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第4話 ドラフト会議
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「止めないとどうなるんだよ」
「2日後に死ぬ」
「そうか、試してみよう。もふもふもふもふにふにふにもふもふふ」
「きゃははははは、なにを試きゃはは、わ、わ、わかわか分かった分かった。ホントのことを言うからきゃはははははは、しっぽはもうやめわはははは」
「で? どうするとどうなるって?」
「ひぃひぃひぃ。お主は遠慮というものがないモん。仮にも神獣に向かって……分かった、分かったからその手つき止めろ!」
「あのおみくじを引いてお前が出てきた。神獣……という設定だったな。わざわざそんな回りくどいことをするのだから、なにか意味があるんだろ?」
「設定言うな。ボクは神獣だモん。意味はもちろんある。いまのお主には選択肢がふたつになったモん」
「選択肢がふたつ?」
「ひとつはボクと出会う前の世界に戻る。つまりは自殺するということモん」
「ふむふむ。それは……うぅむ。改めて言われると結構ひどいとこにいたんだな、俺。それで、もうひとつは?」
「創造神様にお会いすることモん」
「創造神?」
「この世を造り給もうたてえつでとんなとてもエライ神様モん」
「言えてねぇぞ。もしかして、それがお前の飼い主か?」
「飼い主言うな! ボクはその眷属モん」
「なるほど。で、その創造神とやらに会うとどうなるんだ?」
「それは会ってからのお楽しみもん」
「ここで突き放すのかよ」
こんなの選択肢とは言わない。死ぬか別の道を歩くかと迫られたら、死ぬ以外の道を選ばざるを得ないだろう。
「ボクは別にお前が死んでもいいモん」
「ぐっ。薄情な神獣だなもう。いいだろう、会おう。その醸造酒とやらに」
「誰が純米大吟醸酒じゃ」
「いや、そこまでは言ってな……だ、誰だやけにノリの良いこの人は?」
「だから創造神様モん」
薄物を腰と胸に纏い、マフラーのような布が首を一回りして前に垂れている。真っ白で長い髪。長い足にほっそりとした顔。印象的な目が強い意志を表している。そしてきゅっとくびれたウエストに一般的サイズの胸(Dカップほどと思われる)と腰。頭には宝冠とおぼしき冠をかぶっている。しかし、そんな風貌よりもなによりも、強烈な印象を与えるのは真っ白にひかり輝くその光背である。
「ま、眩しいっての! こんな真夜中に迷惑だぞ。ライトを消せ。まともに見ることができん」
「ライトなんか灯けていてないモん。創造神様の神々しさの現れだモん」
「眩しいわりにワシをなめるように見ていたようじゃがの。悪かった。ちょっと光を抑えようかの、ほいさ」
「ああ、そのぐらいなら大丈夫だ……なんでしゃべりがじじいなんだ?」
「ただのキャラ付けじゃ」
「創造神もそんなこと考えるんだ」
「さて、お主が鈴蘭光一(すずらんこういち)じゃな」
「今ごろになって主人公の名前が決まったのか」
「そこはツッコむとこではない」
「俺はいま創造神とかいう日本の古い神に会っている……という設定か。良くできた3Dホログラムだ。だがストーリーが貧弱過ぎるし陳腐だ。誰だ? こんな手の込んだイタズラを考えたやつは?」
「だいぶ混乱しているようじゃの」
「もう俺には分かっている。騙されるのは嫌いなんだ。落ち込んでいる人を罠にかけて、あとでその映像を見て笑い転げよう、という魂胆なんだろ? そういう番組なんだろ? どこのチャンネルだ? 地上波じゃ無理だろう。CSかそれともネット配信か。ふんだんに金があるというネトフリか。出演料によっては付き合ってやらないでもないぞ」
「まるで分かってないモん」
「嘆かわしい時代じゃの。ワシらのような神聖な存在に対して崇めもせず畏れもしない。困ったもんじゃ」
「俳優が偉そうなこと言うんじゃないの」
「ボクも俳優に見えるモん?」
「あ、いや、お前の手触りは……もふもふもふふにふにふに」
