあってね」
「お願い、ですか」
「そう!な~に、そんなに難しい事じゃない――いや、難しい事かな?兎に角、君にお願いしたいことっていうのはね」
「……」
「私に会いに来てくださいっていうお願いさ」
「意味が分かりません」
即答するレイ。今、目の前にいる人物に会いに行くことがお願いであるなど、意味が分からないにもほどがある。たとえリンネの目的が会いに来た後のことであるにしてもだ。それなら今――
レイはそこまで考えてハッとする。
「今では意味がないということですか?」
レイの質問にリンネはウンウンと満足そうに頷く
「流石だね、君を呼んだ甲斐があるってものさ。君の言った通り今じゃ意味がないんだ。というのも今ここにいる私はね、実は私本人じゃない。分体といったところでね、君には私の本体を探し出して直接会いに行って欲しいんだ」
言われてレイは辺りを見回す。辺り一面白一色だ。自分たち以外何も存在しちゃいない。
「この何もない場所でですか?」
「手段は私が用意している」
「それならば……」
「それならば!レイ君は私のお願いを聞いてくれるのかい?」
「一考の余地はあります」
がくりと肩を落とすリンネ。
「一考なんだね……まあいいや」
「それで、その手段とはどういったものなんですか?」
「ああ、それはね、これさ」
リンネは自身の着用するローブの袖の中から拳大の光る円環を取り出すと、その円環はレイの体の中に吸い込まれるように入っていった。
レイの体感上異物感もなく特に異常らしい異常は感じられなかった。
「今のは?」
「今、君の中に入っていったのは力の塊さ、君にはその力を使って宇宙を創り出して管理をして欲しいんだ」
「……そう言われても何も感じませんが?」
「君の体に合うように創り出したものだからね。上手くフィットし過ぎて異物感も何も感じないだけさ。な~に力の使い方は私がしっかりとレクチャーするから心配ないよ」
「そんなことも出来るのですね」
「この世界で私に出来ないことはないよ」
そう言って胸を張るリンネ、そんなリンネにレイは訝し気な表情を向ける。
「ずいぶん警戒してるね」
そんなレイの顔を見ながらリンネは怪しく笑う。
「警戒するに決まっているでしょう。突然こんな場所に呼ばれて、意味不明なお願いをされて、終いには宇宙を創り出すほどの力?空想上の物語でもあるまいし――」
「ありえない、確かにそうだ。だけどねレイ君、今までのことは君が実際に体験していることだ。そんなことを前に空想だとか現実だとか考えるのはどうでもいいことじゃないかい?」
リンネは怪しく笑う、そんなリンネにレイは得体の知れない恐怖を感じるが、努めて冷静さを保とうとする。
「確かにそうですが――納得出来ません」
「――わかった」
それだけ言うと、リンネは真剣な表情でレイのことを見つめる。次の瞬間、突如としてリンネの存在感が大きく増した。
その存在感を前にレイは今まで持っていたリンネへの不信感や怒りといったすべての感情が吹きとばされ、ただただ圧倒され、自然と理解させられた。
リンネは文字通り上に位置する者なのだと。蛇に睨まれた蛙とか、住む世界が違うとか、そういったレベルの話しではない。
まさに次元が違う程の差、そう思わせるほどの存在の差というものをレイは感じ、圧倒されていた。
リンネはそんなレイのことを見下ろし続け、ややあって「ふぅ」と息を吐く。するとリンネが発し続けていた圧迫感が雲散霧消する。
するとレイは、失われた圧迫感という支えを失い、地面無き地に崩れ落ちるように尻餅をついた。
急に崩れ落ちたレイを見て、リンネは慌ててレイのそばに駆け寄る。
「あぁ!ごめんね。大丈夫かい?体に異常はない?」
レイに手を差し伸べ、声を掛けるリンネ。その声は先程の先程までの飄々としたものでも、威圧的な上位者然としたものでもなく、ただただレイのことを本気で心配しているものであった。
「だ……大丈夫です」
レイは差し伸べられたリンネの手を掴む
――あたたかい
そんなことを思いながら立ち上がるレイ。
「――本当にすまない。言い訳になるけど私自身も今回のようなことは初めてなんだ。だから力の加減というものが上手く出来なくて……」
