星に手を伸ばす

alex04

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第1章 物語のはじまり

3話 Escape

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  タワーは全30階建、石の建築物で全ての階層に本が保管されている。各部屋の側面は直射日光を防ぐ術印が書かれた硝子盤が備えられ、日の出ている間は柔らかい光が室内を照らすように設計されている。タワーにおける照明は日光だけで夜は一切の灯りがない。また機械や魔動機も備えられてない為エレベーターのようなものも存在せず、目的の本が上層にある場合、ひたすら階段を登って上を目指すようになっている。一回から二十回は誰でも自由に入館することができる。二十回から二十五階には価値の高い本が収められ、入館者を制限している。入館するためには青いプレートが必要になり青いプレートは主に学者や教授、一部権力者が所有する。しかし一般人でも、タワー管理者に申請して手続きを済ませれば、入館することができる。二十五階から三十階に並ぶ本はさらに秘蔵として扱われた本が並ぶ。入館する為には赤いプレートが必要で赤いプレートはアカデミアの学長、一部の名誉教授、国を代表する研究者が所有する。世界の常識をかえるような情報を持った本が収められているので一般人は原則として入館することができない。当然ドロシーもまた赤いプレートを持っていない一般人扱いである。ドロシーは二十回で受付に自分がリキアイラの代わり「魔法50番」を受け取りに来た旨を伝え、学芸員と共に「魔法50番」が蔵書された二十八階を目指してひたすら階段を登っていた。

 ながい。ドロシーはくたびれていた。二十五階で学芸員が目の鋭い女性と代わり彼女と二人で二十八階を目指してひたすら螺旋階段を登っていく。二十五階を超えてから各部屋には一人として利用者がおらず、どの階も閑散としていた。
「ドロシー様。お手数をおかけして申し訳ありません」
 目の鋭い学芸員は階段を登りながら淡々と言葉を紡いだ。
「この不便な設計は防犯にもなっているのです。また各階に照明がなく日の光のみで館内の明るさを維持しているのも火事を起こさないようにするのが理由です。」
 ドロシーはぜぇぜぇと息を切らしながら話を聞く。学芸員は淡々と話を続ける。
「勿論どの階層で飲食は禁止されていますのでご注意ください。タワーは本の保管を一番に考えて設計されているのです。とおしゃべりをしている間に到着いたしました。ここが二十八階になります」
 ようやく着いた。ドロシーは肩で息をしながら館内へ入る。
「出入口はここのみです。この赤いプレートを持ってお入りください。私はここでお待ちしております。目的の本を見つけたら速やかにここにお戻りください」
 彼女はドロシーに赤いプレートを渡す。彼女にとってはあくまでも本の管理が最優先らしい。ここまでひたすら階段を登り続けたドロシーは彼女の事務的な言葉に少しむっとした。ドロシーは息を整えながらゆっくりと館内を歩く。相変わらず人一人おらず、館内は静寂に包まれていて、柔らかい光が館内に差し込む。置いてある本の価値も相まって館内は神秘的な雰囲気を醸し出していた。このフロアには世界の仕組みを変える哲学書、禁術が記された魔法書などの秘書がある。ドロシーにとってそのどれもが興味深いものだった。しかし彼女は目的の遂行を一番に考えた。二十八階のフロアだけでも一つの図書館であるかのように十分広い。
「確かこの辺りね」
 魔法関係の本が収められた本棚へ歩き進む。そして大きな本棚の角を曲がるとドロシーは目を点にした。そこには一冊の本を読む男性がいた。
「あれま」
 男性は少し驚く。金色の髪に細長い手足の優男はゆっくりと口を開く。
「ついてない」
 ドロシーはあっけにとられて口を開けたまま言葉がでない。ドロシーの頭の中では入館まえに受付嬢に注意されたジャックキャロットという盗賊の名前が浮かんだ。しかし焦るドロシーを他所に、優男はドロシーをじろじろ眺めながら
「君は美しい。これならいけるね」
 と役者のように大げさに言うと、突然服を脱ぎ出した。
「なっ」
 ドロシーは更に混乱した。盗賊の可能性のある男が目の前に現れて突如服を脱ぎだしたのだ。ドロシーは顔をリンゴのように赤くして
「なにやってるるの」
 と尋ねた。ドロシーにはこれが精一杯だった。優男は脱ぎ捨てた服をそのままに、ウェッグをつけて髪を伸ばす。そしてとどこから出したか分からないが黒いワンピースを身にまといとぼけた表情で俺さぁ、と話し始める。
「魔法50番って本をもらいに来たんだけど、どこ探してもないんだよね。信じてもらえないと思うけど、今回は俺じゃないんだよね」
優男はいつのまにかに、ポケットから化粧品を出すと顔を白く飾り口紅をつける。優男の姿は完ぺきとはいかないまでも非常にドロシーに似たさまになっていた。どれくらいの時間で優男が変装したかは分からないが、ドロシーにとっては一瞬の出来事だった。優男は突然ドロシーに迫る。ドロシーは一瞬恐怖するがすぐに身構え、即座に魔法が打てる体制をとる、が。
「これあげる。せっかくの美人さんだ。化粧をするといい」
といって自分が持っていた化粧品をドロシーに手渡しにこりと笑う。この瞬間、優男はこっそりとドロシーのポケットに手を忍ばせるが、動転しているドロシーには気が付くことが出来ない。優男はドロシーに化粧品を手渡すと、突然物凄い速さでその場から姿を消した。
「大きなお世話よ」
 ドロシーは声を振り絞ったが怒りと恥ずかしさで思ったよりも大きなお声を出すことができなかった。