「だからもふもふは止めろ!!」
「驚くのは分かるが、ワシらは本物の神の領域に住まう人外のものじゃよ」
「だ、だって、お前らはいきなり出てきて……。まったくここらのやつは、いきなり出てこないと病気になるなにかかよ」
「ここのやつらとか、失礼にほどがあるモん!」
「まあ良い。こやつもこんな体験は始めてじゃろう。ワシはアメノミナカヌシノミコトという。この国の創造神じゃ。敬うが良い」
「アメノミナカヌシノミコト……って古事記に出てくる三柱のひとりか?」
「良く知っておるの。その認識で間違いはない。敬うが良い」
「いちいち押しつけがましいことを言うな。俺んちは臨済宗妙心寺派だ。そんな古い神様なんか知らねぇよ」
「仏教などはワシよりずっとあとに入って来たお邪魔虫じゃ。すぐにも忘れて良いぞ。それよりワシを敬うが痛いっ」
「敬え敬え、しつこいっての」
「た、た、た、た、叩いた!? 創造神様を叩いた。こんなやつ初めてだモん。アメノミナカヌシノミコト様、もう地獄行きにするモん」
「はっはっは。まあ良い。あそこで自殺を選んでいたら自動的に地獄行きだったのじゃがの。残念じゃ」
「ざ、残念言うな! え、そんなに危なかったのか、俺?」
「崖っぷちの瀬戸際のすれすれの尖った岩の上を片足ウサギ跳びで跳ねていたモん」
「そこまでかよ!?」
「与えられた人生を全うせず逃げようとしたのじゃから、当然じゃろ。修行を途中で放棄したのと同じじゃ」
「それを言われると返す言葉もないが。だけど……待てよ? 地獄行きを免れたってことは俺は天国行きなのか?」
「普通はホットするだけなのじゃが。すぐ発想を進めるところはさすが我が見込んだ男じゃ。だがそうはいかん。お主は社会の脱落者じゃ。そんな都合の良いところにぎゅぅ、苦しい苦しい、首を絞めるな!」
「ふむ、閻魔というのは手で触れるし首を絞めると苦しがるのか。メモしておこう」
「叩いた上に首まで締めて。ボク、もう知らないモん」
「それをメモしてどうすると言うのじゃ。そんなことより閻魔ではない。創造神じゃ、創造神。この国の成り立ちに関わった最古参の神で」
「神世七代の最初の神だったっけな。それがどうしたっけ話だが」
「分かっているではないか。それなのにここまで信仰心のないやつだとはな。もうやめて地獄に落とすか?」
「それがいいモん」
「そのときはお前も一緒に地獄に落としてくれるぎゅぅぅぅ」
「きゅぅっ? きゅっ、きゅぅぅぅ苦し、きゅっきゅっモん」
「冗談じゃよ。それよりお主の行き先なのじゃが」
「天国で」
「ダメだと言っておるじゃろうが!」
「じゃあ、酒池肉林でエロエロねーちゃんがぎゃふんっ」
「いい加減にせい。バチを当ててやったわ」
「いや、いまリアルにその平ぺったい杖で殴っただろ!」
「これは笏(しゃく)というのじゃ」
「お腹が痛いのか?」
「それは持病の癪じゃ。これは魔を払うときに使う法具の一種じゃよ。閻魔に借りたのじゃ。決して疎かに扱ってはならんものじゃ」
「紛らわしいものを持ちやがって。だから閻魔と間違えたんじゃないか。それでいま俺の頭を思い切り疎かにしたけどな!」
「そんなおそ松さんなんかどうでも良いじゃろ」
「それを言うならお粗末だ。ほっとけや!」
「漫才やってる場合じゃないと思うモん」
「それじゃ、異世界行きはOKということで登録完了した。それで良いな」
「待て、待てこら。いきなりなんだそれは。俺はまだ何も聞いてな……異世界だと?!」
「そうじゃ、2日後に迎えが行くのでそれまでに準備をしておくのじゃ」
「準備ってなにをすればいんだ?」
「お主はこの世からいなくなるわけじゃから、普通に身辺整理じゃよ。HDDの中身とかいろいろとやばいんじゃろ?」
「そ、そうか。そういう時間が取れるのは助かるが。俺の株……それはどうでもいいか」
「あ、それなら心配ないモん」
「どういうことだ?」