狼狽えながら言い訳をするリンネ。そんなリンネの人間臭い様子を見て、レイはクスリと笑う。
「かまいません、おかげで納得できました。貴方は確かに上位者でありただの人のようです」
「ありが…とう?」
何故レイが笑ったのか分からないリンネは不思議そうな顔をする。
「それだけに余計に疑問です。貴方にはとてつもない力がある。それこそ神のように何でもできるはずだ。ならばなぜ……」
「――残念だけどそれは言えないな」
再び先程までの飄々とした口調に戻そうとする上位者。しかし、完全には口調が戻っていなかった。レイもそのことに気付いたがあえて指摘するようなことはしない。
「なぜです?」
「そこに君にお願いしたいことが絡んで来るからさ。」
「貴方に会いに来てくれというお願いですか?」
「そう、今の君にその話をしてしまうとお願いの遂行に支障をきたしてしまうんだ。だから言えない」
「わかりました。」
「うん。些か素直過ぎる気もしないではないがそういうのは大事だよ。なにせ話がスムーズに進むからね。それに無償という訳ではないよ。君が最終目標を達成したあかつきには君の望みをなんでも一つ叶えた上で君の正体を教えてあげよう」
「僕の正体?」
「あれ、気付いてなかったのかい?君、自分に関する記憶がないだろう」
瞬間、レイの中で符号が合致する。
レイがこの場所に来て初めて声を出した時に感じた違和感、上位者に名前を呼ばれた時に何も感じなかったことに対する違和感、どれもそうだ、レイには自身の声質に関する記憶、名前を呼ばれた記憶、それだけではない自身に関する全ての記憶が無かった。
「……」
「――今気付いたって感じだね。今君が感じているとおり、今の君は自分自身の記憶がないんだよ。だからあらゆることに対する疑問も抱きにくい。レイ君、気付いていないと思うから言うけど、私は君にかなり無茶苦茶なお願いをしているんだ。だけど君は僕のお願いを聞くしかない。自分を正体を知るために。そして、君自身の願いを叶えるためにね」
上位者は申し訳なさそうにそう言うと、居住まいを正してレイの返答を待つ。
これはお願いなどと言った生易しいものではない。ただの説明であり命令だ。レイが現在どのような状態であるのか、その状態を打開するために何をすべきなのか、それらを説明した上で決まった答えを待つ、それだけの作業だ。
上位者からの説明でレイもそのことには気付いていた。普通の人間ならばここで絶望するなり、怒りをあらわにするなどの行動を取っているだろうとも思った。しかし今のレイは自身に関する記憶がない、だからそんなことにはならないし、返す言葉も決まっている。
「わかりました。そのお願い引き受けます」
「――ありがとう。心から感謝するよ」
そう言って上位者は深々と頭を下げる。
「先程力の扱い方の説明してくれると言っていましたが。」
「そうだね、それじゃあ説明しようか。さっき君の中に入っていった力の名前は『輪廻の輪』と呼ばれるものだ。その輪には宇宙を創り出す力の他に、魂を創り出してその輪廻を管理する力とかその他にも色々な力があるんだ。しかしながらエネルギー不足でね、すべての力を解放するためにはエネルギーを集める必要がある」
「その方法は?」
「魂は何かに宿ることで生命になるんだけど。生命にはマナと呼ばれるエネルギーを創り出し貯蔵する特性があってね、貯蔵されたマナは生命の死と共に魂と一緒に輪廻の輪に戻って来る。ここまで来れば分かるかな?」
「戻って来た魂からマナを取り出してそれを輪の力の解放に利用する。更にはお願いの達成には輪廻の輪の力の解放必要不可欠であるということですね」
「正解だ!いやぁ理解が早くて助かるよ。」
よほど嬉しかったのか大げさにはしゃぐリンネ。そんなリンネを見ながらレイはこの先大丈夫か?と息をこぼしたのであった。
闇以外の全てを拒絶する、闇のためにある漆黒の空間。
未来永劫続くかと思われた、その全てを拒絶する空間に、突如として小さな光が灯る。
途方もなく大きな闇の中に現われたその小さな光は、ゆっくりと、確実に、着実に光を強め、徐々に、徐々に、周囲の闇を押し広げていく。
途方もない時間をかけて闇を押し広げた白い光は、途方もない大きさまで広がっていき、その光の中心では新たな変化が生じていた。