目の鋭い学芸員は入り口で固まった。ドロシーが駆け寄り
「盗賊、ジャックカロットがでた」
 と息を切らしながら訴えたからだ。学芸員は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに冷静になり、
「盗賊はどこですか」
 とドロシーに尋ねた。しかし学芸員の顔は再び驚いた表情にかわる。自分の横にいたはずのドロシーがまた彼女の元に駆けてきたのだ。
「盗賊、ジャックキャロットがでた」
 ドロシーは顔を真っ赤にして、泣いているような、怒っているような表情で学芸員に訴える。
「なにを言っているのですか。あなたはさっき私の横にいました」
「それが私に変装した怪盗なの」
「落ち着いて下さい。取りあえず赤いプレートを返却してください。それがご自身の証明になります」
「わかった」
 ドロシーは必死に赤いプレートを探す。しかしいくらポケットを探しても赤いプレートを見つけることは出来なかった。ドロシーは愕然としてぺたりと座り込んでしまった。

 「ついてない」
 ジャックは今タワー内七回のトイレにいた。彼は「魔法50番」を盗みにタワーに侵入した。しかし結果は失敗に終わった。本来あるべき所に獲物はなかった。彼は予定していた脱出時間が来ても、二十八階にとどまって「魔法50番」を探した。そんな時にドロシーと鉢合わせになってしまったのだ。しかも彼の安全はまだ確保されていない。彼は獲物を捕り逃したばかりか、タワーを敵に回してしまった。今回は冤罪だよ、といっても誰が信じるだろうか。
「見つけたわ。」
「げ」
目の前にはさっき変装した女性がたっていた。
「観念しなさい。怪盗ジャックキャロット」
 ジャックはため息をついてゆっくり両手を上げた。
「さっきはよくもこけにしてくれたわね。さっさと魔法50番を返しなさい。」
「よく俺を見つけたね」
「それくらい造作もないわ」
 先程とは違いドロシーの表情は自身に満ちていた。そしてジャックは瞬時に彼女の気質を見抜いた。「こいつは魔法に精通している」と。
「じゃあこれならどうかな」
 ジャックは、ポケットからボールのような球体を出すと窓から投げる。と同時にジャック自身も窓から外へ身を投じた。ドロシーは驚いて窓の外から下を見る。するとボールの様な球体は一瞬にして膨らみ、その形を気球に変えた。ジャックは気球に乗っている。
「オメガゼイス」
 ドロシーは叫んだ。
「では、ごきげんよう。小さな魔法使い」
 彼は笑いながら上空へ飛んでいった。

「ついてない」
 気球の上でジャックは大きなため息をついた。日は既に沈みかけ、空は赤い光に包まれていた。これはもしかしたら逮捕されるかもしれない、と夕焼けの中で彼は思った。盗みは失敗に終った。更に現在、脱出の計画も本来彼が計画していたものとは違った現状にある。彼の計画では「魔法50番」を盗った後、タワー十回からポケットバルーンと呼ばれるポケットにも入る小型の気球を四つ東西南北に投げ、彼自身はそのいずれにも乗らずに変装し、そのままタワー出る作戦だった。ポケットバルーンは彼が逃げるための囮だった。しかし予期せず現れた魔法使いのせいで否応なしにポケットバルーンに乗って逃げる以外、選択肢がなくなってしまった。一応残り三つのポケットバルーンを空に放って囮にしたが特定されれば逃げ場がない。それどころか追撃され撃ち落されれば一貫の終わりだ。今のところ追手が来るような気配はないが彼の心は穏やかではなかった。撃墜された時のことを考えて高度を下げて飛行していると、彼は膝に違和感をかんじた。座っている彼の膝の上にはぼろ布を何枚にも重ねて作られた人形がいた。なんだ、これは。彼は嫌な予感がして戦慄した。これはさっき魔法使いの肩にいた人形だ。そして彼の嫌な予感は的中した。人形は急速に空気を吸いこんで膨らみだしたのだ。
「おいまて。やめろ」
 人形はジャックの言うことを無視して膨れ続けやがて、パンという破裂音と共に人形の大きさに耐え切れなくなった気球は空中で割れてしまった。ジャックは落下した。今日はとことんついてない。ジャックは心の中で悪態をついた。割れた気球の下には鬱蒼と樹海が広がっていた。
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