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第9章~眷属教育~
第58話 殺しの覚悟――私にそんなものはない!!
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これはアリアが10歳の時の話。
その日はメルリリスの担当する戦闘訓練の授業の日だと言うのに集められたのは、アリア、トリオラ、デュオスの三兄妹とアリアの親友であるカトレアだけという子供組だけ、その上授業の場所は、エクノルエ領の外にある狂暴なモンスターや獣が跋扈する未開地の森の中であった。
「メルリリス様、今日はこんなところで何をするのですか?」
アリアがメルリリスにそう訊くと、メルリリスは何でもない風な顔をして、
「ちょっと、今後に控えてる訓練のための前準備でもしとこうかなって思ってね」
と言うと、
「前準備ですか?」
14歳になったトリオラが言う。
「そ、前準備。と言っても後はヤるだけなんだけどね」
「「ヤるだけ……」」
メルリリスは満面の笑みでそう言うのだが、子供たちは、その笑顔に恐怖と嫌な予感の入り雑じった妙な感覚を覚えていた。
「ヤるって何をですの?」
アリアと同い年のカトレアがそう疑問を口にすると、メルリリスが「それはぁ~」ともったいつけながら歩き、布の被せられた箱形の何かの元へ行き、
「この子たちをでーす」
と言いながら、箱にかけられた布を取る。すると、その箱は檻のような造りになっており、中には5匹の生きた兎がいた。
そこで子供たちは理解した。ヤるって殺るって意味かと、子供たちが自分たちがヤらせられることを理解した頃合いでメルリリスが言う。
「あんたたちには数日後に大人も混じってのサバイバル訓練ってのをしてもらうんだけど、その訓練をする上で食料調達もしてもらわないといけないの」
「なるほど、だから今の内に動物を殺すことに慣れさせておく、ということですね」
「正か~い。まあ慣れて貰うのは動物殺しよりも死そのものなんだけどね」
正か~い以降の声は、子供たちには小さくて聞き取れなかった。そしてメルリリスは続ける。
「今日殺した兎は、ちゃんと自分で捌いてもらった上で食べてもらうからそのつもりでいてね――それじゃあ一人ずつ兎を取りに来て」
と満面の笑顔で言い、兎を各人に渡していく。そして子供たちは四苦八苦しながら兎を仰向けに寝せ、首根っこを押さえて動けないようにする。
「それじゃあ後はナイフで心臓をサクッと刺すだけで殺れるから、さぁレッツトライ!!」
メルリリスは軽い調子で言うがまだ幼い子供たちは、躊躇してしまい中々行動に移れない。すると、メルリリスが、
「因みに目を瞑ったりしたら、手元が狂って怪我の元になるから、目ん玉かっぴらいてしっかり殺りなさいよ~」
と更に子供たちを追い詰める。そして、最初に兎を殺せたのは意外にもカトレアからであった。
「殺りましたわ」
カトレアは青ざめた顔をしながらも事切れた兎を持ってメルリリスに見せる。
「うん、カトレアちゃん合格。後の作業は皆揃った時点で教えるから、そこで休憩しててね」
「はい、ですわ」
そう言ってカトレアは地面にヘタリこむ。
一人成功者が出ると後は早かった。次にデュオス、その次にトリオラと次々と兎を絞める作業を成功させていく子供たち。しかし、アリアはと言うと、黙ったままそこから動けないでいた。すると一瞬アリアの兎を押さえる手の力が緩んだように見えた。すると、メルリリスがアリアの先回りをするように言う。
「因みに、兎を逃がしたら次はあれを殺してもらいます」
メルリリスは兎の入ってた檻の5倍はあろうかという、布を被せられた箱を親指で指し示す。するとアリアは、兎を押さえていた手に力を込め直す。あれの相手をさせられたら、自分が殺られると思ったからだ。