「お主の株は、別の大手IT企業が買収することになる。ホワイトナイトってやつじゃな。今晩にも発表されるじゃろう。それでストップ安は止まる。それどころか一転して今度はストップ高となるじゃろう。お主の抱えるはずだった借金はほぼなくなり、口座凍結もとけて取り引きが可能になる」
「な、なんでそんなことが分かるんだ?」
「「そりゃ、創造神様だからじゃモん」」
ネコウサまで威張ってやがる。しかしそれが本当なら、俺は異世界に行く必要なんかな痛いっ。
「えいっ、モん」
「痛たたた。なんかいま首筋がピリッとしたぞ?」
「ふらちなことを考えたからバチが当たったのじゃ」
「いまネコウサがえいっ、とか言っていたようだったが」
「バチが当たる音だモん」
「お前はいつから神様になったんだよ!」
「神獣だから似たようなものだモん」
「小物界の大物が偉そうに。頭に来た、こうしてくれる。もふもふもふもふ」
「きゃはははは、こ、こら。止めきゃはははは、しっぽはしっぽだけはやめきゃははははは」
「それでお主の希望を聞きたいのじゃが」
「希望、って聞いてもらえるのか?」
「うむ、なんでも言ってみるが良い」
おっ、やっとラノベらしくなってきたぞ。
「そうだ、チート能力を貰いたい」
「ふむ、引きこもりになりたいとメモメモ」
「それはニートだ! 間違ったことメモすんな。これから俺が行く世界での一生の問題になるんだだろ」
「なんだ違うのか。チートはなんだ?」
「本来はあり得ない特殊能力のことだよ」
「本来あり得ないことが、あり得るはずはなかろう?」
「あぁもういい! じゃあ、剣をくれ、剣だ。なんでも斬れるすごいやつ」
「なんでも斬れるすごい剣と。メモメモ」
「なんでもメモするんだな。それから人並み外れた魔力」
「忘れるとお主の一生に関わるのじゃろ。人並み外れた魔力、と」
「あと、言葉はしゃべれるんだよな?」
「言葉がしゃべれる、と」
「あ、そうだ。せめて1年ぐらい遊んで暮らせる金も欲しいな」
「1年分の金、と」
「すごい、言っただけなんでも聞いてくれるんだな。それから健康な身体。できれば不老不死がいい」
「健康で不老不死、と」
「それもできるのか。それならえーと。時間停止なんて可能か?」
「時間停止、と」
「よしっ! それがあればなんでもやり放題だぐへへへ。それからえーと」
「まだあるのか?」
「最近のやつらはラノベズレしていて面倒くさいモん」
「うるさいな。俺の一生がかかってるって言ってるだろ。えーと。あ、そうそう。鑑定能力だ。見ただけでその人や物質の特性が分かるやつ」
「鑑定能力、と」
「あと、テレポートと重力操作。姿を消せる、あらゆる毒への耐性、疲労しない、そして最後に」
「耐性、と。ようやく最後か?」
「可愛い妹」
「いや、それは無理」
「なんでだよ!?」
これまで無理を承知でいろいろな注文を付けてきたのに、それは全部OKで妹だけはダメなのかよ。
「人間関係というものは、自分で作るものじゃ。それを操作はできん」
「そうなのか。それは取り下げよう。じゃあせめて眷属……あ、そうだ」
「なんじゃ?」
「こいつを眷属としてもらい受ける」
「こいつを眷……ん? こいつとはネコウサのことか?」
「ふぁ?」
「そうだ。俺の忠実な手下にしくてれる」
「し、して、してくれるじゃないモん。なんでボクがこんなのの手下なんかに」
「ネコウサを手下に、と」
「ふぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」
よしよし、今日はこんくらいにしといたろ。異世界に行って、知り合いが誰もいないってのは厳しいものがあるからな。人付き合いとか魔物付き合い? とかは全部こいつにまかせよう。
「ボクはここらでは大物なのに。ラスボスと言われた時代もあったのに……」
「よし、それで準備はOKだ。いつでも異世界に送ってくれ」
「ボクの話はもう終わったモん?」
「2日後じゃというに。それに、ワシがお主を異世界に送るわけではないのじゃ」
「は?」
どういうことだ? あれだけこまかく注文を聞いておいて、異世界じゃないのか? それとももっと別の神様的なものでもいるのか?