光の中心に突如として何かが現れたのだ。
現れたソレは人型をしており、純白の髪に中性的で幼い顔立ち、その身には白のローブを纏い、目を瞑り深い眠りについているようであった。
この物語はその者の目覚めから始まる……
――目が覚めると目の前には白い空間が広がっていた。見渡す限り何もない白い空間。音もない、感触もない、匂いもしない、あるのは白と暖かな光だけ……
その者は再び目を瞑り、その心地よさに身を任せる。
どれくらいそうしていただろうか。とても長い時間だったのか、短い時間だったのか、それはわからなない。
何かの気配を感じ、その者が目を開けた時、いつの間にやらその者の眼前には謎の黒色の球体が出現していた。
その者は突然の黒い球体の出現にビクリと体を跳ねさせ、何ごとかと驚きながらもその球体を凝視する。
――理由は分からないがとても気になる。
その者は好奇心に駆られ、もっと近くで黒い球体を見てみようと、一歩また一歩と黒い球体に近づいて行く。
そして、その者と球体の距離が限りなく近づいたその瞬間、黒い球体がグネグネとその形を粘土のように変化させた。
「わっ!」
その者は思わず声を出して上半身を大きくのけぞらせ、喉元に手をやった。
「僕の声が出ない!?」
その者は反射的に耳を押さえた。耳はある。しかしながら音は聞こえなかった。いや、声は聴こえたのだ。意外と高い声だった。
そこでその者は自身の思考に新たな違和感を覚える。が、その違和感は、今もなお変化を続ける黒色の球体への好奇心にかき消されてしまう。
「……間違いない、さっきよりも大きくなってる」
その者は何が起こってもいいようにと、半身に身構えながら黒色の球体の変化を観察する。
やがて黒色の球体は、その形を黒いローブを纏った人の型にその形を変えて変化を終えた。
今や人型となったそれは、女性の姿をしていた。
身長は170センチほどで、その者よりも身長が高く、黒い長髪を後ろでまとめ、瞳は黒色にわずかに紅色がさしている。
顔立ちはきつめの目付きをしているが整っており、その者とは色違いの黒のローブを纏っていた。
そして、その人型は「うーん」と長めの伸びを行うと、その者には届かぬ声で何かを呟いた後、その者に向かって恭しく一礼する。
「やあ、こんにちは。レイ・アカシャ君」
その人型もとい女性は対面するその者に声をかけた。その声は明るく、友人に語りかけるような気さくなものであった。
声を掛けられた当人は、突然の変化の連続に脳の処理が追いついておらず完全に固まってしまっている。
「おーい、レイ君ってば起きてる?おーい、レイ君!」
言いながらその女性は、その者の目の前でブンブンと手を振ったり、踊ったりと、せわしなく動き続ける。
ややあってその者はハッと我に返る。
「レイ?」
「そう、レイ・アカシャ。君の名前だよ」
そう言ってニヤリと笑う女性。その表情には言い知れぬ怪しさが含まれている。
「レイ・アカシャ、それが僕の名前……それに貴女の声……」
そう呟きながらその者――レイは考え込む。
「――名前についてはピンとこないって顔してるね。それに私の声――正確には私と君の声について、かな」
女性の指摘に首肯で返すレイ。
「声については今答えてあげるよ。今、君と私は音を――空気の振動を使用した会話をしていないんだ。なんせここには空気がないからね」
「でも空気がなければ呼吸ができません」
「呼吸を必要としない体ということだよ。とにかく今君と私は所謂念話というやつをしているんだ。発言する度にお互いの口が動いてしまうのは名残だね」
そう言ってその女性は口に人指し指を当て、ニコリと笑う。しかしその者――レイの表情は固いままだ。
「あなたは何か知ってるのですか?というかあなたは誰ですか?」
「これはこれは……自己紹介が遅れて申し訳ない。私の名前は――ここではリンネとでも名乗っておこうかな」
「――リンネ、ですか」
「そうリンネ。それが私の名前だ。ついでに言うと君から見れば私は上位者、と言うことになる」
上位者、何かを比較対象にしたときそれよりも上の存在を指す言葉、今の状況的に比較対象はレイの事を指している。つまり――
「神様のようなもの……ということで合っていますか?」