しかし、殺れないものは殺れない。ナイフを何度も振り上げるが、ちゃんと振り下ろすことが出来ない。やがてアリアは瞳に涙を溜めて言う。
「メルリリス様、私には出来ません」
しかし、メルリリスはそれを許さない。
「アリアちゃん貴女は普段何を食べて生きているの?野菜だけ?違うでしょ。動物のお肉もしっかりと食べているわよね。それに野菜だって一つの命に代わりはないの。貴女はそうやって命を差別するの?それが主の眷属としての在り方なの?」
そう優しく、厳しく、諭すように言う。
「メルリリス様の言われることはわかります。けど……だけど、どうしても上手く出来ないのです。ナイフを振り上げることは出来るのですが、殺すという行為がどうしても怖くなって、ナイフを振り下ろすことが出来ないのです」
アリアは涙をポロポロとこぼす。それは命を思っての涙か、自身の不甲斐なさを悔やんでの涙か、もしくはその両方なのか。そんなアリアにメルリリスは言う。
「それじゃあ最後の手段。スイッチについて教えようかな」
「スイッチ……ですか?」
聞き馴染みのない言葉にアリアは戸惑う。
「そう、スイッチ。まぁ自己暗示の一種なんだけどね。兎に角、自分の中にもう一人の自分を創り出すの。冷静で冷酷な殺人鬼を」
「冷静で冷酷な……」
「まぁ、殺人鬼である必要はないんだけどね。例えば最強の戦士とかでもいいし。そして使い分けるの自分の人格をスイッチを切り替えるみたいに。だから――」
言いかけてメルリリスは気付く、アリアの普段纏っているマナの変容ぶりに。普段は暖かく優しい雰囲気のマナが今は冷たく冷酷なものに変わっている。
やがてアリアは先程までの姿が嘘のようにあっさりと、サックリと兎を刺し殺した。
「出来ました」
その声、その顔つきまでも冷たいものに変わっていた。
そこでメルリリスは思った。もしかしたら自分はアリアに教えてはならないことを教えてしまったのではないかと。しかし、それはアリアにの人生にとって最大の救いとなるのだった……
その日はメルリリスの担当する戦闘訓練の授業の日だと言うのに集められたのは、アリア、トリオラ、デュオスの三兄妹とアリアの親友であるカトレアだけという子供組だけ、その上授業の場所は、エクノルエ領の外にある狂暴なモンスターや獣が跋扈する未開地の森の中であった。
「メルリリス様、今日はこんなところで何をするのですか?」
アリアがメルリリスにそう訊くと、メルリリスは何でもない風な顔をして、
「ちょっと、今後に控えてる訓練のための前準備でもしとこうかなって思ってね」
と言うと、
「前準備ですか?」
14歳になったトリオラが言う。
「そ、前準備。と言っても後はヤるだけなんだけどね」
「「ヤるだけ……」」
メルリリスは満面の笑みでそう言うのだが、子供たちは、その笑顔に恐怖と嫌な予感の入り雑じった妙な感覚を覚えていた。
「ヤるって何をですの?」
アリアと同い年のカトレアがそう疑問を口にすると、メルリリスが「それはぁ~」ともったいつけながら歩き、布の被せられた箱形の何かの元へ行き、
「この子たちをでーす」
と言いながら、箱にかけられた布を取る。すると、その箱は檻のような造りになっており、中には5匹の生きた兎がいた。
そこで子供たちは理解した。ヤるって殺るって意味かと、子供たちが自分たちがヤらせられることを理解した頃合いでメルリリスが言う。
「あんたたちには数日後に大人も混じってのサバイバル訓練ってのをしてもらうんだけど、その訓練をする上で食料調達もしてもらわないといけないの」
「なるほど、だから今の内に動物を殺すことに慣れさせておく、ということですね」
「正か~い。まあ慣れて貰うのは動物殺しよりも死そのものなんだけどね」
正か~い以降の声は、子供たちには小さくて聞き取れなかった。そしてメルリリスは続ける。