「お主の注文は全て記録したから、これは転生会議に送っておく」
「転生会議?」
「そうじゃ。年に1回。異世界人を必要とする神たちが集まって転生会議というものが開かれるのじゃ」
「異世界ってそんなにたくさんあるのか?」
「もちろん無数にあるぞ。とはいっても、異世界人を必要としていて、かつ人を転生させられる能力を持つ神はそれほど多くはないがの」
「そうなのか。どのくらいあるんだ?」
「現在は12球……12神じゃな」
「いま、球団って言いかけなかった?」
「言ってない。その12の神たちが集まって、転生対象者のプロフィールなどを精査して選択するんじゃよ」
「選択するって、なにを?」
「自分の世界に呼びたい人間をじゃ。お主もそのひとりじゃよ」
「俺以外にもいるってことか?」
「今年は200人ぐらい対象者がいるらしいモん」
「なんかおもてたんと違うなぁ」
「その転生会議が開かれるのか2日後なのじゃよ」
「それじゃさっきメモした俺のチート能力って」
「それを受け容れるかどうかは、あちらの都合次第じゃ。希望に合うところがなければ、指名さ……話はなかったことになるの」
「ちょいちょい気になる単語が出てくるんだが」
「まあ、良いではないか。楽しみに待てっておれ。どちらにしてもこの世界にお主はもういられないのじゃぞ」
「そ、それはまあ、仕方ないが。あれ、俺はやたらめったら注文を付けたが、あれは全部受け容れてもらえるんだよな?」
「だからそれは相手の球……異世界次第だといっておる」
「また気になる文字が出てきたが……あああっ、ちょっと待てぇぇ!」
「ん? なんじゃ? そろそろワシは行かねばならんのじゃが」
「いや、さっき俺が付けた注文ってのは、異世界に転生するときの条件のようなものだよな」
「当たり前だモん」
「そ、そうだよな。もしかして、注文の多い料理……異世界人って嫌われたりしないか?」
「お主も無関係な単語を混ぜてるではないか。ワシは食べたりはしないぞよ」
「それも当たり前だモん。面倒くさいと思われたら誰も指名しないモん」
「もう指名って言っちゃってるし」
「あ、しまったモん!?」
…………俺の脳裏にはいま、明確な絵が浮かんでいる。まさかそれって。
「アメノミナカヌシノミコト様、もう隠す意味はないと思うモん」
「それもそうじゃな。タイトルにそのまま書いてあることじゃし。その転生会議の名は」
ごくり、と俺は生唾を飲み込んで次の言葉を待てつ。
「ドラフト会議じゃよ」
「やっぱりそうかよ!!!!」
「2日後に死ぬ」
「そうか、試してみよう。もふもふもふもふにふにふにもふもふふ」
「きゃははははは、なにを試きゃはは、わ、わ、わかわか分かった分かった。ホントのことを言うからきゃはははははは、しっぽはもうやめわはははは」
「で? どうするとどうなるって?」
「ひぃひぃひぃ。お主は遠慮というものがないモん。仮にも神獣に向かって……分かった、分かったからその手つき止めろ!」
「あのおみくじを引いてお前が出てきた。神獣……という設定だったな。わざわざそんな回りくどいことをするのだから、なにか意味があるんだろ?」
「設定言うな。ボクは神獣だモん。意味はもちろんある。いまのお主には選択肢がふたつになったモん」
「選択肢がふたつ?」
「ひとつはボクと出会う前の世界に戻る。つまりは自殺するということモん」
「ふむふむ。それは……うぅむ。改めて言われると結構ひどいとこにいたんだな、俺。それで、もうひとつは?」
「創造神様にお会いすることモん」
「創造神?」
「この世を造り給もうたてえつでとんなとてもエライ神様モん」
「言えてねぇぞ。もしかして、それがお前の飼い主か?」
「飼い主言うな! ボクはその眷属モん」
「なるほど。で、その創造神とやらに会うとどうなるんだ?」
「それは会ってからのお楽しみもん」
「ここで突き放すのかよ」
こんなの選択肢とは言わない。死ぬか別の道を歩くかと迫られたら、死ぬ以外の道を選ばざるを得ないだろう。
「ボクは別にお前が死んでもいいモん」
「ぐっ。薄情な神獣だなもう。いいだろう、会おう。その醸造酒とやらに」
「誰が純米大吟醸酒じゃ」
「いや、そこまでは言ってな……だ、誰だやけにノリの良いこの人は?」
「だから創造神様モん」