「ようなもの、という点は合っているね。だけど私は神なんて大層な存在じゃないよ。ただの人さ。」
「……分かりました」
正直なところ、レイには意味がわからなかったが、本人が上位者と名乗り、更にはただの人だと言うのであれば、そうなのだろうと無理やりに納得した。
「物分かりが良すぎるというのも不安ではあるけども――まぁいいや!それで話の続きなんだけど、君も薄々感づいているように、君をここに呼んだのは私だ。ちょっとお願いしたいことがあってね」
「お願い、ですか」
「そう!な~に、そんなに難しい事じゃない――いや、難しい事かな?兎に角、君にお願いしたいことっていうのはね」
「……」
「私に会いに来てくださいっていうお願いさ」
「意味が分かりません」
即答するレイ。今、目の前にいる人物に会いに行くことがお願いであるなど、意味が分からないにもほどがある。たとえリンネの目的が会いに来た後のことであるにしてもだ。それなら今――
レイはそこまで考えてハッとする。
「今では意味がないということですか?」
レイの質問にリンネはウンウンと満足そうに頷く
「流石だね、君を呼んだ甲斐があるってものさ。君の言った通り今じゃ意味がないんだ。というのも今ここにいる私はね、実は私本人じゃない。分体といったところでね、君には私の本体を探し出して直接会いに行って欲しいんだ」
言われてレイは辺りを見回す。辺り一面白一色だ。自分たち以外何も存在しちゃいない。
「この何もない場所でですか?」
「手段は私が用意している」
「それならば……」
「それならば!レイ君は私のお願いを聞いてくれるのかい?」
「一考の余地はあります」
がくりと肩を落とすリンネ。
「一考なんだね……まあいいや」
「それで、その手段とはどういったものなんですか?」
「ああ、それはね、これさ」
リンネは自身の着用するローブの袖の中から拳大の光る円環を取り出すと、その円環はレイの体の中に吸い込まれるように入っていった。
レイの体感上異物感もなく特に異常らしい異常は感じられなかった。
「今のは?」
「今、君の中に入っていったのは力の塊さ、君にはその力を使って宇宙を創り出して管理をして欲しいんだ」
「……そう言われても何も感じませんが?」
「君の体に合うように創り出したものだからね。上手くフィットし過ぎて異物感も何も感じないだけさ。な~に力の使い方は私がしっかりとレクチャーするから心配ないよ」
「そんなことも出来るのですね」
「この世界で私に出来ないことはないよ」
そう言って胸を張るリンネ、そんなリンネにレイは訝し気な表情を向ける。
「ずいぶん警戒してるね」
そんなレイの顔を見ながらリンネは怪しく笑う。
「警戒するに決まっているでしょう。突然こんな場所に呼ばれて、意味不明なお願いをされて、終いには宇宙を創り出すほどの力?空想上の物語でもあるまいし――」
「ありえない、確かにそうだ。だけどねレイ君、今までのことは君が実際に体験していることだ。そんなことを前に空想だとか現実だとか考えるのはどうでもいいことじゃないかい?」
リンネは怪しく笑う、そんなリンネにレイは得体の知れない恐怖を感じるが、努めて冷静さを保とうとする。
「確かにそうですが――納得出来ません」
「――わかった」
それだけ言うと、リンネは真剣な表情でレイのことを見つめる。次の瞬間、突如としてリンネの存在感が大きく増した。
その存在感を前にレイは今まで持っていたリンネへの不信感や怒りといったすべての感情が吹きとばされ、ただただ圧倒され、自然と理解させられた。
リンネは文字通り上に位置する者なのだと。蛇に睨まれた蛙とか、住む世界が違うとか、そういったレベルの話しではない。
まさに次元が違う程の差、そう思わせるほどの存在の差というものをレイは感じ、圧倒されていた。
リンネはそんなレイのことを見下ろし続け、ややあって「ふぅ」と息を吐く。するとリンネが発し続けていた圧迫感が雲散霧消する。
するとレイは、失われた圧迫感という支えを失い、地面無き地に崩れ落ちるように尻餅をついた。
急に崩れ落ちたレイを見て、リンネは慌ててレイのそばに駆け寄る。
「あぁ!ごめんね。大丈夫かい?体に異常はない?」
