【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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番外編 他愛のないお茶会 王太子side

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「俺には兄がいたんだ」

 王城にある庭園のガゼボでお茶をしている時だった。何代か前の国王が、神子との時間を過ごすためだけに造った場所だ。ここでは、席を準備したら使用人すら下がることになっている。
 
 唐突に話し出したトモヤに「そうなのか」と返す。
 トモヤが自身の事について口を開くのは、初めてかもしれない。いつもは、フーマの存在が軸としてあったからだ。

 今日は正式な伴侶としての儀式を前に、神殿側との綿密な打ち合わせ――要は、国と神殿の力関係が崩れないように、城の方で互いの要望の擦り合わせが行われた。
 それがやっと終わり、久しぶりにゆったりとした時間をふたりで過ごしていた。細かいところは、宰相と神殿長がまだ詰めているところだが。

 神子と王族の婚姻は、所謂いわゆる『白い結婚』だ。建前上は。
 初代神子は確かに、純潔が失われると神子としての能力が失われると神託があったそうだが……。『贖罪の神子』に関しては、そもそも純潔でない者が多く、神聖視したい神殿と神子を囲み込みたい王族の合致で広めた話だったのだろう。
 あの魔術師がどこまで関与していたかは定かではないが、今の神殿長なら任せても不安はない。
 
 手ずからトモヤに菓子を取り分けると、話を促す。

「会いたいか?」

 実際、会いたいと言われたところで無理なのだが。表情から、そうは言わないだろうと分かっていて尋ねた。

「いや、まったく。そもそも存在すら忘れていた」
「忘れていた?」
「兄は財閥……この世界で言うなら豪商一族の御曹司。俺は腹違いで、何かあった時の為に存在するただのスペアだったからな。会ったのは幼少期に一度だけだ。あんたら王族にとったら、よくあることだろ?」
「まあ、そうだな」

 王族だけでなく、貴族にはよくあることだ。

「余計な考えを起こさないように、養子に出されて徹底的に管理され躾けられた。そんな時、風磨に出逢ったんだ。どことなく、遠目に見た兄に似ていたのかもしれない」
「そうか……」

 トモヤは、少しだけ冷めてしまった紅茶をグイッと飲み干した。ポツリ、ポツリと、とりとめのない言葉をこぼしていく。それを私は黙って聞いた。

 一度もトモヤを瞳に映したこともない、着飾られ笑顔の美しい兄をどんな気持ちで見ていたのか。寂寞せきばくとした日々の中で、フーマは幼いトモヤに光をもたらしたのだ。執着したくなるのは、痛いほどにわかる。

 だが、それだけだ。
 
「いつか……」と、トモヤは言葉を区切る。

 トモヤはフーマに会いたいと言うのだろうが、エグベアートは認めないだろう。

「いつか、あんたの懺悔も聞いてやる」
「…………え?」
「ふはっ! なんだその間抜けな顔。どうせ、誰にも言えないものを腹に抱えているんだろ? ……だからさ、話したくなった時は神子の俺が聞く」

 私の過去は、王子を演じてもらう際にある程度は話してある。だが、その中にあったドロドロとした醜い過去の想いまで、他人に話すつもりはなかった。
 そんな私をトモヤは射抜くように見ている。

 これから先、私の愛にどっぷりと浸かり、どんな話を聞いても私の手を離さないように。微かな不安さえ抱かないくらい、互いの色に染まりあったら――。
 
「そうだな……その時は、神子ではない伴侶のトモヤに聞いてもらおう」

「そうか」と、トモヤは視線を外した。

「ところで、いつになったら私の名前を呼んでくれるのかい?」
「それは、まあ……初めてはベッドの上だろうな」

 ニヤリと不敵に笑ったトモヤに、相貌を崩してしまう。

「そうか、それは楽しみだ」

 私が懺悔できる日は、そう遠くないかもしれない。

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