「今日殺した兎は、ちゃんと自分で捌いてもらった上で食べてもらうからそのつもりでいてね――それじゃあ一人ずつ兎を取りに来て」
と満面の笑顔で言い、兎を各人に渡していく。そして子供たちは四苦八苦しながら兎を仰向けに寝せ、首根っこを押さえて動けないようにする。
「それじゃあ後はナイフで心臓をサクッと刺すだけで殺れるから、さぁレッツトライ!!」
メルリリスは軽い調子で言うがまだ幼い子供たちは、躊躇してしまい中々行動に移れない。すると、メルリリスが、
「因みに目を瞑ったりしたら、手元が狂って怪我の元になるから、目ん玉かっぴらいてしっかり殺りなさいよ~」
と更に子供たちを追い詰める。そして、最初に兎を殺せたのは意外にもカトレアからであった。
「殺りましたわ」
カトレアは青ざめた顔をしながらも事切れた兎を持ってメルリリスに見せる。
「うん、カトレアちゃん合格。後の作業は皆揃った時点で教えるから、そこで休憩しててね」
「はい、ですわ」
そう言ってカトレアは地面にヘタリこむ。
一人成功者が出ると後は早かった。次にデュオス、その次にトリオラと次々と兎を絞める作業を成功させていく子供たち。しかし、アリアはと言うと、黙ったままそこから動けないでいた。すると一瞬アリアの兎を押さえる手の力が緩んだように見えた。すると、メルリリスがアリアの先回りをするように言う。
「因みに、兎を逃がしたら次はあれを殺してもらいます」
メルリリスは兎の入ってた檻の5倍はあろうかという、布を被せられた箱を親指で指し示す。するとアリアは、兎を押さえていた手に力を込め直す。あれの相手をさせられたら、自分が殺られると思ったからだ。
しかし、殺れないものは殺れない。ナイフを何度も振り上げるが、ちゃんと振り下ろすことが出来ない。やがてアリアは瞳に涙を溜めて言う。
「メルリリス様、私には出来ません」
しかし、メルリリスはそれを許さない。
「アリアちゃん貴女は普段何を食べて生きているの?野菜だけ?違うでしょ。動物のお肉もしっかりと食べているわよね。それに野菜だって一つの命に代わりはないの。貴女はそうやって命を差別するの?それが主の眷属としての在り方なの?」
そう優しく、厳しく、諭すように言う。
「メルリリス様の言われることはわかります。けど……だけど、どうしても上手く出来ないのです。ナイフを振り上げることは出来るのですが、殺すという行為がどうしても怖くなって、ナイフを振り下ろすことが出来ないのです」
アリアは涙をポロポロとこぼす。それは命を思っての涙か、自身の不甲斐なさを悔やんでの涙か、もしくはその両方なのか。そんなアリアにメルリリスは言う。
「それじゃあ最後の手段。スイッチについて教えようかな」
「スイッチ……ですか?」
聞き馴染みのない言葉にアリアは戸惑う。
「そう、スイッチ。まぁ自己暗示の一種なんだけどね。兎に角、自分の中にもう一人の自分を創り出すの。冷静で冷酷な殺人鬼を」
「冷静で冷酷な……」
「まぁ、殺人鬼である必要はないんだけどね。例えば最強の戦士とかでもいいし。そして使い分けるの自分の人格をスイッチを切り替えるみたいに。だから――」
言いかけてメルリリスは気付く、アリアの普段纏っているマナの変容ぶりに。普段は暖かく優しい雰囲気のマナが今は冷たく冷酷なものに変わっている。
やがてアリアは先程までの姿が嘘のようにあっさりと、サックリと兎を刺し殺した。
「出来ました」
その声、その顔つきまでも冷たいものに変わっていた。
そこでメルリリスは思った。もしかしたら自分はアリアに教えてはならないことを教えてしまったのではないかと。しかし、それはアリアにの人生にとって最大の救いとなるのだった……
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