薄物を腰と胸に纏い、マフラーのような布が首を一回りして前に垂れている。真っ白で長い髪。長い足にほっそりとした顔。印象的な目が強い意志を表している。そしてきゅっとくびれたウエストに一般的サイズの胸(Dカップほどと思われる)と腰。頭には宝冠とおぼしき冠をかぶっている。しかし、そんな風貌よりもなによりも、強烈な印象を与えるのは真っ白にひかり輝くその光背である。
「ま、眩しいっての! こんな真夜中に迷惑だぞ。ライトを消せ。まともに見ることができん」
「ライトなんか灯けていてないモん。創造神様の神々しさの現れだモん」
「眩しいわりにワシをなめるように見ていたようじゃがの。悪かった。ちょっと光を抑えようかの、ほいさ」
「ああ、そのぐらいなら大丈夫だ……なんでしゃべりがじじいなんだ?」
「ただのキャラ付けじゃ」
「創造神もそんなこと考えるんだ」
「さて、お主が鈴蘭光一(すずらんこういち)じゃな」
「今ごろになって主人公の名前が決まったのか」
「そこはツッコむとこではない」
「俺はいま創造神とかいう日本の古い神に会っている……という設定か。良くできた3Dホログラムだ。だがストーリーが貧弱過ぎるし陳腐だ。誰だ? こんな手の込んだイタズラを考えたやつは?」
「だいぶ混乱しているようじゃの」
「もう俺には分かっている。騙されるのは嫌いなんだ。落ち込んでいる人を罠にかけて、あとでその映像を見て笑い転げよう、という魂胆なんだろ? そういう番組なんだろ? どこのチャンネルだ? 地上波じゃ無理だろう。CSかそれともネット配信か。ふんだんに金があるというネトフリか。出演料によっては付き合ってやらないでもないぞ」
「まるで分かってないモん」
「嘆かわしい時代じゃの。ワシらのような神聖な存在に対して崇めもせず畏れもしない。困ったもんじゃ」
「俳優が偉そうなこと言うんじゃないの」
「ボクも俳優に見えるモん?」
「あ、いや、お前の手触りは……もふもふもふふにふにふに」
「だからもふもふは止めろ!!」
「驚くのは分かるが、ワシらは本物の神の領域に住まう人外のものじゃよ」
「だ、だって、お前らはいきなり出てきて……。まったくここらのやつは、いきなり出てこないと病気になるなにかかよ」
「ここのやつらとか、失礼にほどがあるモん!」
「まあ良い。こやつもこんな体験は始めてじゃろう。ワシはアメノミナカヌシノミコトという。この国の創造神じゃ。敬うが良い」
「アメノミナカヌシノミコト……って古事記に出てくる三柱のひとりか?」
「良く知っておるの。その認識で間違いはない。敬うが良い」
「いちいち押しつけがましいことを言うな。俺んちは臨済宗妙心寺派だ。そんな古い神様なんか知らねぇよ」
「仏教などはワシよりずっとあとに入って来たお邪魔虫じゃ。すぐにも忘れて良いぞ。それよりワシを敬うが痛いっ」
「敬え敬え、しつこいっての」
「た、た、た、た、叩いた!? 創造神様を叩いた。こんなやつ初めてだモん。アメノミナカヌシノミコト様、もう地獄行きにするモん」
「はっはっは。まあ良い。あそこで自殺を選んでいたら自動的に地獄行きだったのじゃがの。残念じゃ」
「ざ、残念言うな! え、そんなに危なかったのか、俺?」
「崖っぷちの瀬戸際のすれすれの尖った岩の上を片足ウサギ跳びで跳ねていたモん」
「そこまでかよ!?」
「与えられた人生を全うせず逃げようとしたのじゃから、当然じゃろ。修行を途中で放棄したのと同じじゃ」
「それを言われると返す言葉もないが。だけど……待てよ? 地獄行きを免れたってことは俺は天国行きなのか?」
「普通はホットするだけなのじゃが。すぐ発想を進めるところはさすが我が見込んだ男じゃ。だがそうはいかん。お主は社会の脱落者じゃ。そんな都合の良いところにぎゅぅ、苦しい苦しい、首を絞めるな!」
「ふむ、閻魔というのは手で触れるし首を絞めると苦しがるのか。メモしておこう」
「叩いた上に首まで締めて。ボク、もう知らないモん」
「それをメモしてどうすると言うのじゃ。そんなことより閻魔ではない。創造神じゃ、創造神。この国の成り立ちに関わった最古参の神で」
「神世七代の最初の神だったっけな。それがどうしたっけ話だが」
「分かっているではないか。それなのにここまで信仰心のないやつだとはな。もうやめて地獄に落とすか?」
「それがいいモん」