レイに手を差し伸べ、声を掛けるリンネ。その声は先程の先程までの飄々としたものでも、威圧的な上位者然としたものでもなく、ただただレイのことを本気で心配しているものであった。
「だ……大丈夫です」
レイは差し伸べられたリンネの手を掴む
――あたたかい
そんなことを思いながら立ち上がるレイ。
「――本当にすまない。言い訳になるけど私自身も今回のようなことは初めてなんだ。だから力の加減というものが上手く出来なくて……」
狼狽えながら言い訳をするリンネ。そんなリンネの人間臭い様子を見て、レイはクスリと笑う。
「かまいません、おかげで納得できました。貴方は確かに上位者でありただの人のようです」
「ありが…とう?」
何故レイが笑ったのか分からないリンネは不思議そうな顔をする。
「それだけに余計に疑問です。貴方にはとてつもない力がある。それこそ神のように何でもできるはずだ。ならばなぜ……」
「――残念だけどそれは言えないな」
再び先程までの飄々とした口調に戻そうとする上位者。しかし、完全には口調が戻っていなかった。レイもそのことに気付いたがあえて指摘するようなことはしない。
「なぜです?」
「そこに君にお願いしたいことが絡んで来るからさ。」
「貴方に会いに来てくれというお願いですか?」
「そう、今の君にその話をしてしまうとお願いの遂行に支障をきたしてしまうんだ。だから言えない」
「わかりました。」
「うん。些か素直過ぎる気もしないではないがそういうのは大事だよ。なにせ話がスムーズに進むからね。それに無償という訳ではないよ。君が最終目標を達成したあかつきには君の望みをなんでも一つ叶えた上で君の正体を教えてあげよう」
「僕の正体?」
「あれ、気付いてなかったのかい?君、自分に関する記憶がないだろう」
瞬間、レイの中で符号が合致する。
レイがこの場所に来て初めて声を出した時に感じた違和感、上位者に名前を呼ばれた時に何も感じなかったことに対する違和感、どれもそうだ、レイには自身の声質に関する記憶、名前を呼ばれた記憶、それだけではない自身に関する全ての記憶が無かった。
「……」
「――今気付いたって感じだね。今君が感じているとおり、今の君は自分自身の記憶がないんだよ。だからあらゆることに対する疑問も抱きにくい。レイ君、気付いていないと思うから言うけど、私は君にかなり無茶苦茶なお願いをしているんだ。だけど君は僕のお願いを聞くしかない。自分を正体を知るために。そして、君自身の願いを叶えるためにね」
上位者は申し訳なさそうにそう言うと、居住まいを正してレイの返答を待つ。
これはお願いなどと言った生易しいものではない。ただの説明であり命令だ。レイが現在どのような状態であるのか、その状態を打開するために何をすべきなのか、それらを説明した上で決まった答えを待つ、それだけの作業だ。
上位者からの説明でレイもそのことには気付いていた。普通の人間ならばここで絶望するなり、怒りをあらわにするなどの行動を取っているだろうとも思った。しかし今のレイは自身に関する記憶がない、だからそんなことにはならないし、返す言葉も決まっている。
「わかりました。そのお願い引き受けます」
「――ありがとう。心から感謝するよ」
そう言って上位者は深々と頭を下げる。
「先程力の扱い方の説明してくれると言っていましたが。」
「そうだね、それじゃあ説明しようか。さっき君の中に入っていった力の名前は『輪廻の輪』と呼ばれるものだ。その輪には宇宙を創り出す力の他に、魂を創り出してその輪廻を管理する力とかその他にも色々な力があるんだ。しかしながらエネルギー不足でね、すべての力を解放するためにはエネルギーを集める必要がある」
「その方法は?」
「魂は何かに宿ることで生命になるんだけど。生命にはマナと呼ばれるエネルギーを創り出し貯蔵する特性があってね、貯蔵されたマナは生命の死と共に魂と一緒に輪廻の輪に戻って来る。ここまで来れば分かるかな?」
「戻って来た魂からマナを取り出してそれを輪の力の解放に利用する。更にはお願いの達成には輪廻の輪の力の解放必要不可欠であるということですね」
「正解だ!いやぁ理解が早くて助かるよ。」
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