「そのときはお前も一緒に地獄に落としてくれるぎゅぅぅぅ」
「きゅぅっ? きゅっ、きゅぅぅぅ苦し、きゅっきゅっモん」
「冗談じゃよ。それよりお主の行き先なのじゃが」
「天国で」
「ダメだと言っておるじゃろうが!」
「じゃあ、酒池肉林でエロエロねーちゃんがぎゃふんっ」
「いい加減にせい。バチを当ててやったわ」
「いや、いまリアルにその平ぺったい杖で殴っただろ!」
「これは笏(しゃく)というのじゃ」
「お腹が痛いのか?」
「それは持病の癪じゃ。これは魔を払うときに使う法具の一種じゃよ。閻魔に借りたのじゃ。決して疎かに扱ってはならんものじゃ」
「紛らわしいものを持ちやがって。だから閻魔と間違えたんじゃないか。それでいま俺の頭を思い切り疎かにしたけどな!」
「そんなおそ松さんなんかどうでも良いじゃろ」
「それを言うならお粗末だ。ほっとけや!」
「漫才やってる場合じゃないと思うモん」
「それじゃ、異世界行きはOKということで登録完了した。それで良いな」
「待て、待てこら。いきなりなんだそれは。俺はまだ何も聞いてな……異世界だと?!」
「そうじゃ、2日後に迎えが行くのでそれまでに準備をしておくのじゃ」
「準備ってなにをすればいんだ?」
「お主はこの世からいなくなるわけじゃから、普通に身辺整理じゃよ。HDDの中身とかいろいろとやばいんじゃろ?」
「そ、そうか。そういう時間が取れるのは助かるが。俺の株……それはどうでもいいか」
「あ、それなら心配ないモん」
「どういうことだ?」
「お主の株は、別の大手IT企業が買収することになる。ホワイトナイトってやつじゃな。今晩にも発表されるじゃろう。それでストップ安は止まる。それどころか一転して今度はストップ高となるじゃろう。お主の抱えるはずだった借金はほぼなくなり、口座凍結もとけて取り引きが可能になる」
「な、なんでそんなことが分かるんだ?」
「「そりゃ、創造神様だからじゃモん」」
ネコウサまで威張ってやがる。しかしそれが本当なら、俺は異世界に行く必要なんかな痛いっ。
「えいっ、モん」
「痛たたた。なんかいま首筋がピリッとしたぞ?」
「ふらちなことを考えたからバチが当たったのじゃ」
「いまネコウサがえいっ、とか言っていたようだったが」
「バチが当たる音だモん」
「お前はいつから神様になったんだよ!」
「神獣だから似たようなものだモん」
「小物界の大物が偉そうに。頭に来た、こうしてくれる。もふもふもふもふ」
「きゃはははは、こ、こら。止めきゃはははは、しっぽはしっぽだけはやめきゃははははは」
「それでお主の希望を聞きたいのじゃが」
「希望、って聞いてもらえるのか?」
「うむ、なんでも言ってみるが良い」
おっ、やっとラノベらしくなってきたぞ。
「そうだ、チート能力を貰いたい」
「ふむ、引きこもりになりたいとメモメモ」
「それはニートだ! 間違ったことメモすんな。これから俺が行く世界での一生の問題になるんだだろ」
「なんだ違うのか。チートはなんだ?」
「本来はあり得ない特殊能力のことだよ」
「本来あり得ないことが、あり得るはずはなかろう?」
「あぁもういい! じゃあ、剣をくれ、剣だ。なんでも斬れるすごいやつ」
「なんでも斬れるすごい剣と。メモメモ」
「なんでもメモするんだな。それから人並み外れた魔力」
「忘れるとお主の一生に関わるのじゃろ。人並み外れた魔力、と」
「あと、言葉はしゃべれるんだよな?」
「言葉がしゃべれる、と」
「あ、そうだ。せめて1年ぐらい遊んで暮らせる金も欲しいな」
「1年分の金、と」
「すごい、言っただけなんでも聞いてくれるんだな。それから健康な身体。できれば不老不死がいい」
「健康で不老不死、と」
「それもできるのか。それならえーと。時間停止なんて可能か?」
「時間停止、と」
「よしっ! それがあればなんでもやり放題だぐへへへ。それからえーと」
「まだあるのか?」
「最近のやつらはラノベズレしていて面倒くさいモん」
「うるさいな。俺の一生がかかってるって言ってるだろ。えーと。あ、そうそう。鑑定能力だ。見ただけでその人や物質の特性が分かるやつ」
「鑑定能力、と」
「あと、テレポートと重力操作。姿を消せる、あらゆる毒への耐性、疲労しない、そして最後に」
「耐性、と。ようやく最後か?」
「可愛い妹」
「いや、それは無理」
「なんでだよ!?」
これまで無理を承知でいろいろな注文を付けてきたのに、それは全部OKで妹だけはダメなのかよ。
「人間関係というものは、自分で作るものじゃ。それを操作はできん」
「そうなのか。それは取り下げよう。じゃあせめて眷属……あ、そうだ」
「なんじゃ?」
「こいつを眷属としてもらい受ける」
「こいつを眷……ん? こいつとはネコウサのことか?」
「ふぁ?」
「そうだ。俺の忠実な手下にしくてれる」
「し、して、してくれるじゃないモん。なんでボクがこんなのの手下なんかに」
「ネコウサを手下に、と」
「ふぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」
よしよし、今日はこんくらいにしといたろ。異世界に行って、知り合いが誰もいないってのは厳しいものがあるからな。人付き合いとか魔物付き合い? とかは全部こいつにまかせよう。
「ボクはここらでは大物なのに。ラスボスと言われた時代もあったのに……」
「よし、それで準備はOKだ。いつでも異世界に送ってくれ」
「ボクの話はもう終わったモん?」
「2日後じゃというに。それに、ワシがお主を異世界に送るわけではないのじゃ」
「は?」
どういうことだ? あれだけこまかく注文を聞いておいて、異世界じゃないのか? それとももっと別の神様的なものでもいるのか?
「お主の注文は全て記録したから、これは転生会議に送っておく」
「転生会議?」
「そうじゃ。年に1回。異世界人を必要とする神たちが集まって転生会議というものが開かれるのじゃ」
「異世界ってそんなにたくさんあるのか?」
「もちろん無数にあるぞ。とはいっても、異世界人を必要としていて、かつ人を転生させられる能力を持つ神はそれほど多くはないがの」
「そうなのか。どのくらいあるんだ?」
「現在は12球……12神じゃな」
「いま、球団って言いかけなかった?」
「言ってない。その12の神たちが集まって、転生対象者のプロフィールなどを精査して選択するんじゃよ」
「選択するって、なにを?」
「自分の世界に呼びたい人間をじゃ。お主もそのひとりじゃよ」
「俺以外にもいるってことか?」
「今年は200人ぐらい対象者がいるらしいモん」
「なんかおもてたんと違うなぁ」
「その転生会議が開かれるのか2日後なのじゃよ」
「それじゃさっきメモした俺のチート能力って」
「それを受け容れるかどうかは、あちらの都合次第じゃ。希望に合うところがなければ、指名さ……話はなかったことになるの」
「ちょいちょい気になる単語が出てくるんだが」
「まあ、良いではないか。楽しみに待てっておれ。どちらにしてもこの世界にお主はもういられないのじゃぞ」
「そ、それはまあ、仕方ないが。あれ、俺はやたらめったら注文を付けたが、あれは全部受け容れてもらえるんだよな?」
「だからそれは相手の球……異世界次第だといっておる」
「また気になる文字が出てきたが……あああっ、ちょっと待てぇぇ!」
「ん? なんじゃ? そろそろワシは行かねばならんのじゃが」
「いや、さっき俺が付けた注文ってのは、異世界に転生するときの条件のようなものだよな」
「当たり前だモん」
「そ、そうだよな。もしかして、注文の多い料理……異世界人って嫌われたりしないか?」
「お主も無関係な単語を混ぜてるではないか。ワシは食べたりはしないぞよ」
「それも当たり前だモん。面倒くさいと思われたら誰も指名しないモん」
「もう指名って言っちゃってるし」
「あ、しまったモん!?」
…………俺の脳裏にはいま、明確な絵が浮かんでいる。まさかそれって。
「アメノミナカヌシノミコト様、もう隠す意味はないと思うモん」
「それもそうじゃな。タイトルにそのまま書いてあることじゃし。その転生会議の名は」
ごくり、と俺は生唾を飲み込んで次の言葉を待てつ。
「ドラフト会議じゃよ」
「やっぱりそうかよ!!!!」
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聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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